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第二十二話 幽霊屋敷

 人を初めとして生き物の中には巣を作るものがいる。巣とは鳥や獣や虫などが中に入って住むために作った場所のことだ。雨風を防ぐのはもちろん外敵から身を隠すために作られることが多い、安心して眠り少しでも気を緩めることが出来る場所が巣なのだ。

 人間の巣と言えば家を指す。もっと範囲を狭めると自分の部屋という事になる。他人の干渉を受けずリラックスして過せる唯一の場所だという人もいるだろう。


 家を買って一国一城の主になって一人前だと無理してローンを組んで買う人たちは今でも多い、掃いて捨てるように金を持っている人はともかく、普通に働いている人は一生のうちに一つ買うのが精一杯だろう、貸し出すならともかく二軒も三軒も持っていても仕方のないものでもあるが、そうして買った家で長い時を過ごし思い出を刻んでいく、それが積もって愛着や執着が生まれる。

 其れ故、建物に纏わる怪異は多い、建っている場所が悪く怪しいものが毎晩のように出てくる家、以前の住人が死んだのに気付かずに幽霊となって毎日のように帰ってくる家、住んだ人が必ず病気になって死んでしまう家、そのような曰く付きの家は何処にでも転がっているものだ。


 哲也も曰く付きの家の話しを聞いたことがある。場所も日当たりも良いのに幽霊屋敷と噂されて誰も近付かない家だ。もっとも話しをしてくれた本人は哲也以上にオカルトマニアだったので話半分だと思っている。



 昼食後、哲也は何をするでもなく病院の敷地をぐるっと回る遊歩道をぶらぶらと歩いていた。


「暇だなぁ~~、香織さんと早坂さんは研修でいないし、嶺弥さんは夜まで来ないし」


 立ち止まると哲也は両腕をじっと見つめた。


「世良さんのところは猫が発情期で煩いし……引っ掻かれるし……世良さんに引っ掻かれるんだったら毎日でも行くんだけど………… 」


 看護師の香織と早坂は研修で昨日から休みだ。暇を持て余した昨日はアニマルセラピーを担当している臨床心理士である世良静香のところへ遊びに行って大変な目に遭った。

 磯山病院でセラピーに使っている犬猫は去勢してあるので発情することは殆ど無い、だが例外はどこにでもあるもので去勢していても発情期になると騒ぎ出す犬猫はいるのだ。その暴れる猫の相手をさせられて哲也の両手は引っ掻き傷だらけになっていた。


「世良さんは笑顔で猛獣の檻に奴隷を放り込むタイプだからな、美人だけど……美人だよなぁ……知的なお姉様って好きだなぁ~~ 」


 くるっと回れ右をしてアニマルセラピーのあるE棟へと向かおうとした哲也がその場で動きを止める。


「佐藤さんだ…… 」


 看護師の佐藤が患者と並んで歩いているのが見えた。


「何かあれば佐藤さんに相談しなさいって言ってたけど無理、絶対無理、近付くのも無理……佐藤さん怖い顔してるもん」


 研修で休むと告げられた時に香織が言っていたことを思い出して哲也が呟くように独り言だ。

 如何にも体育会系といった筋肉隆々の大柄にいつもムスッとした厳つい顔の佐藤は哲也が尤も苦手とする看護師だ。だが同時に信頼も置いている。暴れる患者を何度か一緒に取り押さえたことがあるのだ。その時の手際のよさは流石だと哲也も認めている。

 本来なら隔離病棟勤務となるはずだったのだがどういうわけか此方に回されてきたらしい、ビビっているのは哲也だけでない、騒いでいても佐藤が一喝すれば直ぐに収まるほどに他の患者たちも恐れている。



