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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 一章 力の芽
12/43

涙の後

お久しぶりです。

退職の手続きやポケモンで時間が取れませんでした!

年末は落ち着けそうなので更新頻度を元に戻していきます

 朝日が差し込み目が覚めた。

 気づけば寝ていたらしい。


 少し怠い体をベッドから起こすとチャリ、と音がした。

 手を見ると二つの銀の板が握られていた。

 寝起きの頭で今に至るまでを遡る。


 両親の名前を知って。

 両親の死の事実を知り。

 それが辛くて泣き喚いて……。


「お、起きたか」

「……おはようございます」


 そう、彼の肩で散々泣いた後、私は寝落ちてしまった様だ。

 つまり、彼が寝落ちた私をここまで運んでくれたということ。

 なんだか申し訳ないし、思い出すと恥ずかしくなってきた。


「なんだ、まだスッキリしないか?」

「いえ、昨日はすいませんでした……」

「なにが?」

「えっと、服濡らしたこととか……」

「気にすんな、すぐ乾いた。朝飯が冷めるから早く降りてこい」


 彼は無愛想にそう言うと返事を待たず降りていった。

 私はまた昨日の事について考えていた。

 私は一応、目的である両親の名前について知れた。

 そして形見も手に入れた。


 ──彼はもう、着いてきてくれないのだろうか。


 そう思うと胸が締め付けられるように痛んだ。




 〇




 少し冷めた朝食を食べながらクロの様子を伺う。

 昨日に比べれば幾ばくかマシになった様だが、まだ表情は暗いままだ。

 こいつがこんなにも落ち込むなんて初めてで、なんて声をかけていいか悩んでしまう。


「……あの」

「んあ?」


 内心、頭を抱えていると向こうから声をかけてきた。


「これからのことなんですけど」

「あぁ、この村での調査はもういいのか?」

「あ、はい。それはいいんですけど……その……」

「よく分からんから、一回落ち着け」

「……私は自分の両親について知れました」

「そうだな」

「つまり、私の目的は達成されたということで……」

「ハッ! まだ墓参りが残ってんだろ」


 鼻で笑い飛ばした。

 確かにクロの両親の名前と形見は手に入れたが、当初の目的は墓参りだ。

 それはまだ終わってない。

 なら、ここで形見を手に入れたから「はい、さようなら」とはいかない。


「墓参りするまで手伝うって言ったろ、約束くらい守らせろ」

「ふふ、そうですね。すいません、忘れてください」


 コーヒーを飲みながら乱暴に言い放つとクロも笑いだしいつもの調子が戻ってきたようだ。

 重苦しい雰囲気はいつの間にか無くなり俺達はいつもの朝食に戻った。

 今日も鬱陶しいくらいよく晴れていた。




 〇




「では村長、私達はこれで失礼します」

「なんじゃ、もう行ってしまうのか……」

「もっとゆっくりして行けばいいのに……」


 俺達が調査に戻ると伝えると村長夫妻は目に見えて落ち込んでしまった。

 少しばかり罪悪感を感じるが王様直々の依頼をサボる訳にも行かない。


「またすぐ来ます」

「……ちゃんとご飯は食べてるの?風邪引いたりしてない?」

「はい、大丈夫です」


 村長奥さんの方は名残惜しくて堪らないのかクロを抱きしめた。

 クロも嬉しさと寂しさが混じった表情で抱きしめ返す。

 暫く経つと互いにゆっくりと離れ、クロは決意を固めた顔をしていた。


「……それじゃあそろそろ行きます」

「元気でね、いつでも帰っておいで」

「はいっ!」


 ──帰っておいで。


 その言葉がとても嬉しかったのだろう、今までで一番元気な返事を聞いた。

 そのまま俺達は村の入口まで見送りに来てくれた村長夫妻、ロベルトに見送られながら村を出た。

 クロは後ろ髪を引かれる思いがあるのか歩くペースが遅い。


「さて、次はどこに行くかな」

「そうですね、次は南に行ってみましょう」

「はいよ」




 〇




 村から近場の街で列車に乗り、南に向かう俺達。

 次の街は海が近く漁業が盛んな港街らしい。

 年中暖かく、冬でも雪は降らないのだとか。

 それはともかく……。


「なんで隣なんだよ」

「いいじゃないですか、減るものでもないですし」


 さっきからやたらご機嫌なクロがずっと隣にいる。

 まぁ、形見を見つけれて嬉しいんだろう。

 首から下げられた二枚の銀は窓から差し込む光を受けて刻まれた名前を示していた。

 それは良いとして、ずっと俺の顔を見つめてくるのはどうにかならないものか。

 気が散って読書に集中できないんだが。


「……おい、なんか変か俺の顔」

「いいえ、いつも通りの気怠げな顔ですよ」

「はっ倒すぞ」


 溜息を漏らしながら本を閉じる。

 対してクロは無邪気な笑顔を浮かべている。

 揶揄われている気がして居心地が悪くなる。


「ありがとうございました」

「はい?」


 そんな俺の内心など知る由もなく礼が飛んできて間抜けな声が出てしまった。

 なんかしたか俺?


