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トレジャーハント

 元旦だ。


「お兄ちゃん! 私のチーかま、また()ったー!!」


 なんか色々ありすぎて、超長かったが、やっとお正月の朝だ。両親は、僕の縦穴転落の一件で、ほぼ徹夜。まだ寝ているようだ。


「ヒトのもの盗ったらドロボーなんだよ? おまわりさんにタイホされるんだよ?」


 おばあちゃんは既に起き出してきて、お雑煮を作ってくれている。関東では、四角い餅のお吸い物が主流のようだが……


「ドロボー! おまわりさーん! ここにドロボーが居まーす!!」


 ウチのお雑煮は関西ならではの、丸餅に白味噌で、具だくさんな、神奈川では余り見かけないタイプだ。僕はどちらかと言うと味噌派なので、久しぶりに食べられるのは嬉しい。


「ドロボー! ドロボー! びっくりするぐらい盗るよー! ドロボーハッケーン!!」


 ただ、おばあちゃんだけは、このお雑煮に粒餡(つぶあん)の入ったヨモギ餅を入れて食べる。おばあちゃん曰く〝この美味しさを知らない人は、人生の何割か損をしてる〟だそうだ。だが、未だに僕も、試す勇気が持てない。


「ドーローボー! あソレ! ドーローボー! もいっちょ! ドーローボー!」


「だああああっ! うるさいな! 悪かったよ!!」


「それがドロボーした人が、あやまる時の態度ですかー?」


「……ごめんなさい。許して下さい」


「わかればよろしい。ちゃんと、〝べんしょう〟してね」


「はいはい。今日コンビニで買ってくるから」


 なんたって今日は、すごい額のお金をブルーと掘り起こしに行くのだ。冷蔵庫の上から2段目は、全部、チーかまにしてやる。


『タツヤ。目立つ行動はダメだよ?』


「冗談だよブルー。父さんと母さんに説明するのが面倒だ」


 妹は歓喜するだろうが、それすらも面倒だ。


「でもさ、ブルー。拾ったお金は、警察に届けなきゃダメじゃないか?」


 そういう所は、おばあちゃんの教えが生きている。


『タツヤ。これから掘り起こすのは、〝大人の理由〟で、廃棄するために埋められたお金だよ』


 マジか。本当にあるんだな、そういうの。


『それを持ち主の所に持って行ったら、逆に困らせることになるだろう? だから、地球のために、有難く使わせて貰おう』


「よし。なんか良くわからないが、埋めた人も、その方が幸せなんだな!」


 罪の意識が、多少和らいだ所で、母さんが起きてきた。


「お義母さん、すみません。寝過ごしてしまって……」


「ええんよー。昨日は大変やったもんなー」


 おばあちゃんは、ニッコリ微笑むと、お(わん)を戸棚から4つ取り出した。


「お父さんは、まだ起きて来んやろから、先に朝ごはんにしよかー?」


 といって、母さんに、お椀を手渡し、お鍋に餅を4つ入れる。1つは、緑色の餡餅(あんもち)だ。


「るりちゃん、あけましておめでとう。これ」


 おばあちゃんは妹に、赤い縁取(ふちど)りのポチ袋を手渡す。


「やったー!! ありがとうおばあちゃん!!」


 クルクル回って喜ぶ妹。懐かしい光景だな。

 食卓にお雑煮が並び、久々の食事。あ、そういえば。


「ブルー、たしか僕って、〝摂食不要(せっしょくふよう)〟じゃなかったっけ」


『ああ、そうだね。でも、不要ってだけで、食べても大丈夫だよ。呼吸も不要だけど、キミ、呼吸してるよね』


 そういえば確かに。というか、呼吸を止めるってチョット怖いよな。


『むしろ、美味しい食事は精神的な支えになる。しっかり食べてほしい』


「よーし! 食うぞ!」


 お雑煮、美味い! またちょっと泣きそう。こみ上げてくるものを(こら)えながら、僕は母さんに今日の予定を告げる。


「今日は、お昼までグルッと散歩してくるよ」


「達也。山へは行かないで?」


 母さんが、ちょっと心配そうにこちらを見て言う。


「うん、絶対に行かないよ」


 僕は真顔で答えた……あ!