 遊歩道の影に隠れるようにして見ている哲也の前で佐藤の隣りに並んだ患者が何やら話し掛けていた。


「ねぇねぇ佐藤さん、この病院には怪談とか無いの? 昭和の初めからある病院なんでしょ、怖い話しの10や20あるでしょ? 」


 軽い口調で話し掛けているのは20歳後半といった様子の小柄の男だ。


「ねぇねぇ佐藤さぁん」


 振り向きもしないでムスッと前を向いて歩く佐藤の手を男が引っ張った。


「そんなものは無い、お化けなどいるか」


 佐藤は一喝すると男の手を振り解いた。たいがいの患者はビビって声など掛けられなくなるほどに迫力がある。


「またまたぁ~、山奥の歴史ある病院に怪談の一つも無いわけないじゃないですかぁ」


 小柄の男は臆した様子もなく佐藤の背をペシペシと叩きはじめた。


「お化けなど全部見間違いだ。俺は忙しいんだ」


 鬱陶しそうに手を払う佐藤に男が食い下がる。


「一寸だけでいいから教えてくださいよぉ~、誰にも話しませんから…… 」

「お化けなどいるか! ついてくるな、仕事の邪魔しやがったら問題ありとして報告するからな」


 怖い顔で一喝すると佐藤が早足で歩き出す。


「報告は困るな…… 」


 あれ程しつこかった男が立ち止まって呟いた。


「凄ぇ! 佐藤さんを追い払うなんて何者だ? 怖い話しとか好きそうみたいだし挨拶しとくか」


 ぱぁ~っと顔を明るくした哲也が男に駆け寄っていく、


「はっ、初めまして、僕は中田哲也っていいます。警備員やってます。哲也って呼んでください」


 息を切らせて話し掛ける哲也の前で男もパッと顔を明るくした。


「警備員? この病院長いの? 」

「いえ、まだ1年ほどなんですけど…… 」


 話の途中で男ががっかりするのがわかって哲也が慌てて続ける。


「怖い話しはいっぱい知ってますよ、岩田さんって幽霊の話しとか河童の話しとか……岩田さんっていうのはこの病院に伝わっている幽霊話です。河童の話しは患者さんから聞きました。他にもいっぱい知ってますよ」


 男の顔に笑みが広がる。


「マジ? やっぱし病院の怪談あるんじゃん、佐藤さん嘘ばっかりついて…… 」

「佐藤さんはダメっす。あの人冗談利かないっすよ」


 哲也が顔の前で『ダメ』というように手を振った。


「それで……えーっと、何て呼べばいいかな? 名前教えてください」


 話を続けようとして哲也が訊くと男が慌ててこたえる。


「あぁ……これは悪かった。自分は北見徹也きたみてつやって警備員さんも哲也って名前だったよね」

「はい、中田哲也です。みんなから哲也って呼ばれてます」

「そっか、じゃあ哲也くんって呼ぶから自分のことは北見って呼んでくれ」


 北見は自身の事を自分と呼ぶタイプらしい。


「それで怖い話しなんだけど…… 」


 待ちきれないといった様子の北見の向かいで哲也が辺りを見回した。


「部屋で話しましょう、ここじゃ邪魔が入るっす。佐藤さんに見つかったら下らない話しするなって怒鳴られますよ」

「了解した。自分の部屋に行こう、親戚が持ってきたお菓子があるから御馳走するよ」


 お菓子と聞いて哲也が嬉しそうに頷く、


「悪いっすね、それじゃあ、僕はジュースでも奢りますよ」

「よしっ、決まりだ。自分も怖い話しは知ってるから色々教えてあげるよ」


 哲也と北見が笑顔で見つめ合う、似たもの同士というか、どちらもキモい笑顔だ。香織や早坂が見たら間違いなく軽蔑するだろう。



 北見の部屋はD棟の216号室だ。


「北見徹也か…… 」


 哲也がドア横のネームプレートで名前を確かめる。自分と同じ『てつや』という名前に親近感が湧いてくる。


「さぁ入って入って、病室だから何にも無いけどさ」


 北見に招かれた哲也が小さなテーブルの上にペットボトルのコーラを置くと向かいに腰掛けた。


「饅頭とか羊羹とか大丈夫? こんなのしかないんだけど」


 北見が和菓子の入った菓子折を広げた。


「大丈夫……大好物っす」


 一目で量産品とは違うとわかる高そうな菓子に哲也が目を輝かせるのを見て北見が嬉しそうに微笑んだ。


「親戚が下の町で和菓子屋やってるんだよね、それで磯山病院へ決めたんだよ」

「伝統ある和菓子屋さんのか……コーラで食べるのが勿体無いな、熱いお茶かコーヒーでも買ってくるか」


 腰を上げる哲也を見て北見が声を出して笑い出す。


「あはははっ、そんな凄いものじゃないよ、菓子なんて好きに食べればいいんだよ、残ったのあげるからさ、今は怖い話し早く聞かせてよ」


 楽しそうに笑う北見は心の病には見えない。


「北見さんは何で入院したんですか? 」


 不用意に病状を訊くのはタブーだ。普段ならしまったと思うのだが親近感を持ってしまった北見には悪いという感情は湧かなかった。北見がチャラいタイプだという事ももちろん影響している。


「自分か? 自分は統失だよ、まぁ自分じゃあんまりわかってないんだけど……感情の起伏が激しいのは何となく自覚してるから、それで親が一度調べて貰えって……幽霊の話しとかしょっちゅうしてるからな、それもあって心配してるんだと思う、だから今回はおとなしく言うこと利いて入院したってわけだ」


