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第八話 落とし物

 物を落としたり拾ったりは誰でも経験したことがあるだろう、財布や定期券など重要な物は落としたことが無い人でもハンカチやボールペンなど普段無意識に使っているような物は一つくらいは落として失った経験があるはずだ。

 落とし物などしたことのない人が大事な物を落としてそれを拾って届けてくれた人が神様に見えたような経験をした人もいるだろう、逆にうっかりを通り越して落とし物の名人のような人もいる。中には落としたことにまったく気付かない人もいる。

 哲也も落とし物をよくするという人を知っている。その人は大事なものを落としたことに気付いてくれた。



 昼食を食べた後、哲也は何処へ行くとなくA棟の建物内をうろうろしていた。


「雨降ってるし、今日は香織さん休みだしな……嶺弥さんは夕方からだし………… 」


 今日は一日中雨だというので外へも行かずに建物内を歩き回っていたのだ。

 ハッキリ言って昼から夕方までが一番暇なのだ。深夜見回りをしている哲也は朝は食事を終えると二度寝したりニュース番組を見て過ごすことが多い、昼にやっている再放送のドラマや芸能ニュースなどには興味がない、毎日のように心理療法やリハビリを受けている他の患者と違って警備員の仕事や香織から頼まれ事をしていない時は暇潰しにぶらぶらしていた。


「再放送の時代劇でも見に行くかな」


 レクリエーション室へ行こうと長い廊下を抜けて階段へと出ると踊場に女がしゃがんでいた。


「どうしたんです? 」


 哲也が声を掛けると女が振り返った。


「貰ったばかりの薬を落としちゃって…… 」


 困り顔で見上げる女は20代半ばといった結構な美人だ。


「薬か……僕も一緒に探しますよ」

「そんな、悪いです」


 哲也の申し出を女が断る。警戒している様子だ。


「いいですよ、どうせ暇ですし、僕は警備員ですから」


 警備員と聞いて女の表情が緩んだ。


「そうなんですか? じゃあお願いします」


 安心した様子で微笑む女の前で哲也の頬が赤くなる。


「僕は中田哲也です。哲也って呼んでください、先生も看護師さんもみんな哲也って呼んでますから……お姉さんは何て呼べばいいですか? 」

「哲也さんですね、わかりました。私は滝川美渚たきがわみなです」

「滝川さんですね、それじゃあ、通ってきた道を戻りながら探しましょうか」

「はい、哲也さんが一緒だと頼もしいわ、私、昨日来たばかりだから」


 頼もしいと言われて哲也の顔が嬉しそうに弛んでいく、


「昨日なら見たことないはずだ。滝川さんみたいに美人なら絶対忘れないからね」

「冗談ばっかり……でも嬉しいわ」


 哲也が持ち上げると滝川が可愛い笑みを見せた。相変わらず哲也は惚れっぽい。


「じゃあ歩いてきた道を戻りながら探しましょう」


 哲也と並んで滝川が歩き出す。


「あっ、あれだ! 」


 トイレ近くの廊下に薬は落ちていた。

 走って行く滝川を後ろから見ていた哲也が目を擦る。滝川の腰の辺りに三つの白い影が纏わり付くのが見えた。


「何だ? 白い玉が…… 」


 ソフトボールの球くらいの大きさだ。

 目を凝らして哲也が見ていると薬を拾う滝川から纏わり付いていた白い影が一つ落ちていく、


「あっ!! 」


 思わず声が出た。白い影と一緒にハンカチがぽたっとリノリウムの床に落ちた。

 ハンカチにしがみついている白い影を見つめる哲也に滝川が声を掛ける。


「どうしたの? 怖い顔して」


 哲也は白い影を凝視していた険しい表情を慌てて緩める。


「いや、別に……って言うかハンカチ落としてるから」


 薬を拾った滝川が哲也の指差すハンカチを見てげんなりとした顔になる。


「あっ……ごめんなさい、私いつもこうなのよ」


 申し訳なさそうに謝りながら滝川がハンカチを拾う、いつの間にか白い影は三つとも見えなくなっていた。


「いつもって? 」


 あの白い影が関係しているのかと哲也が訊いた。


「うん、よく落とし物をするのよ……よくって言うか、毎日いっぱい………… 」


 何とも言えない表情で言い辛そうに話しながら滝川が哲也を見つめた。


「先生はそれも病気だって……それで入院したのよ」

「滝川さんの病気って……あっ、ごめん、言いたくなかったら別にいいよ」


 病名を訊こうとして哲也は慌てて言い直した。親しくなった相手ならともかく初対面で訊くことではない。


「情緒不安定だって若年層の認知症もあって物をよく落とすのもその所為だって……私ね……私、錯乱して暴れて入院したの」

「あの……なんかごめん」


 滝川の悲しそうな顔を見て哲也が謝った。


「別にいいよ、病気だってわかってるから……幽霊が見えるのは病気だって先生も言ってたから………… 」

「幽霊? 」


 先程見た三つの白い影を思い出す。


「うん……私を恨んでるの……私は酷いことをしたから………… 」


 今にも泣き出しそうな悲しげな顔で俯く滝川を見て哲也が自然と話し出す。


「僕も病気なんだ。警備員って言ってるけど本当じゃない、妄想型の統合失調症だってさ、警備員をしてるのも治療の一環なんだ」


 滝川がサッと顔を上げた。


「哲也くんが…… 」


 驚く滝川の向かいで哲也が苦笑いだ。


「なんで入院したのかよくわかってないけどね、患者だよ僕も、心の病気だ」

「そうなんだ…… 」


 若干引き気味の滝川を見て哲也が慌てて続ける。


「でも警備員は真面目にやってるよ、深夜の見回りとか患者同士の争いを止めたりとかさ」


 本物の警備員ではないと知って警戒したのか笑みの消えた滝川に哲也が真剣な表情で続ける。


「それでね、それで、僕も幽霊を見たことがあるんだ」

「哲也さんが? 」


 怪訝な顔で訊く滝川の前で大きく頷いてから哲也が話し出す。


「うん、色々見たよ、怖いのだけじゃなくて優しいのも悲しいのも、色んな患者さんたちに聞いて回ったんだ。だから僕は幽霊を信じてるんだ。先生たちは見間違いだと幻覚だと言うけど、僕はそうは思わない、そりゃこの病院に来てる人たちだ。心の病気を持つ人たちだ。殆どがデタラメで先生の言う通り妄想や幻覚なんだけどさ、でも本当の人たちも居たんだ。その患者さんだけじゃなくて僕が見てるんだ。だから僕は信じてるんだ」


