33.国王の訪問
三日後、御用邸は埃一つない状態に掃除され、庭園の手入れも完璧にされた。そしてコーネリアスはじめ侍従オリバーとアメリアは国王の出迎えのためエントランスに集まっていた。
コーネリアスは略式の礼装を着ていたし、オリバーもそれに準じた装いでいる。アメリアも略式の礼装として王立医局の制服を身に纏っている。
馬車が到着し、エントランスの扉が開けられる。老年だが背筋がまっすぐ伸びた男性が国王エドモンドだ。白髪の増えてきた黒髪であろうとその威厳は損なわれることなく、居ずまいだけで空気がぴりりと引き締まる。
その後ろを、ゆったりした旅装に身を包んだ痩躯の青年がついてくる。彼がコーネリアスの兄、アレクシスだろう。長いグレーの髪をうなじで緩く結っており、コーネリアスと比べるとずっと儚く脆い印象を受ける。
「陛下、兄上。よくおいでくださいました」
「健勝か、コーネリアス」
コーネリアスの固い声音を気にすることもなく、国王エドモンドはまっすぐに問いかける。
「治療は順調です。優秀なヒーラーがおりますので」
コーネリアスがアメリアに視線を投げかける。アメリアは向けられた視線に答えるようにスカートの裾を広げてお辞儀をした。
「ふむ。お前が医局のヒーラーか。魔法が効かぬ愚息に苦労をかける」
「いいえ、滅相もありません、陛下」
頭を垂れたまま答えるアメリアを一瞥した後、国王は執事を呼ぶ。すぐさま意図を察した執事は国王を居室へと案内していく。
後ろに付き従っていたアレクシスも使用人に連れられエントランスを後にする。アレクシスは去り際心配げにコーネリアスたちを見やったが、すぐに前を向いて歩いて行ってしまった。
それから使用人達は国王やアレクシスの荷物を運んだり食事の準備をしたりと忙しそうに立ち回っている。部屋に戻っていいと言われ、アメリアは制服のままベッドに身を投げた。
「ぷはー! やっぱり国王相手ともなると緊張するわ~」
「あの王様、息子のお見舞いに来たって素直に言えばいいのにね」
先にベッドで丸まっていたルルがあくびをしながらアメリアに言う。ルルに出迎えるか聞けば、面倒と一言ベッドで昼寝を始めたのだからどこの主人に似たのかと言ったものである。
「初めて見たけど確かに強そうというか、厳しそうな人ね。あと言葉数が少ない」
「コーネリアスはあの王様のどこが怖いんだろ」
冷静に分析するアメリアの横で、ルルが首を傾げる。
「怖いというか、プレッシャーなのよああいうのは。ちゃんと答えないといけない、ちゃんと望むようにしなければいけない。そういう気持ちに縛られてるの」
「随分詳しいじゃん。恋仲になってもっと相手のことを知れた感じ?」
「からかわないの。治療の一環で聞いたことと半々よ。とにかく、まだまだ治療は続きそうだわ」
「傷はほとんど治ったんでしょ? なんでまだ続けるのさ」
「コーネリアス様に魔法が聞かなかったのは精神を抑圧していたから。その原因と傷が治ったらまた過ごすんだから、当然また抑圧されることもあり得なくはない。だとしたらせっかく効いた魔法もまた効かなくなっちゃうってわけ。となるとルル、必要なのは?」
アメリアの分析と説明にルルはうんうんと頷いて答えた。
「原因の除去。ないしは抑圧されることへの緩和、だね」
「正解」
「でもそんなこと言ったって王様に王子にきつく当たらないでって言うのは無理があるんじゃないの?」
例え医局の筆頭ヒーラーだとしてもいきなりコーネリアスへの態度を改めろなんて国王に直訴できるわけがない。だからこそ、とアメリアはルルににんまりと笑みを見せた。
「え、もしかして……」
その笑みの意味をルルは知っている。昔から散々見せられた、こき使うときの顔だ。
「あんたの出番よ、ルル」
「やっぱり~……使い魔使いが荒いんだから、もう」
げんなりしてベッドにぺしょんと伏してしまうルルに、アメリアは邪悪にも見える笑みを浮かべながら事の次第を伝えていった。