 照れるように後頭部を掻きながら北見が教えてくれた。


「検査入院ってことですね、道理で知らない人だと思った」


 納得して頷く哲也の向かいで北見が身を乗り出す。


「そんな事より怖い話しだよ、岩田さんって幽霊の話し、早く教えてくれ」

「わかりました。その前に一寸喉を潤します」


 哲也はペットボトルのコーラを開けると自分の分と北見の分を紙コップに注いでいく、


「一つ頂きます」


 小さな饅頭を口に放り込んで嬉しそうに食べた後で哲也が話を始めた。


「岩田さんっていうのはこの磯山病院に代々伝わっている幽霊の話しで…… 」


 時々コーラを飲んだりお菓子を食べながら哲也が今まで経験した霊現象の中から差し障りのない話しを幾つか話して聞かせる。


「怖っ! 岩田さん怖っ!! 自分も見るかも知れないってことだよね? 怖すぎるわ、河童の話しも凄いよな」


 ビビる北見の向かいで哲也が満足気に紙コップのコーラを一気飲みした。


「取り敢えずこんなところかな、次は北見さんの番ですよ」

「そうだなぁ……哲也くんが体験した話をしてくれたから自分も聞いた話しじゃなくて実際に遭った話をしようか? 」


 北見が考えるように腕を組みながら哲也を見つめた。


「マジっすか? 北見さんも幽霊見たことあるんすか? 」


 小さなテーブル越しに身を乗り出す哲也を見て北見がニヤッと笑った。


「あるよ、だから益々怖い話しにのめり込んじゃってね、親が心配して入院させたみたいなものだ」

「聞きたいっす。誰かに聞いた話しより体験したのが臨場感あって怖いですから」


 コーラを一口飲んでから北見が口を開いた。


「わかった。でも岩田さんの話みたいに怖いのじゃないぞ、自分たちは怖かったけど人に聞かせようとまとめると馬鹿な話しだって思うぞ」


 口元に笑みが浮んでいるのが気に掛かるが哲也は催促するように無言で頷いた。


「売れない家の話しだ。所謂いわゆるお化け屋敷ってヤツだ」


 座り直す哲也を見て北見が話を始めた。

 これは北見徹也きたみてつやさんが聞かせてくれた話しだ。



 東北地方のある町に北見の実家がある。山奥ではなく町の一角だ。隙間なく建売住宅が並ぶ都会の町と違って庭付きの家が並んでいるゆったりとした町である。

 その実家から五軒離れた角地に空き家があった。閑静な町に建つ普通の2階建て家屋で日当たりもよいのだがその空き家だけは何故か売れない、近所の他の家は空きが出ると半年経たずに売れていくのだがその空き家だけはまったく売れる気配も無いのだ。


 北見が物心ついた頃から誰も住んでいない空き家で子供たちの間ではいつからかお化け屋敷と呼ばれていた。誰も住んでいないはずなのに夜中に明かりが灯っていたのを見たとか、窓に女の影が映っていたとか、子供たちの間でまことしやかに噂されていたのだ。



 中学生になった北見が部活で遅くなった帰り道を1人歩いていた。

 田舎の町の住宅街だ。街灯も少なくおまけに空は曇りで道どころか町全体がどんよりと薄暗く感じる。


「明日雨かなぁ~~、雨の部活は嫌なんだよなぁ……腹減ったなぁ」


 今晩のおかずは何だろうと考えて自然と足が速くなる。


「んん? 」


 角に建つ空き家に明かりが灯っているのを見つけて北見が足を止めた。


「引っ越してきたのかな? お化け屋敷」


 この辺りに住んでいる子供でお化け屋敷を知らない者はいない、当然北見も知っているが小学校低学年ならともかく今は中学生だ。お化けが出たと考えるより入居者が入ったと考えるのは当然だ。