 哲也が神妙な面持ちで訴えるように滝川を見つめた。


「それでね、今も見えたんだ」


 滝川の顔が険しく変わる。


「今もって? 」

「見間違いかも知れないけど滝川さんの周りで三つの白い影が見えたんだ」

「三つ…… 」


 思い当たる節があるのか滝川が口籠もる。


「丸い玉みたいなのが滝川さんのハンカチを落としたんだ。あれは……赤ちゃんみたいだったな」


 どう説明しようかと考えながら自然と出た赤ちゃんだという自分の言葉に成る程と哲也自身が納得した。


「赤ちゃんか……哲也さんが見えたのなら私は病気じゃないって事だわ」


 哲也のことを信じてくれたのか滝川の顔から険が消えた。


「病気かどうかは僕には判断出来ないけど白い影が見えたのは本当だよ」


 弱り顔でこたえる哲也の顔を滝川が覗き込む、


「水子って知ってる? あの子たちは私が捨てた赤ちゃんなの」

「知ってます。生まれて来れなかった赤ちゃんの霊だよね」

「うん、その水子たちが私を恨んでるのよ、化けて出てくるのよ」


 力無く微笑むと滝川が続ける。


「寝ていると赤ちゃんの泣き声が聞こえてもやっとした白いのが纏わり付いてくるの、一目で私が捨てた水子だってわかったわ、3ヶ月程前から出てくるようになって何度謝っても消えないのよ」

「3ヶ月前に堕ろした水子が出てくるんですね」


 相槌を打つ哲也の向かいで滝川が首を振った。


「違うわよ、堕ろしたのはもっと前よ、今まで何もなかったのに今更出てくるなんて……私が悪いのはわかってるわよ、でも仕方無かったのよ、だから謝ってるのに3週間前から私を殺そうとしてきたのよ」


 哲也が顔を顰めた。水子霊のことは本で読んで知っているが殺そうなどとした話しは一度も聞いたことがない。


「殺そうって赤ちゃんが? 」

「寝てると首を絞めてくるのよ、苦しくなって起きても誰も居ないわ、水子が私を殺そうとしてるのよ」

「水子がそんな事をするなんて聞いたことはないけど……水子霊が首を絞めるのを見たんですか? 」


 聞きながら袋から赤子の霊が出てくると怯えていた前田恭子を思い出していた。あの時も母が恋しくて出てきただけだ。恨んでいたかも知れないが母を殺そうなどとはしていない、前田がおかしくなったのは男に裏切られたことと堕胎したことへの慚愧のために心が壊れたのだ。


「苦しくて起きたら消えているから見てないわ、でも水子霊しか考えられないわ、哲也さんの話で落とし物も彼奴らの仕業ってわかったわ、恨んで嫌がらせしているのね、恨まれて当然だけど仕方無いじゃない、産んでも育てられないから仕方無く…… 」


 自分の水子を彼奴呼ばわりだ。とても反省しているとは思えない。

 身勝手だなと思いながら哲也が声を掛ける。


「供養はしたんですか? 」

「 ……初めの子以外はしたわよ」


 言い辛そうにこたえる滝川の向かいで哲也が成る程というように頷く、


「初めの子って……あっ、三つあったな」

「そうよ、三つ、3人よ、仕方無かったのよ」


 自分は悪くないというように話す滝川に興味は薄れていくが水子の話しは気になった。袋から赤子の霊が出てくると怯えていた前田恭子に何もしてやれなかった事が哲也の中で何か引っ掛かっていたのかも知れない。


「事情は知りませんが話しを聞かせてくれませんか? 本物の警備員じゃないけど夜間見回りしているのは本当です。本物の警備員の人たちも認めてくれているんですよ、須賀嶺弥さんって本物の警備員さんは僕を雇いたいって言ってくれるほどですから」

「そうね、哲也さんなら……誰も信じてくれなかったのに信じてくれた哲也さんなら話してもいいわね」


 廊下で話すことではないので滝川の部屋に行くことにした。

 滝川の部屋はA棟の303号室だ。

 部屋に入った哲也が辺りを見回す。滝川の部屋からは何も不穏な気配は感じない。


「適当に座ってね」


 滝川は先程拾った薬を飲むと小さなテーブルの向かいの椅子に座るように促した。

 何か飲み物でも持ってくればよかったかなと思いながら哲也が座る。


「水子が襲ってくるのは親にも警察にもここの先生にも話したけど3人堕ろしたことは誰にも言ってないの、親が知ってるのも2人だけ、哲也さんが3つ見たって言うから本当のことを話すわ」


 これは滝川美渚たきがわみなが教えてくれた話しだ。



 滝川美渚たきがわみな27歳、精神錯乱を起こし情緒不安定が治らないので様子を見るために短期入院という事で磯山病院へ入ってきた。


 滝川は今までに3人堕胎している。一人目は中学生の時だ。初めて付き合った年上の彼との間にできた子だ。気を付けていたのだが毎日のように求めてくる彼に応じていたら妊娠してしまった。正に若気の至りだ。

 妊娠したことを知った彼は逃げた。大学生だと言っていたが働いていたのかも知れない、学校から帰った滝川が彼のマンションへ行くともぬけの空になっていた。

 子供で世間のことを知らない滝川はどうすることも出来ずに一人悩んでいた。その間にもお腹の子は大きくなっていく、数ヶ月してお腹が膨らんでくる。隠し通せ切れなくなって親に話そうとした矢先に腹痛が起こり人の姿になっていない未成熟の赤ちゃんが出てきた。勿論死産だ。

 滝川は赤ちゃんを近くの川に捨てた。悪いとは思ったがどうすることも出来なかったのだ。後悔する反面、誰にもバレなくてほっと安堵していた。


 高校生になり新しく付き合った彼との間でまた妊娠する。彼は同級生だ。二人で悩んだ末に彼は責任を取ると、学校を辞めて働くと言ってくれて互いの両親に話したが彼の親も滝川の親も認めてくれず堕ろすことになった。

 大学生になり一人暮らしを始めた滝川の元へ新しい彼が転がり込んできた。同棲生活をしている内にまた妊娠する。滝川は結婚するつもりだったが彼は逃げた。男運が悪いと、男を見る目がないと思いながら滝川は堕胎する。自暴自棄になったのか2人も3人も同じだと罪悪感は殆ど無かった。


 大学を卒業して社会に出る。働きながら数人の男と付き合ったがどれも長続きしなかった。時が経ち26歳を過ぎると友人たちは次々と結婚していった。

 滝川もそろそろ身を固める相手を探そうと動き出す。30を過ぎる前に2人くらい子供は欲しいと思っていた。


 あるコンパに参加して新しい彼が出来た。口の旨い男に滝川はこの人しかいないと結婚を考えるようになった。だが3ヶ月程付き合って結局別れることになる。

 彼の異常性に気が付いたのだ。やたらと拘束するのだ。仕事の付き合いで飲み会などに行くと親しげに話していた男は誰だと問い詰めてきたり残業で遅くなって上司にタクシーで送って貰った時にはどんな関係だと暴力を振るわれたこともある。行動を全て監視しているように思えて怖くなった滝川が別れ話を持ち出した。

 それが恐怖の始まりだった。別れた男がストーカー行為をするようになった。

 同時に物をよく落とすようになる。ストーカーされて精神が不安定になって忘れ物をするのだと滝川は思っていた。ハンカチに財布に化粧品にスマホに会社の書類などしっかり持っているつもりでも何故か落としてしまうのだ。


