34.ディナーの席 失態
その夜のディナーは出迎えた面々と列席して行われた。アメリアは使用人と似た立場だからと辞去しようとしたが、国王は首を振らなかったようだ。使用人と一緒に控えるオリバーに目配せで「頑張れよ!」と応援されたところでアメリアは緊張が解けない。
料理が運ばれてくる中で一応覚えていたカトラリーの扱い方を思い出しながらぎこちなさがバレないように食事をしていく。国王はじめコーネリアスもアレクシスも完璧にカトラリーを使いこなしているのだからなんだか自分だけ部外者のように感じてしまうアメリアだ。一番下座にいるから余計そう感じるのかもしれない。
実際向こうは家族でこちらはただの派遣されたヒーラーなのだが。とにかく粗相をしないように気を遣って食事をしたせいか、せっかくのごちそうもろくに味わえない。
コーネリアスは傷も回復してきて元気が出てきたおかげが、しっかりと料理を平らげて健啖ぶりが窺える。対して兄のアレクシスは、食事のしかた自体は綺麗なものの、食べる量はほとんど鳥が啄む程度のものだ。
失礼にならないように盗み見ながら、アメリアは食事の仕方を観察する。
(国王も割と健啖ね。年の割にしっかり食べてる。偏食もしてないし。アレクシス様は……食欲がないのかしら、肉もほとんど食べないし、そもそも胃もたれするとか? 痩せてて細いのは第一に食事が細いからね)
「して、ヒーラーよ」
「っ、はい、陛下」
食事もひとしきり落ち着いた頃、国王エドモンドがアメリアを呼ぶ。アメリアは思考の深みに入りそうになっていたところを引き上げられ、何でもない風に取り繕いながら頭を垂れた。
「コーネリアスの状態はどうだ」
短く問われた言葉に、アメリアは内心毒づく。
(隣でもりもり食べてたの見てなかったのかしら。元気になってる証拠でしょうに)
「殿下の傷はもうほとんど治ってきております。たゆまぬ殿下の努力の賜物でしょう」
「そうか。魔法は効いたのか」
「恐れ多くも、殿下のご助力もあり治癒魔法も役立ちました」
ふむ、とエドモンドは頷いた後、使用人に新しいナイフを持ってこさせた。
何をするのかとアメリアが思っていると、国王は席を立ってコーネリアスの席に歩み寄る。
「手を出せ、コーネリアス」
「は、父上」
短く返事をして手を出すコーネリアスだが、その声は緊張でガチガチに固くなっている。差し出す手だって強ばり、何をされるのかという恐ろしささえ感じられた。
エドモンドは差し出されたコーネリアスの手を取ると、使用人に持ってこさせたナイフでコーネリアスの指先を躊躇いなく切った。
「っ!」
「ち、父上?!」
痛みに眉をひそめるコーネリアスと、突然の父の行動にアレクシスが動揺する。
アメリアもいきなり我が子を傷付けたエドモンドに目を丸くして息を呑んでしまった。
しかしエドモンドはそんな周りのどよめきも関係なくアメリアを呼ぶ。
「ヒーラーよ。治して見せよ。お前の言うことが本当ならコーネリアスの傷は癒えるはずだ」
今ここで試せと言うのだ。アメリアはすぐに席を立つとコーネリアスの元に駆け寄った。
「コーネリアス様。お手を」
「あ、ああ。すまない」
ぷつりと赤く血が流れる指先にアメリアは手をかざし、魔法を唱えるべく集中する。しかし目の前で大切な人を傷付けられたことに少なからず心は動揺していた。傷を治すのを見るのなら、もっと方法があるだろうに。それに我が子だろう。なんの躊躇いもなく傷付けるなど間違っている。
そんな怒りにも似た感情に支配され、アメリアは上手く集中ができない。それでも無理矢理深呼吸をして息を整えると、治癒魔法を唱える。
「母なる大地の恵みよ……」
ほう、とアメリアの手の平が温かく光り、コーネリアスの傷を癒すため魔法が働く。
コーネリアスは固い表情のまま血の流れた指を見つめていたが、光が収まっても傷口が塞がることはなかった。
「そんな……」
あんなに上手くいっていたのに、しかもかけた魔法は初歩中の初歩の魔法だ。それがコーネリアスに効かなかった。アメリアが血の滴る指を包んだまま呆然としていると、エドモンドは冷たい目でコーネリアスを見やった。
「治癒魔法の効果は、お前にとってはただの見かけ倒しだったようだな」
「父上、いえ、いえそんなことは! 私は確かに彼女の魔法に癒されたのです、この傷を見てください!」
コーネリアスは必死に訴えるように腕の傷痕を晒す。うっすらとひっかき傷のような傷痕だけが残った腕を見て、国王は眉一つ動かさずに言う。
「だからどうしたというのだ。今まで効いていたとしても、今それの成果が出せないのであれば意味がない。ヒーラーよ、傷の手当てをするといい。この程度の怪我であれば治療に支障はないであろう」
「……はい、仰せのままに」
アメリアは唇を噛みながら頭を垂れる。悔しい。
エドモンドが侍従を従え去って行く間、ずっと悔しいと思い続けていた。




