落星
「おじさまー!」
キャッキャと瞳の可愛い女の子が走ってくる。龍はそれを抱きとめると、高い高いしてぐるりと廻る。
「重くなられましたな、椿さま」
「お母様がずっとお待ちでしたよ。今度の旅はどちらへ行かれていたのですの?」
「都だよ」
「ミヤコ?」
椿はくるくる瞳を動かして、考えている。
「椿さまは都に行きたくございませんか」
「どんな所なの?」
「行ってみればわかります。恐ろしい所です。悲しい所です。でも、愛する人が見つかるかもしれません」
「あら、でも」
椿が指差す方に、まじめそうな男の子が立っている。
「わたし、結婚する相手がいるの」
「おや、椿さまはおませですね」
ははは、と龍が笑う。蓮殿の中から、白い衣の尼僧が出てくる。
「星さま」
「龍殿」
二人はしばらく見つめあって立ち尽くした。古いなじみの顔に、お互い思う所があった。池の蓮の上から、カエルが跳ぶ。ぽちゃんと音がする。
「お入りになってください。あれから五年です。昔語れぬことも、今は語れるかもしれません」
あるところに、かつてやんごとなき身分だった尼僧がいた。彼女は名を星と言ったが、人々は落ちた星「落星」と呼んだ。
そしてまた、一連の争いを彼女がまとめた物語を、落星物語という。