「あれ? 無い…… 」


 取引している会社のフロントで滝川がハンドバッグをまさぐっている。財布が無くなっていた。カード類やお金は勿論、先方に渡す名刺も入っている。


「また落としたのかな…… 」


 泣き出しそうな顔で狼狽える滝川の後ろから誰かが声を掛けた。


「あのぅ……これ落としませんでしたか? 」


 サッと振り返った滝川に若い男が財布を差し出した。


「ああっ、私の財布」


 奪い取るように財布を握り締めた滝川を見て若い男が優しい顔で微笑んだ。


「良かった。さっきここに入る前に落としたの見たから」

「あっ、ありがとうございます」


 爽やかに微笑む男に滝川が慌てて頭を下げる。財布を探していて慌てていただけではない、男が結構なイケメンで恥ずかしいところを見られたと慌てたのだ。


 正面の自動ドアが開いて恰幅のいい中年男が入ってくる。


「清水くん、この前のプレゼン良かったよ、その調子で頼むよ」

「おはようございます」


 サッと頭を下げる若い男の横で滝川も慌てて頭を下げた。


「岩下部長、おはようございます」


 お世話になっている部長さんだ。本日も岩下部長を訪ねてきたのだ。

 岩下部長がおはようと言うように軽く手を上げた。


「滝川さんか……なんだ2人とも知り合いかね」


 部下の清水と滝川を見て岩下部長が少し驚いた顔だ。


「いえ、そのぅ…… 」


 言い淀む滝川の隣で清水が笑顔で口を開く、


「はい、今知り合いました。滝川さんって言うのか、清水です。清水直人です。よろしくお願いしますね」

「はっ、ハイ、滝川美渚です。こちらこそよろしくお願いします」


 爽やかに微笑む清水を見て真っ赤になって滝川が頭を下げた。

 出会いは何処に転がっているのかわからないものでこれが縁となって2人は付き合うことになる。



 清水直人と付き合いだして3ヶ月程が経つ、幸せな生活を送るが相変わらず落とし物は治らない、3つ年下の彼におっちょこちょいだなと笑われると少しムッとするが一緒に探してくれる優しい彼に滝川はこの人しかいないと心に決めた。


「私も27歳だしそろそろ決めなくちゃ、直人と結婚したいなぁ~ 子供は2人欲しいなぁ~~ 」


 子供2人と清水直人との幸せな家庭を作ろうと滝川は奮起する。


「その為にも忘れ物や落とし物するのを治さないとな、直人に嫌われないようにしないと…… 」


 以前よりも気を付けるようになって忘れ物や落とし物をする回数は次第に減っていった。

 そんなある日、会社の書類を持って営業に回っていた滝川は見てしまう、


「なっ……なんなの…… 」


 書類を落とさないように気を付けていた滝川は商店のガラスに映る自分の腰の周りに纏わり付く白い靄のようなものに気が付いた。


「あれは何なの? 」


 慌てて自身の腰を見回すが何も居ない、しかしガラスには映っている。

 ガラスに原因があるのかと商店に近付いていく、その時、持っていた書類がファイルごと落ちた。


「ああ……また」


 慌てて書類を拾い鞄に入れようとした手を止めた。ファスナーが閉まっていた。


「何で? 」


 歩いているうちにファスナーの開いたままの鞄が斜めになって入れてある物が落ちることはあるだろう、だが今手にしている鞄はしっかりと閉じたままだ。

 では何故書類が落ちたのだろうか? 鞄に穴など空いてはいない、ファスナーを開けないと取り出すことなど出来ないのだ。

 有り得ない出来事に突っ立ったまま考える。


「どうして? 」


 その目に商店のガラスが映る。先程見えた白い靄のようなものは見えなくなっていた。


「あっ、時間が……こんな事してる場合じゃないわ」


 仕事中だ。気持ちの悪いものを感じたが書類を鞄に仕舞うとその場から逃げるように早足で歩いて行った。



 その日の夜、疲れて帰ってきた滝川は昼間見た白い靄のことやファスナーの閉じた鞄から書類が落ちたことなどすっかり忘れて少し遅い夕食をとった後、テレビを見ながら彼とメールのやりとりをしていた。


