27.アメリアの過去
アメリアは十年前紅の魔女と呼ばれた伝説的魔女である。幼い頃から卓越した魔法の才能を表し、将来は大魔法使いとして宮廷魔術師の道も約束されていたほどだ。しかし、紅の魔女としての経歴は魔の大氾濫以降は何も残っていない。隠遁したとも、魔物と実は相打ちになったのだとも噂されている。
実際、アメリアは魔の大氾濫以降魔女を名乗ることも攻撃魔法を大っぴらに使うこともやめていた。事情を知るものにはめんどくさい、と理由を述べていたが実のところは違う理由もあった。
それは魔の大氾濫の終焉まで遡る。救国の魔女は一人で魔物を焼き尽くしたと言われているが、実際には彼女にも仲間がいたのだ。
魔の大氾濫が起こった時、国は総出をあげて魔物の撃退に力を入れた。そして国の兵士だけではなく、冒険者も駆り出したのだ。魔物を討った冒険者に報奨金を与えると出て、冒険者たちは一気に活気づいた。
アメリアはその時冒険者を志望していた。小さなパーティに入り、魔法の腕を存分に振るった。特に炎の魔法が得意で、その炎は紅く燃えたぎっていた。圧倒的な炎の紅さとその魔力に応じるように右目も赤くなることから、いつしかアメリアは紅の魔女と呼ばれるようになっていた。
「炎よ!」
アメリアの一言で彼女の周りにに激しく炎が燃え上がり、魔物達を根こそぎ焼き尽くしていく。それは周囲というよりもその一帯全てといっていい程の範囲だ。迫っていた魔物の群れは地面ごと焼かれて、残ったのはマナの残滓と焦げ付いた地面ばかり。
魔物の群れを焼き払ったアメリアに、盾役だった剣士の男が近づく。他には弓使いの少女とヒーラーの青年アメリアの側にがいた。
冒険者ギルドで知り合った仲間たちだ。魔女と呼ばれても、アメリアは彼らと冒険がしてみたかったのだ。
詠唱の間アメリアを守っていた剣士は相変わらずの魔法の威力に肩を竦める。
「まったく、魔女さまさまだぜ。魔法一つであんなにいた群れを壊滅させちまうんだから」
「ほんとほんと。私らが一匹倒すうちに魔女さまは百匹焼き払うんだもん」
それに同調するように弓使いの少女が口を挟んでくる。一歩遅れてヒーラーの青年は杖を片手に肩の力をぬいた。
「おかげで仲間に怪我人が出ないのはありがたいのですが」
「それはよかったけど、みんなが詠唱中守ってくれたからこうやって魔物の群れが倒せたんだよ。私だけの力じゃ……」
アメリアのパーティの基本的な戦略は皆でアメリアを守り援護しつつ、アメリアの魔法で一網打尽にするに尽きていた。それだけアメリアの力は突出していたし、戦略としても有効だ。しかし仲間たちは自分たちの役割が全てアメリアのお膳立てのようにも感じられて不満を持つ者も出てきていた。
「でも俺全然戦った感じしねーよ。もっとこう、強い魔物とつば迫り合いしてみたいよな」
「あたしも弓で援護はしてたけどさ、結局は魔女さまの魔法でぜーんぶ燃えちゃうでしょ? なんか意味ないことしてるみたいで不満〜」
「私はそういうつもりじゃ……」
不満を漏らす剣士と弓使いにアメリアは弁解しようとするが、剣士は報奨金の知らせが書かれた書状をアメリアの眼前に突きつける。
「此度の魔物討伐で功績をあげし紅の魔女を称え、報奨金を支払う」
国王を証明する紋章とサインが書かれた書状に苦々しく剣士は言う。
「魔女さまの活躍は国王の耳にも入ってるっていうのに、仲間の俺たちのことは一言だって書かれちゃいねぇ。いいよな魔女さまは。力があるから好き勝手やってもちゃんと認められてよ。実際のところ俺たちなんて都合のいい弾除けくらいにしか思ってないんだろ」
「そんな、だったら私からあなたたちの活躍も伝えて国王様に取り計らうから……!」
「やめてよね、そういうの」
アメリアが必死に否定しようとするも、冷たく弓使いの少女が言い放つ。
「そうやって魔女さまが仲間のおかげなんですぅ、ってとりなしてくれたってあたしら全然嬉しくないし。第一自分の力で認められらないのに他人の取り計らいで報奨金もらうとか、あたしたちが惨めになるばっかりじゃん」
「そんな……私は……」
「あーあやってらんね〜。俺、もう抜けるわ。もっと自分の実力認めてもらえそうなところにいく。剣の腕だったら、冒険者じゃなくても兵士とか騎士とか、いろんな道があるし」
「あたしも。狩りばっかでつまんないから冒険者始めたけどさ、もっと別のパーティ探した方が活躍できそうだし」
「待って、みんなで旅する話は……?!」
焦りの色をあらわにするアメリアに、仲間たちが次々と脱退を宣言していく。
「そんなのご破産だよ、毎回お膳立てしておこぼれにあずかるような戦いばっかでうんざりなんだよ」
「そんなに旅したきゃ魔女さま一人でいけば? お得意の魔法でどうとでもなるんじゃない?」
あからさまな不満を口にして剣士と弓使いはその場を去っていく。
アメリアは一人手を伸ばすが、二人は振り返りもしなかった。




