28 blanc
「初めて璃子に会ったとき、純粋すぎて……本当に眩しかったよ。真っ黒な自分には吊り合う相手じゃないってことも、よくわかってた」
そう言って、拓海は少し悲しそうな顔をした。私のことを、拓海がそんな風に思ってたなんて…全然知らなかった。ただのお客さんの1人で、ろくに恋も知らない女。それぐらいの認識でしかないんだと思ってた。
私が彼に吊り合わないと感じていたように……彼も、私に吊り合わないと感じていたんだ。
「私だって嫌なところ、いっぱいあるよ。他人を羨ましがったり、つい嫌味を言っちゃったりすることもある。そんなにみんな、真っ白じゃないよ」
「…ううん。璃子はやっぱり、真っ白だ」
隣に座っている彼は、私よりずっと背が高くて大きな体をしている。けれど、いまは私の何倍も小さく感じられる――。今にも消えてしまいそうなぐらい、…いつも気丈な彼をそんな風に変えてしまうくらい、悲しみや憎しみという感情は恐ろしい怪物なんだということを、私は今まで知らなかった。
生きてきた年数はほんの数年しか違わないのに、どうしてこうも違っているんだろう。どうして、みんなが幸せな子ども時代を送れないんだろう。
現に彼は、子ども時代に負った傷を癒せず、そのまま大人になってしまっている。私が知らないだけで、世の中には同じような人がたくさんいるんだろうか。
「…拓海」小さく息を吐いてから、私は体ごと彼に向き直った。
「辛いことを話してくれて、ありがとう。拓海は“幻滅されるかもしれない”なんて心配してたけど…、そんなこと、絶対にないからね。私は拓海の過去を聞いて……ますます、拓海のそばにいたいと思った。もちろん、同情したわけじゃないよ。過去も今も、全部ひっくるめた拓海が好きだから……。私がこれまで生きてきた中での苦労なんて、拓海に比べればどうってことないけど、…だからこそ、深いところまで理解したいと思ってる」
正直、彼の反応が怖かった。私の想いは、ちゃんと伝わっているのかな。ただ、それだけが心配だった。
伏し目がちに私のほうを見て、彼は自分を嘲笑うような表情を浮かべる。
「俺は……腹黒くて、醜い。実の父親に手を下すことを、心の底ではまだ…諦めきれずにいるんだよ。そんな俺が璃子に愛される資格なんてないし、俺と一緒にいたって不幸になるだけだ」
今にも泣き出してしまいそうな彼を、私は強く抱きしめた。そして、彼の頼りなげな背中に触れながら……
―――私は、何があっても拓海のそばから離れたりしない。
そう、強く決意したのだった。
「…一緒に、お父さんに会いに行こうよ」




