表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

七英雄と結婚狂騒曲 第一章③

《挿話その三》


婚礼から一年後、私たちは父の書斎に集められました。

『喜べ。お前たちがカリュフィサ様のお役に立てる日がついにやってきた』 

 父は完全に魔族に魅入られておりました。魔族に命じられるままに私たちを七英雄に嫁がせ、恐ろしい計画に荷担させようとしたのです。

嬉々として父は、私たちの前に七つの短剣を並べてみせました。

『この短剣には竜さえ仕留められる毒が塗ってある。情を交わした後、七英雄が眠ったのを見計らって、奴らを殺すのだ』

私は短剣に手を伸ばしましたが、指が震えてうまくつかめませんでした。

その夜、私たちはそれぞれの夫と寝室に入りました。

『どうした? 顔色が悪いようだが』

心配そうに話しかけてくる私の夫は、よりにもよって、あの日、親しく言葉を交わした青年――ギルフでした。

強大な武力を持ち、冷酷無情と噂され、人々から畏怖される七英雄……。

 しかし実際の夫やその仲間たちは、決して恐ろしい化け物なんかではなく、みんな戦場の外では至ってまともな、気持ちのいい若者たちでした。

 そして私は、いつしか自分の夫を深く愛し始めていたのです。

 少々融通が利かないところはあれど、仲間思いで誠実な人柄の夫、ギルフを。

『な、なんでもないの』

『……? そうか。無理をするなよ』

優しく抱きしめられて、私の心は千々に乱れました。

体を重ねた後、私は隣で寝入ったギルフの横顔を眺め、短剣を取ろうとしましたが、どうしても振り上げることができませんでした。

私はギルフを揺り起こして、全てを打ち明けました。

 ギルフは大変驚いた様子でしたが、『良く話してくれた』とだけ言って、衣を身につけて寝室から飛び出していきました。

それからしばらくしてギルフが戻ってきました。

『仲間たちは皆、無事だった。あなたの姉妹たちもまた土壇場で躊躇して短剣を使わなかったんだ。だが、エオリア殿だけは……』

エオリアは、英雄アザキル様に嫁いだ私の双子の姉でした。

父以上に魔族に傾倒しており、姉妹で唯一この役目を喜んで引き受けたのも彼女でした。

『幸いアザキルは無事だった。エオリア殿はすぐに衛兵たちに捕らえられた。ひどく興奮しているようでな。まともに話もできない有様だ』

今になって、犯そうとしていた罪の恐ろしさに耐えがたくなり、私は両手で顔を覆いました。

『私たちは……なんていうことを……』

震える私の肩を、ギルフが優しく支えてくれました。

『あなたたちの罪ではない。こうなるまで見抜けなかった俺たちにも責任がある。仲間とも話したが、あなたたちを離縁はしない。しかし父君と姉君は、残念ながら罪を免れん』

私はギルフの胸に縋りつき、声をあげて泣きました。

 数日後、魔族の下僕となっていた父や数名の重臣たちは処刑され、エオリアは幽閉されました。


 

《第四章 七英雄と島の秘宝》


 部屋に引っ込んだ私はまず頭を抱えた。

状況を整理しよう。七英雄はこの島の王女たちにプロポーズしてきたが、実はそれは、彼らの主人である光の聖女を復活させる手段を得るためだった。そして私はその七英雄の一人の愛人と目されている。誤解である。

 何が悪いって、そういう事情なら最初から変なプロポーズ大作戦などやらず、さっさと本当の目的を明かせば良かったのだ。七英雄は。人の命がかかっているなら、義理人情を尊ぶ父やその友人たち(島の実力者たち)に異論などあるはずがない。余計なことをするから話がややこしくなっている。

これからどうすべきか頭を悩ませていると、コンコンと窓が叩かれた。

振り向くとなんというタイミングか、ユリセスがまたもや逆さまでぶら下がっていた。この前も思ったがなんの意味があるのか。

 とりあえず窓を開ける。部屋に入ってきたユリセスは、大きくため息をついた。手には島の甘味屋で売っているアイスキャンディーが二本あった。

「さっき普通に正面から訪ねたら、お前の親父に塩をぶつけられた。可愛い娘を愛人にするような男だから当然かねえ」

「それは……なんというか、ごめん」

 父の怒りにはそれ以外にも理由がある。オーガルおじさんによって七英雄の真の目論みが暴かれた。今やユリセスは、これまで以上に要注意人物なのだ。

「どうかしたの?」

「まずはこれ、土産だ」

 と、ユリセスは二本のアイスキャンディーを私に差し出した。

「葡萄味とレモン味、どっちにする?」

「レモン味がいいな」

「柑橘系が好みか」

「そういうわけじゃないよ。紫色が苦手なんだ」

「どういう理由だ」

 軽く笑ってからユリセスは本題に入った。

「いや、さっきお前の親父の親友が、島に帰ってきただろう。あのおっさんが元海賊で今でも幅広い人脈を持ってんのはわかってるんだ。何か仕入れてきたんじゃないのか?」

ユリセスは鋭かった。私は迷ったあげく、明かすことにした。どうせ私が黙っててもすぐにバレることだ。

「君たちの、本当の目的について」

 ユリセスの顔が呆けたようになり、やがてわしゃわしゃと頭をかいた。

「案外、早かったな。知られる前に全部終わらせる予定だったが」

「その様子だと事実みたいだね。君たちが光の聖女を復活させるために、この島にやってきたってのは」

ユリセスは頭が痛そうな顔をしていたが、大きく肩を落とした。

「道理でお前の親父から塩と殺気をぶつけられるわけだ」

「どうして最初から言ってくれなかったの? 事情を説明してくれたら手助けしたのに。何もプロポーズ大作戦なんかやらなくったって」

「そう簡単にこっちの事情をべらべら話せるか。まずは結婚で内部に入り込んで、それから徐々に、島の連中を懐柔していくつもりだったんだよ。目的のために」

私は立ちあがり、ユリセスを撲りつけた。

「ふざけるな! 私の身内をなんだと思ってる!」

 七英雄と光の聖女の境遇には同情するが、それとこれとは話が別だ。

 まだ主な被害がルランベリー一家が浮かれているだけだから良かった。これでうちの姉妹が七英雄のプロポーズを真に受けて、身も心も捧げていたら、私は彼らを絶対に許さなかった。

裏のある婚礼なんて、個人的にはもうたくさんだ。

「……悪かった」

 頬を腫れあがらせたユリセスの口からこぼれ出たのは、素直な謝罪の言葉だった。

「言い訳になるけどな。相手が少しでも嫌がったら、別の方法を取るつもりだった」

「私たちは思いっきり嫌がってた」

 あれが喜んでいるように見えたなら、七英雄は眼科に通院した方がいい。

「ニセ王女たちは乗り気だったじゃねえか。島にいる理由さえできれば、ニセモノだろうと本物だろうと関係なかった」

 だからユリセスは王女たちがニセモノとわかっていても、何も言わなかったのか。

「魔王。妙なお芝居は終わりだ。目的のモノを手に入れたら、明日の朝にでも島から出て行ってもらいたい」

「……わかった。ただし明日すぐってわけにはいかない。旧王宮の工事が終わるまでは」

「まだ結婚、諦めてないの?」 

もしかして本気でエメラルドを愛し始めたのだろうか。きっかけがどうであれ、当人同士の気持ちが本物なら、私が口を挟む問題じゃないのだが、旧王宮で婚礼を挙げる必要は何もない。前から思っていたが、七英雄は旧王宮になぜそこまでこだわるのか。

「アレはどうやら旧王宮の地下にあるみたいでな。ワイナモイネンの探知魔法で調べた。間違いねえ」

「アレ?」

「光の聖女を復活させるモノだ。……全部調べたんじゃなかったのか?」

「ただそういう手段があるって聞いただけだよ」

 少し前までの旧王宮はガレキで埋もれていて、とても探索どころじゃなかった。だから婚礼の会場にすると言い張って、工事の手を入れたわけか。

「旧王宮の地下に何があるの?」

「光神の水晶だ」

私はアイスキャンディーをくわえた状態できょとんとした。初耳だった。

「光神の水晶? 知らないなあ」

「だろうな。地元民にそれとなく探りを入れたが、誰一人聞いたことがなかった」

「……こんなこと言いたくないんだけど、大丈夫? 騙されてない?」

 七英雄が詐欺に遭うなんて情けなさすぎる。 

「騙されるとかそういう話じゃねえんだよ。手がかりは【聖話集】に載ってたんだ」

「何、その【聖話集】って」

「百年くらい前に編集された伝説集だ。その中にこんな話が載ってる。昔々、光神ユディスがエルディアの王妃と通じた。やがて光神は天界に帰ることになったが、去り際に愛しい女に自分の力を込めた宝石を渡したんだ。それが光神の水晶だ」

「エルディアというと……」

「光の聖女の故郷だ」

なるほど。実際エルディア王国には、天界から光神の血を引くとお墨つきを貰っている光の聖女が誕生しているのだから、たかが伝説といっても、そうデタラメでもないらしい。

「じゃあ、光神の水晶はエルディアにあるんじゃないの?」

「黙って聞けよ。しかしエルディアの王妃は困った。何しろれっきとした不倫の証拠だ。それで他国にいた姉に光神の水晶を預けた。ところが光神は姉の方にもひそかに手を出していてな。こちらにも子供がいた。嫉妬に駆られた姉は、生涯、光神の水晶を返さなかったらしい」

