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第四十五話 苛めた猫

 自身より立場の弱いものに暴力を振るったり、嫌がらせをしたり無視したり仲間はずれにしたりして精神的や身体的に苦痛を与えることを苛めと呼ぶ。

 一対一なら只の喧嘩だと済ますことが出来るが苛めをするような奴は一人ではせずに周りを巻き込んで集団で行うことが多い。

 大勢で行い相手の逃げ場を無くしてもっと苦しめてやりたい、もしくは他人を巻き込んで自分だけではないという言い訳を作りたいのである。卑劣で卑怯な行為だ。


 集団で一人を苛めるのは人間だけだ。群れで生活している狼のボスが気に入らない狼を群れから追い出すようなことはあるがあくまでボスが気に入らないだけで他の狼は知らん顔だ。一緒になって楽しむかのように苛めることなどはない、もちろん一旦群れを抜けた相手には集団で追い払う事はある。自分たちのテリトリーを守る本能だ。

 集団での苛めは知能が発達して心が複雑になった人間だけの弊害なのかもしれない。


 苛め行為は人だけでなく他の動物にも向けられる。他人に苛められた者が更に立場の弱い犬や猫を苛めるなどはよくあるのだ。他のものに当たって心の平静を保っているような人もいるだろう。


 哲也も苛めをしていたという人を知っている。相手は飼い猫だ。切っ掛けは些細なことだった。悪いと反省もしていた。だが嫌なことがあるとつい八つ当たりをしてしまった。小学校低学年で心身の形成が未熟だったと大人になった本人は大いに反省していた。



 朝食を終えた哲也は本館近くの花壇の縁に座っていた。


「どんな人かなぁ~~ 」


 昨日、看護師の早坂と話をしていて新しい患者が入ってくることを聞いたのだ。22歳の女性と聞いて哲也は楽しみで待ち構えているというわけだ。

 本館から看護師の東條香織が出てくるが表門を見つめている哲也は気が付かない。


「哲也くんだ。何してるんだろう? 」


 香織がそっと哲也の後ろに近付いていく、


「可愛いだったらいいのになぁ~~ 」


 しきりと表門を気にしている哲也は香織が直ぐ後ろに居るのに気付かない。


「旨く知り合いになってさ、哲也くん好きですとか何とか…… 」

「すき! 哲也くん隙、隙だらけよ」


 ニヤけ顔で妄想する哲也の両肩を香織がガシッと掴んだ。


「おわぁ~っ!! 」


 叫びながら哲也がビクッと震えて振り返る。


「かっ、かかっ……香織さん」

「おはよう、哲也くん」


 焦って言葉にならない哲也の両肩を掴んだまま香織が満面の笑みを浮かべる。


「こんな所で何してるの? 」

「かおっ、香織さん……おはようございます」


 焦り顔で挨拶を返しながら必死で言い訳を考える。


「別に何も……散歩の途中で疲れたから休んでただけです」


 立ち上がろうとする哲也を肩を掴んだ手に体重を掛けて香織が阻止する。


「もっとゆっくり休めばいいじゃない……それで何が可愛いのかなぁ? 」


 顔を寄せて楽しげに訊く香織に哲也が首を回して必至にこたえる。


「勘弁してください、何処から聞いてたんすか? 」

「可愛い娘だったらいいのになぁ~~から好きですって所まで」

「全部じゃないですか」


 笑顔の香織を見つめる哲也の眉が八の字に下がって弱り切った顔になる。


「うん、だって哲也くん厭らしい顔でニヤついてて全然気付かないから」

「勘弁してください…… 」


 哲也の肩から手を離すと香織がペシッとその頭を叩いた。


「まったく、それで誰に聞いたの? 広瀬さんのこと」


 呆れ顔で訊く香織に哲也が身を乗り出す。


「広瀬さんって言うんすか新しく入ってくる人」

「急に元気になったなぁ……それで今日入ってくるって誰に聞いたの? 」


 仕舞ったというように哲也が表情を固くする。


「べっ、別に……勘です。長年の経験から今日辺り新しい患者さんが………… 」


 話が終らぬ内に香織がバシッと哲也の頭を叩いた。


「そんな事あるわけないでしょ! 誰に聞いたか言いなさい」

「言いません! 情報提供者の秘密は厳守しますから」


 逆ギレしたように言いながら立ち上がると哲也が走り出す。


「こら! 逃げるな! 」


 捕まえようと伸ばした香織の手を避けると哲也は本館の裏手に走って逃げていった。


「まったく……逃げ足だけは速いんだから」


 暫く睨んでいたが香織は本館へと入っていった。


「やべぇ、早坂さんから聞いたってバレるところだったよ」


 本館の建物の影から哲也が様子を覗う、


「誰にも言わないって約束だからな、でないと教えて貰えなくなるからな」


 香織が居ないのを確認すると哲也は本館をぐるっと一周して反対側の花壇の縁へと腰掛けた。


「香織さんに怒られてもこれだけは止めれないよな」


 ニヤけ顔で呟いていると表門から送迎車が入ってくるのが見えた。


「おっ、来た来た」


 車から職員と共に二十歳くらいの女が降りてきた。


「へぇ、ショートカットと言うよりボーイッシュって感じだな、結構良いぞ」


 耳を出した短い髪の女を見て哲也が嬉しそうだ。

 右に気配を感じて哲也がバッと振り返る。


「かお……吃驚したぁ………… 」


 香織かと思って構える哲也の横を看護師が歩いて行く、新しく入った患者の担当だ。


「見たことない看護師さんだな、でも結構美人かも」


 スタスタと歩く女性看護師の後ろ姿を見ながらにやける哲也の頭が左後ろからスパーンっと叩かれた。


「見境無しか!! 」

「あてっ! 」


 座ったまま右斜め前によろける哲也が振り返る。


「いってぇ~~、何す……る………… 」


 怒鳴り声を哲也が飲み込む、左後ろに香織が立っていた。


「何するってこうするのよ! 」


 香織がまた哲也の頭をパァ~~ンっと平手打ちした。冗談ではなく本気で痛い。


「痛てて……痛いですから……止めてください」

「逃げた罰よ! 」

「ごめんなさい」


 本気で怒っている香織を見て哲也が素直に謝った。


「でも誰が教えてくれたかは話せません」


 口の軽い奴だと思われるとこの先話しなど訊けなくなるので此処は引けない。


「どうせ早坂さんか森崎か……そんなとこでしょ」

「あははははっ……そんなとこです? 」


 ボーイッシュな女が職員と看護師と共に歩いてくるのを哲也がちらっと見た。


「それでどんな病気なんです? 」

「聞いてないの? 」

「はい、早坂さんからは若い女の人としか……あっ! 」


 しまったと言葉を止める哲也の前で香織がニヤッと悪い顔だ。


「情報の出所は早坂さんか」

「勘弁してください、怒られるから僕が話したって言わないでください、頼みますから」


 弱り顔の哲也を見て香織が悪い顔のまま頷いた。


「じゃあ、貸しにしておくからね」


 また力仕事かゴミ出しか、手伝わされるなと思いながら哲也が続ける。


「それでどんな病気で入って来たんです? 」

「広瀬さんは病気じゃないわよ……まぁ病気になりかけってところかな」

「なりかけ? 」


 首を傾げる哲也に香織が広瀬のことを教えてくれた。


 広瀬瑠奈ひろせるな、子供の頃に飼っていた猫が化けて出てくると怯え、時には癲癇のような症状を起す。近くの病院で軽度の統合失調症だと診断された。今ならカウンセリング程度で治るだろうと説明されて心配した両親が磯山病院へ短期入院させたのだ。


