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第25話:予言書さん、アルスの『お絵かき』で人生を謳歌する

リフォームされた『忘却の図書館』。そこは今や、数万冊の魔導書が「おやつの時間」を合唱し、焼き立てパンの香りが漂う、王立学院で最も賑やかなサロンと化していた。

 

アルスは、特製の「ふわふわ雲クッション」に腰掛け、アスタロトが淹れた『超次元ダージリン』を楽しんでいた。


「……ねえ、アスタくん。あっちの隅っこで、一冊だけ歌わないで『しくしく』泣いてる本があるよ。……お顔が真っ黒で、なんだか怖そうな絵が描いてある」


「……ほう。……あれは、失われた神話の断片、あるいは世界のバックアップ・ログ……通称『終焉の予言書』ですね。……マスター、あれは触れない方がよろしいかと。……あれに記された絶望は、世界の確定事項(システム予約)ですから」


アスタロトが珍しく、眼鏡の奥の瞳を険しくさせた。

 

だが、アルスは「えー、可哀想だよ」とトコトコ歩み寄り、その真っ黒な表紙の本を手に取った。

 

バサァッ……!

 

本が開かれた瞬間、図書館中の歌声が止まり、空気が氷点下まで冷え切った。

 

ページには、血のような赤い文字でこう記されていた。


【確定事項:星域衝突。……隣接する『虚無の並行世界』が、明日、この世界と衝突し、すべてが塵に帰す。……回避不能。……救いはない】

 

挿絵には、王都が崩壊し、人々が泣き叫びながら消えていく、あまりにも残酷な光景が描かれていた。


「……ひっ、ひぃぃ……ッ!! な、何よこれ!? 私の解析魔法でも、この運命の収束は……一ミリも動かせないわ!!」


駆けつけたイザベラが、その絶望的な記述を見て泡を吹いて卒倒しそうになった。エドワード王子も、自分の国が明日消えるという事実に、膝から崩れ落ちた。

 

予言書が、地響きのような不気味な声で嘲笑う。


『……ククク。……無駄だ、人間。……我は世界のログそのもの。……我が書いたことは、宇宙の法則。……明日、この世界は「ゴミ箱」へ送られるのだ……』

 

だが。

 

アルスは、その悲しい挿絵をじーっと見つめた後、不思議そうに首を傾げた。


「おじさん……。……この絵、全然可愛くないよ。……みんな泣いてるし、お空も真っ暗だし。……これじゃ、明日ピクニックに行けないじゃないか」


『……当たり前だ! これは滅亡なのだからな! 絶望しろ、幼子よ!!』


「……ううん。……おじさん、きっと『描き方』を間違えちゃったんだね。……よしよし、僕が直してあげる。……もっとキラキラした、楽しい『合流パーティー』に変えちゃおう!」

 

アルスが、いつもの「虹色に光る魔法のクレヨン」を取り出した。


彼にとって、世界の滅亡を司る「予言」は、単なる「暗くて面白くない落書き」に過ぎなかった。


(えーと、この壊れてるおうち(王都)を、全部『キャンディの家』にして。……ぶつかってくる隣の世界は、怖いお化けじゃなくて、お土産をいっぱい持った『新しいお友達』になぁれ!)


アルスがクレヨンを大きく振るい、予言書のページを豪快に塗り潰し始めた。


『……な、何をする!? 我のページに落書きだと!? やめろ、そんなふざけた虹色を塗り込むな……あ、ああっ!? 文字が……我の確定ログが……勝手に「パーティーの招待状」に書き換えられていくぅぅ!!』

 

光が爆発した。

 

【万物創造(管理者権限)】が、世界の運命という巨大なソースコードに直接パッチ(修正)を当てていく。

 

一瞬だった。


血のような赤い文字は、一瞬にして「ピンク色のハートマーク」と「金色の招待状」へと上書きされた。


さらに、絶望の挿絵は、二つの世界が仲良く手を取り合い、空からお菓子の雨が降る中で、みんながダンスをしている賑やかなイラストへとリフォームされた。


【修正完了:星域合流パーティー。……隣の世界との衝突を『物理的ドッキング』から『多次元フレンドリー提携』に変更。……衝突のエネルギーを、全量『打ち上げ花火とケーキ』に変換します】


「……わあ、できた! 予言書さん、見て見て! こっちの方が、みんなニコニコでいいでしょ?」


『……あ……あ……。……我が……我のアイデンティティが……。……でも、なんて、なんて楽しそうな未来なんだ……。……我、もう絶望なんて書きたくない。……これからは、毎日「今日のラッキーおやつ」を書きたい……!!』


予言書は、その場で不気味な魔力を捨て、表紙が「キラキラのラメ入り」へとジョブチェンジした。

 

彼はアルスの足元でパタパタと跳ねながら、嬉しそうに「明日の給食占い」を書き始め、完全に人生(本生)を謳歌し始めたのである。


「……し、師匠。……ついに『運命の神』さえも、お絵かきで買収……いえ、浄化なさいましたか」

 

イザベラが、震える手でそのハッピーエンドな予言を書き留める。


「……アルス様。……明日、世界が滅びるはずだった時間に、花火大会を開催する準備をさせます。……国民全員に、お菓子を配りましょう!」

 

エドワード王子が、涙を拭いて希望に満ちた声を上げた。


「あはは、王子様、名案だね! ……あ、アスタくん。隣の世界のお友達にも、招待状を送っておいてね!」


「畏まりました、我が主。……隣の虚無の世界、今すぐ『綿菓子味の次元』へとリフォームを済ませておきましょう」

 

アスタロトが不敵に微笑み、宇宙の鍵を使って、隣の次元の物理エンジンを勝手に書き換えに向かった。

 

アルス・ルーフェウス、12歳。

 

彼の「お絵かき」は、ついに宇宙の衝突という最大の悲劇を、史上最大の「ご近所付き合い」へと変貌させてしまったのである。

 

……だが。

 

予言書の書き換えを検知した「次元の境界を守る者たち」が、異様な光景に目を剥いていた。


『……衝突するはずの虚無が、なぜイチゴ味になっているのだ……? ……調査を開始せよ』

次回明日20時更新

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