「…………」

光神の乱倫ぶりは今に始まったことじゃないので、スルーするとして、私は肝心の点について話を進めた。

「その姉の国ってのがまさか……」

「今のラブタイト島だ。お前たちは光神と姉の間に生まれた子供たちの子孫ってわけだ」

「!?」

これには度肝を抜かれた。ということは、光の聖女は我が家の遠い親戚になるのか。

「そこに至るまでが長かった。アテもなくさまよい続けて世界三周はしたな」

 よほど大変だったのか、ユリセスは虚ろな薄笑いを浮かべていた。

「魔王……苦労したんだね」

 ついほろりとなってしまった。

「どうってことねえさ。彼女を目覚めさせるためなら、俺たちはどんなことでもする。彼女あっての七英雄だからな」

迷いなく言い切るユリセスは、見せたことがない真摯な表情をしていた。

私は急に彼との間に隔たりを感じた。敬愛する主君のために、なりふり構わない作戦に出た七英雄。その行動理念はもはや私の理解を超えていた。

思えば私がいた頃の七英雄は、単なる戦闘集団にすぎなかった。しかし現世の七英雄は、光の聖女の忠実な騎士たちなのだ。それが良いとか悪いとか、今や外野の私がとやかく言うつもりはないが、一般人に迷惑をかけないでほしい。

ユリセスが帰って一人になると、私はしばらく考え込んでいた。

とりあえず、全て丸く収まりそうだった。七英雄は旧王宮の復旧工事が終わり次第、光神の水晶とやらを手に入れて、島から出ていくだろう。そうすればいつもの日々が帰ってくる。

 その夜、七英雄がニセ王女たちとの結婚を取り止めにして、光神の水晶を取ったら島から出て行く約束をしたと、父から家族に伝えられた。


 あれから私は七英雄と全く会わなくなった。別に私が一生懸命避けているからじゃなく、向こうが旧王宮に入り浸り、さっぱり姿を見せなくなったのだ。

そのため家族は私とユリセスが完全に別れたと考えたようで、さりげなく気遣ってくれた。その優しさが心苦しかった。

 旧王宮の工事が終わるのはまだまだ先だが、ガレキの除去はあらかた終わったらしく、すでに七英雄は本格的な調査を始めていた。

 騒動の元凶の七英雄の姿が見えなくなったことで、島には平穏が戻りつつあった。

ところがそこで最後の、最大級の爆弾が落とされた。

ある晩、家族で普通に夕食を取っていると、扉が叩かれた。夜に人が訪ねてくるのは家じゃそう珍しくもない。父の気のおけない友人たちが、酒を持って晩酌に誘いにくることが良くあった。

 だから特に不思議にも思わずに、私は扉を開けた。

「はーい」

開けた途端、私は硬直した。扉の前に七英雄が勢揃いしていた。

「え? な、なんですか?」

「邪魔させてもらう」

正面にいたガイアークがやんわりと私を押しのけて、勝手に家に上がり込んでいった。他の英雄たちもそれに続く。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

あわてて私は七英雄を追いかけた。すでに彼らは居間に到着していた。両親と姉妹たちが唖然として七英雄を見ていた。

「何か用か? 君たちを招いた覚えはない。帰れ」

父が野良犬を追い払うように手を振り、姉妹たちが不快そうに顔をしかめた。母だけは涼しげに紅茶に口をつけていた。たとえ天変地異が起きようとうちの母に乱れはない。

 ガイアークは大きく深呼吸して、父じゃなく姉妹を見た。

「今日伺ったのは他でもない。俺たちは、あなたがたに結婚を申し込みにきた」

母が紅茶をすする音がやけに鮮明に響いた。

「ふ、ふざけるな!」

 真っ先に復活したのはフレイヤ姉さんで、テーブルを撲りつけて立ちあがった。

「私たちはあんたたちと違って真面目に生きてるんだ。もううちの家族と関わるな!」

「失敬な。俺たちだって真面目に生きている」

 ガイアークが真剣に変な返答をした。

そこで母がおっとりと口を開いた。

「すごく唐突ね。きっと何か事情があるんでしょう? 話してごらんなさいな」

七英雄は少しの間、顔を見合わせていたが、やがてワイナモイネンが冷然と話し出した。

「旧王宮の地下に、結界が張られていることがわかったんですよ」

「結界?」

 さっぱり話が読めず、私は眉をひそめた。ワイナモイネンは私など視界に入らないかのように続けた。

「調べたところ血の結界だと判明しました。術者の一族以外は決して通さない強力な結界です。島の記録によれば、二百年ほど前、敵国が攻め込んできた時、当時の王が宮殿――つまり旧王宮の地下に秘宝を隠して、外からの侵入者が入れないようにしたんだそうです」

「それがどうかしたのかね」

 父が不機嫌そうに太い眉を吊りあげた。姉妹たちも『何が言いたいんだ』という目で七英雄を見ている。

「ですから、その秘宝こそ光神の水晶なんですよ。しかし血の結界を通り抜けられるのは、王家の人間――つまりあなたがただけです。同じ光神の血を引くエルディア王家の人間も可能ですが、すでにあの国は滅んで久しく、今となっては光の聖女が唯一の生き残りです」

これは私が知らない事実だった。エルディアは滅んでいたのか。

「ただし、私たちにも結界を無効化する方法がたった一つあります」

 ワイナモイネンが一瞬言葉を切り、極めて事務的に告げた。

「島の王女たちと婚姻を結べば、私たちも王家の一員として結界に認識されます。それゆえ、あなたたちに結婚を申し込みにきたわけです。――本物の王女たちに」

私と母以外の家族が揃って大きく息を呑んだ。そういえば皆に、私たちが本物の王女だと、とっくに七英雄が知っていることを話していなかった。いろいろあってすっかり忘れていた。

「私たちを謀ったことは、この際、水に流します。まあ結婚といっても形だけですからね。私たちだって、田舎育ちのイモ娘たちに妙な下心はありませんから」

なんでこの男はこういう、わざわざ事態を悪化させる言い方しかできないのか。

 案の定、フレイヤ姉さんに続いて、姉妹たちが怒気をみなぎらせ、すっくと椅子から離れた。

「冗談じゃないわ! 形だけでもあなたたちと夫婦になるなんて吐き気がするわよ」

ネイ姉さんがきっぱりとはねつけ、さらに言葉を重ねた。

「血の結界とやらが邪魔だっていうなら、私が取りに行ってあげるわ。私たち家族ならなんの問題もないわけでしょう」

まったくもってその通りである。なぜ七英雄は普通に『取ってきて』と私たちに頼まないのか。

「老朽した地下は危険です。結界から奥は当然、工事の手も入っていません。いつ崩れるかわからないうえ、どんな罠が張り巡らされているか、知れたものじゃありません。素人にはとても無理です」