「なりかけっすか、風邪の引き始めみたいっすね」


 今一理解していない様子の哲也に香織が困り顔で話を始める。


「広瀬さんはまだ心療内科の治療を受けてないのよ、診察しただけ、診察した先生が磯山病院を紹介したのよ、それでカウンセリングだけでどうにかなりそうだって事で短期入院することになったのよ」

「カウンセリングだけで治るんですか? 」

「ちょっとしたことで病気だと決めつけて薬漬けにする医者が多いんだけど池田先生はそういう事しない人だから、カウンセリングでダメなら薬物療法も使うけどね、ここに入ってくる患者さんの中にもカウンセリングだけでどうにかなりそうな人もいたんだけど他で薬使われてて仕方なく薬物療法を続けてる人も多いのよ」

「何となく分かったっす。商売第一って感じの医者っていますよね」


 顔を顰める哲也を見て香織が微笑みながら付け加える。


「広瀬さんの場合はまだ薬を使ってないからカウンセリングから始めるって事ね」


 話をしている脇を広瀬を連れた看護師が通り過ぎていく、哲也とは余り面識のない看護師だ。


「色々あるんすねぇ………… 」


 話しを止めた哲也が通り過ぎていく広瀬と看護師を嬉しそうな顔をして目で追っていく、それをじとーっと軽蔑するように見ながら香織が口を開いた。


「広瀬さんも可愛いけど、あの看護師さんも可愛いなぁ~~、どうにかしてお近付きになりたいなぁ~~、っとか考えてるんでしょ」


 広瀬たちが本館の中へと入ったのを見届けると哲也がサッと振り向いてニヤけ顔をブルッと振った。


「そんな事……考えてないって言ったら嘘になるっす」


 一瞬キリッと真面目な顔を作るが直ぐに崩してニヤけ顔に戻る。


「ほんっとに惚れっぽいわね」


 呆れる香織に哲也がニヤけ顔のまま訊く、


「あの看護師さんは誰っすか? 見ない顔っす」

「兵藤さん? 見なくて当然ね、向こうの病棟だから」


 香織が本館を挟んで向こうに並ぶ病棟を指差した。

 哲也の居るA~E病棟と同じようにF~I病棟が並んでいる。大きな本館と他数棟の建物で区切られているようになっていて哲也は入ったことがない。


「向こうっすか……じゃっ、じゃあ広瀬さんは向こうって事っすか? 」


 並ぶ病棟を見つめていた哲也がバッと振り返った。


「本来ならね、でも工事してるから広瀬さんはD病棟に入るわよ」


 香織が説明してくれた。

 広瀬はカウンセリングが主な治療なので池田先生たちとは別の医者が付く、本来ならA~E病棟ではなくF以降の病棟へ入るのだが壁の塗り替え工事をしているらしく1週間程度の短期入院という事もありこちら側へ回されたのだ。


