11.話したいこと
次の日も、その次の日も、アメリアは治療の合間にコーネリアスと話をした。コーネリアスのことを治療を進める他に、もっと彼のことを知りたくなったというのもある。
コーネリアスは少しずつ、おっかなびっくりではあるが自分のことを話すようになった。兄のアレクシスとは幼い頃から一緒に遊ぶ仲だったとか、兄や父に認めてもらうため必死に剣を振るっている、ということだとか。
コーネリアスのことを一つ知る度、アメリアは自分のことも一つコーネリアスに教えていった。
魔法は得意だがそれより好きなのは大釜でポーションを作ることだとか、実は攻撃魔法も扱えるだとか、世間話のように自分のしていることや好きなものを話していく。
コーネリアスからも、ボードゲームの話だけでなくオリバーとの仲や王族として騎士として立派に役目を果たしたい、という本人の生真面目な意思も聞けた。
普段から修練を怠らないよう努めているが、本当はもう少しだけ朝寝がしたいだとか、お酒はあまり強くないだとか、可愛らしい面を知ったときはアメリアもさすがにくすぐったくなった。
「お話、大分してくださるようになりましたね」
「そう、だろうか……身の回りのことを話すのも久しいが、こんなことでいいのなら、いくらでも」
何日目かのお茶会でコーネリアスはすっかり緊張もほぐれたようにアメリアには見える。だが、そんな中でもどうしても避けて話していることがあるのをアメリアは見逃さなかった。
「あなたのことに詳しくなっていますが、あなたがどんな気持ちでいるのかはまだ、わかりかねますね。特にお父上……国王陛下について感じていることが」
アメリアの切り込んだ一言に、コーネリアスはカップに伸ばそうとした手を止める。ほんの少し指先が震えており、何かしら恐れを抱いていることが感じられた。
「殿下?」
アメリアが気遣うと、コーネリアスはすぐに手を引っ込めて何でもない風を取り繕う。
「いや、なんでもない。父上にはいつも尊敬の念を抱いている。立派に国王として務めを果たされている、国の誇りだ」
「尊敬で、体も強ばっているのでしょうか」
だが、アメリアはコーネリアスの体が緊張で強ばっていることをすでに看破していた。それでもコーネリアスの気持ちは否定しない。尊敬だけではないだろうが、その尊敬の念とてコーネリアスが父王に抱く一つの感情である。無下にすることなどするべきではないとアメリアは思っていた。
だが、体の強ばりを指摘され、コーネリアスは目に見えて焦り出す。
「そのようなことは……っ」
「愚考いたしますが……お父上のことを、どこか恐れているのでは?」
「それ、は……」
コーネリアスの瞳が揺れ、目が泳ぎ始める。何か口にしようと唇は動くが、どれも意味のある言葉にはならずぽろぽろと音がこぼれ落ちるだけだ。
うまく言葉の継げないコーネリアスに、アメリアは優しく言い聞かせる。
「殿下。今は無理に口にされなくても構いません。それを恥じることも必要ありません。話したくなったときに話してくださればいいんです。私は決して口外しませんから」
「だが、私は……私は……話したい。そなたがせっかく話を聞いてくれているというのに、都合の悪い部分だけ口をつぐむことなどできない」
アメリアは少し迷ったが、意を決してコーネリアスの手を取る。はっとするコーネリアスの瞳を見つめ、アメリアは真摯に訴えた。
「殿下がそう仰るのなら、私はきちんと聞き入れると約束しましょう。馬鹿にすることも、蔑むこともありません」
「アメリア嬢……」
まっすぐな黄昏色に見つめられ、コーネリアスの青い瞳が揺らぐ。コーネリアスはゆっくりと瞼を閉じ、頷いたあとアメリアの手を握り返した。
「できるだけやってみる。拙いとは思うが……聞いて、くれるか」
「ええ」