 と、これがワイナモイネンの言い分だった。言っていることはわかるのだが……。

「だからって私たちと結婚するの? 頭がおかしいんじゃないの?」

 ずけずけと厳しい言葉を浴びせるネイ姉さんを、ワイナモイネンは見返し、揺るぎない口調でこう言った。

「全ては光の聖女のためです」

 ここにきて七英雄の主君への想いが、どれほど強固なものか私は思い知った。もう狂信的といっていい。見上げたものには違いないが、我が家を巻き込むとなれば話は別だ。

「だったら当初の予定通り、ルランベリー一家の娘たちと結婚すれば? 彼女たちだってうちの親戚だし、あんなに仲が良かったじゃないの」

 ジュディスが刺々しく代わりの案を出したが、ワイナモイネンは首を横に振った。

「同じ王家でも、傍系より直系の方が確実でしょう」

その言い方からして、彼が私たちを(ルランベリー一家の娘たちも含めて)光の聖女を復活させるための、貴重な道具としか見ていないことは明らかだった。

「じゃ、じゃあ私が取ってきます。その光神の水晶を」

 決死の思いで私は名乗りをあげた。ワイナモイネンが冷たい視線を注いできた。

「聞こえなかったんですか? 素人には任せられません」

「試しに行かせてください。もし取ってこれたら、あなたたちだって嫌な結婚をしなくて済むでしょ。仮に失敗したところで、私が犠牲になるだけですし」

「バカなことを言うんじゃありません。子供の出る幕じゃないんですよ」

ワイナモイネンに苦々しげに却下され、私は閉口した。しかも父にまで「お前は少し黙っていなさい」と注意された。

 いっそここで黒天使の正体を見せてやろうか。そうなれば平凡ライフは終わりだが、家族が七英雄に悩まされる心配はなくなる。

ぶつぶつと私が思い詰めていると、ワイナモイネンが「そういえば」と言った。

「あなたは悪趣味にもユリセスが好きなのでしょう。結婚できて嬉しくないんですか?」

また蒸し返すのかその話。私がうんざりしていると、ユリセスが会話に加わってきた。

「じゃあさ、俺とアリオちゃんだけ結婚するよー。旧王宮から光神の水晶を取ってくるだけなら、俺一人で十分でしょー?」

とんでもない発言に、一瞬、体が強張ったが、ユリセスが精一杯、譲歩してくれたのは理解できた。

 それなら我が家への被害は最小限に収まる。姉妹たちが好きでもない男たちと、形だけとはいえ、結婚する必要もなくなるのだ。

 ユリセスに嫁ぐことには、内心かなり複雑なものがあったが、姉妹たちが何も悪くないのにバツイチになるよりはずっといい。

「アリオちゃん。君はどう? 俺と結婚してくれる?」

 ユリセスが問いかけてきた。私は痺れたようになった舌を辛うじて動かした。

「よ、よろしくお願いします」

家族間になんとも形容し難いざわめきが走った。

「アリオ。まだユリセスさんのことを愛してるの? 彼の心はあなたにないのよ」

 フェリシティが私の肩をつかんで揺さぶってきた。私はもういちいち否定するのも面倒になり、多少おざなりに言った。

「わかってる。別にそれでも構わないよ。形だけだし」

「アリオ……」

 なぜかフェリシティはうるうると目を潤ませた。

「そこまで……。形だけでもいいから、ユリセスさんの妻になりたいと思ってるのね」

「ち、違うって」

 ますます酷くなる誤解に私はあわてたが、フェリシティは聞いちゃいなかった。

「いいのよ。隠さなくても。あなたの気持ちがそこまで深かったなんて……」

そっと目を伏せてフェリシティは決然と言った。

「アリオ一人、犠牲にはしないわ。私も結婚する」

「は?」

 青天の霹靂だった。

「わ、私は別に犠牲になんて……」

「双子でしょう。水臭いこと言わないで」

 これは水臭いという問題なのだろうか。

どうもフェリシティは、蛇蝎のごとく嫌っている七英雄に嫁ぐことで、私と痛みを分かち合おうとしてくれているらしい。ただ、そんな痛みなど存在しないのだ。しかも方法が明らかに間違っている。

「だ、ダメだって。お前まで巻き込むわけにはいかないよ」

「いいえ。もう決めたわ」

フェリシティはこうと決めたら絶対に折れない。私は頭を抱えた。

 だがそれだけじゃ終わらなかった。

「お前たちが嫁ぐなら、長女の私がぼんやりしているわけにはいかない」

 フレイヤ姉さんが表情を引き締めて、とんでもないことを言い出した。

「ね、姉さん、何言ってんの?」

「そうね。妹たちにばかり任せておけないわ」

 狼狽するしかない私を尻目に、ネイ姉さんまでも前へ進み出た。そのうえ妹たちまでもが素早く私の左右に並んだ。

「結婚するなんて想像もつかなかったけど、姉さんたちと一緒なら構わない」

ジュディスが神妙に言うと、エーメがどこか楽しげに笑った。

「全員揃ったら、わたしたちは無敵だよねっ。お姉ちゃんたち」

そして私の腕をつかんだパレアナが、空いている方の手で七英雄に指を突きつけた。

「どっからでもかかってこい!」

 ――間違っている。何かが盛大に間違っている。

プロポーズしてきた七英雄の方が呆然としていた。

「一体なんなんだ。この島は」

ギルフが以前もつぶやいた台詞をぼそりと口にした。



《挿話その四》


 恐ろしいあの夜から数年が経ちました。

父王亡き後、私たち姉妹は王国を親族に任せたものの、そのまま王宮にとどまり、そこに七英雄が、戦いの合間に通ってくるような形になっておりました。

外の世界では、人類と魔族の戦いが激化し、いよいよ魔王オデセアとの最終決戦が迫っているとの噂が広まっておりました。

私たちの夫の七英雄も、大半の時間を戦場で過ごすようになり、不安は増していくばかりでした。

そしてとうとう七英雄が、魔王オデセアの居城へ乗り込むことになりました。

 決戦前夜、久々に帰宅した七英雄は、束の間の安らかな一時を過ごしておりました。

私は夜更けまで、夫の持ち物に護符を縫いつけておりました。一刺し一刺し祈りを込めながら。

『まだ休まないのか』

 先に寝室にいっていたギルフが、部屋に入ってきました。

『ごめんなさい。もう少しで完成するから』

『あまり根を詰めるな。顔色が良くない』

『でも、私にはこれぐらいしかできないから……』

 すると、力強い腕で抱きしめられました。

『大丈夫だ。俺は必ず生きて帰る。魔王オデセアなどに殺されやしない』

答える代わりに、私はそっと夫の胸に頬を埋めました。

それから私は眠りにつきましたが、夜明け前、明日持たせる荷物をもう一度点検したくなり、ギルフの目を覚まさせないよう注意しながら、寝室を抜け出しました。

ところが廊下へ出ると、侍女たちが妙にざわついておりました。

『何かあったの?』

『ああ、姫様! いえ、アザキル様がエオリア様のもとへ……』

『なんですって?』

あの事件で罪人となった姉エオリアは、私たちの嘆願もあって死罪だけは免れたものの、心身を病み、王宮の片隅でひっそりと暮らしておりました。

――今さらアザキル様が姉に何の用だろう。

 アザキル様は元々、七英雄の中では一番私たちとは縁が薄く(おそらく私たちの顔と名前も覚えていないでしょう。エオリアは別として)、特にあの事件があってからは、めったに私たちの国に寄りつくこともなくなっておりました。

ギルフの話では、エオリアに裏切られてからのアザキル様は、戦場から戦場へと渡り歩く過酷な生活を送っているそうで、仲間ともろくに話さなくなったと聞いておりました。

胸騒ぎを覚えた私は、急いでエオリアのところへ向かいました。

エオリアの私室の前には、侍女たちが集まっておりました。私の姿に気づくと道を開けたので、そのまま進んでいくと、扉の向こうから声がしました。

『――エオリア』

アザキル様が姉に呼びかけておりました。息のような声で。

『明日、俺たちは魔王オデセアと最後の戦いに臨む。ひょっとしたら、もう帰ってこれないかもしれない』

アザキル様の不吉な言葉を嘲るかのように、低い笑い声が響きました。

『久々に顔を見せにきたかと思えば、何をバカげたことを。死なれるのは困る。貴殿を殺す機会が永久に失われるじゃないか』

『……そんなに俺が憎いか』

ぽつりとアザキル様がつぶやいたのも、半ば狂気に取り憑かれたエオリアには届いておりませんでした。

『忌々しい七英雄め! カリュフィサ様のお役に立てる好機だったのに! 毒の短剣を用意するよう、父に進言したのは私だ。もう少しで貴殿たちの息の根が止められたものを!』

 あの恐ろしい作戦の立案者は、父ではなくエオリアだった……。その事実に震えが走りました。

『俺たちに毒はほとんど効かない。それに女の手で刺された程度じゃ死ぬこともない』

アザキル様の言葉は衝撃的でした。ならば仮に私たちが父の命令に従っていても、七英雄が死ぬことはなかったのです。

『残念だったな。殺せなくて』

皮肉げにアザキル様が言うと、エオリアが甲高い声で叫び出しました。

『せいぜい勝ち誇っていろ。最後に勝つのは魔族だ。魔王の手にかかって滅びるがいい!』

呪わしい哄笑が廊下の隅々にまで響き渡りました。

 ――もう彼女は救えない。痛いほど思い知りました。

 心の中ではまだ希望を棄て切れずにいたのです。いつかまた、昔のように笑い合える日がくるのではないかと。

『そうか』

アザキル様の口調は、不思議なほど静かでした。

『なら俺は、二度とお前には会わない。生まれ変わった後も、ずっと』

やがて部屋からアザキル様が現れ、私に目を向けることなく去って行きました。

 開け放たれた扉の隙間から、エオリアの姿が見えました。

エオリアはこちらに背を向けていて、姉妹の誰とも違う紫の髪が、きらきらと月光に映えておりました。

エオリアはその珍しい紫の髪と瞳から、【紫の妖姫】の異名を持っておりました。

心ない人々が姉の容姿を気味悪がり、『魔物のようだ』と陰口を叩いていたことも知っておりました。その心の傷が、こうまでエオリアを歪ませてしまったのでしょうか。

私は目を背け、その場を後にしました。逃げるように。


魔王オデセアとの戦いに赴いたギルフたちが、無事に凱旋したのは、それから半年後のことでした。

 けれどもその中にアザキル様の姿はありませんでした。



《第五章 七英雄と七王女の婚礼》


 光陰矢のごとしで、あっという間に、七英雄と私たちの結婚当日になった。というか結婚が決まってから、私は完全に虚脱していて、その間の記憶があまりない。

 当日の朝、私たちは島の女の人たちによって、伝統的な花嫁衣装を着せられた。絹に金糸の刺繍が施された華やかな衣だ。頭や胸には装身具が飾られてずしりと重い。歩くたびに靴につけられた鈴が、ちりんちりんと音を鳴らす。

よくまあこんな動きにくい作りにしたものだ。

私は鏡に映った己の姿を、じっくり眺めてみる気にもならなかった。ちゃんと女子に変化しているとはいえ、自分の【女装】など鑑賞に耐えない。

姉妹たちは暗い顔つきながらも、婚礼の衣装について不満はないようだ。まあ彼女たちは本物の女性だし、しかもとびきりの美人揃いだ。美しい衣装も良く似合っている。

 彼女たちの隣じゃ、私はせいぜいバラの横のかすみ草か、ステーキのつけ合わせのパセリで、却って目立たずに済むから幸いだった。やっぱり花嫁衣装姿で人前に出ることには抵抗がある。