「そうっすかD病棟っすか…… 」


 哲也が座っていた花壇の縁から腰を上げる。


「んじゃ、そういう事で」


 急に走って逃げ出す哲也を香織が怒鳴りつけた。


「哲也くん!! 」

「借りは今度返しますからぁ~~ 」


 振り向きもせずに病棟の影に入って見えなくなっていく哲也を見て香織が大きな溜息をついた。


「まったくもう……まぁ、今回は哲也くんに任せるかな」

「本当に仕方ないな」


 哲也が座っていた花壇の反対側の縁に総務部長の眞部が腰を掛ける。


「聞いてたのなら話は早いわ、そういう事だから今回何もしないわよ」


 眞部が居るのを知っていたのか香織は振り向きもしない、花壇を挟んでお互い背中合わせだ。


「いいのかい? 捕らえてくれと連絡が来ていたはずだが」


 楽しげに訊く眞部に香織がとぼけ声でこたえる。


「知らないわよ、行き違いじゃない? このところラボからの通達は旨く伝わらないみたいだからね」

「この前、ラボの連中が勝手にやったことを根に持っているのかい? 」

「さぁ? 私は知らないから知らないって言ってるの」

「困ったな、私には報告の義務もあるんだがね」


 少しも困った様子ではない楽しげな口調の眞部に香織が振り返る。


「貴方が捕まえればいいじゃない」


「捕らえるのは簡単だが…… 」


 眞部の顔から笑みが消えた。


「哲也くんの悲しむ顔は見たくないってところね」


 眞部を見据えて香織が続ける。


「それにラボの連中の玩具にするには勿体無いわよ」

「猫か……それについては私も同意だ」


 眞部の何とも言えない複雑な顔を見て香織がニッコリと可愛い笑みを作る。


「じゃあ、何もしなければいいじゃない、私が失敗したって言えば済む事よ」

「香織くん…… 」


 驚きを浮かべた後に眞部が微笑んで立ち上がる。


「私は何も聞かなかったからね」

「どうでもいいわよ、哲也くんのメンタルが心配なだけ」


 本館へと眞部が入っていく、香織はA病棟へと歩いて行った。



 自分の病室へ戻った哲也がテーブル脇の円椅子に腰掛けて一人でニヤけていた。


「広瀬瑠奈さんか……活発というか、ちょっとキツそうな感じだったな」


 ボーイッシュで少しキツい感じのした広瀬を思い出す。


「目付きが香織さんに似てたな、じゃあ間違いなく強気な性格だな……これはちょっと手強いかもな」


 話しの切っ掛けを作ろうと作戦を考える。


「あっ、広瀬さんの病室訊くの忘れてた。まぁD棟ってわかってるから直ぐに見つかるだろ、それにしても猫の幽霊か……どんなのだろ? 」


 可愛い広瀬だけでなく昔飼っていた猫の幽霊に襲われるという話しにも興味津々だ。


「広瀬さんってどんなお菓子が好きなのかなぁ、和菓子より洋菓子だよな、モナカよりラスクの方がいいよな」


 池田先生に貰ったお菓子を並べながら考える。どうにか話しの切っ掛けを作ってお菓子持参で猫の話しを聞くつもりだ。



 夕方の見回りを終えた哲也が食堂へと向かう、


「今日はカレーだ。しかも唐揚げ付きだぞ」


 上機嫌で廊下を歩いていると向かいから広瀬が歩いてくるのが見えた。


「広瀬さんだ…… 」


 声を掛けようか迷っていると広瀬の足下にすっと影が現われるのが見えた。


「猫だ……白黒のハチワレだ」


 うっすらと向こうが透けて見える半透明のハチワレ模様の猫が広瀬の前にいる。

 ハチワレとは模様が顔の真ん中で割れている犬や猫のことを呼ぶ、広瀬の前にいる猫は黒の模様が白地の鼻筋を通すように綺麗に左右に分かれている。


「いやぁあぁ~~ 」


 猫に気付いたのか、広瀬が悲鳴を上げて飛び退くように下がる。次の瞬間、走ってきた男の患者が廊下の壁にぶつかって転んだ。


「なん!? 猫は? 」


 広瀬が飛び退くと同時に猫の姿が見えなくなった。


「痛ててて…… 」


 転んだ患者の呻きを聞いて哲也が慌てて駆け付ける。


「大丈夫ですか? 」


 抱き起こす哲也に男の患者が苦笑いを見せた。


「だっ、大丈夫だ」


 痛そうに腰を摩りながらこたえる患者の前に別の男性患者が怖い顔をして立った。


「まったく、逃げるから罰が当たったんだ」

「えへへ……悪かったよ、謝るからさぁ」


 どうやらふざけあって逃げ出して前を見ていなかった様子だ。


「気をつけてくださいね、廊下は走っちゃダメですよ」


 怪我もしていない様子なので注意だけで済ませると哲也は猫を探した。


「猫は? 見間違いじゃないよな…… 」


 猫はもちろん悲鳴を上げた広瀬も居なかった。


「あれが昔飼っていた猫かな」


 野良猫が院内に入ったのなら大騒ぎだ。だが哲也は騒がない、生きている猫ではないのは一目でわかった。


「後でいいか、それよりカレーだ。唐揚げだ」


 直ぐにでも猫の話しを聞きに行きたいところだが夕食を食べた後では夜の7時を回る。

 朝や昼ならともかく夜に女性の部屋に行くのは気が引けた。第一、看護師にでも見つかったら何を言われるかわからないので明日の朝にでも訊きに行く事にした。



 翌日、朝食を食べ終えてから1時間ほどして哲也は池田先生に貰ったラスクを持って広瀬の部屋へと向かった。


「Dの308号室、担当の看護師さんに見つからないようにしないとな、香織さんもあまり知らないみたいだったし騒ぎになったら迷惑掛けるからな」


 昨晩、深夜の見回りで広瀬の部屋番号は確認してある。

 D病棟へ入ると階段を使って3階へと上がる。


「さてと…… 」


 素知らぬ顔で廊下を歩いて308号室の前を通り過ぎた。


「よしっ、今だ」


 看護師や他の患者の姿が見えないのを確認すると哲也はくるっと戻って308号室のドアをノックした。


「すみません、広瀬さん居ますか? 」


 ドアを開けて広瀬が顔を見せた。


「はい……何でしょうか? 」


 あからさまに怪訝な表情をしている広瀬に哲也が真面目な表情を作って口を開く、


「僕は警備員の中田哲也といいます。今時間ありますか? 話しがあって…… 」

「そういうのいいですから」


 ナンパでもしに来たと思ったのか広瀬が険のある顔でドアを閉めようとした。


「ちょっ、待ってください、違うんです」


 哲也が慌ててドアの縁に手を掛けた。


「止めてください、大声出しますよ」


 ドアを閉めようと力を込める広瀬はもう充分大きな声だ。

 近くの部屋から患者たちが何事かと出てきた。


「違いますから、昨日の猫のことです」


 焦りを浮かべて哲也が言うと必死でドアを閉めようとしていた広瀬の力が抜けた。


「猫って……チマのこと? 」


 驚きを浮かべる広瀬に哲也が弱り顔でこたえる。


「チマかどうか知りませんけど白黒のハチワレです」

「チマだ……何で? 貴方チマを知ってるの? 」

「その話しで来たんです。変なつもりなんて無いですから」

「わかった。御免なさい」


 素直に謝る広瀬の前で哲也が安堵を浮かべて続ける。


「ここじゃなんだから部屋に入ってもいいかな? ダメならロビーにでも行って話そう」

「うん、入って」


 ドアを開ける広瀬に待ってというように手を突き出すと哲也がくるっと振り返った。

 何事かと様子を窺っている患者たちに哲也が大声を出す。


「何でもありませんから、ドアの建て付けが悪いから見てただけですから」


 警備員として見回りをしている哲也の事は殆どの患者が知っているので皆、そんな事かというように部屋に戻っていった。



 広瀬に招かれて部屋へと入る。


「これお菓子、先生に貰ったラスクだから遠慮しないで後で食べてよ」


 ラスクの入った袋を差し出すと広瀬が嬉しそうに受け取った。


「ありがとう、これ高い奴だ。貰ってもいいの? 」

「うん、僕食べないからさ」


 遠慮するといけないと思って哲也が嘘をついた。高級かどうかは知らないが1つ食べて物凄く美味しかったので残り全部を持ってきたのだ。


「座って話しましょう」


 機嫌が良くなったのか広瀬が折り畳み椅子を持ってきてくれた。


「えーっと、もう一度自己紹介するね、僕は中田哲也、警備員をしているんだ。みんなからは哲也って呼ばれてるから広瀬さんも哲也って呼んでくれると嬉しいな」


 姿勢を正して自己紹介する哲也に広瀬がペコッと頭を下げた。


「広瀬瑠奈です。広瀬でも瑠奈でもどっちでも呼んでいいよ、さっきは御免なさい……それでチマのことだけど………… 」

「チマって言うのかあのハチワレ猫」


 独り言のように呟いてから哲也が椅子に座る。


「昔……私が小学校の時まで飼ってたの」


 向かいに座って不安気に見つめる広瀬に哲也が話を始める。


「昨日、食堂へ行こうとしてたら廊下で広瀬さんが居てその前にふわっとチマが出てきたんだ。半透明で向こうが透けてたから只の猫じゃないって直ぐにわかったよ、その後で患者さんが走ってきて廊下で転んで危ないって思ったときにはチマは居なくなってた。それで広瀬さんが悲鳴を上げて逃げていったから気になってさ」

「チマだ……間違いない、本当に見えてたのね」


 驚くと共に怯えを浮かべた顔で広瀬が震える声を出す。


「あの猫、私に襲い掛かろうとしたのよ、だから逃げたの、走ってきた男の人もチマに操られてたのかも知れない、チマは私を恨んでるから…… 」

「チマが広瀬さんを恨んでる? 」


 身を乗り出して哲也が続ける。


「詳しく話してくれませんか? 何で恨まれてるんです? 広瀬さんの力になりたいんです。僕ならどうにか出来るかもしれない、霊現象とか何度も見てるから何か出来るかもしれない、だから話しを聞かせてくれませんか」

「チマが見えたのなら何か出来るかもしれないね、わかった。哲也さんに全部話すわ」


 真剣な表情で話す哲也をじっと見つめて広瀬が頷いた。

 これは広瀬瑠奈ひろせるなさんが教えてくれた話しだ。



 現在都内で一人暮らしをしている広瀬は小学生の頃に猫を飼っていた。白黒のハチワレ模様の雌猫だ。広瀬が生まれる4年ほど前に母が知り合いから子猫を貰ってきたらしい、物心ついたときから居たので猫が居る生活が当り前のようになっていた。