「どんなヤツだ? 」


 明かりの見える窓、低い垣根で仕切られた敷地の手前の道まで近付くとゆっくりと歩きながら中を覗いた。

 クラスではやんちゃなグループに入っている北見はお化け屋敷に誰か越してきたと学校で話題にしてやろうと考えたのだ。


 バン! 音を鳴らして窓から何かが顔を見せた。


「ふっ、ふはっ! 」


 仰け反るようにして驚く北見と老婆の目が合った。


「うわぁぁ~~ 」


 声を上げて北見は逃げ出した。窓にへばり付くようにして髪を振り乱した老婆がニタリと笑ったのだ。


「おっ、おばっ……お化けだ」


 自分の家の玄関に座り込んでやっと落ち着いてくる。


「マジでお化け屋敷だったんだ」


 明かりだけならともかく窓にへばり付く老婆を見て北見は本物だと思った。

 靴を脱いでリビングへ入ると仕事から帰って晩酌している父がいた。


「父さん、お化け見たぞ」


 北見は先程見たことを興奮した顔で話した。

 既に酔っているのか赤ら顔をした父がビールのコップをトンッとテーブルに置く、


「お化けなんているわけないだろ、中学生が何言ってんだ」

「いや、でも見たんだって……窓に婆さんが張り付いて俺を見て笑ったんだって」


 必死で訴える北見を父が『何言ってんだ』という顔で見つめた。


「婆さんは居るだろう、あの家、婆さんの家なんだからな」

「へっ!? 空き家じゃなかったのか? 」


 険しい表情のまま北見が動きを止めた。

 コップにビールを注ぎながら父が頷いた。


「うん、空き家だ。空き家だけど売り家じゃない、チヨ婆さんの家だ……まぁ無理もないか、婆さん体悪くて入院繰り返してるからな」


 くいっとビールを飲むと父が続ける。


「チヨ婆さん見たのか、暫く入院してたみたいだけど戻ってきたみたいだな、家が気になって掃除でもしに来たんだろ、今は親戚を頼って山向こうの町に住んでるって聞いたけどな、まぁ近所だけど付き合い殆ど無いから俺も名前くらいしか知らんけどな」

「チヨ婆さん……じゃあ自分たちが噂してた幽霊って………… 」


 北見を見て父がニヤッと悪い顔で笑う、


「全部チヨ婆さんのことだろ、お前たちがお化けだ何だと騒いでるのは知ってたけど楽しそうなんで誰も話さなかっただけだ」

「あ~あ、ビビって損した」


 真相を知ってムッと怒りながら北見は2階の自分の部屋へと上がっていった。



 翌日、北見は学校へ行くと仲の好い友人たちを集めて空き家で幽霊を見たと大袈裟に話して聞かせた。幽霊の正体はチヨ婆さんだとわかっているが悪友たちを驚かせようと考えたのだ。