「直人、今日も残業かぁ~~ 」


 清水は残業でまだ働いていた。上司である岩下部長に認められて係長になっている。同期では頭一つ分抜けていると張り切っていた。


「今度の休みに会えるからいいか……御両親に挨拶してからデートだ」


 彼とデートの約束を取り付けて上機嫌で布団に潜り込んだ。

 年上の滝川は実家暮らしの清水と直ぐに同棲するのも気が引けて暫く付き合って清水の親にも認められてからにしようと考えていた。今回は失敗するわけにはいかないのだ。


 どれくらい寝ただろうか、何か聞こえたような気がして目を覚ます。


『オギャァァ、オギャァ、オギャギャァアァ』


 何処かから赤子の泣き声が聞こえてきた。


「赤ちゃん? 煩いなぁ~~、泣かすなよな」


 スマホをつけて時間を確認すると深夜の2時半だ。

 横向きに寝ていた滝川が寝返りを打って仰向けになる。


『オギャァ、オギャァ、オギャギャァァ』


 煩いなと思ったその時、痺れたように体が動かなくなる。

 金縛りだ……、焦ってもがくが指一つ動かせない、


『オギャァ、オギャァ』


 泣き声と共にお腹の辺りに重さを感じた。


「しぅぅ…… 」


 息を吸ったのか吐いたのか、引き攣ったような低い悲鳴が出た。

 布団の上、お腹の辺りで白い靄のようなものがグルグルと回っていた。


『オギャア、オギャア、オギャギャアア』


 体は動かないが目玉は動かすことができた。見られていることに気付いたのか白い靄のようなものの声が大きくなった。

 恐怖に目が離せない前で白い靄のようなものがグルグル回る。


「あぁ……赤ちゃん………… 」


 白い靄のようなものは3つあった。自分が堕ろした子の数と同じだ。水子だと気が付いた滝川は恐怖に意識を失った。



 気が付くと夜が明けていた。


「夢か……赤ちゃん」


 寝惚け頭で呟きながら無意識にお腹を摩っていた。


「昼間変なものを見たからかな」


 昨日、商店のガラスに映っていた白い靄のようなものを思い出した。


「少し早いけど起きるか」


 普段より1時間ほど早くベッドから出る。

 顔を洗って歯を磨く、洗面台の鏡に映る自分の腰の辺りに白い靄のようなものが見えた。


「きゃぁあ~~ 」


 悲鳴を上げると歯ブラシを放り投げて後退あとずさる。

 直ぐ後ろの壁にぶつかってよろけた足を踏ん張った。丁度下を向いた格好になり自身の腰には何も居ないのを確認して改めて鏡を見る。


「 ……見間違いか」


 鏡には何も映っていない、安堵して落とした歯ブラシを拾う、歯磨きの途中だ。落とした歯ブラシを洗おうと洗面台に向き直る。


『オギャァァ』


 洗面台の中に人の姿になる前の未成熟の赤ちゃんがいた。


『オギャア、オギャァァ、ギョギャアァ』


 3つ並んで泣いていた。


「いひぃーーっ!! 」


 滝川は仰け反るようにして壁に頭をぶつけるとそのまま気を失った。



 どれくらい経っただろうか? 滝川が目を覚ます。


「痛てて…… 」


 頭を摩りながら起き上がると怖々と洗面台を覗く、何もない、普段と同じ只の洗面台だ。


「見間違いなの? 赤ちゃん……水子供養はしたわよ、今まで何もなかったじゃない」


 呆然と鏡を見つめながらお腹を摩る。


「酷い顔…… 」


 鏡に映る自分の真っ青な顔を見て呟くと洗面所を出て行った。


「もうこんな時間、早起きしてなかったら遅刻だわ」


 菓子パンを野菜ジュースで流し込むようにして食べると化粧をする。


「 ………… 」


 化粧をしているとチラチラと白い靄のようなものが部屋の彼方此方を這っているのが見えた。バッと振り返るが何も居ない。


「赤ちゃん…… 」


 自分が堕ろした水子たちなのは間違いないと思った。確かに自分が悪いのだが仕方無く堕ろしたのだ。川に捨てた初めの一人以外は供養したのだ。

 それが今更祟るというのか? 考えているうちに腹が立ってきた。


「何だって言うのよ! 仕方無かったでしょ? 私も好きで堕ろしたんじゃないわよ、私じゃなく男の方に出なさいよ」


 怒鳴ると気が晴れたのか少し落ち着く、


「 ……まさか、直人と幸せになるのを邪魔するつもりなのかも……もう一度供養しに行った方がいいわね、今度こそ結婚して幸せになるんだから」


 清水と結婚して赤ちゃんを産みたいと考え出したのが原因ではないかと思うと同時に怖くなる。

 手早く化粧を済ませると鞄を持って立ち上がる。


「ちゃんと供養するから恨まないで頂戴、もう出てこないで頂戴、お願いよ」


 誰も居ない部屋に向かって言うと出て行った。



 電車に乗り遅れまいと駅の階段を駆け上がる滝川の股間から何かがずるっと落ちる感覚がした。


「うぅ…… 」


 ヌルッとする気持ち悪さに立ち止まると後ろから声が掛かった。


「あのぅ、落ちましたよ」


 女子高校生が滝川のスマホを差し出した。


「私の……拾ってくれたのね、ありがとう」

「はい、私急ぎますから」


 礼を言う滝川に会釈すると女子高校生は階段を駆け上がっていった。


「私のスマホ……なんで? 」


 鞄に入れてあるスマホが落ちるはずがないのだ。


「この前の書類だって……全部水子がしてるんじゃ? 」


 呆然とスマホを見つめながら商店のガラスに映っていた白い靄のようなものを思い出した。

 電車の発車する音を聞いて正気を取り戻す。スマホを鞄に入れると階段を上っていった。


「あっ? スカートは汚れてないわね」


 次の電車まで時間があるのでトイレに行って股間を確かめる。ヌルッとした何かが落ちたような気がしたのだが何も異常は無い、安心すると電車に乗って会社へと向かった。



 滝川が資料のコピーをとっていると股間からヌルッと何かが落ちる感覚がした。


「あぁ…… 」


 気持ち悪さに身悶えしてスカートを見るが何もない、いつの間にか何かが落ちるような感触も消えていた。


「滝川さんのでしょ? 落ちてたわよ」


 同僚の女が財布を差し出す。


「えっ!? 私のだ。いつの間に落としたんだろ? 」


 慌てる滝川を見て同僚が呆れ顔だ。


「ありがとう、後でジュースでも奢るわ」

「気を付けなきゃダメよ、社内じゃなかったら大変だよ」


 照れるように財布を受け取る滝川に注意すると同僚は仕事に戻っていった。


「全部水子の所為なんじゃ…… 」


 滝川が小さな声で呟いた。

 それ以降、全て水子の所為かと注意しているが股間から何かが落ちる感触が無くとも落とし物は治らない、今日だけでもスマホと財布の他に胸に付けていた社員証や資料といった大事なものからボールペンや消しゴムといったものまで5回以上は落としていた。



 同僚たちから飲み会に行かないかと誘われたが滝川は用事があると言って断った。明日は祭日で休みだ。清水とデートする日である。今日は不摂生をせずに酒も飲まずに早めに寝るのだ。


「服も決めたし、天気も良いみたいだし、絶好のデート日和だ」


 普段より丹念に身体を洗うと早めにベッドに潜り込む、


「ビール飲みたいけど我慢我慢、明日のデートで飲めばいいから」


 たった1日とはいえ、ぐっすりと眠った時と寝不足時では化粧の乗りが全然違うのだ。


『オギャァ、オギャァ』


 どれくらい寝ただろう? 赤子の泣き声で目を覚ます。

 寝返りを打とうとしたが動かない、金縛りだ。


「しぅぅ…… 」

『オギャア、オギャギャア、オギャアァ~~ 』


 お腹の辺りで白い靄のようなものがグルグルと回っていた。


「しぅぅ……ひぅ………… 」


 声にならない空気が漏れたような掠れた悲鳴が出た。

 ごめんなさい、許して……仕方無かったのよ、ごめんなさい……、滝川が心の中で必死に謝る。


『オギャァ、オギャア』


 お腹の上でグルグル回っていた白い靄のようなものがピタッと止まる。

 わかってくれたのかと目だけを動かして見つめる滝川の前で白い靄が溶けるように何かの形になっていく、


『オギャア』


 オタマジャクしかカエルか、人の姿になる前の未成熟の赤子が腹の上にいた。3つだ。滝川が堕ろした赤子たちである。


「しぅぅ…… 」


 掠れた悲鳴を上げる滝川の腹の上を赤子が這っていく、赤子たちは下半身へと這って見えなくなった。

 暫くして太股にヌルッとした感触を感じた。赤子たちであることは直ぐにわかった。

 人の姿になる前の未成熟の赤子たちが滝川の股間へ、ヌルッと入り込もうとした。


「ひぃ……いやぁあぁぁ~~ 」


 恐怖で絶叫しながらガバッと上半身を起こす。


「いやぁあぁ…… 」


 半狂乱になって股間を掻き毟る。赤子たちは消えていた。


「もう嫌ぁぁ……お願い、許してぇ………… 」


 ベッドの隅に座ると震えながら何度も謝った。



 目を覚ますと朝になっていた。いつの間にか眠っていたらしい。


「夢……夢だとしても供養した方がいいわね、直人にも話さなきゃ……直人ならわかってくれるわよね」


 時期を見て清水には水子のことを話そうと思った。本気だからこそ話しておきたいと思ったのだ。

 シャワーを浴びると軽く朝食を食べて化粧をする。気を付けていたが白い靄のようなものは現われなかった。


「謝ったから許してくれたのかな……ごめんね、もう堕ろしたりしないから」


 呟くように謝ると滝川は出掛けていった。



 実家住まいの清水直人の家に行くのは5回目だ。清水は低血圧なのか朝が弱いので朝からのデートは滝川が迎えに行く事が当り前のようになっていた。

 御両親に挨拶をしてからまだ寝ているという清水を起こしに部屋に上がる。


「直人ぉ~、早く起きてよ、映画の時間に遅れるわよ」

「うぅ……あと5分………… 」

「5分も今も同じでしょ、さっさと起きなさい」


 姉のように何かと世話を焼く滝川は清水の両親も気に入ってくれて結婚も視野に入れてくれている様子だ。

 怠そうに起きた清水を引っ張るようにして家を出ていく、既に3ヶ月以上付き合っているのだ。お互いのことはある程度わかっていてデートもスムーズに進む、もちろん2人とも幸せいっぱいである。



