第三章 四次元界 ― 死を知らない人々
健一が足を踏み入れた、これまで知らなかった世界。
そこには、地上で生きている人々とは違う「魂」の姿がありました。
死とは、本当にすべての終わりなのか。
そして、死んだことを受け入れられない魂は、どこへ行くのか。
健一は、四次元界でさまざまな魂と出会いながら、少しずつ「死」というものの意味を考え始めます。
第三章「四次元界 ― 死を知らない人々」。
どうぞお読みください。
白い門をくぐると、健一は思わず息をのんだ。
目の前には、一つの街が広がっていた。
石畳の道。
季節の花が咲き誇る庭園。
遠くには美しい教会のような建物や、図書館を思わせる大きな建物が見える。
子どもたちが笑いながら駆け回り、大人たちは穏やかな笑顔で言葉を交わしていた。
風は柔らかく、空はどこまでも澄み渡っている。
健一は辺りを見回しながら、妖精に尋ねた。
「ここが……死後の世界なんですか。」
妖精は静かに微笑んだ。
「はい。ですが、この世界は終着点ではありません。」
「魂が新しい人生を始める最初の世界です。」
「もっと暗くて、寂しい場所だと思っていました。」
「地上では、そのように思われることが多いですね。」
妖精は歩き始めた。
「ですが、魂は死によって消えるわけではありません。」
「肉体を脱ぎ、新しい生活を始めるだけなのです。」
歩いていると、一人の老人が慌ただしく走ってきた。
「すみません!」
老人は妖精へ声をかけた。
「病院へ戻りたいんです。」
「妻が心配しているんです。」
「私は昨日倒れただけなんです。」
「早く戻らないと。」
妖精は優しく老人を見つめた。
「ご家族を大切に思っておられるのですね。」
「もちろんです。」
「妻が一人になる。」
「息子も来るはずなんです。」
老人は必死だった。
健一は小声で尋ねる。
「この人は……。」
妖精は静かに答えた。
「亡くなられたばかりです。」
健一は言葉を失う。
「でも、自分が亡くなったことに気付いていない。」
妖精はうなずいた。
「突然亡くなった方の中には、すぐには受け入れられない方もいます。」
「ここでは、その心が落ち着くまで、多くの案内人が寄り添います。」
老人はなおも辺りを見回していた。
「病院はどこですか。」
「家へ帰らせてください。」
妖精は老人の肩へ静かに手を添えた。
すると一枚の光が空中に広がった。
そこには病室が映っていた。
白いベッド。
静かに眠る一人の男性。
その傍らでは、年老いた女性が涙を流している。
「お父さん……。」
息子が手を握りしめていた。
老人は画面を見つめ、目を見開いた。
「……あれは。」
「私……。」
震える声が漏れる。
ベッドに横たわっているのは、自分だった。
医師が静かに頭を下げる。
家族が泣き崩れる。
老人は一歩後ずさった。
「そんな……。」
「私は……。」
「死んだのか。」
妖精は何も言わなかった。
ただ、老人のそばに立ち続けた。
しばらくして、老人は静かに涙を流した。
「もう……帰れないのですね。」
「肉体へ戻ることはありません。」
妖精は穏やかに答えた。
「ですが、ご家族との愛は終わりません。」
「あなたの思いは、これからも届きます。」
老人は空を見上げた。
「妻は……大丈夫でしょうか。」
「悲しみは続くでしょう。」
「ですが、いつか必ず立ち上がります。」
「そのとき、あなたは微笑んで見守ることができます。」
老人は静かにうなずいた。
すると、遠くから一人の女性が歩いてきた。
白い服をまとい、優しい笑顔を浮かべている。
老人は驚いて立ち尽くした。
「……君。」
女性も涙を浮かべながら微笑む。
「あなた。」
老人は震えながら近づいた。
「三十年前に……。」
「先に来て待っていました。」
女性はそう言って老人の手を握った。
「一人ではありません。」
「これから一緒に歩きましょう。」
老人は声を上げて泣いた。
その涙は悲しみではなく、再会の喜びだった。
健一の胸も熱くなる。
「死んでも……。」
「愛する人とは会えるんですね。」
妖精は微笑んだ。
「愛は肉体ではなく、魂を結ぶものです。」
「だから、本当に愛し合った者は、再び巡り会うことがあります。」
健一は静かに空を見上げた。
地上では「死」が別れだった。
しかし、この世界では「再会」が始まりだった。
そのとき、妖精が健一に言った。
「ですが、この四次元界には、まださまざまな魂がいます。」
「次は、家族への執着から離れられず、地上をさまよい続ける人たちに会いましょう。」
健一は表情を引き締めた。
美しい世界にも、苦しみを抱えた魂がいる。
その理由を知るため、二人は静かに歩き始めた。
第三章を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
健一は、四次元界でさまざまな魂の姿を目にしました。
そこには、愛する人への想いを残した魂や、自分が死んだことを受け入れられない魂もいます。
死んだ後も、人の心に残る想いとは何なのか。
健一の霊界への旅は、さらに深い世界へと進んでいきます。
次章も、ぜひお読みください。




