ミカン
※視点変更
藤島彩歌 → 内海達也
※舞台変更
魔界・城塞都市 → 神奈川県
コンビニの前で、おばあちゃんにもらった〝ポチ袋〟を開ける。
中には、鳥取までの往復はさすがに無理だが、チーズかまぼこを買うには全く問題ない金額が入っていた。
「おばあちゃん、ありがたく使わせてもらいます」
例の埋蔵金は、全て古い紙幣だった。15年巻き戻った今ですら、使われなくなって、かなり経つはずだ。もちろん使えなくはないが、小学生がバンバン使ったりすると、絶対に悪目立ちする。
「まあ、小学生が一万円札を使いまくったら、旧札だろうが新札だろうが、目立っちゃうだろうけどさ。しかしブルー、詰めが甘かったな」
『すまない、タツヤ』
家の近くのコンビニは、まだこの時代には出来ていなかった。スーパーや商店街は正月休みなので、僕は妹への弁償の品を買うため、町外れのコンビニまで来ている。
「あ! たっちゃん!」
店内で、知り合いと出くわす。本当に久しぶりなので、一瞬、戸惑ってしまった。
「やー! あけましておめでとう! 宿題は、ちゃんとやってる?」
同級生の女子、大波友里、通称〝ユーリ〟だ。体育会系で、グイグイ来るタイプ。僕とは、わりと仲の良い感じだった。
「おー! おめでとう! 久し振り!」
ユーリは、あれ? という顔をした。しまった! もしかして久し振りじゃなかったのか?
「おいおいー、逹也くん。昨日会ったばかりで〝久し振り〟って、どんだけユーリちゃんに会いたかったんだいー?」
うわ……そうか。昨日会ってたか!
「いや、そうだった。ボケたかな」
「やはは! 早いよ、たっちゃん! ボケるには!」
そう言いながら、僕が背負っているリュックサックをバシバシ叩いてくる。
でユーリは、また、あれ? という顔をした。
「たっちゃん、なんか重そうな荷物持ってどこへ行くの?」
「あ、いや、ちょっと頼まれ物でね……それより、ユーリは何してんのさ?」
「やー。正月といえば、やっぱコタツでミカンでしょー? ところがね、肝心のミカンを、ねーちゃんが全部食べちまっててさー! 売ってないか見に来たんだけど」
「このコンビニに、ミカンは無いかもね」
「そう! 無いんだこれがー。コンビニエンス感が半減しちったさー!」
そんな理不尽な。
「あ、そうだ。ウチに来ればあると思うよ、ミカン。おばあちゃん、お里が和歌山だから、毎年親戚から、イッパイ送られて来るんだ」
ユーリは、すごくわかりやすい感じに、パァーっと笑顔になった。眩しいくらいだ。
「いいの?! やった! たっちゃん愛してる!」
いきなり愛された。
『タツヤ、気さくなのは良いが、リュックの中身はバレないか?』
ブルーの心配は分かる。僕も、ユーリじゃなきゃ、こんな時にミカンを勧めたりしない。
「大丈夫だよ。ユーリは細かい事、あんまり気にしないんだ」
要は、雑なんだよな。ほらもう、レッツゴー! とか言いながら、店を出ようとしてるし。
僕は慌ててチーズかまぼこを購入し、ユーリと2人、自宅へ向かった。
「やー、しかしラッキーだよ! まさかミカンにありつけるなんて!」
ご機嫌なユーリ。この娘は昔から本当に元気だなー。
「毎年、食べきれないほど送ってくれてね。貰ってくれると逆に助かるよ」
「すごい! そんなに?! たっちゃん、お嫁さんにして!!」
いきなり告白された。
「ミカンの亡者か!」
「やははー」
とりあえず、ツッコんでおいた。昔から、勢いだけで喋ってるよな、ユーリは。
「さて、リュックを家族が見ると、絶対に怪しまれるぞ。どこに隠そうか」
『そうだね。確か、裏に物置があったはずだ。そこはどうだろう』
「物置は、皆、チョイチョイ開けるから、バレちゃうよ?」
『大丈夫。物置の下に隠そう』
物置の下? どういう事だろう。
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「やー。たっちゃんの家、久しぶりー!」
ウチに着いた。僕はユーリに玄関前で待つように言って、家の裏に回り、とりあえず物置の中にリュックを入れ、その前に、ポリタンクやら、ビニールシートやらを置いて見えづらくした。
「ごめん。お待たせ。入って」
「うん。おっじゃまっしまーす!!」
僕が玄関を開けると同時に、ユーリの元気な声が家の中に響く。僕の帰宅と、来訪者の存在を知らせるには、充分過ぎた。奥から、妹と母さんが出てくる。
「あ! ユーリおねえちゃん! いらっしゃい~!」
「あら、久し振りね、友里ちゃん」
「明けましておめでとうございますー! るりちゃん 久し振り!」
そう。ユーリは数年前までは、しょっちゅう、ウチへ遊びに来ていたのだ。
「母さん、ミカンって、まだあったよね」
「え? まだたくさんあるわよ?」
「ユーリ、ミカンが欲しくて、町を彷徨ってたんだ。あげても良い?」
「あれ? たっちゃん、私が町をウロウロしてたの、何で知ってるのん?!」
本当に彷徨ってたのか。
「そうだったの。ちょっと待ってね」
母さんは、結構大きめの紙袋を2枚重ねて、それに一杯、ミカンを入れて持ってきた。
『タツヤ、重そうに持つんだ! その袋、11.24キロあるぞ!』
僕がそれを受け取ると、ブルーが慌てて声を掛けてきた。
おっと。これを軽々持つとマズい。ちょっと子ども離れした怪力だよな。
「うわ! 重っ!」
少し、演技が下手だったか……? まあいいや。僕はそれを、ユーリに渡した。
「あら、ごめんなさい。一杯入れすぎちゃったかしら」
「やー! 11.24キロぐらいなら、まだまだ大丈夫です!」
「そうよね、友里ちゃん、すっごく力持ちだから」
そう。実はユーリこそ、昔から子ども離れした怪力の持ち主なのだ。
大人でも、ちょっと重いかなと思うようなミカンの袋を、ユーリはヒョイと持って、ニコニコしている。
「有難うございます! いただきます~!」
「良かったら、たまには来てやってね 友里ちゃん」
「また遊びに来てね! おねえちゃん!」
「はい! またお邪魔します! たっちゃんが居なくても来ます!」
それはやめてくれ。
「んじゃ、たっちゃん、有難う! 大好きだよ!!」
ここまで来ると、さすがに、清々しいな。
溢れるような笑顔で、ユーリは帰って行った。ミカンの詰まった紙袋を、嬉しそうに抱えて。
「またねー! おねえちゃん、バイバーイ!!」
ユーリは昔から、ウチの家族に大人気だ。
妹は、家の前まで出てきて、帰って行くユーリに手を振っている。
その後、父さんも起きてきて、
「なんだ、友里ちゃん来たのか。なんで起こしてくれないんだ」
とか、ワケのわからない事を言ってるし。
『タツヤ。ちょっと』
「何?」
『キミ、気付いてないのか?』
「何の事だ? ユーリのハイなテンションは、いつもあんな感じだぞ」
『……ミカンの入った袋の重さ、11.24キロ』
「?」
『私が言ったのだぞ。キミに。11.24キロ。あの娘には言っていない」
「……あ!!」