 級友の何人かも明かりが灯っているのを見たことがあると言い出して騒ぎは大きくなっていく、


「マジかよ、マジで幽霊屋敷かよ」

「婆の幽霊か怖えな」

「怖いけど見に行こうぜ」

「おぅ、いいねぇ、今日の帰りに見に行こうぜ」


 盛り上がる友人たちの真ん中で北見が弱り顔で俯いた。


「いやぁ……それは一寸………… 」


 いつもつるんでいる仲の好い悪友2人が北見の顔を覗き込む、


「なんだ北見? 案内しろよ」

「お前ビビってんのか? 」


 馬鹿にされた北見がバッと顔を上げる。


「誰がビビるか! 」


 反射的にこたえた北見の肩を悪友の多部がポンッと叩いた。


「んじゃ決まりな、今日部活帰りに見に行くからな」


 断る余地もなく空き家を見に行くことに決まった。



 夕方になって雨が降ってくる。部活が終り小雨の降る中、北見たちが件の家を冷やかしに行った。


「本降りにならないうちに帰れよな」


 チヨ婆さんのことがバレないように願いながら北見が空き家まで悪友2人を連れて行く、


「これがお化け屋敷か……普通の家だな」


 多部の横でもう1人の悪友、中井が敷地を囲む低い垣根の前まで歩いて行く、


「小坊のころ何度か見に来たけど何も起きなかったから只の噂だと思ってたんだけどな」


 2人の後ろで北見が五軒離れた自分の家を指差した。


「俺の家あそこだぜ、今でもガキが見に来るのよく見るぞ」


 多部が振り返ってニヤリと笑った。


「直ぐ近くなら夜中幽霊がやってきそうだな」

「ビビらすなよ、来られて堪るか」


 幽霊の正体はチヨ婆さんだとわかっているが気持ちのいいものじゃないと北見が顔を顰めた。


「何も起きないな、雨が酷くなる前に帰ろうぜ」


 中井の言葉でお開きになる。小雨の降る中、帰ろうと3人が回れ右をした。

 その時、空き家の窓に明かりが灯るのを北見が見つけた。


「おい! 」


 北見が指差すと悪友2人がサッと振り向く、


「おおぅ! 」

「電気が点いてる」


 身を固くする多部と中井の前でバンッと窓ガラスをならして何かが顔を見せた。


「うぉおぅ!! 」

「やべぇ! 」


 窓に張り付くようにしてニタリと笑うチヨ婆さんを見て多部と中井が逃げ出した。


「チヨ婆さん…… 」


 北見はペコッと頭を下げると慌てて2人を追った。


「やべぇ、やべぇよ」

「本物だ……マジの幽霊だ」


 直線距離で60メートルほど離れた国道に置いてある自動販売機の前に青い顔をした2人がいた。

 薄暗い田舎の道で自動販売機の明かりが頼もしい、


「ババァの幽霊だ……ヤバい顔してたよな」

「呪われたりしないだろうな、怖すぎるぞ」


 後からやってきた北見に2人が引き攣った顔を見せた。


「だから言っただろマジだって」


 2人の様子に北見は笑いを堪えるのに必死だ。


「祟られたりしないよな」


 多部の隣で中井もじっと北見を見つめている。


「何も悪さしなけりゃ大丈夫だってさ、父さんが言ってたから安心しろ、父さんの子供の頃から居たらしいぞ」

「そうか……よかった」


 安堵する2人とはその場で別れて各自が家へと帰っていった。



 翌日、クラス中が大騒ぎになる。多部と中井が幽霊を見たと吹聴して回ったのだ。その挙げ句、幽霊屋敷を探検しようという話が持ち上がる。


「俺は知らんからな、行かないからな」


 北見は必死に反対したが一番詳しいという事で結局付き合わされることになる。やんちゃグループの付き合いで断ることが出来なくなったのだ。ビビリだと思われれば微妙な順位付けの下層に回されてしまうのである。


「んじゃ今度の土曜な、俺と北見と多部と石月と四賀で探検だ」


 やんちゃグループのリーダーである村上が宜しくというように北見の背を叩いた。


「俺は案内するだけだからな……近所だから俺は中に入ったりしないからな、見つかったら怒鳴られるだけで済まないんだからな」


 北見は家の中には入らないと予防線を張るだけで精一杯だった。


「わかった。北見は案内だけでいい、後は俺たちが勝手にやったことにするからさ」

「 ……それなら案内してやるよ」

「楽しみだねぇ~~ 」


 渋々了承した北見を見て村上は笑いながら歩いて行った。



 教室の端で北見と多部と中井、いつもの悪ガキ3人組が集まった。


「お前らが言い触らすからだぞ」


 北見が多部を睨み付けた。


「仕方ないだろマジで見たんだからな」


 内心行きたくないのが分かる嫌そうな顔で多部がこたえた。もう1人の悪友である中井は親戚の家にいく用事があるとか言ってちゃっかりと抜けるのに成功していた。


「1人だけ抜けやがって…… 」


 恨めしげな北見の向かいで中井がとぼけ顔で口を開く、


「マジでヤバいのには近付かない主義なんだ」


 多部が中井を肘で突っつく、


「こいつ調子だけはいいからな、小坊からこうだったろ」

「ああ、信じられるのは多部だけだ」


 非難する2人の前で中井がニヤッと悪い顔で笑う、


「へへへっ、呪われないように気を付けろよ、特に多部、家の中に入るんだろ御守りでも持って行けよ」

「婆さんの幽霊に取り憑かれたら中井が全て悪いって言ってお前にも取り憑くようにしてやるからな」


 言い返す多部の隣で騒ぎになったらどうしようと北見は別の心配をしていた。



 土曜日の昼過ぎ、悪ガキ共が中学校の近くにあるコンビニに集まった。

 集まったのは4人だ。やんちゃグループのリーダーである村上、空き家までの案内役の北見、悪友の多部、それとクラスメイトの石月、合わせて4人だ。


「四賀はどうした? 」

「朝から腹ピーピーで今日は無理だってさ」


 村上に石月がこたえた。


「ビビりやがったな……次からパシリだな」


 村上の言葉に北見はほっと胸を撫で下ろした。空き家へ行くのを断っていたら自分がパシリにされたのは言うまでもない。


「んじゃ行くか! 」


 村上と案内役の北見を先頭に歩き出す。楽しげなのは村上だけだ。実際に見た多部はもちろん石月も内心は行きたくないというのが顔に出ている。幽霊ではなくチヨ婆さんだと本当のことを知っている北見は内心ガクブルだ。家に入って騒ぎになるのはもちろん、全てバレたらグループ内の自分の立場が無くなるのだ。


