39.アメリアのポーション
「僕の体がもう少し強かったのなら、そう思わずにはいられないよ」
「お体を強く……ですか」
アレクシスの嘆きにアメリアはふむ、と考えるそぶりをした。
「アレクシス殿下。もしかしたら、私ならなんとかできるかもしれません」
アメリアの言葉にアレクシスが驚いた様子で目を見張る。
「それは本当なのかい?」
「ええ。思い当たる節がいくつか」
そしてアメリアはアレクシスに自分が気づいた点を挙げ、説明していく。
「まず、殿下は食が大変細いですね。健康維持では食事でバランスよく栄養を摂ることが基本となりますから、そこをなんとかするだけでも大分体調は改善されるのではないでしょうか」
「確かに、兄上はいつも心配になるほど食が進まない時があるが……」
「それは、わかっているんだけど。どうにもたくさん食べようとすると胃がもたれて気持ちが悪くなってしまうんだ。毎回そうなるし、父上の手前食べないといけないからさすがに食欲までなくなってしまって」
アレクシスが困ったように続けると、アメリアはその症状を聞きながらふむふむと考える。
「生来の胃腸の弱さにストレスが重なって食欲不振に陥っているのかもしれません」
「そう言われると、納得しかできなくなるよ」
アレクシスが照れくさそうに肯定すれば、よし、とアメリアは手をぽんと合わせてみせた。
「なら、いい方法があります。コーネリアス様、私に下さった鉢植えは覚えていらっしゃいますか」
「ああ、もちろんだ。確かその鉢でハーブを育てているのだったな」
よく覚えている、とコーネリアスが答えると、アメリアは自信たっぷりに言い放った。
「それを使いましょう」
ミントとカモミール、それにレモングラス。どれもよく使われるハーブだから、アメリアの鉢には常備してある。オリバーからまたティーセットを工面してもらって、アメリアは早速ハーブティーを作り出した。
ハーブをちぎって入れるだけだというのにアメリアの手際はコーネリアスもアレクシスも釘付けになるほど鮮やかで、さすがは王立医局の筆頭ヒーラーだけある。
さらにアメリアはそれらに使って余ったハーブをすり潰し、医務室にあったフラスコに入れる。マナを豊富に含むリムネアの水を加えた後、手の平でフラスコを撫で回すように動かしまじないをかければ、ぽん、という音と共に鮮やかなミントグリーン色のポーションができあがった。
「ヒーラーは治癒魔法をメインに扱いますけど、そのほか薬草やポーションの知識も持ち合わせているのが医局では当たり前なんですよ」
「そうなのか……市井で一度見たポーション作りの薬屋を思い出すな」
コーネリアスが感心するなか、アメリアは蒸らして成分を抽出させたハーブティーをカップに注ぐ。
「できましたよ。甘味がほしかったらはちみつもありますから遠慮なさいませんよう。アレクシス様は食前にこのポーションをコップの半分ほどお飲みください。食欲増進と胃腸の働きをよくするポーションです」
「ポーションって、回復用や毒消し用以外にもあるんだね。こんな風に症状に合わせても作れるんだ。ありがとう。じゃあ、改めてハーブティーをいただきたいな。はちみつ入りで。コーネリアスはどうする?」
カップに差し出されたはちみつを垂らしながらアレクシスが聞けば、コーネリアスもアメリアのカップを手に取る。
「私はこのままで」
「なんだ、いつもみたいにはちみつは入れないんだ。ちょっと残念だなぁ」
「な、兄上!」
くすくすと笑うアレクシスに、アメリアはふうんとため息をつく。
「コーネリアス様ったら、そういうことは隠すんですね」
「いや、アメリア、これは……」
ちょっとアメリアがむくれてみせると、コーネリアスはあたふたと慌てながら否定しようとする。紅茶はストレートで飲むといいながら、実はミルクや砂糖をたっぷり入れて飲むタイプだったのだコーネリアスは。
だがそういうアメリアもむくれているのはフリだけで、本当はきちんと見せようとして背伸びをするコーネリアスがかわいらしくてたまらなかった。
ハーブティーは爽やかな香りと自然の甘みが存分に出て、とてもおいしかった。