 猫の名前はチマ、餌を食べる姿が独特で警戒しているのか2~3口食べては辺りを見回す。チマチマと食べる様子からチマと母が名付けたらしい。


 広瀬が小学校3年生のときだ。悪戯心を起して餌を食べているチマに手を出した。2~3口食べて辺りを見回している隙に餌を隠してやろうと思ったのだ。

 結果、広瀬はチマに噛まれた。本気で怒ったのか歯形が付いて血が出るほどの怪我をして大泣きしたのを覚えている。

 チマに噛まれたと母に訴えると餌を隠そうとした広瀬が悪いと叱られた。広瀬も自分が悪いのは充分わかっている。だがその日からチマに対する態度が少し変わった。意地悪をするようになったのだ。

 初めは猫じゃらしでポンポン叩いたり、肉球を触られるのを嫌がるチマを押さえ付けて触ったり、遊びの範疇とも言える悪戯だった。


 ある日、学校で嫌なことがあった。級友に悪戯されて派手に悲鳴を上げて驚いたのをみんなに見られて笑われたのだ。

 家に帰ると買い物に行っているのか母は居なかった。走り寄ってくるチマを見て広瀬は悪戯してやろうと思った。

 押さえ付けて肉球を無理矢理触ろうとしたときチマが呻り声を上げて噛みついてきた。


「何するのよ! 」


 怒った広瀬がチマを叩く、遊びでポンポン叩くのではない、全力では無いがバシッと力を入れて叩いた。チマはフギャッと鳴いて逃げていった。それをみて広瀬はスーッと気持ち良さを感じた。



 その日から広瀬は嫌なことがあるとチマを苛めるようになった。

 学校でからかわれたり失敗して笑われたり、母に叱られたり、嫌なことがあるとチマを苛めた。憂さを晴らすためにチマに当たったのだ。

 だがそれ以外は普通に可愛がっていた。八つ当たりして叩いたりボールをぶつけたりした後に悪いと思って母に内緒で猫のおやつの煮干しなどをあげたりもしていた。

 小学3年生だ。まだ人格形成の途中である。心や感情の抑制などが出来なかったのかもしれない、悪いと思う気持ちはあるが溜まった憂さを晴らす手段が分からず飼い猫を苛めるという行動に出てしまったのだろう。


 普段は遊んでやっているが何か嫌なことがあると苛めるという日々が続いた。

 そのうちに広瀬が一人でいるとチマは近付かなくなった。父や母が居るときは普段と変わらずやって来る。広瀬が一人だと嫌なことをしてくると学習したのだろう。


 翌年の夏、チマは急に元気が無くなった。夏の暑さでやられたのだ。

 広瀬は4年生になってからは他に鬱憤を晴らす術を見つけたのかヨロヨロと元気の無くなったチマを憐れに思ったのか苛めるようなことはしなくなっていたがまだ元気だった4月頃までは嫌なことがある度にチマに当たって苛めていた。


 広瀬が小学校5年生になった初夏にチマは死んでしまう、広瀬が生まれる4年ほど前に貰ってきた猫なので彼此15年以上生きたことになる。獣医も寿命だと言った。

 亡くなる10日ほど前、弱って動けなくなったチマに近付くと牙を剥いて唸られた。父や母と一緒に看病しているときにはそんな事はない、広瀬が一人で近付くとチマは怒るのだ。広瀬はチマが恨んでいるのだと思った。チマが死んだとき苛めていたのが怖くなって、心の中でごめんなさいと謝った。



 チマが死んで暫くして広瀬が一人で部屋に居ると階下をトタタと走る音がする。チマが走り回っている音だと直ぐに分かった。父や母が帰ってくるんだと広瀬は思った。チマは父や母が帰ってくるのを察すると部屋中を走り回って喜ぶのだ。