廊下に出ると、エメラルドと出くわした。

 彼女はルランベリー一家からの唯一の出席者だった。親戚づき合いの一環というより、私の猿芝居を見物しにきたらしい。

名前通りの翠玉色のロングドレスに身を包んだエメラルドは、うちの姉妹に勝るとも劣らないため息が出るような美しさで、私は圧倒されて後ずさった。

 エメラルドや姉妹たちのような美人なら、着飾り甲斐もあるだろうが、地味に生まれたいと願ったのは自分であり、ないものねだりしても仕方がない。

エメラルドは私の頭から爪の先まで眺め下ろし、「ふうん」と言った。

「【女装】も似合うのね」

「やめてよ」

そこに触れてくれるなと私が顔をしかめると、不意にエメラルドが手を伸ばしてきて、首飾りの位置を直してくれた。

「ほら、きちんとしなさい。私から男を取ったんだから」

「また悪意ある表現を……」

「冗談よ。その辺の事情は承知してるってば。うちの家族は、いまだにあんたたちを恨んでるけどね」

そうなのだ。ルランベリー一家は玉の輿の夢が破れ去った後、毎日、私たちに呪いをかけているのだという。ジャックが恐ろしげに報告してくれた。

「まあ、頑張ってきなさい。大いに面白がってあげるから」

 エメラルドからの激励(多分)を受けた後、私は姉妹共々、防衛団の若い人たちが担ぐ輿に乗せられて、裏山にある旧王宮へ向かった。

 大勢の島の人たちが通りに立って神妙に見守っていた。どことなく葬列を見送るような雰囲気である。

 七英雄と私たちの結婚の経緯について、もう島で知らない者はおらず、大半の人たちは私たちに同情していた。涙ながらに拝む老婆までいた。生け贄じゃないんだから。いや、近いものはあるが。

やがて輿は旧王宮に到着した。野次馬たちも後ろから、ぞろぞろとついてきた。

 直されたばかりの旧王宮の聖堂は、どこもかしこも真新しく光り輝いていた。割れていた全ての窓にステンドグラスがはめこまれ、大理石の床に七色の影を落としている。

 あの廃墟がここまで復元するなんて、金の力は偉大だ。

奥の祭壇の前には七英雄が待っていた。

七英雄の方は昔の島の王族の礼装になっていた。きらびやかな儀礼用の甲冑に、重そうなマント。額には金の輪をはめて、腰には剣を帯びている。

 一分の隙もなく着飾った七英雄は、堂々たる若武者ぶりだった。WE ARE 七英雄という感じである。

 姉妹たちがハッと息を呑むのが聞こえた。解説するのもなんだが、見とれてしまったらしい。気まずそうに赤面していた。私は見なかったことにした。

 異様な緊張感がみなぎる雰囲気の中、私たちはそれぞれの婚約者の前に立った。

 フレイヤ姉さんとガイアーク。

 ネイ姉さんとワイナモイネン。

 フェリシティとギルフ。

 パレアナとマイラ。

 ジュディスとセルウェン。

 エーメとアドラン。

 なぜかよりによって一番因縁ある者同士がカップルになった。私とユリセス以外は無難にくじ引きで決めたのだが、ここまでくると不幸に取り憑かれているとしか思えない。

 私の正面には当然、ユリセスがいた。

ユリセスの重厚な甲冑姿は、なかなかさまになっていた。さまになるどころの騒ぎではない。軽薄な印象が一掃されて、生来の気品と威厳がほとばしるようだ。

思えばこの男は、前世で邪悪そうな甲冑ばかり着ていた。似合わないはずがないのだ。

 ユリセスは私を見るやいなや、「ぐふっ」と露骨に笑いを堪えた。明らかに面白がっている。腹の立つ男だ。

しかし七組の新郎新婦が向かい合ったものの、式を執り行う肝心の神官がまだ到着していなかった。

 この島の神官はガウェインじいさんただ一人である。御年八十歳で、すでに足腰も頭も弱っているが、本人はこの婚礼を挙げるといって聞かなかった。

 周囲がざわつく中、当事者たちは待ちくたびれていた。私も婚礼の衣装の重さと締めつけが身に堪えて、早くも疲れ切っていた。

 そして予定より二十分ほど遅れて、やっとガウェインじいさんが聖堂に現れた。

どうやらじいさん、昨晩、大仕事を任された喜びのあまり、酒を飲み過ぎたらしい。黄色くなった顔色からそうだと察せられた。

 ふと、出席者たちのひそひそ声が耳に入ってきた。

「式を執り行う神官が遅れるなんて、縁起でもないな」

「全くだ。何事も起きなければいいが……」

 聞いていた私は不安に駆られた。

バカな。ガウェインじいさんが酔っ払って遅刻したくらいで、なんだと言うんだ。大体、この婚礼自体が壮大な災難なのに。

やがて半分死んでいるようなガウェインじいさんによって、神妙に婚礼の儀式が初められた。

「これより光神ユディスの御名のもと、七組の新たな絆を祝福する……おえっ!」

 大丈夫か。

 私が固唾を呑んで見つめる前で、ガウェインじいさんはゾンビのようになりながらも、式自体はどうにか滞りなく進めていった。

「それではお互いの生命を分けよ」

 言葉だけ聞けば意味がわからないが、なんのことはない。指を針で突いて血を出し、ワインが注がれた杯に注いで、相手と交換して飲み干す。お互いの血を体に入れることで、二人の絆はより堅固なものになる、という考え方らしい。血のつながりが今より重要視された昔なら、もっと深遠な意味があっただろう。

なんにせよこれで私たちは、七英雄と正式な夫婦になった。そして同時に私の役割はほぼ終わった。


婚礼の後、七英雄は着替える間も惜しいというように、光神の水晶を取りに地下へ潜っていった。

私は花嫁衣装が脱ぎたくて仕方がなかったのだが、この騒動の終幕を見届けておこうと、家族と旧王宮に残っていた。

 七英雄は十分もかからずに光神の水晶を持ち帰った。

 遠目から見たところ、光神の水晶はこぶし大の水晶球だった。澄み切った夜の満月のように、淡々と光り輝いている。

秘宝を手にした七英雄は、前もって運び込んであった光の聖女の棺を囲んで、ゆっくりとその蓋を持ち上げた。

初めて目にする光の聖女は、私と同年代の若い娘だった。太陽の光を集めたような波打つ金髪、真っ白な肌、華奢ながら官能的な線を描く肢体……。これまた絶世の美女だ。うちの一族(光神の血統)には、美形が生まれやすいのだろうか。いや、私は除いて。

 光の聖女の額には、煌々と輝く金の星があった。光神の一族でもとりわけ神の力を強く受け継いだ証だ。

 皆が息を殺す中、七英雄が光の聖女の上に、光神の水晶を置いた。光神の水晶はぱっと一瞬、強く光ったかと思うと、音もなく光の聖女の中に吸い込まれていった。

 しばらくして、眠っていた光の聖女が、ぼんやりとまぶたを開けた。

「ここは……?」

「姫っ!」

七英雄が弾かれたように集まった。光の聖女と七英雄の絆の強さが表れているようで、なんとも感動的だった。

 ハッピーエンドの締めくくりのような情景の中、七英雄からおおまかな事情を聞いた光の聖女は、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「そうであったか。世話になったな。七英雄よ」

 優美な唇が弧を描く。そして、

「寂しい思いをさせたな。これからも玩具として可愛がってやる。気が向いたらわらわの肌を舐めさせてやろう」

 その場にいた全員が耳を疑った。

なんとまあ、光の聖女と七英雄は爛れた関係だったのかと私は呆れたが、七英雄の方を見れば、恐怖に近い表情で凍りついていた。彼らにしても光の聖女の台詞は予想外だったのか。

 どういうことだろう。目覚めて性格が豹変した? そんな事例ってあるだろうか。

「なんだその顔は。そなたらはわらわの物であろう。永遠に」

 美しい光の聖女の顔が、毒々しい邪気で歪んだ。

「従えぬというなら、従わせるまでよ」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、呆然としていた七英雄が、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。再び立ちあがった時には、彼らは仮面のような無表情になっていた。

「七英雄。わらわに口付けよ」

光の聖女が傲慢な表情で手を差し出すと、七英雄が一人ずつ歩み寄り、ひざまずいてその手の甲に接吻した。

 理性の欠片も見受けられない顔で。魂をなくした虚ろな目をして。

 七英雄は操られた。

 私たちが見ている目の前で。


今夜は皮肉なまでに美しい月夜だった。

 家には島の主立った人々が集まった。七英雄が到来した最初の晩のように。ただしハンスおじさんは不在で、代わりというべきか娘のエメラルドが参加していた。

 当初の予定では光の聖女が復活した後で、一応お祝いの宴が島総出で開かれるはずだったが、今となってはとてもそんな雰囲気じゃない。

「ねえ、あなた。これからどうするの?」

 母が珍しく深刻な面持ちで、父の顔をのぞき込んだ。

「うむ……。とりあえず七英雄の目的は達せられた。明日にも彼らは光の聖女と島を出て行くだろうが……」

光の聖女と七英雄はいまだ旧王宮にいる。

 あそこは七英雄の金に糸目をつけない復旧工事のおかげで、豪華な寝室と入浴施設も完備されている(七英雄がいなくなった後は、やり手のルランベリー一家のおばさんが、ホテルとして再利用する気でいるらしい)。

