40.茶会の誘い
アメリアにハーブティーとポーションを振る舞われてから少しして、アレクシスに変化が出始めた。あれだけ細かった食事の量が、少しずつ増えだしたのである。添えられた小皿をつつく程度だったものが、半分を食べ切り、さらに一皿の料理を平らげるようになっていった。
コーネリアスから驚きと嬉しさと共に伝えられた時は、アメリアも一緒になって喜んだ。
なにより一番喜ばしいのはアレクシスだろう。わざわざアメリアの部屋に出向いて礼まで述べにきたのだ。
「あなたのハーブティーやポーションを飲みだしてから、少しずつ食事で胃もたれすることがなくなってきたんだ、本当にありがとう」
「いいえ、ヒーラーとしてできることをしたまでですわ。どうかお気になさらずに」
礼を述べるアレクシスにアメリアはお辞儀で返す。
「こんなにいいヒーラーが弟についているんだ、コーネリアスの怪我だってあなたがきちんと治療したに決まっているよ。私からも、父にコーネリアスのことをちゃんと掛け合ってみるつもりだ」
「コーネリアス様はご自分を変えることで治療に協力してくれたのです。私の力よりも、コーネリアス様の努力をお伝えください」
「もちろん。コーネリアスは何かと頑張り屋だからね。期待に応えようと無理ばかりしていたから。だからそれも含めて父様に進言してみようと思う」
心なしか顔色がよくなっているアレクシスにアメリアは頷くと、またお辞儀をした。
コーネリアスの状態もかなり回復しており、もう剣の修練を始めても差し支えないほどだ。相変わらず昼の散策はアメリアと言っているが、朝早くや散策の後には訓練用の剣を振るってまた戦いの勘を取り戻しているようだった。
その修練を見るのも、アメリアの日課になっていた。もしもの時のヒーラーとしてもいるが、気持ち的にはコーネリアスのたくましい姿を眺めるのが嬉しかったこともある、あの傷がすっかり癒えて剣まで振るうほど回復している事実にヒーラーとして手応えも感じつつ、恋人といて喜ばしくも思っていた。
昼の散策あとの修練に励むコーネリアスの姿をテラスから見守っていたアメリアは、同じく控えていたオリバーに話しかけられる。
「コーネリアスのやつ、すっかり元気になっちまって。さすが筆頭ヒーラーさまさまだ」
「もう、からかってるんですか? でもあそこまで回復したのはコーネリアス様の努力もありますよ」
ちょっと砕けた物言いなのはコーネリアスの友人として振る舞う時のオリバーだ。アメリアもすっかりその態度の切り替わりに慣れてしまってくすくすと笑って答える。
「本当にありがとうな。あいつの剣の振り方、今までよりも伸び伸びしてるんだ。前は固くてなんでもたたききってやろうっていう堅苦しさがあったんだが、今はもっとよくなってるってさ、これは国王についてきた近衛騎士からの受け売りだけど」
「オリバーさんは運動はからっきしでしたもんね。でも、ああやってしっかり元気を取り戻されて私も嬉しいです」
舌を出しておどけるオリバーにアメリアも穏やかな声音で答える。
そうして二人でコーネリアスを見守っていると、御用邸からアレクシスが出てきた。
「殿下」
「アレクシス殿下、ご機嫌よう」
オリバーと二人でアメリアはお辞儀をして出迎える。アレクシスは少しはにかみながらもそれを受けると嬉しそうに報告をしてきた。
「二人とも、いいニュースだよ。父上が今度みんなで茶会をするそうなんだ」
「茶会、ですか」
突然の催しにアメリアはぽかんとするが、アレクシスは嬉しそうだ。
「父上が茶会をするときは人の話を聞きたい時だから、チャンスなんだ。コーネリアスがちゃんと傷を治したことも、それがヒーラーの力だけでなくコーネリアスの努力もあってのことだっていうことも、父様に言えるいい機会だよ」
確かに、またとない機会だ。この前の晩餐の失態を払拭できるし、コーネリアスのことも直に訴えられる。言いたいことが言えるのだとすればアメリアにとってもチャンスである。
「その茶会、招かれるのはどなたでしょう?」
オリバーが尋ねると、アレクシスは笑みをたたえて告げた。
「僕ら家族とアメリアさん、あなたも出席するよう父様から伝えられてます」
「そうなんですね。ふむふむ……そうなんですねぇ」
ついにんまりと笑いたくなるのをこらえ、アメリアはうんうんと頷いて誤魔化す。
これでやっと鼻を明かせる機会が巡ってくる。それだけでアメリアは頑張りたくなった。