「お母さん帰ってくるな…… 」


 トタタタと部屋を走り回る足音を聞いて広瀬が呟く、


「 !? えっ? 」


 チマは既に死んでいるのを思い出す。


「チマ? 何で…… 」


 怖いと言うより会いたいという思いが先に出て広瀬が腰を上げる。同時に玄関のドアが開く音がした。


「ただいま」


 母が帰ってきた。広瀬はそのまま部屋を出ると階下に下りてリビングを見回した。何も居ない、チマはもちろん足音を立てるようなものは何も無い。


「お母さん、さっきね、足音がしたの、トタタタッってチマが走ってる音が…… 」


 母に話すとチマがまだ居るのかもねと笑った。



 その日の夜、トイレに行こうとした広瀬は廊下で両足を広げてべったりとお腹を付けて眠っているチマを見る。


「チマ…… 」


 廊下の床が冷たいのかエアコンの冷房が付いていないときにチマはよくこうして涼んでいた。


「チマなの? 」

『フゥヴゥ~~ 』


 広瀬が声を掛ける。チマはクイッと頭をもたげて低く唸るとスーッと消えていった。


「チマが……ごめんね、チマごめんね」


 苛めたことをチマが恨んでいるのだと広瀬は怖くなってトイレを済ませると逃げるようにして部屋に戻った。

 その日から同じような事が何度も起きる。走る回る足音を聞いたり姿を見て唸られたり、広瀬はチマの幽霊に恐怖を抱くようになっていった。



 ある日、友人の家に遊びに行こうと荷物を持って部屋を出た広瀬の前にチマが現われた。幽霊とは思えないくらいにハッキリと見えた。


『フゥヴヴゥ……グヴゥウゥ…………フギャヴゥヴゥゥ…… 』


 牙を剥いて今にも飛び掛かってきそうなチマに怯えて広瀬は部屋に戻るとドアを閉めてベッドに潜って震えた。


「許してチマ、ごめんなさい、ごめんなさい、許してチマ、ごめんなさい」


 布団にくるまって何度も謝っていると電話の着信音が鳴り、階下から母の呼ぶ声が聞こえてきた。


「智ちゃんからだ…… 」


 遊びに行く約束をしていた友人からの電話だと広瀬は怖々とベッドから起きた。


「チマごめんなさい」


 ドアを少し開けて辺りを見るがチマの姿は見えない、安堵した広瀬が階段を下りて電話に出る。


「もしもし、智ちゃん」


 約束を破って遊びに行かなかったことを謝ろうとしたとき電話の向こうで友人の大きな声が聞こえた。


瑠奈るな、よかったぁ~~ 」


 安心した息使いまで聞こえてきて広瀬は込み上げてくる笑いを抑えて聞き返す。


「良かったって? 何が? 」

「それがね、近くの道路で事故があってさ、瑠奈が来るの遅いから事故に巻き込まれたんじゃないかって……無事でよかったよ」

「事故? 大変だね、私はちょっと用事が出来ちゃって……悪いんだけど遊ぶのはまた今度にしてくれない」

「うん、わかった。こっちも事故でパトカーとかいっぱい来てるから、また今度にしよう」


 申し訳なさそうに話すと電話の向こうで友達が納得してくれた。


「事故か……嫌なことばかり起ってるような気がする」


 電話を切って2階の自分の部屋へと戻る。階段を上がりながら今にも飛び掛かってきそうなチマの幽霊を思い出す。遊びに行く気分ではない。



 週末、広瀬は友人たちと近くのショッピングモールに遊びに来ていた。

 本屋で立ち読みしたり100円ショップで買い物した後、ジュースでも飲もうとフードコートへ向かおうとしたときチマが現われた。


『フギュゥヴヴゥ……グヴヴゥゥ………… 』

「ちっ、チマ…… 」


 フードコートへ続く通路の真ん中で毛を逆立て牙を剥いて唸るチマを見て広瀬は傍に居た一番仲の良い友人である智の手を取って逃げ出した。


「広瀬ぇ~~、どこ行くのよぅ」


 行き成り走り出した広瀬と智を見て他の級友たちも追っていく、そのとき、後ろで悲鳴が聞こえてきた。

 手を引っ張られてよろけるようにして走っていた智が足を踏ん張って広瀬を止める。


「何なのよ瑠奈! 」

「猫が……チマが襲ってきたのよ」

「猫? 」


 何を言っているのかと怪訝な顔をする智を広瀬が見つめる。


「居たじゃない私たちの前に白黒の猫が……ハチワレ猫のチマが」

「猫なんて居なかったわよ」

「居たじゃない……智ちゃんは見えなかったの? 」


 智には見えていなかったと分かって広瀬は焦った。チマは自分だけを狙っているのだと思った。

 そこへ他の友人たちがやってくる。


「ヤバいよ、何かあったみたい」

「逃げよう! 」


 友人たちだけではない、フードコートにいた客たちが慌てて走ってきていた。


「火事か何かあったのかな? 」


 何やら分からず広瀬たちも逃げ出した。



 後で分かったのだがフードコートで中年男が周りの人々に辺り構わず殴り掛かったらしい、男は警備員や近くに居た男性客たちに直ぐに取り押さえられたので死者は出ていないが買い物に来ていた母娘と友人たちと三人で来ていた中学生の男子が殴られて怪我をしたと夕方のニュースでも放送していた。


 男は何かに操られてやったと証言していたとニュースで聞いて広瀬はチマがやったんだと思った。チマが中年男に取り憑いて暴れたんだと、男の体を借りて自分に仕返ししようとしたんだと怖くなったが苛めていたという負い目もあって父にも母にも相談できなかった。

 いつ襲ってくるかと怯えていたが1週間経ってもチマは出てこない、諦めたのか許してくれたのか、どちらにせよ広瀬はほっと安堵した。



 夏休みもあと僅かとなった8月下旬、最後に泳ぎに行こうと友人たちにプールに誘われた。自転車で家から40分程掛かる隣町にある結構大きなプールだ。普段遊んでいる女子たちだけでなく男子グループも一緒である。


「男子に見られるのはちょっと恥ずかしいかな」


 この夏に買ってまだ3回ほどしか着ていない水着を鞄に詰める。浮かれ気分で用意をして部屋を出て行く、


「ひゅぅぅ…… 」


 喉から声にならない笛を鳴らしたような悲鳴が出た。ドアを開けて直ぐ前にチマがいた。


『フブゥゥヴヴゥ……フギャウゥヴゥ………… 』

「いやぁ~~ 」


 背中の毛を逆立てて牙を剥いて唸りを上げるチマから逃げるように後退あとずさるとそのままドアを閉めて部屋に籠もった。

 チマは部屋の前で暫く唸っていたが3分程して気配は消えた。


「許して……チマ、ごめんなさい」


 チマは許してくれたわけではなかった。まだ自分を狙っていると怖くなった広瀬はプールに行くのを止めて部屋で震えていた。

 暫くして友人の智が迎えに来た。行くのを止めるつもりだったがチマの姿はどこにも見えない、落ち着いたのか智がいるので安心したのか広瀬は家を出た。



 暑い中、友人たちと駄弁りながら自転車を漕いでプールに向かう、20分程して隣町へと入った。広瀬は余り来たことのない場所だ。知らない道路を友人を追うように自転車を走らせる。


「へぇこんな所まで来るの初めてだよ、智ちゃんは来たことあるの? 」

「買い物でパパの車で通ったことは何度もあるけど子供だけで来たのは初めてだよ」


 談笑しながら広瀬と智が一番後ろを走っている。

 先を行く男子たちは大きな道路の交差点で赤信号に捕まって止まっていた。


『フギャゥゥ……フゥヴヴヴゥゥ………… 』


 一番後ろを走っていた広瀬の前にチマが現われた。


「きゃあぁぁ~~ 」


 唸りを上げるチマを見てパニックになった広瀬が自転車ごと転がった。


「瑠奈! 」


 歩道で倒れた広瀬を見て直ぐ傍を走っていた智が慌てて前の信号で止まっている他の友人たちを呼ぶ、


「みんなぁ~~、瑠奈が!! 早く来てぇ~~ 」


 智の大声を聞いて信号待ちをしていた友人が振り返った。広瀬や智の前を走っていた女子たちは直ぐに引き返してくる。


「広瀬大丈夫か? 」

「何転けてんだよ、仕方ないなぁ」

「おい、行くぞ」


 男子たちも歩道で転んでいる広瀬を見て慌てて引き返してきた。


 ドゴォン! ゴガガッ!! 直後、後ろで凄まじい音が鳴る。


「おほぉわぁっ! 」


 一番後ろを引き返してきた男子が吹っ飛ぶように前に転がってきた。


「あぁ……いやぁ………… 」


 転けて肘を擦り剥いた広瀬が言葉を失う。

 大きなワゴン車が交差点の電柱やガードレールにぶつかって止まっていた。事故だ。


「いってぇ~~ 」


 最後尾を引き返してきた男子の自転車もワゴン車に接触したらしい、それで吹っ飛ばされて歩道に転がったのだ。


結城ゆうき、大丈夫か? 」

「飛んでたぞお前」


 心配そうな男子の前で吹っ飛んで転がった男子が起き上がる。


「転けただけだ大丈夫……ああぁ~~、俺の自転車がぁ…… 」


 転んで手足に擦り傷を負ったが幸いな事に男子は無事だ。自転車の後輪辺りをワゴン車が接触したらしい、フレームが曲がって後ろのタイヤが外れて転がっていた。

 交差点では大騒ぎだ。信号待ちをしていた会社員らしき男2人が巻き込まれた様子だ。


 プールどころではなくなり女子たちは家へと帰った。男子たちは一人巻き込まれたのでやってきた警察に話すと事情を訊くので残ってくれと言われてその場に残った。自転車を壊された男子は新品を弁償して貰うと息巻いている。


