第二部 第二章 試練は突然に
霊界から戻って数か月。
健一の生活は、少しずつ変わっていました。
感謝すること。
家族に「ありがとう」と伝えること。
人を責める前に、相手の気持ちを考えること。
霊界で学んだことを、日々の暮らしの中で実践していたのです。
しかし、平穏な日々は長くは続きませんでした。
ある日、健一が一年かけて進めてきた仕事が、思いもよらない形で否定されてしまいます。
怒りがこみ上げる健一。
そのとき、見えない声が問いかけます。
「あなたは、どんな心を選びますか。」
霊界で学んだことは、現実の人生の中でも通用するのでしょうか。
第二部・第二章「試練は突然に」。
健一の新たな学びが始まります。
霊界から戻って数か月が過ぎた。
健一の生活は以前とは少し変わっていた。
朝は創造主へ感謝を捧げる。
家族へ「ありがとう」を伝える。
職場でも、人を責める前に相手の気持ちを考えるようになった。
「人は皆、魂の修行をしている。」
そう思うだけで、心は穏やかになれた。
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。
ある雨の日だった。
会社で大きな会議が開かれていた。
健一が一年かけて進めてきた新しい事業計画。
ようやく完成し、役員会で発表する日だった。
健一は緊張しながら説明を始める。
すると突然、一人の同僚が立ち上がった。
「その企画には重大な問題があります。」
会議室が静まり返る。
同僚は次々と欠点を指摘した。
しかも、その内容には事実ではないことまで含まれていた。
役員たちは厳しい表情になる。
結局、その企画は見送られた。
会議が終わると、健一は廊下で立ち尽くしていた。
胸の奥から怒りが湧き上がる。
(どうしてだ。)
(あいつは私を陥れた。)
(絶対に許せない。)
その瞬間だった。
健一の耳に、懐かしい声が響いた。
「健一さん。」
妖精の声だった。
姿は見えない。
しかし確かに聞こえた。
「地獄界で見た人たちを覚えていますか。」
健一は息をのむ。
怒りに支配され、相手を責め続けていた魂たち。
彼らの姿が脳裏によみがえる。
健一は拳を握りしめた。
「でも私は悪くない。」
心の中で叫ぶ。
すると、もう一つの声が響く。
『悪いか正しいかではありません。あなたは、どんな心を選びますか。』
健一はその場に立ち尽くした。
その夜。
帰宅した健一は何も話さなかった。
食卓にも笑顔はない。
妻が心配そうに尋ねる。
「会社で何かあったの?」
健一は首を振る。
「何でもない。」
しかし、その声は冷たかった。
妻も少し腹を立てる。
「何でもないなら、そんな顔しないで。」
健一は思わず声を荒げた。
「放っておいてくれ!」
部屋の空気が凍りつく。
妻は悲しそうな表情を浮かべ、そのまま別の部屋へ行ってしまった。
静まり返ったリビング。
健一は椅子に座り込んだ。
(私は何をしている。)
霊界で創造主の愛に触れたはずだった。
人を責めないと誓ったはずだった。
それなのに、一番近くにいる家族を傷つけてしまった。
涙がこぼれた。
深夜。
健一は眠れずに庭へ出た。
空いっぱいに星が輝いている。
あの日、霊界から帰ってきた夜と同じ星空だった。
健一は静かに目を閉じる。
「創造主よ。」
「私は、まだこんなにも未熟です。」
「怒りが消えません。」
「許そうとしても、心がついてきません。」
長い沈黙が流れる。
すると、不思議なことが起こった。
返事は聞こえなかった。
奇跡も起きなかった。
ただ、一枚の落ち葉が風に乗って足元へ舞い降りた。
健一はその葉を拾い上げる。
茶色く枯れている。
しかし、その葉も春には青々と茂り、多くの人に木陰を与えていた。
妖精の言葉が胸によみがえった。
「人はすぐには変われません。だから何度でも学ぶために地上へ生まれてくるのです。」
健一は静かに涙を流した。
「そうか……。」
「私は失敗してはいけないのではない。」
「失敗から学ばなければならないのか。」
その瞬間、心の奥の重い石が少しだけ軽くなった。
翌朝。
健一は妻の前に立った。
「昨日は、ごめん。」
妻は驚いた顔をした。
「私のほうこそ言い過ぎたかもしれない。」
健一は首を振る。
「違う。」
「私は、会社であったことを君にぶつけてしまった。」
「本当にごめん。」
妻は静かに微笑んだ。
「話してくれる?」
健一は初めて、会社で起きた出来事をすべて話した。
妻は黙って聞いていた。
最後まで遮ることなく。
話し終えると、妻はそっと言った。
「つらかったね。」
その一言で、健一の涙があふれた。
人は、正論では癒されない。
受け止めてもらえたときに、初めて心がほどける。
健一はそのことを、身をもって知った。
その日の夜、健一は日記を開いた。
そして一行だけ書いた。
『魂を光へ近づける道は、失敗しないことではない。失敗を愛へ変えていくことである。』
ペンを置くと、不思議な静けさが心を満たした。
遠くで風が木々を揺らしている。
健一には、その風がまるで妖精の微笑みのように感じられた。
第二部・第二章を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
健一は、霊界で「人を責めないこと」や「愛すること」の大切さを学びました。
けれど、実際に自分が傷つけられたとき、怒りを抑えることは簡単ではありません。
そして健一は、怒りを抱えたまま家に帰り、一番近くにいる妻まで傷つけてしまいます。
「私は何をしている。」
その気づきから、健一は一つのことを学びます。
失敗してはいけないのではない。
失敗から学ばなければならない。
そして、その失敗を愛へ変えていく。
それもまた、地上という魂の学校で学ぶ大切なことなのかもしれません。
次章では、健一にさらに大きな試練が訪れます。
どうぞ続きをお楽しみください。