さらに、今夜の宴で出す予定だったご馳走も、そのまま厨房に残っているので、彼らが町へ降りてくる可能性はごく低い。

明日の朝には、彼らは今や用無しとなった島を出て行くだろう。そうなれば平穏が戻ってくる。七英雄が現れる以前の生活が帰ってくる。

 しかし島の人々の表情は晴れなかった。

「あの女、本当に光の聖女なのか? あれじゃ魔女じゃないか」

 フレイヤ姉さんが怒りを込めてテーブルを叩いた。するとロウェン婆さんが、極めて低い声で話し出した。

「七英雄がきた晩にわしが言ったことを覚えておるか。『毒に染まった人間は、自分を特別な【神のごとき存在】だと思い込み、どんな残酷なことでも平気でやってのける』……」

父がなんとも言えない顔つきでロウェン婆さんを見返した。

「あの娘がその一例だというのか」

「最悪の例であろうな。あの娘は七英雄を操って木偶人形へと変えた。自分を救ってくれた者たちをだ。まともな神経ではない」

確かにユニークな発言を連発していた。世の中にはああいう女王様タイプが好きだという男性もいるが、操られる寸前の七英雄の反応からして、彼らが喜んで自我を失ったとは考えにくい。

だからこそ皆、苦悩している。七英雄をこのまま見殺しにしていいのかと。

 したって別に世間から文句は言われないと思うのだが(彼らの主君がやったことだし)、島の人々は目の前で知人を洗脳されて、あっさり『はい。そうですか』で終わらせるような非人情な性格じゃなかった。もちろん私の姉妹たちも含めて。

「だがよ、俺は光の聖女についてはいろいろ調べたが、特に悪い噂は聞かなかったぜ。真面目で一生懸命な娘で、七英雄から慕われていたって話だったが」

いまいち納得できない感じで、オーガルおじさんが言った。

「何、寝惚けたこと言ってるのよ。おじさん。光の聖女が何をしたか見たでしょう」

 ネイ姉さんが食ってかかると、オーガルおじさんは反論できずに口ごもった。

「姉さんの言う通りよ」

 パレアナが真面目な顔つきで力説した。

「あれじゃさすがにかわいそうだって。大体あいつら、まだあたしたちの夫でしょ。他の女に奪われたままじゃ、さすがに気分が悪いっての!」

 その隣でジュディスが考え深げに述べた。

「隙を見て七英雄に無効化魔法をかけてみるとか……。普通の魅了ならそれで治るわ」

 しかしジュディスの医者の卵としての意見は、渋面のロウェン婆さんに却下された。

「光の聖女の魔術は桁違いに強力じゃ。人間の魔法は通用せん」

「なら、どうしたらいいの?」

 エーメが率直にロウェン婆さんにたずねた。

「方法は二つある」

 ロウェン婆さんが場が引き締まるような声を発した。

「一つは光の聖女自身が術を解くこと。もう一つは、光の聖女を殺すことじゃ」

殺すという響きの重さに、全員が静まり返った。

「――なら、私がやる」

 フレイヤ姉さんが決意をみなぎらせて名乗り出た。

「フレイヤ。何を言ってるかわかっているのか!」

 父が顔色を変えたが、フレイヤ姉さんは毅然と返した。

「パレアナも言った通り、彼らはまだ私たちの夫だ。夫を奪われて黙っているわけにはいかない。この手で――光の聖女を殺す」

「姉さん一人、手を汚すっていうの? それなら私が……」

 ネイ姉さんが声を張り上げたが、フレイヤ姉さんが怒鳴りつけた。

「お前は黙ってろ。これは姉の私の役目だ」

「何よ。二つしか違わないのに!」

 姉二人があわや喧嘩になりかけ、さらに妹たちまでもが「だったら私も」と手を挙げ出して収拾がつかなくなった。そこにオーガルおじさんがため息混じりに割って入った。

「いい加減にしろ。女子供が出る幕じゃねえ。俺がケリをつける。こういう仕事はお手のものだ」

だがロウェン婆さんはゆらりと首を横に振った。

「お前たちでは無理だ。忘れたのか。敵は光神の血を引く聖女なのだぞ。その力の凄まじさは魔王を上回る。そのうえ洗脳された七英雄までいる。勝てるとすれば、あの七英雄と互角――いや、それ以上の力を持った英雄だけじゃ。そんな奴はこの世にはおらん」

ロウェン婆さんの言葉で、みんなが押し黙った。

「……諦めるしかないの?」

フェリシティが膝の上で拳を握り締めた。その手の甲にぽたりと涙が落ちた。

「ち、違うの。これは……。あはは、変ね……。あんな人どうなってもいいのに……」

 あわててフェリシティは頬を拭ったが、その指もまた新しい涙で濡れた。

私は力なくまぶたを閉じた。


話し合いは依然として続いている。

 その間に私は裏口から外へ出た。銀色の月光が鮮やかに庭に降り注いでいる。

「――アリオ」

振り向くと、エメラルドが佇んでいた。

「行く気なの?」

 私は目を見張った。なぜ彼女はこうも鋭いのだろう。

 そのまま黙っていると、エメラルドは忌々しげに言った。

「放っておけばいいじゃない。あんたの望みは平凡に生きることでしょ。今、目立つことをすれば、一気に正体が露見する恐れもあるのよ」

「わかってる」

そもそも私が出る幕じゃないのだ。

 何度も言うように今の私はあくまで一般人。七英雄の危機は、彼らと同じく天に選ばれた現代の英雄が片づけるべき問題だろう。

けれど、そこらの英雄物語と違って、王女たちの涙を止めるべき超英雄が、満を持しているのにいまだ登場しない。多分、待っていても現れない。

だから、とっくに英雄を辞めた私なんかが、もぞもぞ動く羽目になっている。

「全て人手不足が悪いんだ」

「なんの話よ」

「こっちの話さ」

 こちらを見つめる翠玉の瞳の前で、私は変化を解いた。

 烈しい熱が体中を駆け巡り、爆発的に膨張した。

 闇よりも黒い六枚羽が背中で翻る。体つきが一回り大きくなり、髪の毛は老人のように白くなり、黒い瞳は青光りする人外の眼になり、服装も今の体型に合わせた黒の戦闘服に変わる。

服は魔術で変化させたのだが、この過程はとても重要である。女の服のままで元の姿に戻ろうものなら、非常に不格好なことになるし、最悪、服が破ける。夜とはいえ地元を裸で飛び回るのは辛いどころの話ではない。

「……あんたの本当の姿を見るのは久しぶりね」

感慨深げにエメラルドはつぶやき、私の頬に手を当てて、輪郭をなぞりあげた。

「必ず無事に帰ってくるのよ。あんたがいない間、なんとかごまかしてあげるから」

「助かるよ」

 こっそり離陸できる場所を求めて庭から出ようとした時、裏木戸に翼が引っかかって、思わず「うぐっ!」と変な声を出してしまい焦ったが、家から誰も様子を見にこなかったのでほっとした。だがエメラルドに思い切りため息をつかれた。


久しぶりに私は空を飛んでいった。眩しいばかりの月夜なので、できるだけ物陰に隠れながらこそこそと。どうも格好がつかない。私らしいといえばそれまでだが。

 やがて私は旧王宮に到着した。

門を通り抜けて、気配を消して中庭に降り立ち、そこからは徒歩で進むことにした。

 午前中に、他ならぬ自分の婚礼でここにきたので、大体の仕組みはわかっている。

回廊を進んでいくと、前方に復元された玉座の間が見えてきた。

 黄金の玉座に一人の女がふんぞり返って腰かけている。その側には七英雄が控えていた。相変わらず気味が悪いような無表情で、私が現れても反応一つしない。恐ろしく陰気なホストクラブのようである。

「ん? 誰じゃ。そなたは」

 玉座の光の聖女がぎらりと目を光らせた。

「誰でもいいだろう。あんたの敵だとわかれば」

それ以上、語る気はなかった。

「わらわに挑むというのか」

たちまち光の聖女が虫けらを見るような目つきになった。

「わらわは天界の重鎮、光神ユディスの末裔ぞ。わらわに刃向かうは、天界に刃向かうも同じこと。生きながら地獄へ堕ちたいのか」

 そういえば私も光神の血族だった。しかし光の聖女と親戚同士だと認めたくなくて、結局、黙っていた。そんな私を臆したと判断したのか、光の聖女がせせら笑う。

「どこから迷い込んだか知らんが、己の愚かさを悔やみながら死ぬがいい! 七英雄よ。このふざけたカラスを始末せよ!」

ふざけたカラス呼ばわりされた私に、操られた七英雄が一斉に襲いかかってきた。

 私は天井へと駆け上がり、四方八方から浴びせられる剣やら斧やら魔法やらをかわしつつ、隙を見て元仲間たちに一撃を食らわし、また間合いの外へ逃げるという、卑怯極まりないヒットアンドアウェイ戦法をとった。