 映画を見終わって昼になる。昼食をとった後、次は何処へ行こうかと2人で相談しているとニコニコ笑顔の男が手を上げて近付いてきた。


「よぉ美渚、久し振りだな」

「あいつ…… 」


 顔を強張らせた滝川が清水の腕を引っ張って去ろうとする。


「直人、向こうに行きましょう」

「友達じゃないのか? 」

「違うわあんなヤツ! 」


 滝川の大声に清水が驚く、


「どうしたの? 」

「ごめんなさい、あの人嫌いなのよ」


 取り繕って清水の腕を引っ張って歩き出す滝川を見て男がニヤつきながら口を開く、


「そう嫌がるなよ、前の彼氏に会うのがそんなに嫌か? 」

「何言ってんのよ! 」


 清水の腕を握り締めたまま滝川が振り返って大声だ。

 立ち止まった滝川を見て男がニヤリと下品に笑う、


「そう言うなよ、愛し合った仲だろ? 」

「なっ、何言ってんのよ…… 」


 腕を掴まれた清水に滝川の動揺が伝わってくる。

 前にいる男も滝川の焦りがわかったのか下品な笑みのまま続けた。


「そいつとはもうセックスしたのか? 物足りないなら俺がたっぷり可愛がってやるぜ」

「なっ……なにを………… 」


 焦る滝川を庇うように清水が前に出た。


「お前、前の彼かなんか知らんが変な事言うな! 」


 男がじろっと清水を睨んだ。


「ひへへへっ、変な事? 本当の事だぜ、その女は俺のもんだ」

「何言ってんだ。美渚さん怖がってるだろ」


 清水が睨み返す。男の目に狂気を感じたが引き下がるわけには行かない。


「怖がってる? 思い出して濡れてるんだろうぜ」

「お前なぁ…… 」


 怒った清水の腕を滝川が引っ張った。


「もういいから……早く行きましょ」


 泣き出しそうな滝川を見て清水は男との言い争いを止めて早足で立ち去った。



 疲れたと言って滝川の方からホテルへ行こうと誘った。先程の男の事もあり清水は乗り気ではなかったが誰も居ないところで話をしたいという滝川の気持ちを考えてラブホテルへと入った。


「さっきの男は山田洋次っていうの…… 」


 ソファに並んで座りながら滝川が話を始めた。


 山田洋次とは会社の同僚が誘ってくれたコンパで知り合った。26歳を過ぎて友人たちが次々に結婚していく、焦りもあったのか滝川は口の旨い山田と付き合うようになる。結婚も考えていたが3ヶ月経たずに別れてしまう、山田の異常性に気が付いたからだ。何かと拘束するのだ。挙げ句の果てにストーカーのような真似をしはじめて怖くなった滝川が別れ話を持ち出して一方的に縁を切ったのだ。

 山田は諦めきれなかったのか別れた後も度々姿を見せて本物のストーカーになり付き纏うようになった。困った滝川は警察に相談する。初めは取り合ってくれなかったが毎日のように訴えていると警察はやっと動いてくれて山田に注意をしてくれた。

 山田が姿を見せなくなって2ヶ月ほどして清水と出会ったのだ。


「ごめんなさい……ちゃんと話しておけばよかった」


 泣きながら話してくれた滝川を清水はそっと抱き締めた。


「気にしてないからね、昔は昔だ。ああいう男だから振ったんだろ、美渚は間違ってないよ、全部話してくれたからもういいよ、俺だって今まで3人と付き合ったことあるからさ」