「ちゃんとお礼を言ってなかったなぁと思いまして。タケルさんのお陰で両親の形見を見つけられましたから」

「別に、なんもしてねぇだろ」

「そんなことありませんよ。泣いてる私の隣にいてくれました。とても、安心しました」

「そうかよ」

「格好良かったですよ。だから、今だけは頼れって」

「てめぇ、本当にはっ倒すぞ」


 思い返せば恥ずかしいセリフを言ってしまった。少し顔が熱い。

 居心地の悪さに耐えきれずクロから目を逸らし窓枠に頬杖をつく。

 隣から小さく笑い声が聞こえてくるが気にしないことにした。


「はぁぁ……」


 俺はいつもより大きな溜息を零した。

 二度とあんなことしねぇ。




 〇




 港町・メリセアンに着く頃には朝日は昼日に勢いを増し猛暑となっていた。しかも海も近いこともあって蒸し暑いのが余計に辛い。

 港町特有の石レンガの高い建物の日陰を歩きながら思う。

 暑い……。


「暑い……」

「ここは年中こんな気温です……とりあえず宿に行きましょう」

「あぁ……」


 お互い暑さにやられ列車の中のような元気は無くなっていた。

 最近気づいた事だがクロも俺と同じく引きこもりだったのだ。

 冒険者なんてやっていても引きこもりに勢いを増した太陽は天敵であることはどの世界でも共通の様だ。


 宿は駅からかなり近場にあった。

 また相部屋で部屋を取り荷物を纏める。

 いい加減、危機感を持ってほしい。




 〇




 荷物を宿に置き必要なものだけを持ち出し、水着姿になった俺は砂浜でクロを待っていた。

 照りつける日光が俺の肌を焼き、暑さが俺の体力を奪う。

 オマケに汗と潮風で体がベタついて気持ち悪い。

 なぜそんな状況でビーチパラソルを張らされているのか、はたはた疑問である。

 てかこんなもの何処に仕舞ってたんだ?


「あれ、タケルじゃないか」

「んあ?」


 中々刺さらないビーチパラソルに苦戦していると聞いたことのある声がした。

 声がした方向を見ると白髪の男が俺を見て手を振っていた。

 何処で会ったか、思い出すのに少し時間がかかった。


「アルカか、こんなところで会うなんて奇遇だな」

「そうだね、君こそ何をしてるんだい?」

「見ての通り、ビーチパラソルを立ててんのさ。上手く刺さらなくて、な!」


 勢いを付けて砂に刺すと今度こそ立った。

 予想外の重労働と暑さでそれなりに体力を持っていかれたが、それよりもアルカがここにいることの方に気を持っていかれた。


「ふぅ、それで、本当になんでここにいるんだ?」

「仕事の帰りだよ。君はバカンスかい?」

「流石に一人でバカンスはしねぇな。俺は連れと仕事だよ」

「そうか、お邪魔だったかな?」

「んな事ねぇよ。まぁ、座れよ」


 アルカとパラソルの下に入る。

 用意していた水筒を取り出し水を飲むと冷たい水が体内に染み込み暑さを和らげてくれた。

 額の汗も鬱陶しいがタオルはないので袖で拭う。


「王都でもすっかり有名人だよ。ドラゴン討伐なんて凄いね」

「……実はそんなに実感が湧かないんだ。今でも夢心地だ」

「謙遜しなくてもいいじゃないか。君一人の実績じゃないにしても君の力なしには出来なかったことなんだから」

「……そういうことにしとくさ」


 あまり釈然としないが丸め込まれてしまった。

 日差しはさらに勢いを増してビーチパラソルごと焼けてしまいそうになる。

 いい加減この暑さに耐えるのも限界になってきたがクロが来ない。

 どこに行ったんだアイツ……。


「お待たせしました。……そちらの方は知り合いですか?」

「あぁ……どこに行ってたんだお前……。って、水着に着替えてたのか」


 青のビキニ、でいいのだろうか。

 白く健康的な肌を露出させながらも少女らしさを残したデザインは水着の色と相まって魅力的だ。

 パーカーも羽織って日焼け対策もバッチリらしい。

 というか結構鍛えてるんだな、こいつ。


「ふふん、どうですか?」

「はいはい、似合ってる似合ってる」

「……むぅ」


 雑に褒めるとむくれてしまったがまんざらでもない様子だった。

 ちょろい。


「あ、すまんアルカ」

「構わないさ、恋人同士の間に割り込むほど僕も無粋じゃないよ」

「違ぇ」

「違います」

「ははは! 隠さなくてもいいよ。初めまして、僕はアルカ・ハイマー。タケルに暇潰しの相手をしてもらっていたんだ」

「クロ・カトレアです。恋人同士では無いので認識を改めてください」

「全くだ」

「くくっ……ふぅ、それじゃあ僕はこれで失礼するよ。お邪魔だろうからね」

「おい、いい顔してんじゃねぇ!」


 そそくさと荷物をまとめ去っていくアルカ。

 とてもいい顔でサムズアップまでして行ってしまった。

 あいつ、覚えてろよ……。


「……さて、仕事しましょうか」

「……そうだな」


 照りつける日のせいか、随分と気怠い仕事になりそうだ。

メリークリスマス

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