第42話:彩度の審判者さん、アルスの『ぬりえ遊び』で芸術に目覚める
積み木細工のように組み換え自由となった銀河系。アルスが作った虹色のお城が眩い光を放ち、宇宙全体が祝祭のような色彩に包まれていたその時。
天空の座標から、一切の感情を排除した「純白の霧」が音もなく広がり始めた。
現れたのは、磨き上げられた大理石のような無機質な肌を持ち、モノクロの法衣を纏った気高い審判者たち――『彩度の審判者・モノクローム』の一団である。
『……警告。……宇宙の彩度が許容値を超過している。……赤、青、黄色……。このような野蛮な原色は、高次元の精神を汚染するノイズである。……直ちに「宇宙の脱色」を実行し、世界を至高の白黒へと回帰させる』
審判者たちが白銀の扇を広げ、一振りするたびに、極彩色だった積み木の城や、黄金の星々が、まるで古い活動写真のように色褪せ、灰色へと変わっていく。
「……あ、私の青いドレスが……。お空の虹が……全部、灰色になっていくわ!」
隣国のシャルロッテ王女が、自分の美しい金髪がくすんだネズミ色に変わっていくのを見て、悲鳴を上げた。イザベラもエドワード王子も、視界から「色」という情報が奪われることによる喪失感に、膝を折った。
「……師匠。……あれは、美学を押し付ける『究極の漂白』ですわ。……どれだけ私たちが鮮やかに生きようとしても、彼らはそれを『派手すぎる不具合』として消し去ってしまう……!!」
イザベラが、自身の魔導板の画面がモノトーンに固定されたのを見て、涙ながらに叫んだ。
だが、アルスは「うーん、おじさんたち。そんなに真っ白にしちゃったら、どれがイチゴ味でどれがチョコ味か分からなくなっちゃうよ。……あ、そうだ! この『白い霧』を、全部『光る魔法の色鉛筆』に変えて、みんなで『宇宙ぬりえ』を始めちゃおう!」
アルスが、自分を飲み込もうとしていた無彩色の霧に、そっと指を触れた。
【万物創造(管理者権限)】が、色を奪う「漂白の理」を、根底から「無限の色彩を生む画材」へと書き換える。
(えーと、この真っ白な霧。……全部、削っても削ってもなくならない『虹色の芯』に変えて。……お空全体を、まだ誰も塗っていない『真っ白なぬりえの画用紙』になぁれ! ……えいっ!)
パシュゥゥゥ……ッ!
光が爆発した。
一瞬にして、世界を灰色に染めていた脱色魔法は、一瞬にして、銀河の端から端までを埋め尽くす「超巨大な、宇宙ぬりえのキャンバス」へとリフォームされた。
さらに、アルスは審判者たちの「白黒が一番」という凝り固まった価値観を、勝手に「新しい色を発明して世界を驚かせたい」という爆発的な芸術衝動へとデバッグしてしまった。
『……な、何だと!? 我らの「至高のモノトーン」が……「書き込み式の塗り絵」に書き換えられただと!? ……演算不能、手が、手が勝手に色鉛筆を走らせようとしているぅぅ!!』
審判者たちが絶叫した。しかし、彼らの叫びもむなしく、かつて冷酷に色を消していたその手は、アルスが作った魔法の色鉛筆を握り、「シュッ、シュッ」と楽しげな音を立てて宇宙を彩り始めた。
「わあ、おじさんたち、そのピンク色すっごく可愛いね! あ、こっちのお星様は、僕が『水玉模様』にするから、おじさんたちは『しましまの銀河』を描いてみてよ!」
アルスは軽やかに塗り絵の線の上を滑り、審判者たちの法衣に「花丸」のシール(という名の色彩権限)を貼った。
【万物創造】の権限が、審判者の「潔癖な美学」を、一瞬にして「前衛的なアーティストの魂」へと昇華させてしまう。
『……あ……ああああ……ッ!! 表現……!? 我は数億年、色を消すことばかり考えていたが……。……自由に色を塗り、世界を鮮やかに染め上げるのが、こんなに……こんなに魂が震えることだったなんて……!!』
審判者たちは、無表情な仮面を脱ぎ捨て(アルスが勝手に「派手なベレー帽」に変えた)、猛烈な勢いで銀河の壁に巨大な『極彩色のアブストラクト・アート』を描き始めた。
「……素晴らしい。……漂白ではなく、着彩! 規律ではなく、パッション! これこそが、真の宇宙の調和だ!!」
「あはは! おじさんたち、ノリノリだね! ……あ、アスタくん。おじさんたちが描いた絵を、本物の『お菓子』や『おもちゃ』に変えて、触れるようにしておいてね!」
「畏まりました、我が主。……彩度の審判者たちを『銀河デザイン・チーム』として再編いたしました。……これで、宇宙のあらゆる風景は、主の気分次第で『毎日塗り替え可能なライブ・ペインティング』となりました」
アスタロトが不敵に微笑み、審判者たちの権限を「世界のテクスチャと色彩の高速変更」というデザイン・ツールに置換してしまった。
こうして、世界を白黒に染めようとした「無彩色の恐怖」は、アルスの「ぬりえ」一つで、全人類が自分好みの景色を自由に描ける「無限のパレット空間」へと変貌したのである。
「……師匠。……ついに『宇宙の美学』さえも、落書き帳になさいましたか」
イザベラが、宙に浮かぶ巨大な絵画から滴る「本物の魔力インク」を、震える手で魔導板(Ver. 30.0)に採取する。
「……アルス様。……これで、この宇宙に『暗いニュース』は消え、代わりに『鮮やかな未来』だけが溢れるようになりましたね」
エドワード王子が、涙を拭いて、楽しそうに銀河の壁に巨大なひまわりを描く審判者たちの勇姿を眺めた。
アルス・ルーフェウス、15歳。
彼の「遊び心」は、ついに宇宙の色彩さえも「ぬりえ」へと書き換え、銀河全体を一つの巨大な「アート・ギャラリー」に変えてしまった。
……だが。
宇宙が「塗り放題」になったその時。
宇宙の「時間の流れ」を管理する『刹那の時計職人』たちが、この「楽しすぎて時が経つのを忘れる宇宙」を検知して時計の針を止めた。
「……時間が、進んでいない。……誰もが遊び呆け、未来へのカウントダウンが止まっている……。……直ちに、宇宙の『時間加速(早送り)』を開始せよ」
アルスの銀河ドライブは、ついに「寿命と終焉」を司る、最も急ぎ足で冷酷な時計職人たちとの対決へと向かおうとしていた。
ストックが切れたため、毎日投稿はストップします