「うん、ありがとう、直人」


 清水の胸に顔を埋めながらこの人についていこうと、必ず一緒になろうと滝川は思った。

 水子のことは話せなかった。ストーカー男だけでなく水子のことなど一度に話せば清水の心が離れかねない、時期を見て話せばきっとわかってくれると考えた。



 ホテルで愛を交わしてお洒落な店で夕食を食べると帰りについた。


「上がっていかないの? 」

「ごめん、明日、会議があるからさ、資料を纏めないと……明後日は早く帰れると思うからその時に寄らせてもらうよ」

「うん、わかった。一緒に夕御飯食べよう、何か作るわ」

「楽しみにしとくよ」


 滝川のマンションの前で清水と別れる。

 上機嫌でエレベーターへ乗ると3階の自分の部屋に向かう、


「何作ろうかなぁ、腕の見せ所だよね」


 嬉しそうに呟きながら鍵を開けて部屋へと入る。


「楽しかったなぁ~、直人優しいし……よしっ、飲もう」


 上着と靴下を脱ぐと冷蔵庫から缶ビールを持ってテレビの前に腰掛けた。


「もう駅に着いたかな? 」


 SNSで繋がろうとスマホを取り出す。

 清水へのメッセージを書いている滝川の後ろに人影が立った。


「美渚ぁ~~ 」


 ストーカー男、山田が後ろから滝川を羽交い締めにした。


「ひぃっ! いやぁっ! やめてぇ~~ 」


 自分の部屋だ。油断していた滝川を押さえ込むのは簡単だ。

 悲鳴を上げてもがく滝川の後ろから耳元で山田が囁く、


「そう嫌がるなよ、ラブホ行ったんだろ? 次は俺が可愛がってやるからよぉ」


 滝川が持っていたスマホで通報しようとした。


「いやっ、誰がお前なんかと……放せ! 警察呼ぶわよ」

「そんな事させるか! 」


 山田が滝川の持つスマホを乱暴に叩き落とした。


「何するのよ!! 訴えてやる! 」

「なんだとぉ~~ 」


 山田が滝川の顔を殴りつけた。


「あうぅ…… 」


 床に倒れ込む滝川の上に山田が乗りかかる。


「お前は俺の女だ……たっぷり可愛がってやるからな」

「いやぁあぁ…… 」


 滝川の胸元を乱暴に開くと山田が涎を垂らした舌を這わせてくる。


「きゃあぁあぁ~~ 」


 マンションから少し離れた所で信号待ちしていた清水に悲鳴が聞こえた。


「美渚か? 」


 聞き覚えのある声色に清水は確認をとるように電話を掛ける。

 暫く待つが滝川は出ない、先程別れたばかりだ。付き合い始めで一番楽しい時期に電話に出ないわけがない。


「美渚!! 」


 全力で清水が駆け出した。



 マンションに着くとエレベーターを待つのももどかしかったのか清水が階段を駆け上がる。


「美渚! 大丈夫か? 」


 清水が駆け付けると悲鳴を聞いたらしい隣の住人も何事かと通路に出てきていた。


「警察に通報頼みます」


 近くに居た住人に頼むと清水が鍵を取り出した。本気で結婚しようと考えていた滝川は清水に部屋の鍵を渡していたのだ。

 鍵を開けて清水が入っていく、


「ひへへっ、お前は俺のだ……俺の女だぁ~~ 」


 滝川の乳房をまさぐっていた山田は清水が入ってきたのにも気が付かない。


「いやぁあぁ…… 」


 押さえ付けられて数度殴られた滝川は抵抗する気力を失っていた。


「てめぇ! 」


 滝川の上にのしかかる山田を清水が思いっ切り蹴り上げた。


「ぐがっ!! 」


 ウシガエルのように呻いて山田が滝川から離れた。


「なっ……直人ぉ~~ 」


 滝川が起き上がって清水に縋り付く、


「もう大丈夫だからね」


 清水は緊張した顔で声を掛けると滝川を庇うように前に出る。


「ぐふぅぅ…… 」


 蹴られた腹を押さえながら山田が清水を睨み付けた。


「お前か…… 」


 山田が近くに置いていた包丁を握り締めた。滝川が抵抗したら刺すつもりだったのかも知れない。


「美渚は俺のだ。俺の女だ…… 」


 ふらりと立ち上がった山田の目が普通じゃない、常軌を逸したギラついた目だ。


「止めろ……そんな事して………… 」

「煩い! 美渚は俺のだぁ~~ 」


 止めろと手を突き出す清水の腹に山田が包丁を突き立てた。


「直人! 」

「逃げろ美渚!! 」


 後ろで叫ぶ滝川に清水は振り向かずに大声だ。


「俺の女だぁ~~ 」


 包丁を抜いてまた切り付けてくる山田の腕を清水が掴む、


「ぐぅぅ…… 」


 腹から血を流しながら清水は必死で山田を押さえ込む、


「こっちです。お巡りさん」


 玄関から隣人の声が聞こえると山田は包丁を振り回しながら逃げ出した。


「大丈夫ですか? 」


 血を流す清水を見て警察が救急車を呼んでくれて滝川も付き添って病院へと向かった。

 痴話喧嘩だとでも思ったのか駆け付けた警察官は2人だけだ。夜の薄暗い闇に紛れて逃げる山田は捕まえることは出来なかった。



 手で頭と胸を守ったことが幸いした。清水の命に別状はない、傷も深くはなく内臓も旨く避けていて1ヶ月ほど安静にしていればいいと診断された。


「ごめんなさい……私が……本当にごめんなさい」


 泣いて謝る滝川をベッドの上から清水が優しく抱き寄せた。


「美渚は悪くないよ、結婚しよう、俺が守るよ」

「あっ……ああぁ……ありがとう……ありがとう………… 」


 嗚咽する滝川の背を清水が優しく撫でてやる。



 1週間が経った。山田は指名手配されたがまだ捕まっていない。

 マンションで一人暮らしは危ないとの事で滝川は清水の家に暫く厄介になることになった。清水の怪我が回復すれば何処かのマンションを借りて同棲する予定である。


「1週間分の服を交換しないと……可愛い下着も持っていこう」


 荷物を取りに自分のマンションへと入っていく、清水の実家は普通の建売住宅だ。高校生の弟と専門学校へ通う妹が居るので余分な部屋は無い、滝川は清水の6畳間に居候している状態である。従って荷物を大量に持ち込むわけにもいかず着替えや化粧品を少し持ってきただけなので必要なものがあれば自分のマンションへ取りに行くようになっていた。


 ドアを開けると玄関から部屋の中の様子を探る。ストーカー男、山田に乱暴されそうになったのだ用心に越したことはない。


「何があれば直ぐに通報して……暴漢スプレーも用意しとこう」


 スマホの電源を入れると反対の手で護身用スプレーの安全装置を外す。唐辛子成分が入っていて吸い込むと目や鼻がやられて暫く悶え苦しむことになる強力なものだ。清水が護身用にと買ってくれたのだ。


「誰も居ないわね」


 自分の部屋だというのに用心しているのがおかしくなってくる。


「えへへっ……私何してるんだろう」


 照れるように笑うと服を取りに奥の部屋へと入る。


「ひぃ! いやあぁあぁ~~ 」


 ベッドの上に血塗れになった山田が横たわっていた。

 部屋中に血が飛び散っている。


「ひぃいやぁあぁぁ~~ 」


 奥の壁を見て滝川が正気を失う、壁には『美渚は俺の女だ。迎えに行くから待っていろ』と血で殴り書きしてあった。

 悲鳴を上げながら部屋を飛び出す滝川を見て誰かが通報したのか直ぐに警察が駆け付け、錯乱した滝川は近くの病院へと搬送された。


 ストーカー男、山田は腹と首を包丁で刺して自殺したらしい、1週間前に滝川を襲って清水を刺して逃げたことはニュースでも取り上げられていた。

 逃げ切れないと思ったのか、自分を振った滝川に当て付けるように部屋に侵入して自殺したのだ。



 乱暴しようとしたとはいえ知っている男が自分の部屋で血に染まって死んでいる凄惨な現場を見たのだ。滝川は精神的に不安定だと診断されて5日ほど近くの病院へ入院することになる。


 夕方、仕事を終えて見舞いに来てくれた清水や御両親には笑顔を見せていた滝川だが夜になってベッドで寝ていると不安が襲ってくる。


「部屋はもうダメね……布団もベッドもタンスもみんな、みんな…… 」


 部屋の修繕費から家具まで、事の経緯を知った山田の両親が全て弁償してくれる事になったがこれからの生活を考えると不安で仕方がない、清水が支えてくれなければ田舎へ帰っていただろう。

 あれこれ考えていたがいつの間にか眠りに落ちていた。


「うぅうう………… 」


 どれくらい寝ただろうか? 苦しさに目を覚ます。


「はぁ、はぁ、はぁ……首を………… 」


 何か言おうとするが直ぐには言葉が出ない、絞められていた感触に首に手を当てる。


『オギャァ、オギャギャァ~~ 』


 赤子の泣き声に身を固くする。

 辺りを探すが何も居ない、泣き声も直ぐに聞こえなくなった。


「赤ちゃんが……水子が私を殺そうとしてるんじゃ………… 」


 寝ている間に水子が首を絞めていたのだと滝川はゾッとした。



 次の日から寝ていると首を絞められて苦しさに目を覚ます。起きると赤子の声が聞こえてくるという事が毎日のように起きた。


「赤ちゃんが……水子が殺そうとする」


 ストーカーのことも全て水子たちがしたのではないかと、堕胎した自分を恨んで幸せになるのを邪魔しているのではないかと考えた。

 先生や看護師に訴えるが精神が不安定になっているだけだと薬を処方されただけで信じてもらえない。

 耐えきれなくなった滝川は清水に全てを話した。清水は全てを受け入れてくれた。


「退院したら供養に行こう、僕も一緒に謝ってあげるから」


 優しい清水に滝川は涙を流して抱き付いた。



 その日の深夜、寝ていた滝川が苦しさに目を覚ます。


「うぅぅ…… 」


 首を絞められながら下半身をまさぐられる。


『お前は俺の女だぁ~~ 』


 ストーカー男、山田の声が聞こえた。

 金縛りに遭って動けない滝川の上に黒い影のようなものが跨ってくる。


『オギャァ、ホギャァアァ、オギャギャアァァ』


 黒い影に纏わり付くように白い靄のようなものが3つ見えた。


『オギャァ、ホギャアァ』


 泣き声と同時に金縛りが解けた。首を絞めていた力も無くなる。


「いやあぁあぁぁ~~ 」


 悲鳴を上げながら滝川が起き上がった。


「ひぃぃ……赤ちゃんが…………あいつらが私を殺しにくる……あいつらがあの男と一緒になって私を………… 」


 喚きながら何かを追い払うように暴れている滝川を看護師たちが取り押さえる。

 その後も度々暴れる滝川に普通の病院ではこれ以上は面倒見切れないと磯山病院を紹介された。ストーカー男が自殺したのを見て一時的に情緒不安定になっているのだろうとの判断で磯山病院は短期入院を受け入れたのだ。