何しろ七対一のうえ、殺してはならない制約がある。かなり情けないが、これしか方法がない。

しかし二十分後には、どうにか六人まで戦闘不能に追い込むことができた。

 残る一人はユリセスだった。金の眼を猛々しくぎらつかせて、獣そのものの形相になっていた。

「がああああっ!」

 突然、ユリセスが咆哮をあげ、ぶるぶるとその身を震わせた。みるみるその体が巨大化して、深紅の剛毛に覆われた二足歩行の獣と化した。

 獣人としての本性を露わにしたユリセスが、赤い竜巻になって襲いかかってきた。

私が大きく横へ飛ぶと、代わりに攻撃を受けた大理石の柱が、簡単にへし折られて凄まじい音を立てて倒れた。

 まずい。勝負を長引かせれば、せっかく建て直した旧王宮が崩壊する。そうなれば光の聖女と七英雄と一緒に心中だ。そんな結末、誰も喜ばない。

一撃一撃が死に直結するユリセスの猛攻を、私は右へ左へと避けつつ反撃の機会を狙っていたのだが、全く隙がない。

 敵に回せば実に厄介な男だと、今さらながら私は思い出した。

「ええいっ! 何をしておる! ユリセス! そんなカラスなどさっさと叩き潰してしまえっ!」

光の聖女が苛立ったように怒鳴った。顔色が先ほどより明らかに悪くなっている。

「なんじゃ七英雄め! そんなカラスふぜいに易々と六人までやられおって!」

なるほど。私の予想外の(卑劣な)健闘ぶりに、焦りを覚えたものらしい。どうやら光の聖女は能力こそ高いが、実戦経験はごく浅いようだ。

私はユリセスを見返した。この手だけは使いたくなかったが、背に腹は替えられない。

「あっ! 全裸の美女が歩いてる!」

たちまちユリセスが、さっと私が指さした方角を凝視した。私は落ち着いて彼の急所を蹴りあげた。

「ぐはああっ!」

股間を押さえてユリセスが悶絶する。激しく良心が痛むが、これで七英雄は片づけた。

ゆらりと私が近づいていくと、光の聖女は玉座から転がり落ちた。

「よ、よるな! カラスの化け物が!」

その時、私は見た。光の聖女の後ろで揺らめく、黒い影のような妖気を。

「あんた……光の聖女じゃないな? 魔物か」 

 いやしくも神の血を引く聖女が妖気など漂わせるはずがない。

光の聖女の姿をした【何か】は、顔色を変えたが、憎々しげに言い放った。

「いかにも。わらわは――わしは魔王エリゴール。三年前、この娘に傷を負わせたその時に、肉体を乗っ取ってやった。それから七英雄がこの娘を蘇らせる日を、今か今かと待っておったのじゃ!」

 ということは、今までの聖女の悪行は全て、魔王エリゴールの仕業だったのか。なんとまあ。

「ふざけるな。さっさと聖女から出て行け」

「それはできんな。この体は素晴らしい。七英雄すらもはや敵ではない。それどころか下僕としてこき使える」

借り物の肉体でエリゴールが高笑いする。

 さて困った。こうなると光の聖女に直接攻撃することはためらわれる。神官セルウェンとかが得意とする神聖魔法なら、取り憑いている魔物だけを浄化できるが、私にそんな芸当は無理だ。

 思案を巡らせる私の視界に、玉座の裏に隠されていた四角い空洞が映った。地下への入り口だ。上に島の古代文字が刻まれている。

〝光神の一族以外の者がここに踏み入ること、まかりならぬ〟

私はハッと閃いた。

「このままいけば、地上制圧も夢ではない。続いて魔界、さらに天界をも手中に収めてみせよう。わしは三界の王者になるのだ!」

寝言をほざいているエリゴールに、私は勢いよく飛びかかり、そのまま結界の中へ飛び込んでいった。たちまち迷宮の入り口に張られた結界が、青白く発光する。

「ぎゃあああっ!」

迷宮に張られた結界がエリゴールを弾いた。だが光神の血を引く光の聖女の肉体は、傷一つ受けない。そこに何もないかのように、ふらりと倒れ込んできた。

 私が強く光の聖女を引っ張ると、エリゴールのみが結界の外に取り残された。

 エリゴールの正体は漆黒の影だった。七英雄にすでに本体を倒されて、精神だけになった哀れな成れの果て。

「こ、このカラスめっ……!」

エリゴールは悲痛な声をあげたが、同情してやる義理などない。全くない。思い返せばこの度の大騒動の元凶中の元凶はこいつである。

「いいようにやってくれたな」

 私は光の聖女を結界の中へ残し、手から白く輝く閃光の槍を生み出した。そして、ありったけの恨みを込めて、一気にエリゴールの中心を刺し貫いた。

「ぐ……ぐああああああっ!」

 呪わしい悲鳴をあげて、エリゴールは砕け散った。

「……終わった」

エリゴールの最期を見届けて、私は閃光の槍を消した。光の聖女がうめき声を漏らしたのは、その直後だった。

「ここは……」

 ゆらりと体を起こした光の聖女が、私に気づいて藍色の目を丸くした。魔性の毒気が消えたその顔は、案外幼く見えた。

「そ、そなたは誰じゃ?」

 黒い翼が生えた不審な男が目の前にいれば、そりゃあ驚くに決まっている。

「ご安心を。敵じゃありません。あなたが寝ていた間に、いろいろと大変なことがあったんです」

 私が今までの出来事を話すと、光の聖女は衝撃を受けたようだった。

「わらわの体にエリゴールが? それで七英雄はどうなったのじゃ?」

「あっちで気絶してます。ただエリゴールの術で操られた状態なんです。正気に戻してあげてくれませんか?」

「もちろんじゃ」

光の聖女が掌をかざすと、柔らかい金色の光の雨が、倒れている七英雄に優しく降り注いだ。

これで七英雄の洗脳は解けたはずだ。

「ああ良かった。じゃあ私はこれで」

この姿を七英雄に見られたら、いろいろと後が面倒だ。そそくさと私が立ち去ろうとすると、光の聖女が結界から出てきて、強く私の腕をつかんだ。

「待ってほしい。そなたの名は?」

「名前ですか? ……アザキルです」

アリオと名乗れば、要らぬ疑いを招きそうだったので、あえて前世の名を使った。

「アザキル様」

 光の聖女の宝石のような瞳が、百万の星を宿したようにきらきら輝き出した。心なしか頬にも赤味が差しているように見える。

「わらわはセレスティアじゃ。セレスで構わぬ」

「はあ」

「そなたが、エリゴールからわらわを解放してくれたんじゃな」

「まあ一応」

 早く去りたくて私はそわそわしていた。しかし光の聖女が解放してくれない。

「ぜひお礼がしたい。天界にもそなたの功績を伝えよう」

「あっ、いえ、お構いなく」

「なんと謙虚な方じゃ。だがそれではわらわの気が済まん」

「いや、ですから……」

 本来の光の聖女は、良い子らしいが強引だった。

押し問答を繰り返していたそこに、復活した七英雄が「姫ーっ」と走り寄ってくるのが見えた。

 全身を強張らせる私に、七人の驚愕の視線が突き刺さってくる。特にユリセスはあんぐりと口を開けていた。彼は変身で服が破けてすっぽんぽんになっていたので、そこに立てかけてあった宗教画で前を隠していた。どうでもいいけど罰が当たるぞ。

「なんだお前は! 怪しい奴め! 姫から離れろ!」

 ガイアークがにわかに殺気立ち、他の連中が一斉に武器を構えた。ユリセスは腕が塞がっているために後ろに控えていたが、唇の動きだけで言葉を伝えてきた。

『何やってんだ?』

 今の彼だけには言われたくなかった。

「よさんか! この方に指一本でも触れてはならぬ!」

 光の聖女が一喝している隙に、私は翼を広げて旧王宮を出ていった。


こうして七英雄の来訪から始まった大騒動は幕を下ろした。

 エリゴールが消え去った夜のうちに、光の聖女と七英雄は町へ下りて、狼狽える島の人たちに事情を説明した。

 全てを知った島の人たちは、大いに喜んだが、ただ、彼らが目撃したという黒い翼の変な男については、不思議そうに首を傾げるばかりだった。まあ、それはいい。

次の日、光の聖女が復活したお祝いが、改めて旧王宮で催された。

その宴の席で七英雄は、光の聖女にべったりくっついていた。

 彼らは一様に包帯と絆創膏まみれで、ほぼ無傷なのはユリセス一人だった。言うまでもなく私のせいである。

「姫っ。ああ良かった! あなたが今こうして目を覚ましているだけで夢のようだ!」

と、ガイアークがでかい図体を震わせて感涙にむせび泣けば、隣のワイナモイネンが光の聖女のスープを一口飲み、眉をひそめた。

「このスープ、少し味が濃いですね。姫の口に合うとは思えません。取り替えてもらいましょう」

 さらに後ろでギルフが睨みを利かせながら言う。

「安心して食事してくれ。怪しい者が近づいたら俺が斬り捨てる」

 かと思えばマイラが、まめまめしく光の聖女の皿に料理を盛った。

「ねえ、姫。肉と魚、どっちがいい? アタシが取るわ」

 するとアドランが負けじと手を挙げた。

「じゃあ僕が食べさせてあげる。はい。あーんして。姫」

「お前さんがた、いい加減にしろ。姫が疲れるだろうが」

 と、セルウェンが仲間たちをたしなめた。

「姫ーっ、復活した記念に俺と熱ーい一夜を……ふぐええっ!」

 光の聖女に飛びかかろうとして、仲間たちから撲り倒され、ギルフに斬り殺されそうになった男については、名をあげるまでもあるまい。

居並ぶ島民を絶句させた七英雄の過保護ぶりだった。本当に正気に戻ったのか疑わしいレベルである。

「やめんか。食事ぐらい一人でできる」

 過保護を受けている当事者の光の聖女は、気まずそうに顔をしかめていた。だが特に戸惑っている様子はない。おそらくいつもこうだったのだろう。

一方、私たち家族のテーブルは、ひどく重苦しい沈黙に包まれていた。島の人々の同情と恐れの視線が痛い。そしてまだ夏なのに真冬のように寒い。

姉妹たちは完全な無表情で黙々と食事していた。世の中には憤怒の形相より恐ろしい表情があるのだと思い知った。父は私とほとんど同じ顔になっていた。普段通りにしているのは母だけであった。