「ブルー。埋蔵金の場所、あの山じゃないよな?」


『違うよ?』


 良かった。当分の間、山には行かないほうが良さそうだし。


「お兄ちゃん! アレ、忘れないでね!」


「おっと、了解しました」


 僕は妹に、おどけた感じで敬礼してみせると、お雑煮を食べきり、箸を置いた。


「それじゃ、行ってきます!」


「行ってらっしゃい。気をつけてね。あと、駐在さんに会ったら、お礼、言うのよ?」


「ああ、うん、分かった!」


 駐在さん……埋蔵金を持った状態では、絶対に出会いたくないヒトの筆頭だ。気をつけよう。


「逹也、年明けから色々あったから、今年は気をつけやなアカンで?」


「うん、ありがとう、おばあちゃん!」


 本当に色々あってビックリだ。僕は死なないから大丈夫だけど、おばあちゃんを驚かせたり悲しませたりは絶対しないぞ。


『タツヤ、所持していても違和感のない、袋が必要になる』


 出掛けに、ブルーに止められる。とりあえず、リュックサックで良いかな。


「スコップとか、ツルハシとか要らない?」


『うん。地表までは私が持ってくるから、あとは素手でなんとかなると思うよ?』


 むしろ、〝何かを掘り起こしてます感〟は、目立つので出さないほうが良いらしい。確かに、小学生が手で地面を掘っていても、泥遊びぐらいにしか見えないな。

 家を出て、リュックを片手に、ブルーの指示した場所を目指す。


『ストップ。ここを右だ』


 農業用水の人工池の方へ向かう。池を回り込んだ先に、人があまり出入りしない、雑木林があるんだ。正月なら尚更、人は居ない。


『もう少し奥。あの3本並んだ一番右の木の、根元辺りだ。随分深く埋めてあるが……ちょっと待って』


 何か、地中からグムグムという、聞いたことのないような音が響く。


『うわ、根っこが邪魔だね。ホイホイホイと』


 ブチブチという音の後に、更にグムグムという音。その音が、だんだん近付いてくる。


『ふう。これで大丈夫だ。サラッと掘れば、すぐ出て来るよ?』


「もう、いっそ、最後まで出してくれても良いのに」


『タツヤ。共同作業っぽいほうが、感動が大きいよ?』


「そんな理由なの?!」


『あはは。いや、それもあるが〝取得するはずのないお金を手に入れる〟というのは、歴史を改変している恐れがある。救星特異点(きゅうせいとくいてん)のキミがやらないと、無かったことにされるかもしれないんだ』


 なるほど。僕は星を救うためなら、歴史を変えられる……ブルーより、僕がやったほうが良いのか。


「なんか、悪魔の時もそうだったけど、僕って、素手で何かするパターン、多いよな」


『ははは。本当だね。その内、特記事項に〝素手Lv8〟とか載るかもね』


「どんなスキルだよ!?」


 なんとなく、人に見られたくないな、その特記事項は。


『タツヤ、容器の端が見えたぞ』


 本当だ。ジュラルミンケース! ドラマでしか見たことなかったけど、お金を詰めるならやっぱりコレだ。


「ブルー。どうやって持って帰ろうか」


『ここで容器を開けて、その袋に詰め込んでほしい。容器は再び埋める』


 なるほど。そのためのリュックサックか。ジュラルミンケースを見たら、たとえば中身が餡餅(あんもち)だとしても、お金が入ってるって、絶対に思っちゃうもんな。


「じゃ、開けるよ?」


 僕はケースの留め金を外そうとした。しかし、錆びついていて動かない。さらに力を加えると、ボリンと音を立てて、留め金ごと(こそ)げ落ちた。


「うわ、ボロボロ。ずいぶん昔に埋められたんだな、きっと」


 左右の留め金とも、ほぼ同じ感じに壊れて外れた。ついでに持ち手もボロンと取れてしまった。

 

「何十年埋まってたんだ? これ」


 ついにケースの蓋が開いた。中には、ビニール袋に、小分けに入れられた一万円の札束がギッシリと詰まっている!


「やった! これで僕達、大金持ちだ!! あ……あれ? この一万円札」


 なるほど、言われてみれば当たり前だ。これはちょっと困ったぞ。


『どうした? タツヤ?』


「……全部〝旧札〟だ」

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