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落星物語  作者: 間々 ようこ
官府
13/42

上宮行列

 上宮行列を見るために、ヤン・トンの都は人で埋め尽くされた。特に都大路は大変な人で、お忍びで行列を見にきた貴族の娘たちや、若い男連中の輿車が隙間なく並ぶほどである。大路は南北に五首山(だいたい五キロほど)、東西に四.八首山のびていて、カン・ファン(官府)は北の山裾に存在した。ヤン・トンには四方を山に囲まれているため、北から南に向けて二つの河が流れ込んでいて、これにはソジャン橋がかけられている。都市を一つ攻略するごとに橋は増え、いまや大小込めれば五十八の橋が架かっていた。ソジャン橋は元々架かっていた無名の立派なものであったが、攻略に手間取ったために、宰相楽章が踏みにじってやると願をかけて命名。ソジャン攻略に成功したため、それ以後願掛けのために橋が造られるようになったというわけである。

 ソジャン橋のあたりはお祭り騒ぎで、河にはたくさんの舟が浮かべられて、若い楽士の一群が音楽を奏でるので、踊るものも現れた。花の盛りの季節で、川面には花びらがもう一つの木のように咲き誇る。

「あ、きたわよ!」

 小さな女の子が叫ぶと、人々はわっと拍手をして南の方角を見た。鐘の音とともに、列が姿を現す。

 内府と内宮の女官350人あまりと、内吏、迎えに上がった武官で列は構成されている。皆真っ赤な衣をまとって、まさに勢いのある日の出のようである。

 列の中程になると、龍が馬にまたがって、泣きそうな顔をしている。そのすぐ後ろに貴子はあって、さらにその後ろに星の輿があった。

「貴子、おれは寂しいぞ。とうとう王の女になるんだな」

「べつに、ヤンヒでもメイリャンでもないのだから」

「いや! 忘れてはいけない。後宮の女になることは、王の女になるということだ。おれはもう、お前と用がなければ会えないのだ」

「わたしだけじゃないよ、明鈴ともだ」

 龍の動きがぴたりと止まる。

「明鈴の話はよしてくれ。なんだか、落ち着かなくなる」

「ねえ、何を話しているのだ?」

 輿の中から星が声をかけてくる。

「いえ、なんでも」

 星が明鈴を好きでないことを、貴子は知っていた。あの炎の夜に言い放ったように、「自分を利用するもの」は「汚らわしい」のだろう。それなら明鈴も、自分も当てはまる。

(ああ、またおれは悩んでいる)

 この場でなければ、ぽかぽか頭を叩きたかった。

(あれは敵の娘だ。敵の妻だ。どうしておれは……!)

 宮城の門をくぐるとき、暗闇が彼を包んだ。それは長い長い時間のように思われた。暗闇の間、彼はいろいろなことを考えた。

 そして門をくぐり抜けると、彼は思った。

 おれが王になれば、あの人を王妃に出来るのだ、——と。

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