結婚しているといっても(いろいろ忙しかったので離婚の手続きはまだしてない)形だけなのだから、私たちがヤキモチを妬く必要は何もないのだが、姉妹たちは明らかに面白くなさそうにしている。女心は複雑だ。

 ところがその時、光の聖女がおもむろに立ちあがって、まっすぐに私たちのテーブルに近づいてきた。七英雄もためらいを見せたが主君に従った。

何事かと身構えていると、光の聖女が神妙に頭を下げてきた。

「このたびは大変ご迷惑をおかけした。全てあなたがたのおかげじゃ」

「いえいえ、とんでもない」

 父が異様にぎこちなく応じた。姉妹たちは複雑そうに光の聖女を横目で見ている。その眼差しをどう解釈したのか、光の聖女が赤面してうつむいた。

「その、わらわと七英雄は本当になんでもないんじゃ。彼らはわらわにとって親戚のようなもので、決して男として見たことはない」

光の聖女に気を遣わせてしまった。姉妹たちが気にしてるかもしれないと心配したのだろう。確かにそう受け取られても仕方がない姉妹たちの態度だった。

「別にいいんですよ。私たちは協力しただけですから。明日にも離縁を申し出るつもりでいます」

 フェリシティが愛想はいいが、やけに凄味のある笑顔で返した。昨夜、泣いていた娘と同一人物とは思えない。あの涙はまさか嬉し泣きだったのか。

「というわけでセレスティアさん。私たちに気を遣わなくて結構です。どうぞ七英雄と仲良くしてくださいな」

光の聖女は困惑していたが、やがて口を開いた。

「仲良くも何も、わらわにはちゃんと好きな男がおる。七英雄ではないのじゃ」

 意外な台詞が出てきて、私たちは一斉にきょとんとした。

「ひ、姫っ! いつの間にそんな……!」

 ガイアークが、愛娘に彼氏ができた父親のように叫んだ。だが光の聖女はそちらには見向きもせず、決然と宣言した。

「わらわが愛する人はただ一人、アザキル様だけじゃ」

 もろに奇襲を食らった私は、思わず持っていた杯を落とした。銅製のもので良かった。身を屈めて拾おうとすると、ルランベリー一家のテーブルにいるエメラルドが、物凄い目でこちらを睨んでいるのに気づいた。なぜか汗が止まらなくなった。

「それって、あなたたちを助けたっていう人のこと?」

 毒気を抜かれてネイ姉さんが問うと、光の聖女は頬を染めてうなずいた。

「あんなステキな方は他にいない。お姿も神秘的じゃった。眩しい純白の髪、凛々しくも麗しい面立ち、星のように光る青い眼、そして異国の神を思わせる大きな漆黒の翼……」

 ……私が言うのもなんだが、光の聖女ってあまり趣味が良くないんじゃ……。

それとも日頃、ギルフやワイナモイネンといった一級の美形を見慣れているから、美意識がぶっ飛んでしまったんだろうか。

「姫、一体どうしたんですか。あのカラス人間に妙な術でもかけられたんですか?」

ワイナモイネンが顔色を変えて光の聖女に迫った。カラス人間……。

「カラス人間とは誰のことじゃ。あの方こそ英雄の中の英雄じゃぞ。一晩でそこらの英雄が一生かかっても成し遂げられない偉業を達成して、しかもその手柄を誇ることなく、謙虚に立ち去った。簡単にできることではない」

 うっとりと光の聖女は瞳を潤ませた。

 いろいろと大きな誤解がある。私がすぐに立ち去りたがっていたのは、面倒事を嫌ったからで、謙虚とかそういう問題じゃないのだ。しかしどう訂正していいか見当がつかない。

「でも姫。あいつがアタシたちの恩人だっていう証拠は何もないのよ。姫に話したこともデタラメかもしれないじゃない」

マイラが疑わしげに意見を述べたが、(私にとって)残念なことに光の聖女は耳を貸さなかった。

「デタラメなものか。あの方の目を見れば、悪人かそうでないかぐらいわかる。そのうえまとう気迫がただ者ではなかった。一人でそなたら七英雄を蹴散らし、わらわに取り憑いた魔王を倒したというのも納得がいく」

七英雄が、大いに誇りを傷つけられた様子で下を向いた。

 私は何か言わねばとあわてた。蹴散らしたなんて大げさだ。私の戦法は卑劣極まりなかったし、そもそも七英雄が正気だったら勝ち目はなかった。操られて戦い方が単純化していたから、どうにかなんとかなったのである。

「ああ、愛しいアザキル殿。今、どこでどうしておられるのか……」

 夢見るように光の聖女が吐息を漏らして、いっそう七英雄のテンションを下落させた。

石像のようになった私の背中を誰かが突いた。振り返るとエメラルドが、険しい面相をして立っていた。彼女は私の腕を引っ張り、問答無用で会場の外まで引きずっていった。

 幸いというべきか、全員が光の聖女の衝撃発言に気を取られていたので、目にとめるものもいなかった。

公会堂の庭に出ると、エメラルドはようやく放してくれた。今夜も良く晴れていて、澄んだ月がくっくりと浮かんでいる。

「エメ……」

 言いかけたところで、怖い顔をしたエメラルドに額を弾かれた。

「あ痛っ」

「いつの間に光の聖女を口説いたのよ。油断も隙もないわね」

「口説いてない! 本当に! 天に誓って!」

「……まあ、あんたはそんな器じゃないか」

 ふとエメラルドが面を伏せた。

「あのね、私、島を出ることにしたの」

「えっ?」

寝耳に水だった。仰天する私に、エメラルドがすっきりした微笑を向ける。

「今回のことで、家族の言いなりになるのはうんざりしたのよ。これからどう生きるかは自分で決める。私の人生なんだから」

「あ、うん。それはいいことだと思うよ」

心から同意すると、エメラルドは独りごちるように、ぽつりと言葉をこぼした。

「報われない想いにも、そろそろ決着をつけたいしね」

「え? エメラルド。誰か好きな人がいたの?」

びっくりして問いかけたが、思い切り無視された。代わりにエメラルドは言った。

「ねえ、アリオ」

「ん?」

「一度だけ、黒天使になって」

「は? どうして?」

「いいから」

訳がわからないまま、私は変化を解いた。すると白い腕が首に回されて、エメラルドに口づけされた。

「!!??」

 抵抗する余裕すらなく、私は四肢を痙攣させた。ようやく体を離したエメラルドは、泣き笑いのような表情をしていた。

「幸せになるおまじないよ。幸せにならなきゃ許さないんだから」

呆然と立ち尽くす私を置いて、エメラルドはカモシカのように去っていった。

黒天使状態のまま麻痺していると、後ろから頭を小突かれた。

「おーい、その姿でぼーっとしてたら目立つぞ」

「あっ、魔王」

まさかさっきの【おまじない】の現場を見られたかと、私は赤くなってあたふたしたが、ユリセスは何も気づかない様子で、「さっさと女に化けろ」と言った。

私は急いで女子になって、赤くなった頬をごまかそうと、無意味に両手で叩いた。

ユリセスはエメラルドがいなくなった方角を見やり、眼を細めた。

「惜しいな。いい女だったのに」

 すっかり見られていたらしい。しかし恥ずかしさより、そのしみじみとした表情が気になった。

「魔王……本気でエメラルドを……?」

 言いかけるやいなや、先ほどエメラルドの攻撃を受けた箇所と同じところに、またもや指でビシリと一撃食らわされた。

「あうっ!」

私の額に結構な痛手を与えておいて、ユリセスは当たり前のように話題を変えた。

「お前には今回いろいろと迷惑をかけたな。悪かった」

「あれ? 魔王。操られてた時の記憶があるの?」

「ねえよ。だがお前以外、誰がいる。つうか俺に何した? 目覚めた時、妙に股間が痛かったんだが」

「そんなことはもういいじゃないか」

 美しい月の下で語るような話ではない。

 と、その時、ユリセスの背後からぬっと地縛霊が現れた。いや、地縛霊じゃなくギルフだった。

「ここにいたのか」

「ギ、ギルフ……さん」

 まさか私の正体について改めて問い詰めにきたのか。青ざめた私の前に、ユリセスが何気なく回り込んで、ギルフの視線を遮った。

「何? ギルフちゃん。まだアリオちゃんを斬り刻みたいのー?」

 軽い調子でユリセスが質問するのを、ギルフは無視した。そして低い声で言った。

「俺たちの滞在が延びたぞ。後一週間はこの島にいることになった」

「は? なんで?」

 明日の朝には出発するんじゃなかったのか。戸惑う私に、ギルフは淡々と告げた。

「お前の姉妹たちと、ユリセスを除いた俺たち六人で、改めて決闘をすることになった」

「はあああ?」

仰天した私に構わず、ギルフは続ける。

「あれからいつ離縁を届け出るかという話になってな」

「そ、それがなぜ決闘に?」

 どういう異常な話し合いをしたら、そんな結論に達するんだ。

「どちら側から離縁を届け出るかで揉めた。当然、俺たちの方から出すべきだろう。俺たちがあの田舎娘どもを棄てるんだからな。ところがあの女たちは、自分たちの方が俺たちを棄てるんだと、こう言い張るんだ」

