第四銃六体目
「こんなルートから侵入できたのか」
アキツたちは乗った車を近くの商業ビルの地下駐車場に置き、入り組んだ施設点検用通路を伝いながら『クトネシリカ』社屋に侵入した。
「はい、有事にどれだけ対応できるかで守るべき命の価値に繋がります、おそらく米軍はわたしたちが乗っていると確信して自動運転のダミー車を攻撃している頃でしょう」
執事姿の人形は金属製扉の施錠システムを開放した。
扉の前に一人の青年が立っている。
「ボウ、久しぶりだね」
少し肉付きのよい背格好はだいぶ変わっていたが、短髪で人のよさそうな表情にボウはすぐに気付いた。
「ユキオ……」
「お前に会いたくなってまた戻ってきてしまった、上でイツキが待ってるよ」
「マサハルたちも?」
カエデが話に割り込んだ。
「マサハルとマモルは最上階で侵入者と戦っている」
「わたしも連れて行って!」
「もう、交戦中だし、マサハルが許可しないよ、そこまでのルートはすべて遮断されている」
「階段を使ってでも行くわよ」
「話の途中ですがお嬢様、皆様、正面の昇降機にお乗りください、間もなくこの扉を破壊し通用できなくさせます、高周波の連続した電磁波を確認しました、おそらく軍は周辺設備に地中レーダー探索を仕掛けたのでしょう、先ほど使用した通路には暗渠用水の水を注入します」
「これで私たちの退路はなくなったのね」
サユミが誰に話すことなく言葉を漏らした。
「上様、怖いとはどのような感じになるのか」
自分の肩に乗るシャンの声はいつもより小さくアキツには聞こえた。
「震えて何もできなくなることもある、冷や汗なんかも出る場合がある、人それぞれだから一概には言えないけれど」
「ほぅ、それならあのジュンと呼ぶオナゴの心拍の急激な上昇や発汗などは見られるから怖いモードになっているのじゃな、上様が今は怖くない状態だということは理解している」
シャンの視線の先にジュンがいる。彼女の側にいる人形は彼女にしつこいくらいに何かを話し掛けていた。
「シャン、僕たちに隠し事はなしだ」
「あのオナゴの人形から相手先不明のシグナルのやり取りがされている、他の人形も気付いているようじゃが、当の主人の許可を得ているようなので口出しはできないのじゃろ」
そこにいた全員、エレベーターに乗った。
「ワカナだけが、さっきまで俺がいた別の場所で従業員家族の避難誘導などにあたってくれている、本当は俺たちと一緒に合流したかったようだけれど」
「あの子にはもう大切な家族がいるからいいのよ」
サユミが腕を組みながらエレベーターの天井を見上げている。
「子どもがもう二人もいるんだぜ」
笑いながらユキオがボウに教えた。
「面倒見がいい子だったもんな、何となく覚えているよ」
アキツはそう言って作り笑いをした。
建物全体が大きく震えた。
「砲撃?」
「カエデお嬢様の予想通り、しびれを切らした軍が正門周辺に砲撃を加えたようですね」
「大丈夫なのか」
「ボウ様、彼らが欲しいのはこの施設すべてです。ケーキが食べたいのにそのケーキを潰す愚かなことは誰も行いません、上階のマサハル様が空の私たちの兄弟に許可を出しましたので、この攻撃も直に止みます」
「空の兄弟?」
「マサハル様の月影人形は攻撃型人工衛星そのものですから、超小型の大気圏貫通弾を一発落とすだけで、相手は沈黙するでしょう」
「どこに落とすんだ?」
「アメリカ国防総省本庁舎」
「まさかだろ」
「……に落とすぞと、事前に指定した座標の空港滑走路を二、三本破壊すればおとなしくなります、さぁ、目的のフロアに到着しました、イツキ様のところまではあとわずかです」
エレベーターが到着したフロアの廊下を執事姿の人形を先頭にアキツたちは歩を進めた。




