47.悪い報せ
コーネリアスとアレクシスは一緒に邸内に戻っていき、アメリアは茶会の片付けをオリバー達と一緒にしていた。先ほどの茶会が険悪な雰囲気で終わったせいか、少しアメリアも気分が悪い。
機嫌が悪いというよりはもっと、空気の悪さに酔ってしまったようなそんな不快感だ。だが、これにも似た感覚には覚えがあった。忘れていたことを思い出すように皿を重ねながらアメリアが考えていると、ぶるぶる身震いしながらルルが歩み寄ってきた。
いつものようにちょっかいを出すわけでもなくただ具合が悪そうにしている辺り、相当重症だということが窺える。
「ルル! どうしたのそんな悪いもの食べたみたいになって!」
ルルの尋常ではない様子にアメリア片付けかけの皿をテーブルに置いてはその震える体を抱き上げる。ルルは痺れたように体を震わせており、体温もいつもより少し低い。
「大丈夫? 何があったか言える?」
「うう~……本格的に気持ち悪くなってきた……すっごい嫌なマナが溢れてる」
ルルが毛嫌いするほどのマナだ。よっぽど淀んでいるのだろう。そもそも使い魔は主人より感覚が敏感なことが多く、普段姿を現さないのも感覚を遮断して無駄にエネルギーを使わないためでもあるのだ。
「アメリア……すっごくやな予感がする。ぞわぞわがいっぱい来るよぉ」
「使い魔はマナに敏感だからその調子がわかる……この状態から考えると」
一つの答えにアメリアは思い至る。
「調子が悪くなるほど淀んだマナ……魔物?!」
近くで魔物、それも大規模な魔物の群れが現れつつある。リムネアはマナの豊富な地域だ、魔物の成長スピードだって他の地域よりも早く、強い。
すると、御用邸に忙しない様子で馬が駆け込んできた。馬に乗っていた兵士の姿は伝令役の印を付けており、早馬だろうことが窺える。
庭園の柵を壊さんばかりの勢いで走ってきた馬も、乗っていた伝令役の兵士も息せき切らしており、転がり落ちるように馬から下りた伝令役は大声で茶会の片付けをしている使用人や侍従に呼びかけた。
「国王陛下! 国王陛下にお取り次ぎを!」
驚く使用人の中から、オリバーがすぐに伝令役の兵士の元へ歩き、事情を聞こうとする。アメリアもルルの姿を消して休ませると、かなり疲弊している伝令役に治癒魔法で疲労を取ろうと近づいた。
伝令役の兵士はその場で膝をつき、ぜえぜえと息を切らす。
「はぁ、はぁ……侍従殿、国王陛下にっ、お伝えせねばっ……!」
「承知している。まずは落ち着いて、それからことを話せ」
落ち着きながらも毅然としたオリバーの対応に、兵士は深呼吸を繰り返す。
「オリバーさん。疲労がかなり溜まっているようです。治癒魔法をかけても?」
そこへアメリアが申し出ると、オリバーは頼むと頷いて兵士の前をどいた。
アメリアはすぐさま兵士に手をかざし、疲労を和らげる魔法を唱える。
「嵩んだ澱を取り除き給え……レストア」
緑の光が兵士を包み、柔らかな風とともに疲労を吹き飛ばしていく。急に息がしやすくなった兵士はそれに驚いた様子で言った。
「つ、疲れが消えて……?!」
「兵士さん、一体何があったのですか?」
兵士は疲れが消えても焦りを残したままに告げる。
「山の、高原の向こうから、魔物の大群が!」
その場にいた全員が目を丸くして兵士の言葉に驚く。ただ、アメリアだけは嫌な予感が当たってしまったと苦い顔をしていた。
とにかく国王に伝えて指示を仰がねば、と兵士は騒ぎを聞きつけて出てきた国王の侍従に連れられ御用邸の中に入っていく。
残されたアメリアとオリバーはパニックになりそうな使用人の前で顔を見合わせた。
「このままだといらぬ事故が起きてしまう。ここは私が場を収めますから、アメリア様はコーネリアス殿下たちの元へ!」
「はい。オリバーさんも、使用人達と一緒に避難を」
「わかってますよ。それより、コーネリアス様にはあなたが必要だ。どうか、側で支えてあげてください」
「もちろんです。オリバーさんもご無事で。では、私はこれで!」
緊急事態とすぐに察していたアメリアとコーネリアスは短い会話の中でしっかりと己の意思を伝えると、それぞれの役目を果たすべく背を向けて走り出した。




