28.アメリアの決意
「みんなで旅するの、楽しみにしてたのに……」
パーティに入った当初は、ぎこちないながらも楽しく過ごしていた。だからきっとうまくやっていけるとアメリアは思っていた。
落胆するアメリアの肩に、すうっと小さな黒猫が現れる。この前契約したばかりの使い魔、ルルだ。
「アメリア、だいじょうぶ?」
ルルはたどたどしい言葉遣いでアメリアを心配し、慰めるようにアメリアの頬にすりすりと体をすり付ける。アメリアはそれに涙ぐむが、ふるふると首を振って涙をこらえた。
「……あまり、気を落とさないでください」
その様子をずっと見守っていたヒーラーの青年が口を開いた。アメリアが振り返ると、杖を片手に青年は教え諭すように言った。
「彼らは彼らなりに悩んでいただけなんです。でも、あなただって悪気があったわけじゃない。私たちは何度もあなたの魔法に助けられてきました。お膳立てでもなんでもなく、あなたの力はパーティにとって役に立っていたんです」
「でも、国王が認めてたのは私一人で……」
「結果に過ぎませんよ。過程だって大事なんです。短かったですが、あなたと過ごせて楽しかった」
青年は穏やかに微笑んでから、寂しそうに目を伏せる。
「あなたまで行くんですか?」
アメリアの悲壮な声に、青年はゆっくりかぶりを振った。
「もともと、稼ぎを得るために冒険者を目指していたんです。後出しになって申し訳ないのですが、この魔物の氾濫で王都郊外の診療所にヒーラーが足りないと聞いて、この討伐が終わったらそこで働こうと思っていたんです」
「それじゃあ」
「残念ながら。ですが、一つ提案があるんです」
泣きそうなアメリアに、青年は続ける。
「もし、もし冒険者を続けたくなくなったなら。王立医局に、私の叔母が勤めているんです。そこに行ってみてはくれませんか?」
「王立医局……」
「あなたの魔法の才はただ魔物を焼き尽くすばかりではない。魔法の種類は違えど、きっとあなたはたくさんの人を癒すことができるはずです。あなたの魔法で私たちが助けられたように」
そう静かに諭して、青年は感謝を述べてお辞儀をした。
「今まで楽しかったです。一緒にいてくれてありがとう」
「あの、叔母様の名前は」
青年が去る前に、アメリアは涙ながらに聞く。
青年は振り返りはっきりと言った。
「叔母の名前は、ナターシャです」
一人になったアメリアは、ぽろぽろと涙をこぼしながら拳を握りしめていた。誰かと過ごす楽しみを知ってしまった以上、もうそれを知らない自分には戻れない。ずっと楽しみにしていた王国を旅することももう叶わない。
冒険者として続けていくかだって、もうわからない。仮に続けたところで、魔法を使う姿を見られたらすぐに正体がバレて遠巻きにされるだろう。またこんな思いをするくらいなら、もういっそのこと魔法なんて捨ててしまいたくなる。
実際、捨てたくなるようなできごとはあった。パーティを解散した冒険者に手柄を独り占めしているのだと噂を流されたのだ。公にはならなかったが、冒険者の間では紅の魔女は功績を自分一人のものにする卑怯者と揶揄されるのが当たり前になっていた。そんな状態のギルドでは、もう誰もパーティを組んではくれない。
もう魔法なんて捨ててしまって、ポーション売りとして慎ましやかに暮らそうとも思った。
そんなとき、あの青年に言われた感謝の言葉が思い返される。
「きっとたくさんの人を癒せる……」
別れ際に残した青年の言葉を何度も繰り返しながら、アメリアは決心した。
「ナターシャさんのところ、行ってみよう」
王立医局にナターシャを尋ねると、ナターシャは快くアメリアを迎えてくれた。
「あの紅の魔女なの? すごいわねぇ。でも、どうして国王の書状に答えなかったのかしら」
アメリアは困ったように笑った後、作り笑いを浮かべて答えた。
「めんどくさいからです」
ずっとしまっていた記憶を思い返し、アメリアは寝室を出る。
これから、伝えにいくのだ。




