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お月様はいつも雨降り  作者: みみつきうさぎ
34/55

第三従四体目

<登場人物>


静寂秋津 (しじまあきつ)

 就活中の大学生、謎の企業から少女の姿をした人型端末『シャン』を贈られる。


小野なな子 (おのななこ)

 『小町』という別名をもつ美少女コスプレーヤー兼アングラ界のアイドル アキツとは同じゼミ


鹿内みやび (しかないみやび)

 アキツが救おうとした女子高生


菅原 治 (すがわらおさむ)

 陽気な性格で人の心に遠慮なく踏み込んでくる小野なな子親衛隊員 アキツとは同じゼミ


大熊サユミ (おおくまさゆみ)

 アキツの小学校の同級生 『ラグ』というシャンと同型の『月影人形』と共に行動している


湯岐ジュン (ゆじまたじゅん)

 アキツの小学校の同級生 『リグ』というシャンと同型の『月影人形』と共に行動している



「副長、運用一、二課長、参事官他、幹部一同、揃いました、第一会議室への移動をお願いします」


 統合幕僚監部の会議室で幕僚長は入室してきた副長に自分のこぶしで見えないようにしながら小さくため息をついた。

 東アジア共同統合軍艦隊が日本海を北上している。


「彼らの軍事行動を副長はどう見る?」


「新政府の見解としてただの示威行動であると国民向けに収めろと与党からも……、在日米軍もこの決定には異論はないとのことです、ただし、横田の第五空軍、第七艦隊の横須賀や佐世保では以前と異なる動きについての具体的な報告が昨晩から続いており、そのことを鑑みると……」


 副長が何を言いたいのかを幕僚長は察している。


「この動きが示威だなどと子供でも分かるような嘘を……」


 幕僚長の端末ディスプレイに様々な数字や図が並んでいる。


米軍かれらは隠す理由を言わないが西側諸国同様、欲するのは自国に理となるモノだけだ、彼らにだって道理はある、同盟国といえ、攻められている当事者の国が動かずして、彼らが動かなければならない理由はもちろんない、新旧政府も多くの国民も大きな勘違いをずっと続けている、札束を積むだけで他国のために命を捧げようとする国などは歴史上存在しない、隷従国家でさえもな」


「やはり東アジア共同統合軍は、日本を『ダグウェイ』※のような実験場にするということでしょうか」


      ※米国ユタ州の化学兵器研究実験場


「うむ、奴らの最終目的地は我々が初期から予想していた通りここだよ、地域的にも面積的にも申し分のない場所だ、ただ少なくともわたしは大湊や北部方面隊だけをおめおめと無駄死ににさせるつもりはない」


 幕僚長は北海道の位置を指で指し示した。


「その兵器のきっかけをつくったものが自国の企業だとは皮肉なものだ」


「『クトネシリカコーポレーション』の接収を早めないと取り返しがつかないことになるとあれほど情報を伝えていたのに、なぜ、ここに至るまでに政府は何の手立てもとらなかったのか……」


 副長は悔しそうな表情を浮かべた。


「この際、昭和の時代のように革命を起こそうなどと考えるなよ副長、我々、自衛隊はシビリアン・コントロールあっての我々だ、そう理解してもらえるような上申できなかった我々にも責任はある」


 幕僚長はそう言って笑った。


「たいへん失礼いたしました」


「政府の決定が下り次第、『玄武の盾』作戦を遂行する、副長、これからの君の采配に期待している」


(情報の軽視による惨事を歴史は繰り返すものなのだ)


 緊張気味の副長を勇気付けながらも、幕僚長はあらためて結果として甘い対応になってしまったことを自戒している。



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菅原が病院へ着くとなな子は病院の長椅子に座ったまま点滴を受けていたところであった。


「その様子だったら大丈夫だったみたいだな、無事だと聞いて安心したよ、姫があの場所からライブ中継してくれたから、アクセスが爆上がりだよ、短いたった一本の動画で六か月分の売り上げを達成できた」


 わざとらしく陽気に振る舞う菅原とは対照的になな子の顔は沈んでいる。


「どうした?まだ、どこか悪いのかな、看護師さんに声を掛けてこようか?」


「私の目の前で大勢の人が殺された……なのに、わたしは……こうしてまだ生きていて、その不幸の切り売りで商売している……もうやめようよ、少なくともこんな動画で稼いだって」