 家に帰った広瀬は自分の部屋で泣きながら何度も謝った。全てチマの仕業だと思ったのだ。


「チマ、許して……ごめんなさい、もう許して…… 」


 心から謝ったのが通じたのかその後は大人になるまでチマは現われなかった。



 時は過ぎて広瀬が磯山病院へやってくる2週間ほど前だ。

 仕事を終えた広瀬が同僚と夕食を食べて一人暮らしをしているマンションへと帰りについたのが午後の八時頃だ。


『ナァァ~~ン』


 閑静な住宅街の端にあるマンションへと道路を歩いていると猫の鳴き声が聞こえてきた。


「猫か……何処に居るんだろう? 」


 辺りを見回すが猫の姿は見えない、近くの家の中で鳴いたのかと広瀬が歩き出す。5メートルほど歩いた先、駐車場のブロック塀から猫が飛び降りてきた。


『ナァアァ~~ン』


 歩道を歩いていた広瀬の正面で猫が鳴いた。白黒のハチワレ猫だ。


『ニュアァ~~ン、ナナァアァァ~~ン』


 ハチワレ猫と広瀬が見つめ合う、


「ちっ……チマ? 」


 初めはわからなかった。鳴き声と自分をじっと睨む目でわかった。


「チマなの? チマ…… 」

『ナァアァ~~ン』


 こたえるように鳴いた猫を見てチマだと確信した。


「チマ……許して……ごめんなさい」


 青い顔をして謝る広瀬の正面でチマが背中の毛を逆立てる。


『フニャアァァーーッ! フギャギャァアァ~~ 』

「いやっ……いやぁあぁ~~ 」


 牙を剥いて今にも飛び掛かってきそうなチマを見て広瀬が逃げ出した。


『ナァアァァ~~ン、フナァアァ~~ン』


 後ろからチマが追ってくる。

 夜の住宅街、行く先々で先回りするようにチマが出てきて広瀬は必死で逃げ回る。


「ごめんなさい、私が悪かったわ……許してチマ…… 」


 謝りながら逃げ回っているといつの間にかチマの姿は見えなくなった。

 逃げ回っていたのは15分程だろうか、冷や汗と走った疲れで全身汗でぐっしょりとなった広瀬がマンションへと歩き出す。


「何だろう事故かな? 」


 サイレンの音が聞こえてくる。


「火事みたいだ。近くだ」


 パトカーだけでなく消防車や救急車のサイレンが聞こえてきて近くの道路を走っているのがわかった。

 直ぐ近くだと広瀬が歩を速めると夜道からでも分かるくらいの真っ黒な煙が立っているのが見えた。


「あそこって…… 」


 広瀬が走り出す。


「ああぁ……家が…… 」


 広瀬の部屋があるマンションが燃えていた。火事だ。5階建ての3階、広瀬の2つ隣の部屋から真っ黒な煙が上がっている。


「危ないから下がってください! 」


 野次馬が沢山集まっていて警察官の怒鳴り声が聞こえてくる。


「おぉっ! 燃え移ったぞ」


 広瀬の隣りの部屋、窓が割れて真っ黒な煙が吹き出した。


「私の部屋が…… 」


 呆然と見つめる先で自分の部屋からも真っ黒な煙が出てくるのが見えた。


『ナァアァァ~~ン』


 猫の鳴き声が聞こえた。


「チマが……いやぁあぁぁ~~ 」


 チマがやったんだと、火事もチマの所為だと恨んで自分を殺そうとしていると広瀬はパニックになり癲癇を起したのか倒れてしまう、


「大丈夫ですか! おい担架持って来い」


 近くに居た警察官が倒れた広瀬に気付いて救急隊を呼んでくれた。



 広瀬は病院へと運ばれる。心配して見に来た両親にチマのことを全て話した。苛めていたことも恨んで化けて出てくることも全てだ。

 火事のショックだけではないみたいだと心配した両親が医者に相談すると心の病だとして磯山病院を紹介してくれた。


「早い内に治療した方がいい、どんな病気でも早ければ早いほど治るのも早いものです。いまならカウンセリングだけで治るでしょう」


 医者に促されて両親は広瀬に心療内科の治療を受けさせることにした。

 会社には火事のショックで2週間ほど休むと伝えて磯山病院へと短期入院させる事が決まった。

 これが広瀬瑠奈ひろせるなさんが教えてくれた話しだ。



 話を終えた広瀬が青い顔をして向かいに座る哲也を見つめた。


「まだチマは私を恨んでるの……昨日だって私に怪我をさせようとして出てきたのよ」

「襲うようには見えなかったけど…… 」


 何となく違和感を感じて哲也が呟くと向かいで広瀬が声を荒げる。


「ちゃんと話し聞いてた? チマの所為で今までどんなに酷い目に遭ったのか、昨日だって逃げなきゃどうなってたかわからないわよ」

「そっ、そうだね、ごめん…… 」


 下手に怒らせまいと謝る哲也を広瀬がムッとした顔で見つめた。


「もうこんな時間か、僕は警備の仕事があるから」


 壁に掛かっている時計を見て哲也が腰を上げる。


「話しを聞かせてくれてありがとう、何か出来ないか考えてみるよ」


 立ち上がった哲也の腕を広瀬が掴んだ。


「何かって何をしてくれるの? 力になってくれるって言うから全部話したのよ」

「うん、お祓いとかさ、知り合いに詳しい人がいるから話してみるよ」


 お祓いと聞いて広瀬がパッと顔を明るくする。


「お祓い、うん、いいわね、今までしてなかった」

「良いアイデアでしょ、近い内にお祓いしてもらえるように連絡だけは直ぐにしておくからさ」


 取り繕うように話す哲也が眞部にどうにかしてもらおうと思ったのは言うまでもない。

 逃がすまいと捕まえていた哲也の腕を広瀬が握手をするように持ち替える。


「頼んだわよ、哲也さん」

「じゃあ、僕はこれで」


 嬉しそうに微笑む広瀬に哲也も笑顔を作って部屋を出て行った。

 長い廊下を歩いて階段の前で哲也が振り返る。


「苛めていた猫か…… 」


 広瀬の部屋を見つめて呟いた。

 話しを聞く限りでは襲うと言っても唸ったり飛び掛かったりするだけでチマが直接広瀬に怪我をさせるようなことはしていない、本当に恨みがあって襲うのならもっと酷いことをしてもおかしくはない、手の平が襲ってくると怯えた野中佳恵を襲った化け猫のように酷い目にあっていてもおかしくはない、だがチマは姿を見せるだけだ。


