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落星物語  作者: 間々 ようこ
旅程
9/42

内宮式女

 翌日、星がつらつらと女官たちの名を書き出した。名前を書いた木簡を見て、それぞれ読み上げ、数を数える。

「書き上げたものと実際の人数が違うのは、思い出せないからよ。思い出せないものは働きがないのでしょう、まず斬り捨てます」

 そういって木簡を手にして、「顔が思い出せないものはさほど美しくも特徴もないものでしょう。この人たちも、捨ててかまわないわ」とぽいぽいと、顔の思い出せない女官の名前を書いた木簡を捨てる。

「ざっと、半分。400人くらいになるかしら」

 捨てられた木簡を拾い集めている貴子の指先から、すっと一個が抜ける。見るとまた富山である、彼が拾ったのだった。

 彼はその捨てられた木簡を裏返すと、裏にさらりと一人の名を書いた。

「この女官も忘れないでやってくれ」

「また、どなたなのです?」

 笑う星が、木簡を座ったまま受け取りちらりとも見ないで、横の合格の束に置いた。

「明鈴だ」

 やはりな、と貴子は思う。

「君の侍女だが正式に女官として採用するよ」

 落ちている木簡を拾うのを終えて、富山が腰をのばす。猫のようにしなやかである。そして、「主従が逆転しないといいね」と丸い目を細めて笑った。

「後宮で必要なものが分かるかい? 運も美貌もあって当然なのだよ。必要なものは、したたかさだ」

「おっしゃる意味が分かりません」

「君も、僕の所に来るといいってことさ」

 富山は笑い猫のようである。

「君がうんというまで、毎日口説きにくるよ」

 去ろうとする富山を、星が「今お茶をお入れしてますのに」と引き止める。そうかい、とくるりと身を翻し、富山は星の前に座った。

「蓮茶かい?」

「ええ、美容にいいのだそうで」

 仲良く話す二人をよそに、木簡の名前を確認する作業を貴子は進める。

「女官に位をどう与えたらよいと思われますか?」

「そうだね、生まれで決めるのがいいと思う」

「生まれ? そうですわね、貴族の娘か、豪族の娘、町人……奴婢」

「下級のものには試験を行って、才能を見てもいいだろう」

「と、申されますと?」

「歌舞に優れたもの、料理に優れたもの、図画に優れたもの、色々ある。区別してもいいだろうが、そうなると後宮だけでは話が済まぬなあ」

「女大学を作っては?」

 いつの間にか貴子は口を挟んでいた。自分でびっくりして、許しを乞うて頭を床にこすりつけていた。

 驚いたのは星と富山もである。

「それはどのようなものだ」

「は、お許しください」

「いいのだ、話してみよ」

「人材を選別するおり、後宮女官向きかそうでないかで仕分けて、あとを中央にふってしまうのです。つまり新しい人材管轄部署をつくるのです。それを女大学と言って、広く育ててはいかがかと」

「なるほど、今まで女官は皆後宮に入れておけばよいという考えであった。そうすれば区分けもしやすくなるな」

「後宮の御殿を区分けして、一つの街にいたしましょう」

「街?」

「皇王様だけの女の街でございます」

 きょとんとする富山であったが、爆発音とともに笑い出した。

「お、おまえ、面白いな! 男でないのが実に惜しい」

「おそれいります」

 貴子は深々と礼をする。

「お前はどこの生まれだ? 百山の美姫と呼ばれたというからには、北方の山岳地帯にいたのであろう?」

「ええ、そうです」

「父と母の名を述べてみよ」

「……!」

 貴子は一瞬ぎくりとした。星と目が合う。

 生唾を飲み込むと、首を横に振った。

「父は私が産まれる前に亡くなりました。母も私を産んですぐに。たまたま通りかかった薬師が私を取り上げて育ててくれました。その薬師の名しか、私は知らないのです」

「ふむ、そうか。身分のあるものならば高官に取り立ててやるのだが」

「いえ、もう式女の位は考えてあります」

 星が口を開く。

「式女?」

「内宮式女。内府の中でも王妃に仕える高官です」

「ふむ」

 富山は笑うと、立ち上がった。

「王妃さま。あなたさまがこの者を、気に入る気持ちがわかりましたよ」

 微笑みあって、富山は部屋を出て行った。彼の出て行く時に、その横にすっと明鈴の姿が現れた。彼女は室内をちらりと見て、そっとお辞儀して去っていった。

「試験の内容を決めないといけないわ。どうしましょう」

「古い女官たちに選ばせればよろしいでしょう」

「そう、そうね。彼女たちはよく心得ているでしょうから、気になる娘を選んでくれるでしょう」

 静かに微笑む貴子を、その部屋にいた誰もが驚きをもって見つめていた。

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