 これが滝川美渚が教えてくれた話しだ。


「ストーカーにあって苛ついてたところに水子でしょ、疲れ切って仕事も辞めて挙げ句に……ストーカー男が私の部屋で死んでパニックになって暫く入院しろってここに入れられたのよ、でも私は病気じゃない、そりゃ精神的に少し疲れてるかも知れないけど精神病じゃない、赤ちゃんが……水子たちが私を殺そうとしてるのよ、ストーカー男を使って首を絞めて殺そうとしてるのよ、供養したのに……仕方無かったのよ、これ以上私に何をしろっていうのよ、そうでしょ? 」


 滝川は全て水子たちの所為だというように忌々しげに付け加えた。


「白い靄のようなものを見たのは確かですけど病気かどうかは僕には何とも言えません」


 予想以上に重い話しに哲也はこたえる術が無い。


「もうこんな時間か……じゃあ夕方の見回りがあるから失礼します。深夜の見回りもしてるから滝川さんの部屋は注意しとくよ」


 哲也は立ち上がると軽く手を上げて挨拶して部屋を後にした。


「でもね、こんな私でも彼は……直人は私を貰ってくれるって、待ってるって言ってくれたの、だから早く治してこんな病院直ぐに出て行くわ」


 出て行く哲也に言ったのか、独り言か、滝川の呟くような声が聞こえてきた。



 深夜3時、哲也はA棟の最上階から下りながら各階を見回っていた。


「4階は異常無しっと、次は滝川さんのいる3階だ……人ってわからないものだな、3人も堕ろしているようには見えないけどな」


 呟きながら3階へと階段を下りていく、水子霊に襲われると言っていたが夜10時の見回りでは何もなかった。


「昼間見た白い靄みたいなのは見間違えかもな……でもなぁ、白い玉みたいなのがハンカチ落としたように見えたんだよな」


 水子霊か何か知らないが見たのは確かだが、滝川は診断通りストーカー被害によって錯乱を起こして情緒不安定になっているだけなのではないかと思い始めていた。


「いやあぁぁ~~ 」


 悲鳴が聞こえて哲也が駆け出す。


「303、滝川さんの部屋だ」


 もう悲鳴は聞こえないが哲也はドアをノックした。


「滝川さん大丈夫ですか? 僕です哲也です」

「てっ、哲也さん助けて」


 滝川の苦しげな声に哲也がドアを開けて入っていく、


「大丈夫ですか? 」


 部屋の明かりを点けると滝川はベッドの上で上半身を起こしていた。


「彼奴らが……水子が首を絞めに来たのよ」


 苦しげに首を擦りながら滝川が言った。


「マジっすか? 」


 哲也が部屋を見回すが白い靄のようなものも何も居なかった。


「本当よ、苦しくて目を開けたら黒い人影が首を絞めてて周りに白い奴らがいたのよ、水子が山田と一緒に私を殺そうとしてるのよ」

「山田ってストーカーして自殺した男ですよね」


 怯えていると思ったがそれ程怖がっていない滝川を見て哲也も一安心だ。


「うん、逆恨みで私を恨んでるのよ、それで水子と一緒になって私を殺そうとしてるのよ、水子は恨まれても仕方無いけどストーカー男はマジで腹が立つわ」


 哲也の顔を見て安心したのか滝川は怯えるというより忌々しげに見えた。


「看護師さん呼びましょうか? 」

「大丈夫よ、もう寝ないで起きてるから、起きてる時には何もしてこないからチラチラ白いのが見えるだけだから、哲也さんが来てくれて助かったわよ」


 心配そうに哲也が声を掛けると滝川は枕元に置いていた雑誌を広げて微笑んだ。


「わかりました。何かあればナースコールを押してください」


 部屋の明かりを点けたまま哲也は出て行った。


「怖さより怒りが勝ってるって感じだな」


 廊下を歩きながら哲也が呟いた。正直言って自業自得じゃないのかと思い始めている。



 見回りを終えた哲也がベッドに潜り込んだ。


「今日も異常無しだ。滝川さんには結婚約束した相手がいるし、香織さんは明日も休みだしつまんないなぁ」


 愚痴りながらいつの間にか眠っていた。


『オギャア、ホギャァァ』


 赤子の声が聞こえて哲也が目を覚ます。

 寝惚け頭で寝返りを打とうとした身体が固まった。金縛りだ。


『ホギャァァ、オギャァアァ』


 布団の上に重みを感じる。足下から泣き声と共に何かが這ってきた。


「くうぅ…… 」


 口から空気が漏れるような呻きが出た。

 仰向けに寝ている胸の上、布団の端に赤い肉の塊が居た。


『オギャアァ、ホギャアァ、オギャギャァァ』


 3ついた。人間の姿になっていない未成熟の赤子が3人並んで哲也を見ていた。勿論未成熟なので目は開いていない、だがじっと見られている視線を感じるのだ。

 固まって動けない哲也と3つの赤子が見つめ合う、


「なん!? 」


 哲也の目から涙が溢れ出す。赤子たちの気持ちが伝わってきた。

 産んで欲しかった。次は産んで欲しい、無事に産んで欲しい、言葉ではないが水子たちがそう願っていると哲也は感じた。

 どれくらい見つめ合っていただろうか? 長く感じたが短かったのかも知れない、哲也が目を覚ます。


「 ……何だ? 夢か? 」


 ガバッと上半身を起こして部屋を見回すが何もいない、時計を見ると午前4時半を少し回っていた。3時の見回りを終えて部屋に帰ってきたのが4時前だ。ベッドに潜ったのが4時10分くらいだったので寝てから30分も経っていない計算だ。


「次は産んで欲しい……無事に産んで欲しい……この子たちは滝川さんを恨んでなんかないんじゃないのか? 」


 哲也が目を擦る。濡れて湿っぽくなっていた。耳の辺りはカピカピだ。流れた涙が乾いたのだろう、夢か何かわからないが水子たちが出てきたのは間違いないと思った。


「もしかして何か教えたいんじゃないのか? 考えろ…… 」


 寝るのも忘れて必死で考える。自分に何か出来ることがあればやってあげたい、袋から出てくると怯えていた前田恭子やドッペルゲンガーの甲斐真由美のように後悔するのは御免だ。


