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「なんなのよ、梓之ったら…もう絶対口も聞いてやんないんだから!!」


わざと大きな声で独り言を言いながら、背後に目をやる。少し離れた所で剣を振るう梓之は、憎らしいほど平常通りだ。こちらが機嫌を損ねてしまったことに動揺し、向こうが慌てて追いかけてくると期待していた綾女だったが、どうやら読みが甘かったらしい。梓之は追いかけてくるどころか、視線の一つもこちらに向けようとしない。ただ、剣の一点に集中している。


「なによ…ばか、ばか…」


さっきとは打って変わって、ぼそぼそと小さな声で独り言を言う。

今日は特別に、梓之にもお玉様と見つけた秘密の場所を教えてあげようと思ったのに。

そうだ、こんなむしゃくしゃした気持ちの時こそ、あそこへ行こう。気温が暑いこともあり、何かさっぱりと気分転換がしたい気分だった。

綾女とお玉の見つけた秘密の場所には、綺麗な池がある。そこで水浴びをしようと考えたのだ。その秘密の場所とは、城の敷地の裏側…毎朝敷地内を散歩する光秀でさえあまり通りかからない所のことだ。

人の手で手入れされることもあまりなく、他とは違って草が生い茂るその場所は、敷地内とはいえ、外の森と変わらない。

鬱蒼と生い茂る木々の隙間から零れる光が幻想的で、まだ若い少女たちにとってそこは、なんとも魅力的な隠れ家ともいえる空間であった。


人目を気にする必要もないので、その場で着物を脱ぎ捨てた綾女は、するりと池に身を滑らせる。池の上に幾筋も差す木漏れ日が、綾女の白い肌に反射してキラキラと輝いた。


…やはり、梓乃は馬鹿だ。


こんなに素敵な場所を知らずにいるなんて。先程受けた邪険にするような扱いを思いだし、綾女は思わず涙ぐむ。光秀の屋敷での生活は、今まで送ってきた生活とは雲泥の差があり、童である綾女の心にも恵まれていると実感できるものがあった。

けれど、変わってしまったこともある。今まで綾女と梓乃は、互いに肩を寄せるように生きてきた。昼間離れていても、それ以外は何をするにしても二人で必ず行動していた。


…それなのに。今はそれが嘘のように、別々に行動できるようになった。梓乃が綾女をいつも構うようなことはなくなった。

互いが、互いを必要とする生活。町にいた頃と、ここでの生活は、そこが確実に違ってきていた。まるで、梓乃の心が自分から遠くなっていくようで、それが堪らなく悲しかった。思わず下を向くと、水面に自身の姿が映った。


「大っ嫌い…この目も、この髪も、全部全部大っ嫌いなんだから」


歪めた顔は、更に醜く見えて。どうして私は皆と違うのだろう。どうして私は、梓乃のような真っ黒な瞳と髪を持っていないのだろう。どうして…。堪らなくなった綾女は、自身を映す水面を、強かに薙ぎ払った。同時に水飛沫が、顔を濡らす。何度も何度も薙ぎ払っては、飛んできた水飛沫でその身を濡らした。


「うっ…うぅっ…ふっ」


水飛沫とは別に、目から熱い雫が滴るのが分かった。これは、八つ当たりだ。そう理解していても、一度苛立ちに身を任せると止まらなかった。攻撃的な感情を自らに向けることでしか、苛立ちを発散する術を知らなかった。


「私なんか…私なんて…」


『…うるせぇな、だったら殺してやろーか?』


突如、綾女の上から声が降ってきた。思わず辺りを見渡すが、どこにも姿が見当たらない。

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