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断罪シーンが無事終わりましたので私はウノお兄様と共に豪華な控え室に引っ込んで、のぞき穴からパーティ会場を観察します。のちほど王都で行う披露宴の費用を出してあげる代わりにこの場でアイン様とヒュンフェの婚約と結婚の儀式を済ませるように陛下にあらかじめお願いしてありました。
婚約式が終わりかけたところで、スインコが北の山地の古代竜が復活しましたと言って、ふ化したてのオオモドドラゴンをトレイに乗せて運んできました。クワトロがヒュンフェに弓矢をうやうやしく渡しますが、彼女は目が見えないのでトレスが手を添えて狙いを定め、弓を引き絞るのを手伝います。
何百年も氷の下で眠っていて、やっとふ化したと思ったら殺されてしまった哀れなオオモドドラゴンの赤ちゃんはドスによって腹にハーブを詰められてオーブンに入りました。改めて乾杯の音頭がとられて結婚の儀式が始まり、オオモドドラゴンの香草焼きができる頃に無事終わりました。古代竜以外は誰も死なないパーフェクトエンドですわ。
冒険旅行が省略されたのでアイン様たちは勇者だの聖女だのの称号を得られず、レベルが上がることもなく、次代の王国は平凡な指導者を持つことになりました。王立学園分校出身の優秀な官吏の卵たちには政教分離を叩き込んでありますので神殿の力が強くなりすぎることもないでしょう。
私たちはチョコバード鉄道に乗って帰途につきました。ええ、『極北修道院』への追放ですわ。別に急ぐ必要はなかったのですけれども、セイスとシエテの8歳の成人式にはどうしても立ち会いたかったのです。翌年、シエテは4人の夫を迎え、私が20歳になった年に男女の双子が無事生まれました。初孫です。私とウノお兄様は手を取り合って喜びました。これで正式に家督をシエテに譲ることが出来ます。ただし、シエテはクイーンを名乗ることはなく、プリンセスの称号を維持する事になっています。今日生まれた孫娘のオンセはダッチェスを名乗り、その次の代までには国民も議会も十分成熟して君主など必要無くなっているでしょう。
クイーンの激務から解放された私は『極北修道院』で幸せな10年間を送りました。その間に長男のセイスを除く息子達は結婚し、シエテは男児の双子を2回出産しました。もちろん悲しいこともありました。この地に初めて来た時にすでに20代だった夫たちは次々と天寿を全うしました。私は30歳を前に病死するとのシナリオでしたが完璧な健康体ですのでおそらく30歳の誕生日の直前に強制力で死ぬ事になるのでしょう。ウノお兄様はサカサマタタビの摂取量を調整して一日数時間の眠りにつく事によって寿命を引き延ばし、私が死ぬまで待っていて下さると仰いました。
さて、明日は私の30歳の誕生日です。孫娘のオンセの初産に立ち会って、思い残すことはありません。ウノお兄様が毒杯を手に私を見つめています。私の心臓の音が不規則になってきました。強制力が働いているようです。お兄様が静かに毒杯をあおって私を抱きしめました。ああ、心残りが一つだけありましたわ。ノルテ族として幸せに生きて4人の夫を心から愛しておりましたが、本当はウノお兄様を唯一の夫とした普通の人間の暮らしをしてみたかったです。そうね、この心残りを持って死んで行く事にいたしましょう。もしかしたらあのうっかりさんの神様がウノお兄様と私を転生させて下さるかもしれませんからね。