「無事に産んで欲しいって言ってたな……無事に産めないとしたら病気か? 子供が産めない病気の事か」

『オギャアァ』


 独り言を話す哲也の耳に赤子の泣き声が微かに聞こえた。

 水子が返事をしてくれたと思った哲也が優しい声を出す。


「わかった。滝川さんには伝えるよ」


 ベッドに横になる。そのあとは何も無く哲也はぐっすりと眠ることが出来た。



 翌日、哲也がこの事を伝えると滝川は疑いながらも検査を受けてくれた。

 検査の結果、子宮筋腫しきゅうきんしゅが見つかった。


 子宮筋腫しきゅうきんしゅとは子宮壁に発生する腫瘍で良性のものなので命に関わるようなことは余りないが稀にある悪性のものは注意する必要がある。良性でも放置すると大きくなり月経が酷くなる。妊娠しにくくなったり流産しやすくなるので子供の欲しい女性には大変な病気である。対策としては手術で腫瘍を切除するのが一般的だ。

 滝川の場合は早期なので小さく内視鏡手術で完全に除去出来るという事だ。


 精密な検査をして2日後に手術が無事に終った。

 親族でもないのに術後直ぐに哲也が呼ばれた。滝川が先生に頼んだのだ。

 無理しないように少しだけ話しをする。


「ありがとう哲也さん……あの子たちはこれを知らせたかったのね、それなのに私は……酷いことをして………… 」

「わかってくれるよ、滝川さんもわかったんだからさ」


 泣いて悔やむ滝川を慰めると哲也は部屋を出て行った。


「問題はストーカー男だな、滝川さんの幻覚だといいんだけど…… 」


 廊下を歩く哲也が険しい顔で呟いた。



 その日の夜、10時の見回りを終えた哲也は深夜3時の見回りに備えて仮眠する。


『オギャァ、ホギャァァ』


 赤子の声に目を覚ます。


「うぅ……何時だぁ」


 ベッド脇のテーブルに置いてある目覚まし時計は午前2時を指していた。


「あと30分は寝れるじゃないか…… 」

『オギャァ、オギャァ』


 二度寝しようとした耳に赤子の泣き声が微かに聞こえた。


「なん? 」


 部屋を見回すが何もいない。


「何でまた僕のところに……滝川さんか!! 」


 ピンときた哲也はベッドから飛び起きると上着を引っ掛けて部屋を出て行く、


「滝川さん大丈夫ですか! 」


 303号室へ駆け付けドアを叩くが返事がない、


「入りますよ」


 声を掛けて部屋に飛び込む、


「なっ!! 」


 ベッドに眠る滝川の上に人の形をした黒い影が跨っていた。


「ぐうぅ……ふっ、ふぅぅ………… 」


 苦しそうな呻きを上げる滝川の顔に視線を移すと黒い影の両手が首を絞めていた。


『オギャァ、ホギャァァ』


 小さな3つの白い靄のようなものが黒い影に纏わり付く、


『ホギャァアァ』


 手に纏わり付く白い靄を払うように黒い影が滝川の首から手を離す。


 水子は助けようとしてるんじゃないのか? 黒い影を追い払おうとしてるんだ。助けなきゃ! 


「この野郎!! 」


 怒鳴りながら哲也が黒い影に向かって行く、


「滝川さんから離れろ!! 」


 殴る哲也の手に感触があった。幽霊など実体は無いと思っていたが普通に人を殴ったような感触が拳に伝わった。


『おおぉ……俺のだ……美渚は俺の女だぁ…… 』


 黒い人影がくぐもった声を出して哲也に掴み掛かってこようとした。


『オギャァ、ホギャァァ』


 黒い影に白い靄が絡み付く、動きを止めた黒い影に哲也が何度も殴り掛かった。


「何が俺の女だ! 滝川さんはお前のものじゃない、この子たちの……これから生まれてくる子供たちのものだ」


 怒鳴りながら殴りつけて黒い人影を滝川から引き剥がす。

 床に倒れた黒い人影に3つの白い小さな靄が飛び付いた。


『ぐぉおぉ………… 』


 苦しそうな声を出す黒い人影を白い靄が包み込んでいく、


『オギャァ、ホギャァ、オギャギャァ』


 泣き声と共に白い靄が消えていく、包み込まれていた黒い人影も無くなっていた。


「滝川さん! 」


 慌てて確認する。滝川は気を失っているのか目を覚まさない。


「 ……よかった。気を失ってるだけだ」


 体温や呼吸などを確認すると哲也はそっと部屋を出て行く、


「あの子たちが守ってくれたよ」


 優しい顔で呟くと哲也はドアを閉めた。

 苦しむ黒い人影と一緒に消えていった3つの白い靄を見て、哲也は男の霊も水子たちも二度と現われることはないだろうと思った。



 翌日、部屋を訪れた哲也に滝川が涙を浮かべて話を始めた。


「赤ちゃんがね、赤ちゃんたちが夢に出てきたの、ニッコリ笑ってたよ、哲也さんの言う通りだね、あの子たち、病気のことを教えてくれてたんだね」


 昨晩の事は何も知らない様子だ。哲也が駆け付けたことは勿論、黒い人影が首を絞めていたことも白い靄のような水子たちが助けようとしていたことも、何も覚えていない。

 水子たちが夢に現われて優しく笑っていたと嬉しそうに話す滝川の向かいで哲也も笑みを作る。


「 ……そうか、良かったね、優しい赤ちゃんたちだよ、今度はちゃんと産んであげて滝川さんが優しくしてあげなくちゃね」


 水子たちが怖い思いをさせないようにしたのだと考えた哲也は昨晩のことは話さなかった。正直言って自分が必死に戦った事を滝川が知らないのは少し残念だが母を思う水子たちの気持ちを考えれば大した事ではない。


「うん、本当だね、ごめんね……もう二度と堕ろしたりしないからね、直人と結婚して赤ちゃん産んで幸せになるからね、あなたたちのことも忘れないから、ちゃんと供養するからね、本当にありがとうね」


 お腹を摩りながら滝川が涙を流した。


 男の霊と一緒に消えた水子たちは成仏したのだろうか? 男の悪霊を封じるために犠牲になったのではないだろうか? もう二度と水子は作らないと泣いて謝る滝川にはとても話せない。

 それから1週間して滝川は元気に退院して行った。



 水子たちは子供が欲しいと願う母、滝川に子宮筋腫のことを教えたかったのだ。もう二度と水子を作って欲しくなかったのだろう、赤子なので言葉で教えることが出来ずに何かを落として水子のことを思い出してもらい赤子のことに繋げて子宮の病気を教えようとしたのではないだろうか? それでも怯える滝川は気が付かなかった。

 初めは病気のことを教えたくて現われたが男の悪霊が出てきてそれから滝川を守るために水子たちは戦ったのだ。捨てられても、忘れられても、赤子たちは母が恋しかったのだろう、そう思うと哲也は胸が熱くなった。


 命拾いという言葉がある。死んでもおかしくなかった状況なのに奇跡的に助かった時に使う言葉だ。

 滝川は水子たちが恨んで襲ってくると言っていた。だが本当は病気を知らせ、またストーカー男の悪霊から守ってくれたのだ。落とした命である水子たちが母である滝川の命を拾ってくれたのだ。

 忘れていたどころか忌々しいとさえ思っていた水子たち、滝川が落とした赤子たち、とても大事なものなのだが落としてから何十年と経ってやっとその事に気付いたのだ。

 それに気付いた滝川は次こそ幸せになれるだろうと哲也は思った。

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