「そうか……姫あっての俺たちのチャンネルだからな……姫がそういうのなら……でもさ、そんなに結論を早めなくたって……」


 現場に行く前とは正反対のなな子の様子を見て、菅原はまずは落ち着かせようと本心ではない言葉を選んで答えた。


「わたし、ここに来るまでどうやって来たか分からないの、看護師さんに聞いてもそれどころじゃないみたいで」


「会わなかったの?」


 それには菅原の方が驚いた。


「誰に?」


「アキツだよ、この病院の場所を俺たちに教えてくれたのはアキツなんだよ、多分、病院に連れてきたのも」


 なな子の目に少しだけ輝きが戻った。


「アキツくんが戻ってきたの?」


「ああ、だからこうやって来ることができたんだ、ただ、あいつはまだ他にもやることがあるからって、非通知でこっちにかけてきたから折り返しもできない」


 そう言って取り出した菅原のスマホに緊急速報メールが送信されてきた。


「Jアラート……大規模武力攻撃警報だってさ……えぇっ!これ戦争が始まるってこと?」


「どうしたの?」


「北海道から東北の日本海側に緊急安全確保の避難命令だってさ」


 動揺する二人のところにみやびも制服姿のまま現れた。


「なな子さん、よかったぁ!」


「みやびちゃん!どうしてここに?アキツくんから聞いたの?」


「いや、俺が連絡しておいたんだよ、姫との連絡が途切れた時から何回も電話が来ててさ、この病院が分かったんですぐに教えたのさ」


 菅原が自慢げな顔をしながら言ったが、みやびがわんわんとなな子に泣きすがっていたので、その言葉はなな子にまったく届いていなかった。


--------------------------------------------------------------------


 同じころ、『クトネシリカコーポレーション』本社前の広い路上では、人のバリケードをつくる百人はくだらない数の社員と捜査しようとする所轄の警察官が押し問答の中、対立していた。


 その様子をタワーマンションの窓から見ながら人形のリグとラグが楽しそうに会話している。


「あのちょび髭の捜査官、令状を読み上げているよ、もうすぐ強行策に出るね」


「いやだぁ、目がぎらついているね、後ろの捜査官たちもやる気満々だね、それにしてもこの窓のスクリーン、遠くまで拡大して映るんだねぇ、何口径のレンズ使っているの」


「望遠じゃないよ、監視カメラを投映しているだけでしょ」


 サユミは心配そうな顔でその映像を見ている。


「ねぇ、サユミぃ、早くシェルターに逃げないとミサイルが落っこちてくるんじゃない、もうこっちのケースはいっぱいだよ、お菓子の入る隙間だってないよ」


 スーツケースに衣類をいっぱいに詰めるジュンが力をこめて上から押すと、スナック菓子が割れた音が中から漏れた。


「うわぁ、やっちゃった!サユミぃ!どうしよう!」


「ジュン、あんたこれから遠足に行くんじゃないのよ」


「ジュン様ぁ、サユミ様ぁ、今、鳴りました」


 リグが部屋の中でシャンデリアがぶら下がる高い天井を仰ぎ見ている。


「客人の穴があくの?」


「違います、穴をわざとあけたのですよ、人の念というお供えものが多ければ多いほど、強力な力が得られますから」


 すました顔で言うリグのその横でラグも嬉しそうにうなずく。


「わたしたちのイツキがそんなことするわけないでしょ、だって、うちの会社の従業員だってあんなにいるのよ」


 サユミは力のこもった声で二体の人形の言葉を否定した。


「あの人たちはこれを喜びます、そのために飼っておいたのですから」


「スタッフも私たちと避難するようにイツキは言っていたでしょ」


「それはスキルが必要とされるスタッフであって、あの人たちのことじゃないんじゃない」


 ようやくケースの蓋を閉め終えたジュンが言葉を挟んだ。


「ジュンは知っていたの?」


「えっ、ただそう思っただけ」


 人形のラグがうやうやしくサユミに向き直って一礼し、ジュンの代わりに説明を始めた。


「差し出がましいと思いながらもご説明させていただきます、企業と社員の根本的な在り方として社に利益を上げた分、これから利益を上げられると予想する分はしっかりと査定しなくてはダメなものです、そこから互いの信頼に繋がり、社の目的を完遂するにいたるのです。あそこにいる方たちは、その今までの業務量と貢献度が、社の危機を救うお供えの価値と均等であると判断された者ばかりです」


「意味分からない……」


「いつも賢いサユミ様がですか?それならただ黙って見ていればよいのです、私たちのマスターは間違った決断をいたしません」


「始まりました」


 今度の空を震わせる金属音は部屋の中にいたサユミやジュンにも聞こえた。


 それを合図にしていたかのように、人がひしめき合う路上の直上に黒い穴が口を開けた。



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