私とユリセスは顔を見合わせた。お互い、死んだ魚のような目になっていた。

「もう許してはおけん。実力の差を思い知らせてやらなくては」

これからいざ世界の命運を賭けた最終決戦だ、ぐらいの勢いで力強くギルフは宣言した。

大人げなさに絶句する思いだったが、ギルフが若干、涙目になっているように見えるのは私の気のせいか。そうだろうな。彼がここで涙目になる理由なんてないし。

「で、それまで離縁は?」

ユリセスが呆れた調子で訊く。

「もちろん先延ばしだ。俺たちが勝ってから改めて届け出る」

 無駄に毅然と答えてから、どういうわけかギルフはじっと私を見つめた。

「な、なんですか?」

「あの黒い翼の男、お前だろう」

「……!?」

顔色を白から青へ変えた私を見て、ギルフは素っ気なくつけ加えた。

「勘違いするな。お前の正体について口外するつもりはない。恩を仇で返すのは主義に反する」

「そ、そうですか」

とにもかくにもそっとしておいてくれるなら助かった。しかしギルフの次の台詞が私を悲しませた。

「ただしお前とはいつか決着をつける。覚悟しておくんだな。……アザキル」

言うだけ言ってギルフがいなくなると、ユリセスが頭を掻いた。

「ったく、懲りない奴らだな。女の子と決闘なんかして何が楽しいんだか」

「ど、どうしよう。今度は私と君が八百長するわけにもいかないし……」

「ああ? 大丈夫だろ」

 他人事のようにユリセスは適当に返してきた。

「どうして大丈夫だなんて言い切れるのさ」

「女の子たちを泣かせでもしたら、うちの姫が本気で怒るからな。お前の姉妹ちゃんたちが、酷い目に遭うことは絶対にねえ。まあ、それ以前に良く言うだろ。夫婦喧嘩は犬も食わないって」

「夫婦じゃな……いや、夫婦か……」

しかし一般的な夫婦喧嘩のカテゴリーに含めていいものだろうか。

思い悩んでいる私を尻目に、ユリセスが歌うように言った。

「こうして英雄と王女様は、いつまでも決闘して暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

「ちっともめでたくない。大体いつまでもって何?」

「あいつらって、なんだかいつまでも決闘してそうじゃねえか。じいさんとばあさんになっても」

「嫌だよ。そんな凄惨なエバーアフター」

しかしこの夏の出来事が、何十年か後に七英雄の伝説が本にでもなる時、【七英雄と地獄の王女たちの死闘】なんてエピソードにでもなって、半永久的に残ることになってはたまらない。すぐにでも世間から忘れ去られることを祈るばかりだ。

「なあアザキル」

「ん? 何?」

「お前には借りができた。まーなんだ。次は俺が何を置いても助けてやる」

 ユリセスは私の頭をぐしゃぐしゃに掻き回した。その手から体をずらして逃れながら、私は答えた。

「いいよ。そんなの。大体、今回みたいなことはもうないだろうし、あったら困るし」

「わからねえぞ。次の展開が読めないからこそ人生は面白いんだ」

「嫌な予想をするなあ……」

肩を落とした私の隣で、ユリセスが何がおかしいのかくくくと笑った。

吹きつける夜風は、もう秋の香を含んでいる。

 例年で一番長く感じた夏が本当に終わる。

 もうすぐ前世では迎えられなかった十九歳の誕生日だ。



《挿話その五》


アザキル様が魔王オデセアと相討ちした後、私たちは多くの子供や孫に恵まれて、やがて天へ昇りました。そしてこの世に再び生まれ、十八年経った頃、私たちはまた七英雄と巡り逢いました。

ただ私の双子の片割れはアザキル様になっており、アザキル様が抜けた七英雄の穴には見知らぬ変な男性(なんと魔王オデセア)が入っておりました。

 アザキル様は、私たちが前世の妻の姉妹たちだとは気づいていない様子でした。

多分、私たちのことを欠片も記憶にとどめていなかったのでしょう。

 あの方は興味がないことには、恐ろしいまでの無関心ぶりを発揮するのです。以前、エオリアがこぼしておりました。まだ仲が良かった頃に。

――エオリア……。

ただ一人、遠く隔たってしまった姉は、この空の下で、新しい人生を生きているのでしょうか。

 今はただ、幸せになっていてほしいと心から願うばかりです。

たとえ生まれ変わっても、彼女も私たちの姉妹であることに変わりはないのですから。

ぼんやりとバルコニーで考え込んでいると、肩を叩かれました。

「夜風に当たりすぎると、体に毒だぞ」

無愛想に告げる声は、愛しい夫のもので、私は笑みをこぼしました。

「光の聖女様はいいの?」

「……お前は、生まれ変わって本当に性格が悪くなったな」

「前世の夫が他の女にプロポーズした挙げ句、私たちに形だけの結婚を強要して、終いには光の聖女様にべったりしてるんだもの。図太くならなきゃやってられないわよ」

ギルフの顔色が徐々に土気色に染まっていきました。

「お、お前に辛く当たっていたのは、俺たちとの結婚を嫌がっていると思ったからだ。最初から話してくれたらいいものを……」

「頭のおかしい女と思われたくなかったのよ」

私の方でもギルフが覚えているとは予想していませんでした。確信したのは、彼がルランベリー邸で私を捕まえた時、手に力が全く入っていなかったことからでしたが……。

 他の姉妹と英雄たちに、どこまで前世の記憶があるかは、まだ確認していませんけれど、私が見たところ心のどこかでは覚えているようです。

最初、私の姉妹があんなにも拒否反応を示し、苛立って決闘騒ぎにまで発展したのは、向こうがあっさり他の女たち(ニセ王女たち)を選んだことに、無意識にムカついていたからではないでしょうか。……少なくとも私は、かなーり腹が立っていましたから。

 彼らに記憶がないなら仕方がないと、割り切ろうとはしていたんですが、頭では理解していても、心はそうはいきませんでした。

くすくすと笑っていると、後ろからギルフに抱きしめられました。

「なあ、決闘はよさんか?」

「ダメよ。みんなの本音がどうであれ、世間的に見て、ここまで不仲になってしまったんだもの。いきなり親しくなったら不自然だわ。戦っているうちに絆が深まっていくことにするのよ」

「それは男同士の友情の場合ではないのか……?」

困惑したようなギルフの声を後ろで聞いて、私はまた笑いました。

 大丈夫。他のカップルたち(当然ながらというべきか、みんな前世で夫婦だった組み合わせでした)だって、とうに愛情が芽生えているんですから。口でどれだけいがみ合っていても、離れるなんてありえません。私たちのように。

「ところであなた、まだアザキル様との勝負を諦めてないの?」

「当然だ。俺とあいつはライバルなのだからな」

ギルフは昔からアザキル様をライバル視しているのです。――限りなく一方的に。

「しかしどうもわからん。確認したわけではないが、あいつに前世の記憶があるのは間違いない。昨日など昔の姿で現れ、そのうえ姫に『アザキル』と名乗ったのだからな。なのになぜライバルである俺との勝負を避ける? しかもユリセスを盾にしてまで」

悔しげにギルフは歯噛みしました。

それは多分、アザキル様に面倒臭く思われているから、とは言わず、私は訊きました。

「だからアザキル様と魔王がつき合っているって考えたの?」

「あれはつき合っているんじゃないのか?」

 ギルフは『違うのか?』という顔をしていました。

先の決闘の際、ギルフは二人を恋人同士だと決めつけましたが、あれは別に嫌がらせなんかじゃなくて本気でそう誤解していたのでした。私なんかは実は、面白がっていたんですけれど。性格が悪いのは承知しています。

ちなみにギルフは、魔王が仲間になっていたことはどうでもいいようです。

「フェル」

「なあに?」

「姫は……光の聖女は大事な主君だが、俺が大切に想う女はお前だけだ」

熱っぽく告げられて、私は思わず頬を赤らめました。

と、その時、人が走ってくる気配があって、私たちは急いで離れました。

「ああ、フェルさん。ここにいたの?」

パレアナの友人のエレが、なぜか白いバラを抱えて現れました。そして私の隣にいるギルフを見て、怪訝そうな顔をしました。危ない危ない。私たちは犬猿の仲という設定なのです。

「なんでもないのよ。エレ。このムッツリスケベはすぐに消えるから」

「誰がムッツリスケベだ」

不本意そうにぼやいていなくなったギルフを、エレは不審げに見送りましたが、気を取り直したように話を切り出しました。

「さっきね、これを渡してくれって頼まれたの」

そう言ってエレは、見事な白バラの花束を私の腕に乗せました。ふわりと高貴な芳香が漂います。花束の中にはメッセージカードが入っており、流麗な字でこう記されておりました。

〝結婚おめでとう。お幸せに〟

 私は戸惑いました。花束を贈られる心当たりなどないのです。

「誰から?」

「それが、知らない人だったの。見た目がなんていうか変わってて。髪の毛が紫だったのよ。でもすごく綺麗な人だった……」

私はエレの話をみなまで聞かず、急いで駆け出しました。

紫の髪の毛――まさかそれは――。

無我夢中で外へ飛び出した私は、乱れた呼吸を整えつつ、どこまでも続く一本道に目を懲らしました。

 月光に照らされた道の果てに、ふわりとたなびく紫の髪が見え、消えました。


【終わり】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