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お月様はいつも雨降り  作者: みみつきうさぎ
31/55

第三従一体目

<登場人物>


静寂秋津 (しじまあきつ)

 就活中の大学生、謎の企業から少女の姿をした人型端末『シャン』を贈られる。


シャン

 『月影乙第七発展汎用型』の人型端末


小野なな子 (おのななこ)

 『小町』という別名をもつ美少女コスプレーヤー兼アングラ界のアイドル アキツとは同じゼミ


 シャンはアキツが現場に至るルートを、閉鎖する警官の所在を確かめながら伝えている。


「そこ、右じゃ白い壁の民家の塀をまた乗り越えて」


「大丈夫なのか、こんな場所を通って」


「ここまで来て、上様はたどり着けなくなってもいいのか、上様の命令ならルート検索を止めるが」


「止めなくていい」


「それなら、そこのガレージの屋根を踏み抜かないようにしながら隣のマンションのベランダに飛び移るのじゃ」


アキツは自分のしている行為が不法侵入にあたるのではないかと心配していたが、シャンはすました顔で誘導を続ける。


「もうすぐ、そのイチイの生垣を抜ければ、さっきのなな子がいた映像の場所じゃ」


 アキツがかき分けるようにして生け垣を抜けると、いつもよく見ていた参道の景色とは一変していた。


 なぎ倒された並木の葉の下には、死傷者の黒くなった血だまりが長い参道の石畳を濡らしている。切断された犠牲者の半身はまだいたる所に打ち捨てられままで、この現場から助かりそうな人間を道路に広げたブルーシートに運び出すためには消防署員が駆けずり回っている。

 そして、少し離れた参道の交差点では、機動隊や警官の幾重にも重なった輪の中心で動きを止めた鬼のような面を付けた大きな人形が静止していた。


「流れ弾が来るおそれがある、この場所は危険だ、すぐにここから移動しろ」


「馬鹿言うな、移動しろったって、この数を見てみろ!そのための応援の人数がまったく足りないんだ」


 避難を指示する警官に救助にあたっていた消防署員が抗議の声を上げている。


 アキツはすぐになな子がそこにいないかを確かめようとしたが、血に汚れた多くの負傷者の中から探し出すのは至難の業であった。


「そこの君、動けるか」


「はい」


「運ぶのを手伝ってもらえるか、そこの止血している男性を向こうの通りまで運ぶんだ」


 この状況を間近に見るアキツには担架を手に救いを求める消防署員の願いを無下に断ることはできなかった。


「上様、上手く入り込めたの、負傷者や犠牲者のパーツを照合したけれど、この近くに、なな子はいないようじゃ、運び出された先にいるかもしれないの、その辺はわしに任せておけ」


 アキツは少し安心したが、シャンがパーツと称した石畳の上に転がったままの血まみれの右腕や首を見て、素直に喜べる気持ちにはならなかった。



 交差点を望める商業ビルの屋上ではセミオートマチックの狙撃銃を構えた特殊部隊の隊員が本部指揮官からの狙撃命令を待っていた。


 狙撃隊員の覗き込むスコープの中心に面を付けた大人形の頭部が映っている。その上空に浮かぶ巫女姿の人形には別の複数の隊員が胸部を狙っていた。


 本部に詰めていた現場指揮官は、近くの建造物内に残る避難の状況を確かめた後、躊躇なく発砲許可を下した。


 鬼のような面が破片とともに空中に高く吹き飛んだ瞬間、爆竹がはじけたような音が現場に重なった。


 その様子を一部始終シールド越しに緊張しながら見ていた機動隊員は、狙撃作戦が無事に成功したことを確信した。


「発砲止め」


 巫女姿の人形たちは地面に落下し動きを止めたように見えたが、胸部に大きな穴を空け、頭部を失った大人形の方は倒れもせず、両手には乾いた血に塗られた長剣が握られたままであった。


 狙撃隊員をはじめとする機動隊の誰もが、この痛ましい犠牲者を生じさせた事件がようやく収束に向かうと感じていた。彼らが安堵したその時、周囲のざわめきの中から男性のささやき声が聞こえてきた。


 祝詞のようなその声は首のない大人形から漏れ聞こえてくる。


 取り囲む機動隊員がシールドをしっかりと身構えようとした瞬間、近くの警備車両ごと彼らの千切れた身体が辺りに四散した。


 大人形が自分がまだ動けることを見せつけるかの如く長剣を高々と掲げた。アスファルトの地面に臥せっていた巫女姿の人形も立ち上がり、地面から煙が立ち上るようにフワフワと宙に

 かろうじて生き残った機動隊員らは後ずさるようにして人形との間合いを広げていく。


「!」


 衝撃音に混ざって悲鳴やガラスの割れる音が聞こえてきた。


「シャン、何があった?」


「どうやら客人の使いは再起動したらしいのぅ、天敵が近くから消えたようじゃ」


「こんな時にいなくなったのか?それなら、どうやったらあのデカいの停止できるんだ」


「いなくなったのは、何か別のミッション命令が下ったものと予想する、それとあの使いを停止させるのなら心の器を全破壊するのが一番手っ取り早い」


「壊すったって武器なんて持ってないし」


「犠牲になった勇敢な警官から少し拝借する手も選択肢にはあるぞ」


「馬鹿言うな、そんなことできる訳ないだろ、それ以外には何か、何かできることはないのか」


「あるにはあるけども、それには上様の協力が必要じゃ」


「協力……すればいいんだな」


「うむ、任せておけ、上様がこうして一緒ならわしも頑張る」


 シャンの自信ありげな顔を見たアキツは、五人目の負傷者を救急車両に運び終えると、救急隊員が止めるのも聞かずすぐに現場へ引き返していった。


 ほぼ同時刻、日本政府は自衛隊法八十一条に基づく自衛隊の治安出動命令を承認したのに引き続き、自衛隊法七十六条の防衛出動を承認すべく臨時国会を召集した。


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