 30分程歩いて空き家が見えた。


「あの家です」


 足を止めて北見が指差す。

 晴れた日の昼間だ。怖さなど欠片もない庭付きの一戸建がそこに見えた。


「あれか……普通の家だな」

「じゃあ、約束通り自分はここまでで…… 」


 帰ろうとする北見の腕を村上が掴む、


「わかった。北見は見張りな、誰か来ないように見張っててくれ」

「えぇ…… 」


 嫌そうに顔を顰める北見を村上が睨み付ける。


「誰か来たらヤバいだろ、一緒に中に入れって言わないから見張りは任せたぞ」

「 ……わかりました。何かあったら口笛吹きます」


 村上が任せたというように北見の肩をポンッと叩いた。


「んじゃ行くぞ」


 楽しそうな村上を先頭に多部と石月が低い垣根を越えて空き家の敷地へと入っていった。

 不安と苛立ちが混じった顔で北見が見つめる先で村上が空き家の窓に手を掛けた。


「あっ……マジで入るつもりかよ」


 鍵が掛かっていないらしく窓が開いた。そこから村上が土足で入っていく、もちろん多部と石月も続いて入った。


「俺は関係ないからな…… 」


 チヨ婆さんと鉢合わせしたらどうしようと北見は気が気じゃない。

 10分程経つが何も騒ぎは起きない、更に10分程して村上たちが家から出てきた。


「よかったぁ~~ 」


 安堵の息をつく北見の元へ村上たちがやって来る。


「何もなかったぞ、婆さんの幽霊なんていなかったぞ」


 不満そうに話す村上の後ろで多部と石月が北見を見て苦笑いだ。


「見える人と見えない人がいるんじゃないんですかね」


 チヨ婆さんは親戚のところへ戻ったんだと北見は安心顔だ。それが気に入らなかったのか村上がジロッと怖い顔になる。


「嘘じゃないだろうな」

「マジで見ました。昼間だから出てこないんじゃないっすか」


 北見を庇って多部が言うと村上がニヤッと悪い顔になる。


「そうかもな、んじゃ夜にもう一度探検だ」


 北見はじめ、多部と石月が一斉に嫌そうな顔を村上に向けた。

 北見が睨むと多部が済まんと言うように顔の前で手を立てる。余計なことを言いやがってと思ったが多部は自分を庇ってくれたので文句も言えない。



 少し離れた場所にあるだだっ広いだけの公園で時間を潰す。


「そろそろいいかな」


 丸太を横にして作られたベンチから村上が腰を上げた。時刻は午後の5時前だ。遙か向こうに見える山の後ろに日は沈んで辺りは薄暗い。


 空き家の前で北見が村上の顔を窺う、


「自分は見張りしてますから…… 」

「次はお前も一緒に来い」

「でも誰か来たら…… 」


 村上が有無を言わせぬ怖い顔で北見を睨み付ける。


「誰も来ねぇよ、それに外にいる方が目立つだろが」

「 ……わかりました」


 北見が渋々了承した。チヨ婆さんがいないのは昼間わかっているので大丈夫だと考えたのだ。


「んじゃ行くぞ」


 村上を先頭に低い垣根を抜けて空き家の敷地へと入っていった。

 昼間侵入したのに使った窓へと真っ直ぐ向かう、


「んん? 」


 窓に手を伸ばした村上が怪訝な顔で振り返る。


「開かんぞ? 」

「マジっすか? 」


 北見が窓へと手を伸ばす。


「開きますよ」


 窓枠を持って引くと建て付けが悪いのかザラザラと砂を噛むように引っ掛かりながら窓が開いた。

 横にいた村上が声を出して笑い出す。


「あはははっ、引っ掛かった。お前らビビっただろ、冗談だよ冗談」

「冗談きついっすよ」

「お化け屋敷で冗談は止めてください」


 迷惑顔の多部と石月を見て村上が笑いながら窓枠に手を掛けた。


「あははははっ、悪い悪い、こっからは冗談無しな」


 笑いながら家へと入っていく村上の頬が引き攣っているのに気付いたのは北見だけだ。



 時刻は午後の5時を回っている。明かりの点いていない家の中は既に夜のように薄暗かった。


「何も無いな、昼間と同じだ」


 村上を先頭に土足で部屋を見て回る。

 台所横の風呂場を覗いてからリビングへと向かう、その途中階段がある。


「ああぁ…… 」


 一番後ろを歩いていた石月が情けない声を上げた。


「どうした? 」


 直ぐ前を歩いていた北見が振り返る。


「でっ、電気が……電気が点いてる」


