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第23話:12歳の神童、学院の常識をリフォームする

次回本日20時更新

あれから、七年の月日が流れた。

 

かつて「お空の物干し竿」を作り、創造主を月面へ隠居させた五歳の幼子アルスも、今や十二歳。

 

ふっくらとしていた頬は精悍に引き締まり、白銀の髪は陽光を浴びて神々しい光を放っている。その瞳には、相変わらず「悪意」という概念をデバッグし忘れたような、底抜けに純粋な光が宿っていた。


「……ふわぁ。アスタくん、おはよう。今日はお天気がいいから、お空が美味しそうだね」


「おはようございます、アルス様。……本日は『王立セント・ルミナス魔導学院』の入学式でございますよ。空を召し上がるのは、式典の後になさってください」

 

完璧な所作でカーテンを開けたのは、執事アスタロトだ。

 

かつて世界を滅ぼそうとした魔神は、今やアルスの「全肯定執事」として、主人の身の回りの世話から、宇宙の因果律の調整までを完璧にこなしていた。


「入学式かぁ。……父上も母上も、朝からすごく張り切ってたね」


「当然でございます。辺境伯閣下は『息子の制服姿を記録するために』と、王都中の魔導写真師を買い占めておられますから」

 

アルスは苦笑いしながら、特製の『星屑のトースト』を口に運んだ。


この七年間、彼はルーフェウス領を「床暖房付きのチョコ山脈」に変えたり、砂場遊びの延長で「空中庭園」を浮かせたりと、やりたい放題にリフォームを続けてきた。

 

その結果、世界は今、アルスの【万物創造】によって「飢えも戦争もエラー落ち(滅亡)もない」という、超安定バージョンへとアップデートされている。

 

そんな「生ける神話」が、ついに学院へ正式に入学するというのだから、王都の騒ぎは尋常ではなかった。

 

学院の正門前。

 

そこには、国内から集まった選りすぐりのエリート新入生たちが、緊張の面持ちで列をなしていた。

 

だが、その列を割って進む一台の馬車――いや、馬車ではない。

 

アルスが「お散歩用に」と創造した、虹色の光を放つ『浮遊式クリスタル・コーチ』が、校門の上空を優雅に滑空してきたのだ。


「……な、ななな……ッ!!」

 

新入生たちが空を見上げて絶叫した。


「あれがルーフェウス家の……!? 馬もいないのに、空を飛んでいるぞ!!」


「ありがてぇ、あの光を浴びただけで、持病の魔力枯渇が治っちまっただ!!」

 

アルスが馬車からふわりと降り立つと、そこには既に「筆頭弟子」を自称する宮廷魔導師長イザベラと、アルスを神と崇めるエドワード王子が跪いて待機していた。


「師匠! お久しぶりですわ! この七年、私は師匠に教わった『お絵かき理論』を元に、第八階梯魔法を『塗り絵』として再構築することに成功いたしました!」


「アルス様、お待ちしておりました。……さあ、あなたのために講堂の椅子をすべて『雲のクッション』にリフォームしておきましたよ」


「あはは。二人とも、相変わらず元気だね!」

 

アルスはニコニコと笑いながら、講堂へと足を踏み入れた。

 

だが、そこにはアルスの「伝説」を信じない、高慢な上級生たちもいた。


「ふん。辺境伯の嫡男か。……五歳の頃に奇跡を起こしたというが、所詮は子供のハッタリだろう。……おい、アルス。ここが『本物の魔導』を教える場だと、分からせてやろうか?」


立ちふさがったのは、学院最強を自称する三年生の首席。

 

彼は不敵な笑みを浮かべ、アルスに向けて最高位の火炎魔法『プロミネンス・バースト』を放とうとした。

 

講堂の空気が、絶望的な熱量に包まれる。

 

だが、アルスは「うーん」と首を傾げた。


「あのね、お兄さん。その火、ちょっと『色が暗くて可愛くない』よ? ……あ、そうだ! もっとキラキラした、冷たくて美味しい『かき氷の山』になぁれ!」

 

アルスが指をパチンと鳴らした。

 

【万物創造】の権限が、炎というエネルギーの定義を、根底から書き換える。

 

パシュゥゥゥ……ッ!

 

一瞬だった。

 

講堂を焼き尽くそうとしていた極大の火球は、空中で一瞬にして、淡いブルーの輝きを放つ「特大のブルーハワイかき氷(練乳がけ)」へと姿を変え、山のように床へ積もった。


「……え?」


「はい、どうぞ! これなら熱くないし、お勉強の合間に食べると頭がシャキッとするよ!」


 アルスがスプーンを錬成して差し出すと、首席の上級生は、自分の放った「最強魔法」が「デザート」に変わった現実を前に、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「……師匠。……ついに『熱力学』の法則さえも、おやつの時間に置換なさいましたか」


イザベラが、震える手でそのかき氷を記録(食レポ)する。


「わあ、美味しそうだね! みんな、入学おめでとう! 今日はかき氷パーティーだね!」

 

アルスの「入学」という名の「常識改変」によって、王立学院は初日から「魔法=おやつを作るための道具」という、新しい理論に支配されることになった。


アルス・ルーフェウス、12歳。

 

少年の純真な「リフォーム」は、ついに学院、そして王都全体の構造を、異次元のレベルへと引き上げようとしていた。

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