表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/27

第6章 すれ違ったままの返事――同じ言葉の、違う意味

「オレの伴侶となることを、真剣に考えてくれないか?」


その言葉が、頭から離れない。


その日の夜、私はなかなか寝付けなかった。

あのときのやり取りを、何度も思い返してしまう。


だって――

仕事へ向かうバルスを見送った、あのときのことが、何度も頭に浮かんでしまうからだ。


あんなふうに、さらっと言うから。

まるで大したことじゃないみたいに。


でも、あのときの表情は、全然そんな軽いものじゃなくて。

私は、信じられなさと嬉しさと、いろんな感情が一気に溢れて、――ただ、コクコクと頷くことしかできなかった。


バルスは、そんな私の頭を軽く右手でポンポンと触れて、


「……悪かったな。行ってくる」


そう言って、そのまま王宮へと向かった。


……これって、つまり。

バルスも、私に好意を持ってくれていたってことで――そう思って、いいんだよね。


恥ずかしくて、誰に相談できるわけでもない問いを、自分に向ける。

だって、バルスは基本的に生真面目だし、あんな真剣な表情で嘘なんて言わない。


でも――


「一体、私のどこがいいのかな」


ぽつりと呟いて、ふと鏡に映る自分を見る。

平凡で、地味な私の、どこに。


それに、もし本当にそうだとしても。


――私、誰かと付き合ったことすらないのに。

バルスみたいなすごい人の、伴侶なんて。


……結婚、って。

その、色々あるわけで。


そこまで思い至って、顔が一気に熱くなる。


「……私、大丈夫かな」


思わず、小さく呟く。

嬉しいはずなのに、それと同じくらい不安になる。


すぐ飽きられそうで、というより――幻滅されそうで。

なんとも言えないため息が、こぼれた。


――――――――――


一方で、バルスは。


ミドリへと、とうとう気持ちを伝えてしまったことに、内心ひどく動揺していた。


……大体、ミドリがあんな思わせぶりな冗談を言うからだ。

と、完全な八つ当たりをする。


ミドリが自分を慕ってくれていること自体は、分かっていた。

けれど、それが恋愛感情かといえば――違う気がしていた。


……あれは、刷り込みに近いものだ。

助けられた相手に向ける、信頼や依存。


きっと、そういうものだと、どこかで思い込んでいた。


それに、自分は騎士だ。

それも、最も危険な任務を率先して引き受ける部隊にいる。


いつ死ぬかも分からない男が、ミドリの伴侶であっていいはずがない。


――分かっていたのに。


それでも、半獣人の性質にいつまでも抗い続けることはできなかった。


ミドリを伴侶と認識してから、もう長い。

限界が近いことも、自分で分かっていた。


だからこそ――一年前、あんな失態を犯したのだ。


「……はぁ」


自嘲気味に息を吐く。


結局のところ。

思いを伝えなかった理由なんて、ひとつしかない。


――拒絶されるのが、怖かっただけだ。


この任務が終わったら。

きっぱりと断られたら、遠くの地へ異動願いを出そう。


少なくとも、ミドリは――あんなことを言われて、きっと悩んでいる。

ならば。


せめて、自分のほうから距離を取るべきだ。


――あいつを、これ以上困らせないために。


そう決めた時点で、

もう、同じ場所には立てていないことに――バルスは気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