「眞部さんに相談してみるか……怒られるかなぁ」


 悩むような難しい顔をして哲也は階段を下りていった。



 昼食を終えた哲也が総務の眞部を訪ねる。とは言っても本館の奥にある総務課には入れない。


「眞部さん居るかなぁ、事務室が1階にあって助かったよ」


 本館の裏に回って辺りに人がいないのを確かめるとそっと窓へと近付いた。


「居た。良かった」


 窓の隅からそっと覗くと奥の机に眞部が居た。


「眞部さん気付いてくれ」


 見つめながら念じていると書類に目を通していた眞部がフッと顔を上げた。


「やった。成功だ」


 眞部と視線が合うと哲也がニッと嬉しそうに笑った。

 陰陽道に通じる眞部なら視線や念を感じとってくれると考えたのが旨く行った。


「あれ? 眞部さん」


 確かに視線は合ったはずだが眞部はまた下を向くと書類の整理を始めた。


「ちょっ、眞部さん、頼みますよ、お願いしますから…… 」


 哲也が必死に見つめていると眞部が書類の束から手を離した。


「まったく…… 」


 実際には聞こえていないが溜息をつく眞部が呟いたのが哲也にはわかった。

 窓の隅から情けない顔で覗いている哲也に軽く手を振ると眞部が部屋から出て行った。


「取り敢えず話しは聞いてくれるみたいだ」


 ほっと安堵すると哲也は窓から離れて正面玄関へと向かう、


「何か用かい? 」


 正面玄関へと向かおうと建物の角を曲がった哲也の後ろから眞部が声を掛けてきた。


「おわっ、眞部さん」

「そんなに驚かなくてもいいだろう、裏口から出ただけだよ」


 驚く哲也を見て眞部が楽しそうに微笑んだ。


「裏口っすか? 何かの点検口かと思ってたっす」


 眞部が指差す先には細い通路があって奥にドアが一つあるだけだ。大きな正面玄関と違い気付かないほど質素な出入り口である。


「それで何の話しだい? これでも結構忙しいんだよ」


 にこやかな眞部を哲也が上目遣いで見つめる。


「すみません、頼みたいことがあって…… 」

「頼み? 何だい? 」


 優しく聞き返す眞部に哲也が思い切って話を切り出す。


「眞部さんってお祓いとか出来ますよね」

「出来るよ、若い頃に一通りの修業はしたからね」

「良かった……それで、あのぅ、お祓いを頼みたいんですけど」


 安堵する哲也の向かいで眞部の顔から笑みが消える。


「まったく……また変な事に首を突っ込んでいるんだね」

「えへへ……新しく入ってきた広瀬さんが猫の霊が出てくるからお祓いして欲しいって頼まれて」


 おべっか笑いする哲也の前で眞部が少し考えてから口を開いた。


「ああ、広瀬瑠奈さんか、うん、飼い猫の霊が憑いているね」

「知ってるなら…… 」


 話は早いと切り出す哲也の言葉を眞部が遮る。


「ダメだよ、あの猫は悪いものじゃない、お祓いなどする必要はないよ」

「やっぱり……僕も猫は悪くないって思ってました」


 哲也は嬉しそうにパッと顔を明るくするが直ぐにお祓いをすると約束したことを思い出して眞部を見つめた。


「形だけでもいいんで…… 」

「それこそお断りだよ、私に道化をさせる気かい、哲也くん」


 眞部が正面から哲也を見据えた。


「そんなつもりは……御免なさい」


 眞部には何度も助けられているのだ。その力は充分知っている。そこらの詐欺霊能者の真似をさせるのと同じだと気付いて哲也が謝った。

 項垂れて謝る哲也を見て眞部の顔に笑みが戻る。


「大丈夫だよ、お祓いなどしなくても、広瀬さんは大丈夫だ」

「眞部さんが言うなら安心です。変な相談してすみませんでした」


 ペコッと頭を下げて哲也が歩いて行った。


「道化か……言えた立場じゃないな」


 寂しげに呟くと眞部は細い通路を通って裏口から戻っていった。



 翌日、朝食を終えて散歩をしていた哲也の元へ広瀬が駆け寄る。


「おはよう、哲也さん」

「広瀬さん、おはよう」


 笑顔の広瀬が哲也の腕を引っ張った。


「それでお祓いはどうなったの? 頼んでくれたんでしょ? 」

「えっ、あぁ……うん、話しはしておいたよ」


 歯切れ悪くこたえる哲也の前で広瀬が嬉しそうに続ける。


「本当、良かったぁ、それでいつお祓いしてくれるの? 」

「それは……今忙しいみたいでさ、もう少し掛かるって…… 」


 広瀬の顔から笑みが消える。


「もう少しっていつまでなの? 何日掛かるの? 」

「それは……いっ、1週間の内には………… 」


 誤魔化そうとして嘘をついた哲也をじっと見つめて広瀬が頷いた。


「1週間、7日ね、わかったわ」

「うっ、うん…… 」

「じゃあ、約束だからね」


 弱った顔で頷く哲也の頬に広瀬がチュッとキスをした。


「約束だからね、哲也さんのこと信じてるからね」


 ニッコリと笑うと広瀬は病棟へと駆けていった。


「約束か…… 」


 キスされた頬に手を当てて呟く哲也の顔は弱り切っていた。可愛い女の子にキスをされても嬉しくないのは初めてだ。



 2日後、昼食を終えた哲也がD病棟へと入っていく、


「やっぱ、お祓いできないってハッキリ言おう」


 この2日間、色々考えた。仲の良い患者に霊能力者の真似をして貰おうとか、嶺弥や早坂に頼んで御札でも買ってきて貰ってお祓いは出来なくなったがこの御札があれば大丈夫だと言って誤魔化そうかなど色々考えたが最終的に本当の事を言って謝ろうと思ったのだ。


「眞部さんも大丈夫って言ってた。だから嘘はつきたくない」


 広瀬に対してもだが眞部を裏切るような気がして全て話すことにしたのだ。霊能力を持っている眞部が大丈夫と言った事も全て話す。信じないなら実際に眞部に会って貰おうと考えた。


「でも緊張するなぁ…… 」


 廊下を歩いていると何やら言い合う声が聞こえてくる。


「バカじゃないの、幽霊なんているわけないでしょ」

「いるわよ、何度も襲われてるのよ」

「化け猫だって、バカじゃないの」


 女の声だ。言い争っている一人に聞き覚えがある。


「広瀬さんだ」


 走り出そうとした哲也の前にふわっと何かが現われた。


『ナァァ~~ン』


 白黒の猫だ。鼻の上で黒が2つに分かれている。白い鼻筋の通ったハチワレ猫だ。


「チマ? チマか? 」

『ナァァ~ン』


 返事をするように鳴くとチマが走り出す。


「チマ…… 」


 哲也が追い掛けて階段の下へと出る。


「いるわよ、チマが私を…… 」

「危ない!! 」


 哲也が階段を駆け上がる。上で広瀬がよろけるようにして倒れてきた。

 足を滑らし、よろけて倒れ込む広瀬を哲也が抱き留めた。


「くぅぅ! 」


 前屈みになって必死で抱き留める右足の脛が階段の角に当たって哲也が呻きを漏らす。


「広瀬さん、大丈夫ですか」

「あっ、ありがとう」


 足の痛みも忘れて訊く哲也に広瀬が真っ青な顔で礼を言った。


『ナァァ~~ン』


 チマの鳴き声が聞こえた。広瀬にも聞こえたらしく、哲也にしがみつく、階段の下にチマが居た。


『ニュァアァ~~ン』


 嬉しそうに鳴くとチマはすっと消えた。


「チマ…… 」


 2人の口から同時に出た。広瀬は怯えを浮かべて、哲也は微笑んでいた。

 しがみつく広瀬を哲也が支えるようにして立たせた。


「チマが……またチマが…… 」

「大丈夫だよ、取り敢えず部屋に戻ろう」


 階段の下にチマが居たと怯える広瀬を部屋に送ると哲也が話し掛ける。


「守ってくれたんだよ、襲ってなんかいない、チマは広瀬さんを守っているんだ」

「何言ってるの? ショッピングモールも交通事故も全部チマが…… 」


 顔を強張らせて話す広瀬の手を哲也が握り締める。


「全部チマが助けてくれたんだよ、だから広瀬さんも友達も……自転車で転んだ男の子は少し怪我をしたけど、他の人は全員無事だったろ、火事の時も、そのまま帰っていたら広瀬さんは火事に巻き込まれてた。チマが危険を知らせてくれたんだ」

