第従七体目
<登場人物>
静寂秋津 (しじまあきつ)
就活中の大学生、謎の企業から少女の姿をした人型端末『シャン』を贈られる。
シャン
『月影乙第七発展汎用型』の人型端末
小野なな子 (おのななこ)
『小町』という別名をもつ美少女コスプレーヤー兼アングラ界のアイドル アキツとは同じゼミ
鹿内みやび (しかないみやび)
アキツが救おうとした女子高生
菅原 治 (すがわらおさむ)
陽気な性格で人の心に遠慮なく踏み込んでくる小野なな子親衛隊員 アキツとは同じゼミ
柿本海人 (かきもとかいと)
眼鏡をかけ鋭い観察眼をもった小野なな子親衛隊員 アキツとは同じゼミ
小泉 廉 (こいずみれん)
アキツの小学校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行動している
大椛マサハル (おおなぎまさはる)
アキツの小学校の同級生 レンと活動を共にする
上野カエデ (うえのかえで)
アキツの小学校の同級生 シャンと同型の男性タイプの『月影人形』と共に行動している
播磨ヒロト (はりまひろと)
アキツの小学校の同級生
森脇イツキ (もりわきいつき)
ベンチャー企業『クトネシリカコーポレーション』の代表取締役
長井成美 (ながいしげよし)
公安調査庁公安調査官 連続爆破テロ事件の犯罪組織を追う
木戸浦 淳司 (きどうらあつし)
公安調査庁公安調査官 連続爆破テロ事件の犯罪組織を長井と共に追う
「ようこそ木戸浦さん」
白いシャツを着た青年は、テナントルームの正面ドアの前に立ち爽やかな笑顔で木戸浦を招き入れた。潜入活動とはいってもバイトとしてのかかわりなので、経験の浅い木戸浦にとってもその公務はとても軽く感じていた。
「みなさん、今日から新しいフレンドとなった方を紹介します、この前に立って名前をお話しください」
木戸浦は、自分と同じ背丈ほどもある大きな投映パネルの前に立つよう指示された。
透けたパネルの向こうには白色のテーブルと同一色の液晶パネルが二百台はあろう、それぞれに若者たちが同じ白いシャツを着、VRヘッドセットを付けたまま黙々とタブレットや小型コントローラを操っている。
「木戸浦と言います、これからみなさんと同じ理想を実現したいと思っています」
自分を投映するパネルに、熱い歓迎の言葉が上から下に流れていく。ここのいる者たちが書き込んでいるようだが、どの若者たちも自分の端末から視線を外すことなく黙々と作業を続けている。
「これで入社式は終了しました、事前検査であなたの適性はすべて把握していますので、ニューラルネットワークの園で遊んでもらいながら深層学習構築の補強をしてもらいます、それでは早速、志を同じにするシャツに着替えてもらってから、あなたの遊具へご案内します、ああ、それとこれを……」
木戸浦が青年から手渡されたのは下着に装着する尿受けパッドであった。
「どうしてこれを?」
「不思議に思うでしょう。実は、この遊び、はじめのうちは楽しすぎて、遊具から離れるタイミングを忘れる人がほとんどです、トイレにいくつも予備があるので、不足したら各自で補充してください」
木戸浦は誘われるまま、白シャツに着替えたが、尿パッドは近くのごみ箱に放り入れた。準備を終えると遊具と称される自分の席へ座り、ヘッドセットやコントローラを装着した。
「それでは『月』の世界とシンクロさせます、私たちの理想を実現させる良い旅を」
暗闇から『クトネシリカコーポレーション』の企業ロゴが映画の幕開けのように映り、再び暗闇になった。
「これから様々な景色の中で起こる事象に対し、あなたがどのような対応をとるか、それをあなた自身で決めてください、足元をご覧ください、サバイバルナイフ、拳銃、日本刀、ライフルまでお好きな武器を使用しても結構です、これらの武器は下を向くと、必ず自分の足元に出現するようにしています、装着したい場合は、自分の腰に近付けたら自動的にセットされます、これからのパターンはあなた自身の深層心理で大きく内容が変化します、あなた自身でその答えを見付け出してください」
はじめに広々とした野原で小さな男の子が蝶を追いかけている。蝶を捕まえると笑顔のまま、蝶を二つに引き裂いた。
(何かの心理試験か?)
木戸浦はそう思ったが、特に何もアクションは起こさなかった。
笑っていた男の子は急にひきつった顔になり、野原を奥の方に駆けていった。自分のすぐ横で軍服姿の男が、ライフルを構え、逃げる子を撃った。その子は後頭部から赤い血しぶきをはじかせ花園に倒れ伏した。
兵士は大きな声で笑い、木戸浦の方に身体を向けた。兵士の傍らには、さっきの子と年が同じくらいの女の子が立っている。兵士はその子を突き出すように前に押し出し、銃口で走るように背中を押した。
女の子は両手を顔の前で覆い泣き続けている。兵士は声を荒げ、その子を無理やり走らせた。さっきのようにライフルを構える男。
茫然としてその様子を見ていた方が自然か、何とか止めようとする動作をするのが自然か、または、武器でその兵士、または兵士と同じように逃げる子を撃つか、短い時間の中で木戸浦は人工知能が自身に求めている回答に迫られた。
女の子が十メートルほど離れると静かに振り向き、顔を覆っていた両手をゆっくりと下ろしていく。
「!」
木戸浦はその子の顔を見ると、反射的に狙いを定めている兵士にナイフを投げた。鋭利なその先端は兵士の側頭部に深く刺さり、ライフルを落としながら倒れた兵士の身体は草の上で大きく痙攣した。
(しまった!)
木戸浦は自分が感情的になったことをすぐに後悔した。
立っていた女の子は泣いていたのが演技であったかのように、その表情に満面の笑みをたたえた。
その女の子の顔は、幼くして交通事故で命を落とした木戸浦の妹の顔であった。