 石月が震えながら指差す先、階段の上から明かりが漏れているのが見える。2階の部屋に明かりが灯っている様子だ。


「マジかよ…… 」

「やべぇ…… 」


 北見と多部が顔を強張らせる後ろから村上が前に出てきた。


「2階か……よしっ、上がるぞ」

「ヤバいっすよ」


 上がろうとする村上を多部が止める。


「多部の言う通りですよ、お化けじゃなくても誰か居たらヤバいっすよ、管理に誰か来てるんですよ、見つかったらヤバいっすよ」


 チヨ婆さんが帰ってきたと思った北見も必死で村上を止めた。

 一番後ろで石月がバイバイと手を振る。


「俺は帰るから……ヘタレでも何でもいいわ、こんな事で警察でも呼ばれたら洒落にならんわ」

「俺も帰る。電気点いてんだぜ、お化けじゃなくて人だ。肝試しはいいけど警察沙汰はごめんだ」


 多部も石月に同意した。2人を見て村上が顔を顰める。


「お前ら何ビビってんだよ」


 凄む村上の前に北見が出る。


「お化けにビビってんじゃないから、管理してる人に見つかったら警察沙汰になるから嫌だって言ってんだ」


 北見も向こうに回ったのを見て村上がムッと怒りながら続ける。


「わかったよ、んじゃ一寸だけ見てくる。階段から覗いて見てから帰ろう、それでいいだろ? 明かりが何か確かめるだけだ」

「階段から見るだけだからな、2階の部屋に入ったりしないからな、階段から見たら自分たちは帰るからな、約束してくれ」

「 ……わかったよ、約束する。階段までだ。んじゃ行くぞ」


 言い出したら利かない村上に約束させると北見たちは渋々といった様子で階段を上っていった。



 階段を上がって右、3つ並んでいる真ん中の部屋から明かりが漏れていた。


「電気点いてんぞ」


 小声で指差しながら村上が振り返った。


「やっぱ誰か来てるんだよ、見つからないうちに帰ろう」


 後ろからシャツを引っ張る北見の手を振り解いて村上が部屋に近付いていく、


「もう帰ろうぜ」

「ああ…… 」


 約束を破った村上を置いて帰ろうと北見と多部が踵を返す。


「おっ、おい…… 」


 一番後ろにいた石月が震える声を出す。

 北見と多部が振り返ると村上の手前、スーッと障子が開いて婆さんが出てきた。


「あっ…… 」

「すっ、すいません」


 立ち尽くす村上の後ろで北見が謝った。空き家ではなくチヨ婆さんの家だと知っているのは北見だけだ。


『売らんぞ……売らんぞ…… 』


 ブツブツと呟きながら婆さんが歩いてくる。


「なっ、なんだよ、このババァ」


 虚勢を張るが村上の声が裏返っている。

 北見が後ろから村上のズボンの腰の辺りを引っ張った。


「かっ、帰るぞ」

「おっ、おぅ…… 」


 流石にヤバいと思ったのか村上が素直に従って帰ろうと階段に足を掛けると同時に婆さんが大声を上げた。


『売らんぞ! この家は売らんぞぉ~~ 』

「わぁあぁぁ~~ 」


 北見たちは叫びながら必死で階段を駆け下りる。


『売らんぞ!! この家は儂のじゃ、この家は売らんぞぉ~~ 』


 最後尾の村上が振り返ると髪を振り乱した婆が怒鳴りながら階段を駆け下りてくるのが見えた。


「おっ、お化けだぁ~~ 」


 北見たち4人は入ってきた窓から飛び出すように出ると低い垣根を掻き分けて空き家から離れていく、


『売らんぞ! この家は売らんぞ! 』


 後ろで婆の怒鳴り声が聞こえたが怖くて振り返ることもせずに少し離れた公園まで全力で走って逃げた。


「見た。見たな、婆さんの幽霊だ」

「マジで幽霊屋敷だったんだな」

「凄ぇ……俺たち凄ぇよな」


 興奮冷めやらぬ3人と違い北見はバレたら叱られると憂鬱だ。


「今日はこれで終わりだ……ヤバすぎるからもう帰るぞ」


 あれだけ虚勢を張っていた村上も真っ青になっている。

 外の薄暗さが怖くなったのか4人はそそくさと家へと帰っていった。


 幽霊を見たという話しは直ぐに学校中に広まり、件の空き家を見に来る野次馬も増えて近所の人の知るところとなり当然親の耳にも入って北見はこっぴどく叱られた。

 チヨ婆さんのこともバレたが面白かったということでやんちゃグループ内の北見の地位は守られた。本物の幽霊でなくて呪われなくてよかったと村上も内心ほっと安心したというのが本当のところだ。

