第20話:新時代の幕開け、世界は僕の『おもちゃ箱』
世界の創造主(神)が月面のマッサージチェアで深い眠りにつき、アルスが『宇宙の鍵』を手にしてから数日。王都セント・ルミナスは、かつてない平和と、そして「これから世界はどうなってしまうのか」という、期待と不安が入り混じった熱気に包まれていた。
当の本人は、王立学院の屋上で、執事アスタロトが用意した「星の形をしたパン石」をかじりながら、空中に浮かぶホログラムの地図を眺めていた。
それは、大陸全土をリアルタイムで映し出す、神の管理画面である。
「……ねえ、アスタくん。この地図、なんだかバラバラで、通りにくいところがいっぱいあるね。お隣の『ガリア帝国』とお山がぶつかってて、お花屋さんが遠回りしなきゃいけないんだって」
「左様でございますか、我が主。……確かに、この大陸の地形設計は、太古の神が適当に配置したせいで、物流効率が著しく悪いですね」
アスタロトが眼鏡をクイッと上げ、冷徹な運営者の視線で地図をなぞる。
「……アルス様。……もしよろしければ、この『大陸』を、より遊びやすく配置し直して(リマップ)みましょうか?」
「あ、いいの!? じゃあ、僕の『お砂場』みたいに、みんなが仲良くなれる場所にしよう!」
アルスが無邪気に、空中の地図を指で「ドラッグ」した。
【万物創造】と【神の権限】が融合し、数万年変わらなかった地殻が、まるで粘土細工のように柔らかく動き始めた。
――ズズズズズンッ……!!
大陸全土に、心地よい揺れが響き渡る。
人々が驚いて空を見上げると、地平線の彼方から、山脈がスライドし、海が道を譲り、隣国の王都が「こんにちは」とばかりに近づいてくる光景が広がっていた。
「な……ッ!? 山が動いている!? 国境線が……物理的に消滅していくぞ!!」
父グランツが、庭先で腰を抜かした。
「……師匠。……ついに大陸規模の『コピペ』と『移動』を実行なさいましたか」
イザベラが、震える手でその光景を記録する。
「ガリア帝国とフローリア聖王国、そして我がルーフェウス領。……それらが円を描くように結合し、中心に『巨大な公園』が出現しているわ……!」
アルスは、自分の好きな国々をパズルのピースのように組み換え、中心に巨大な「多国籍交流スペース(という名の特大砂場)」を作成したのだ。
さらに。
「えーと、このトゲトゲした岩山は邪魔だから、全部『お砂糖の山』に変えて。……この汚い川は、全部『冷たいオレンジジュース』になぁれ!」
光が大陸を駆け抜ける。
峻険な山々は、一瞬にして甘い香りのする真っ白な山へと変わり、濁っていた川は、太陽の光を反射して輝くフレッシュなジュースの川へと書き換えられた。
『――世界再編完了。……エリア名:【アルスの遊び場】に統一されました』
脳内のシステム音が、高らかに告げる。
もはや「国境」という概念は消滅し、大陸のすべての人々が、歩いて数分で美味しいジュースを飲み、お菓子の山で遊べる世界が完成した。
「わあ、綺麗になったね! これなら、みんなで一緒におやつが食べられるよ!」
アルスが満足げに手を叩くと、空からは祝福の「金平糖の雪」が静かに降り注いだ。
人々は、最初は恐怖に震えていたが、足元のジュースを一口飲み、空から降る金平糖を口にすると、自然と笑顔になり、隣国の元・敵兵たちと手を取り合って踊り始めた。
「……負けましたわ。……これこそが、真の『平和』というものですのね」
隣国のシャルロッテ王女が、お菓子の山を見て瞳を輝かせた。
「……ああ。……私の息子は、戦争という『バグ』を、ただの『遊び』で上書きしてしまったのだな」
グランツ辺境伯は、もはや武人としてのプライドを捨て、息子を心から誇らしく思った。
……王都の広場。
そこには、かつての敵も味方もなく、皆がアルスの肖像画(本人がお絵かきで描いた、ニコニコマークのついた自画像)を囲んで、新しい時代の幕開けを祝っていた。
アルス・ルーフェウス。5歳。
彼は、自分が世界を支配したなどとは露ほども思っていない。
ただ、大好きな人たちと、大好きな場所で、美味しいものを食べながら、いつまでも遊んでいたい。
その純粋な「願い」こそが、世界を救う最強のチートだったのである。
「ねえ、アスタくん。次は、お空の雲を『綿菓子のベッド』にして、みんなでお昼寝しようよ!」
「畏まりました、我が主。……全天の雲、カカオとバニラのフレーバーに設定いたします。……さあ、世界一平和な『お昼寝』の始まりです」
アルスは、アスタロトの手を引き、新しく作ったお菓子の山へと駆け出していった。
――異世界ファンタジー:貴族の嫡男アルス・ルーフェウス。
その無自覚な創造の物語は、ここから「全宇宙」を巻き込んだ、さらに騒がしい第2章へと続いていくのだが……。
次回本日20時更新




