9.かつて人を信じられなくなった私。そして、人を信じられなくなった姪っ子。 そして私は娘と姪っ子の未来を想う。
さらに数日が経過した、ある日の深夜。
「何か用ですか?」
私が目を覚ますと、フィリアが私の上に跨っていた。
剣を私に突き刺して。
「あなたを殺しに来た」
「出来ないわよ。魔法の首輪があるから」
「ええ。でもやらずにはいられないから」
魔法の首輪で行動を縛られている彼女は、人を傷付けられない。
だけど、殺意がある事を示さねばならないのだろう。
「私はあなたが憎い。憎くて憎くてたまらない」
「……」
彼女は憎しみの込めた目で私に言う。
「お母様がいつも言っていた。あの女がいなければ私は今でも王妃だった。こんな暮らしをするはめになったのは全部あの女のせいだ……そう言っていた!」
涙を流しながらそう言った。
だから、私は……
「…………だったら、その剣を振り下ろしなさい」
そう言うと、私は自らの魔法を発動させた。
「今、首輪に命令を送りました。今のあなたなら、私を殺す事が出来ますよ」
「……え?」
「私が憎いのでしょう?でしたら、私を殺しなさい」
「で、でもそんな事をしたら、私が」
「安心なさい。今日は護衛の兵士を下がらせています。だからあなただってここまで来れたのでしょう?仮に私を殺しても逃げられるでしょう」
そう、私は彼女が兵士詰所から剣を盗んでいたのを知っていた。
なぜなら、彼女は常に監視がついているからだ。
……一応、私は女王だから、側近からつけてくれと言われて付けた。
本当は嫌だったけど。
だからこそ、あえて近衛兵を下がらせたのだ。
もちろん、こんな事女王として間違っている事は分かっている。
だけど、間違っているとわかっていても、やらなければならない。
彼女と本気で話す為には、私も命を懸けないといけないから。
私はこの子ときちんと話したい。
その私欲の為に、命を懸けて見せる。
かつて、リューク陛下……私の夫が私にして見せたように。
「わぁぁ!」
彼女が剣を振り下ろす。
剣は、私の顔の横に突き刺さった。
「あなたがいなければ……いなければ私だって、私だって!!」
「王女になれた?それとも、殴られずに済んだ?」
私の質問に対して、彼女は涙ながらに叫んだ。
「そう!王女になって、綺麗な服を着て、殴られることもないし……」
「あなたが本当に欲しい物は違うでしょ」
「!」
「あなたが欲しいのは、信頼できる人。あなた、本当は……寂しいんでしょ?」
彼女の目が限界まで開かれた。
「両親は喧嘩ばかりしてあなたを殴って。周囲の人間もあなたを虐める人ばかり」
「……」
「きっと、今まで何人もの人に騙されてきたんでしょうね。だから、人の優しさが信じられない。裏があるんじゃないかと思って断ってしまう」
「あんたなんかに……」
「それに、あなたはいつも奪われてきた。だから、勉強は頑張ってるんでしょ?知識は絶対に奪われないから」
彼女の言葉を遮って続けると、ついに彼女が切れた。
「あんたなんかに何が分かる!」
「分かるわ。私だって、信じていた人に裏切られたもの」
「!」
そう、私だって……裏切られた。
「私が生まれ故郷を追放される時、誰も私を信じてくれなかった。父も、婚約者も、友達も、長年一緒に暮らしていた使用人も、誰も信じてくれなかった。だから、誰にも信じられない辛さは分かる」
「……」
「追放された後、私は他人が怖かった。また裏切られるんじゃないかって。でも、そんな私を救ってくれたのは、リューク陛下だったの」
私は、夫との出会いを思い出した。
「陛下は、追放されて他人を恐れる私を諦めずに一緒にいてくれたの。だから、私もあなたと一緒にいたい」
「私は、あんたと一緒にいたくない!」
その言葉を聞いて、思わず私は笑った。
「その言葉、昔私が陛下に言った言葉と同じね。私が陛下に出会った頃、私は陛下にはあなたと一緒にいたくないって言ったのよ。それでもあの人は一緒にいてくれた。だから私もあなたと一緒にいるわ」
