第21話:【婚約者視点】シャルロッテ王女の執着、あるいは至福の監禁(おままごと)
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私、シャルロッテ・ド・フローリアは、生まれながらにして「聖王国の至宝」と称えられた天才児ですわ。
六歳にして三つの言語を操り、国の予算書を読み解き、将来は大陸の政略をその手で転がす……。そんな野心に満ちた私の人生設計は、あの日、アルス様に出会った瞬間に、粉々に砕け散りましたの。
「……はぁ。アルス様。今日も、なんて……なんて罪深いほどに尊いのかしら」
私は今、アルス様が砂場で「えいっ」と一突きして作り上げた『クリスタル城』の、マシュマロのソファーに身を預けていますわ。
窓の外を見れば、アルス様が「お散歩用」に配置した月が黄金色に輝き、庭では伝説の古龍シロが、アルス様の脱ぎ捨てた靴下を大事そうに抱えて寝ております。
「シャルお姉さん、お腹空いた? はい、これ。さっきお空の雲を絞って作った『ふわふわプリン』だよ!」
アルス様が、ぷにぷにとした可愛らしい手で、虹色に輝くスプーンを差し出してくれました。
一口食べれば、脳が溶けるような甘美な魔力が全身を駆け巡りますわ。これ一つで、我が国の聖騎士団が全員レベルアップしてしまうような代物……。それを、アルス様は「おやつ」として、私だけに食べさせてくれるのです。
(……ああ。……打算? 国益? そんなもの、このプリンのカラメル一層分にも及びませんわ!!)
私は、アルス様をギュッと抱きしめたい衝動を必死に抑えながら、淑女の微笑みを浮かべました。
「美味しいですわ、アルス様。……ですが、いけませんわ。このような素晴らしいものを他の方に分け与えては。……このプリンも、あなたの笑顔も、すべて私だけのものにしなければ……」
「えー? シャルお姉さん、独り占めはダメだよ。アスタくんやイザベラ先生にも、後で配りに行くんだから」
アルス様は無邪気に笑いますが、私の胸の中では黒い炎(独占欲)が渦巻いております。
特に、あの宮廷魔導師長イザベラ! 彼女、隙あらば「師匠、この数式の解を!」などと理屈を並べて、アルス様の膝の上に居座ろうとしますの。あの方は「弟子」という立場を悪用している、極めて不届きな女狐ですわ!
「……アスタロト殿。……今日もアルス様の警護、ご苦労様ですわね」
私は、部屋の隅に影のように佇む執事アスタロトを睨みつけました。
「お褒めに預かり光栄です、王女殿下。……ですが、アルス様の『第一の理解者』を自称されるのでしたら、先ほどのプリンの魔力中和はお済みですか? 主の創造物は、凡人が摂取し続けると存在の格が上がりすぎて、人間を卒業してしまいますよ」
「……言われなくても分かっていますわ! 私の聖魔法は、すべてアルス様から頂いた魔力を制御するために捧げているのですから!」
そう。アルス様の側にいるということは、常に「世界の理」が書き換わる中心地にいるということ。
普通の人間なら、アルス様が「お花になぁれ!」と呟いた拍子に、自分まで花にされてしまうかもしれません。それを防ぎ、アルス様の「無自覚な暴走」を現世に繋ぎ止める……それこそが、正妻である私の務め。
「シャルお姉さん、お顔が怖いよ? ……あ、そうだ! 元気が出るように、お姉さんのドレス、もっと『キラキラ』にしてあげるね!」
「えっ、あ、アルス様!? ちょっと待って――」
パシュゥゥゥ……ッ!
アルス様が指を鳴らした瞬間。
私の着ていたスモック(砂遊び用)は、一瞬にして、数千個の極小ダイヤモンドが織り込まれた、目も眩むような「神話級のウェディングドレス」へと作り替えられました。
「わあ、お姫様みたい! シャルお姉さん、すっごく綺麗だよ!」
「……あ……ああ……ッ!!」
私は鏡を見て、膝から崩れ落ちました。
このドレス……防御力は国家守護結界の数百倍。そして、付与されている効果は【アルス様への永続的な帰依】。
(……勝ちましたわ。……私、今、実質的に結婚いたしましたわよね!?)
イザベラがこれを見たら、悔しさで王都の地面を素手で割り始めるでしょう。
私は、アルス様の小さな手を握り、深い誓いを立てました。
アルス様。……あなたは、あまりにも純粋で、あまりにも全能すぎます。
あなたが「世界をパズルにしたい」と言えば、私は喜んでピースを運びましょう。
あなたが「お月様を食べたい」と言えば、私はスプーンを用意しましょう。
……その代わり。
あなたのその無垢な瞳に映る「一番の女の子」だけは、絶対に譲りませんわ。
たとえ神様が再び月面から戻ってきたとしても、私がそのマッサージチェアごと、奈落へ蹴り落として差し上げます。
「アルス様。……次のおままごとは、新婚旅行(世界一周)にいたしましょう? このドレスのまま、大陸中の人々に見せつけて歩くのですわ!」
「あはは、お姉さん、やる気いっぱいだね! じゃあ、空飛ぶ絨毯を『超高速モード』で作っちゃうよ!」
「畏まりました、我が主。……音速を超える絨毯を、今すぐ錬成いたします」
アスタロトの不敵な返事と共に、私たちの「新婚旅行(という名の世界改造)」が始まろうとしていました。
アルス様、私の愛しい旦那様。……世界をどう作り替えても構いませんが、私の隣だけは、永久欠番にしておいてくださいませね?
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