「チマが…… 」


 信じられないという様子で首を振る広瀬に哲也が続ける。


「そうだよ、さっき階段から落ちそうになったときにチマが現われたんだよ」


 自分の前にチマが現われて直ぐ横の階段まで導いてくれた事を説明した。


「押されたの……喧嘩してた女に突き落とされたの……哲也さんが助けてくれたのよ」

「突き落とされた? 」


 話しを聞いて哲也が顔を顰める。本当なら大問題だ。


「あれこれ訊いてきたからチマのことを言ったら喧嘩になって……腹が立ったから部屋に戻ろうとしたら後ろから押されたの……それを哲也さんが助けてくれたのよ」

「僕じゃない、チマが助けてくれたんだよ、チマが教えてくれなければ僕は間に合わなかった。広瀬さんは階段から落ちて怪我をしてたよ、下手をしたら頭を打って死んでいたかも知れない」


 泣き出しそうな広瀬に哲也が真剣な表情で話し掛けた。階段から突き落とした患者の事は後にするとして今は広瀬が心配だ。


「チマが……助けてくれた…………じゃあ、今までのも全部………… 」

「そうだよ、広瀬さんの勘違いだ。チマは襲ってなんかいない、守ってくれてたんだよ」


 哲也の見つめる先で広瀬の目から涙が溢れて流れ出す。


「でも……だって、だって私はチマを苛めていたのよ」

「うん、それは僕もわからない、けどチマは広瀬さんを好きだったんじゃないかな、広瀬さんが赤ちゃんの頃から見守ってたんじゃないかな」


 なんとなく思っていたことを口にした後で哲也も自分が言ったことは間違いではないと思った。


「チマが守ってくれてた……ずっと守ってくれてた………… 」


 ボロボロ涙を流す広瀬を見て哲也が優しい顔で頷いた。


「じゃあ、僕は行くよ、広瀬さんを押した患者を注意しなきゃ」

「ありがとう哲也さん」


 哲也がそっと部屋を出て行く、


「ごめんねチマ……ごめんなさい…………私が全部悪かったわ、チマ…… 」


 ドアの向こうで広瀬の声が聞こえてくる。

 眞部が言った大丈夫とはこの事かと哲也は笑顔で廊下を歩いて行った。


 広瀬は足を少し捻っただけで済んだ。哲也の右足の脛には青痣が出来ている。正直物凄く痛かったが広瀬を助けることが出来たのなら安いものだ。

 突き落とそうとした女性患者は厳重注意を受け、次に同じような事をすれば危害を加える危険人物として隔離病棟送りになるとのことで哲也も納得した。



 その日の夜、寝ていた広瀬が頬に違和感を感じて目を覚ます。

 枕元にチマが居た。頬を舐めて起したのだ。チマがゴロゴロと喉を鳴らす。ベッドの上で上半身を起して広瀬が謝るとチマが胸に飛び込んできた。

 ゴロゴロ喉を鳴らして甘えてくるチマを広瀬は抱き締めた。チマは怒ってなんかいない、それが分かると自然に涙が溢れ出した。

 チマを抱きながら一緒に眠った。猫じゃらしで遊んだり追い駆けっこをする夢を見た。いや全てが夢だったのかも知れない。

 目を覚ますとチマは居なかった。広瀬はチマに礼を言い、また詫びた。そして犬や猫、他の動物も二度と苛めたりしないと誓った。


 恨んでいるのではなくチマは守ってくれているのだとわかった広瀬はみるみる良くなっていって元気に退院して行った。


「チマがね、チマが許してくれたの……チマは怒ってなかった。私を守ってくれてた……チマは優しかったよ」


 嬉しそうに話す広瀬を見て哲也も幸せな気持ちになった。


「良かったね、チマのためにも頑張らないとね」

「うん、哲也さん、ありがとう」


 はにかむように笑うと広瀬は迎えに来た両親と一緒に帰っていった。


「ふぅーっ、本当に良かった」


 一時はどうなることやらと心配したが元気に退院して行った広瀬を見送って哲也が安堵の溜息をついた。

 気を緩めた哲也の背を香織が突っついた。


「おわっ! なんだ香織さんか」

「何だとは何よ」


 驚いて振り向いた哲也を睨んだ後で香織がニッと意地悪に笑う、


「珍しく手を出さなかったじゃない」

「ちょっ、何言ってんすか? 誤解されるようなこと言わないで欲しいっす」


 焦る哲也に意地悪顔の香織が続ける。


「何言ってんの、広瀬さんは元より看護師の兵藤さんにもニヤけ顔してた癖に」

「いや、それは……そんなんじゃないですから」


 哲也は必死で言い訳を考えるが良いアイデアが思い浮かばない。


「でもさ、広瀬さん、あの様子だったらもっと仲良くなれたんじゃない? 」

「だぁかぁらぁ~~、そんなんじゃないって言ってるっす。第一僕には香織さんという恋人がいるっす」


 チマが守っているのだ。迂闊に手など出せないなどとは口が裂けても言えずに哲也は誤魔化した。


「誰が恋人だ! 」


 パシッと音を立てて香織の平手が哲也の頭に直撃した。


「いってぇ~~、香織さんって絶対鬼嫁になるっす」

「何ですってぇ~~ 」


 もう一度叩こうと手を上げる香織から哲也が逃げ出す。


「こらっ! 待ちなさい」

「鬼嫁じゃなきゃ鬼看護師っす」

「覚えてなさい! 」


 A病棟へと逃げ帰る哲也の背に香織が怖い顔で言葉を投げ付けた。



 後日、広瀬から手紙が届いた。

 実家からチマの写真を送ってもらって枕元に飾っているという、起きたときや寝る前に話し掛けているのだ。嬉しいことがあったときはもちろん、悲しいことや嫌なことがあったときなどチマに話し掛けると少し楽になった。あれからチマは姿を見せない、だが今でも守ってくれていると信じている。そう書いてあった。


「忠犬はよく聞くけど忠猫ってのは珍しいよな」


 誰も居ない部屋の中で一人ニヤニヤしながら手紙を読んだ。


「眞部さんにお祓いできないって言われたときはどうしようかと思ったけどな」


 広瀬からの手紙を哲也は大切な物を入れている缶の中へと仕舞った。


「久し振りにアニマルセラピーの猫でも触りに行くかな……世良さんにケージの掃除とか手伝わされそうだけどな」


 ベッドにゴロッと横になる。良い夢が見れそうな気がしてそのまま目を閉じた。


 犬や猫は敏感に人の感情を察知する。飼い主が怒っているときには近寄ってこなかったり機嫌を取るように甘えてきたりする。チマは広瀬が嫌なことがあって八つ当たりをしていることが分かっていたのかも知れない、普段は優しくしてくれる広瀬が本気で嫌いではないと分かっていたのだろう、広瀬が生まれる前から家に居たのだ。母親のように思っていたのかも知れない、それで守ってくれたのだろう、哲也はそう思った。


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