そう言って私は彼女を抱きしめた。
「貴方は他人が怖い。だからあなたは何も欲しがらない。もらうという事はその人から貸しを受けるという事だから。そりゃ、そんな人もいるだろうけど、そんな人からは私が守ってみせる。だから、どうせだからもらってみなさい。あなたのお母さんみたいにもらい過ぎも問題だけど、ちょっとくらいもらったって罰は当たらないわ」
彼女は何も言わなかった。
その日は、何も言わない彼女を抱きしめて寝た。
翌日。
どうせだから一緒に食事をとりましょうとフィリアと食堂に向かう時、ミリアもやって来た。
「あの……ミリア様」
「何?」
先に声を掛けたのは、フィリアだった。
ミリアは珍しい行動に少し驚きながらも聞き返すと……
「あの……その…………」
フィリアはもじもじしながらミリアの頭を見ている。
「ミリア。フィリアはやっぱり頭のリボンが欲しいんだって」
「ほんとに!」
ミリアは私のアドバイスを聞いて大喜びすると、大慌てでツインテールの片方のリボンを外した。
前と同じ、左側に着けていた青い方を外して、フィリアへ渡した。
フィリアはそれを受け取ると、ミリアとは逆側に着けた。
「まぁ、二人ともお揃いね」
私は思わず手を打って喜んだ。
フィリアは恥ずかしそうに顔を赤くしながらうつむいていたが、ミリアに手を掴まれるとそのまま一緒に歩き出した。
一緒に食堂へ向かって行く彼女達を見ながら私はなんだか涙が出て来た。
左右逆方向にリボンを着けた二人……
右側につけたミリア。
左側に着けたフィリア。
二人が手を繋いで仲良く歩いている。
その姿は、私が叶わなかった願いその物だった。
二人を見ていると、とても幸せな気持ちになる。
二人には、仲良くして欲しい。
私と義妹が出来なかった事を、二人にはもっともっとして欲しいから。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第一話の後書きでも書いたのですが、
追放された後、ザマァされた奴らはどうなったんだろう?
という事を考えた際に生まれました。
まぁ、実は以前一度書いて没にしたんですけどね。
その時はプロローグ(追放されてめでたしめでたしになるまで)が長くなりすぎまして……
ちなみに、今回のキャラのその後も考えてあります。
フィリアは主人公の子供達(ミリアと、息子)にすごく好かれます。
フィリア的にはむしろ勘弁してくれですが、二人に好かれまくります。
で、男の子は王族だから婚約者がいるのですが……
その婚約者もフィリアが大好きになり、四角関係に。
それでお互いに婚約破棄したい……と思うように。
もう泥沼の関係です。
ミリアは、漁夫の利で自分の物にしたいと思うようになり(ストーカー)
息子は、こっそりお風呂をのぞいて鼻血からの気絶したり(実は純真)
婚約者は服や下着をクンカクンカしたり(変態女)
ちなみにこの三人はフィリアが関わらなければ優秀で真面目です。
一方のフィリアは、大人になるにつれ悪いのは両親だと理解するようになり(というか現在でもうすうす気づいている)、
主人公には憎んで申し訳ないと言う気持ちも生まれる様になり。
一方で三人から好かれまくって、あんた偉いんだからなんとかしてくれとも思うようになります。
そんなフィリアの部屋には、三人からのプレゼントがいっぱい。
しかも、高い物ではなく庶民でも買えるようなもの(正当な婚約者じゃないからね)
でも、手の込んだもの(安物だが、手作りで世界に一つだけの物。)
つまり、思いのこもった物がいっぱいです。
で、フィリア的には、偉い人だから断りづらいしどうしたら……
という溺愛ストーリー
うん、やっぱり面白いかもしれない。
最期に。
呼んでいただいてありがとうございます。
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