 これが北見徹也きたみてつやさんが中学生の頃に体験した話しだ。



 北見が紙コップのコーラをゴクゴクと飲み干した。


「親にも叱られるわ、クラスでバカにされるわ、散々だったぞ」

「怖い話しじゃなくて笑い話じゃないですか」


 向かいで哲也が不満そうに最中に齧り付いた。高級和菓子が無ければ部屋を出て行ったかも知れない。

 北見が『まあまあ』と宥めるように両手を突き出す。


「あはははっ、まぁまぁ、続きがあるんだよ、これで終わりだったら自分も怒ってるよ」

「続きっすか? 」


 興味津々の顔で座り直す哲也の向かいで北見がニヤリと不敵に笑った。


「4年前になる。中学を卒業して丁度10年だ。同窓会で田舎へ帰った時の話しだ」


 4年前のことと言いながら中学生の頃の話しをするより遠い目をして北見が話を始めた。



 北見は地元を離れて関西で仕事に就いていた。地元へ帰るのは正月だけという生活を送っていたある日、中学の同窓会の連絡が来た。卒業してから10年経つ、切りがいいので普段集まらない連中も少し無理をしてでもやってくると聞いて北見ももちろん参加を決めた。北見は25歳になっていた。


 同窓会は大成功だ。昔の友と話題は尽きない、誰かがお化け屋敷の話しを持ち出し、北見たちが婆さんに追い掛けられた話しも当然のように語られる。中学の頃は忸怩じくじたる思いだったが今となっては笑いの中心となれる大切な思い出だ。

 地元で就職した友人が今の子供たちの間でも幽霊屋敷と呼ばれていると聞いてみんなほっこりと良い気持ちになる。同時にあの婆さんまだ生きているのかと大笑いだ。


 夜の10時前に同窓会が終り車で送るという友の気遣いを久し振りに歩いて帰るとやんわりと断って北見が実家へと田舎道を歩いていると件の空き家の前を通った。


「幽霊屋敷か…… 」


 良い気分で酔っ払った北見が懐かしそうに立ち止まった。その前で2階の窓にぼうっと明かりが灯った。


「おおぅ、チヨ婆さんまだ住んでいるんだな」


 ぼうっと浮ぶ明かりを見て笑いながら北見が歩き出す。

 バン! 後ろで窓を叩く音がした。北見の頭の中に窓にへばり付いて様子を伺うチヨ婆さんの姿が浮んだ。


「初めて見た時はビビったよな」


 呟きながら実家へと入っていった。



 風呂に入る前、リビングで寛いでいた両親にチヨ婆さんのことを話した。


「何言ってんだお前? 」


 顔を顰める父親に北見が微笑みながら続ける。


「だからチヨ婆さんだよ、角の空き家の……って言うか空き家じゃないけど、ガキの頃、家に入って叱られただろ、同窓会でさ、今でも笑われるんだぜ、それでさっき家の前通ったら明かり点いてたからさ、チヨ婆さんまだ元気なんだって安心したんだ」


 笑顔で話す北見の前で父が真剣な表情で口を開いた。


「あの家は今誰も住んでないぞ、本当に明かりを見たのか? 」

「なん? ……また自分をからかって、ちゃんと電気点いてるの見たんだからな」


 父にからかわれていると思った北見は笑いながらこたえた。


「婆さんは4年前に亡くなったんだ。電気なんて点かん、ブレーカー落として電気もガスも水道も止めてある」


 固い表情で話す父の顔が青い、嘘とは思えない真剣な眼差しに北見の笑顔が消えていく、


「だっ……だって……じゃあ、あの明かりは………… 」


 北見が言葉を詰まらせた。思い返せば電気による明かりではなかった。窓の近くで蝋燭か火を燃やしたようなぼうっとした淡い赤い光だった。


「でっ、でも……バンって………… 」


 通り過ぎた際にバンッと窓を鳴らしたものは何だったのだろうか? 中学生の頃に見た窓にへばり付くようにして睨んでいたチヨ婆さんではなかったのか? では先程のは? チヨ婆さんはとっくに亡くなっていたのだとしたら……。


「もうあの家には近付くな……俺らも近付かん」


 北見の態度に全てを察したのか父が命令するように言った。


「わっ、わかった」


 上擦った声でこたえると北見は風呂場へと入っていった。


「家を騙し取られて婆さん恨んどるんじゃな」


 服を脱ぐ北見の耳に父の呟くような声が聞こえてきた。



 同窓会は日曜だったが翌日の月曜も休みだ。大勢が集まれるように祭日を選んだのだ。土曜日曜月曜の三連休だ。北見は火曜日も有休を取っていたので火曜の朝まで実家でのんびり過ごす予定だった。

 予め連絡を取り合って仲の好かった多部と中井の2人も同じように休みを取って久し振りに遊ぶ予定だ。


 朝食前に散歩と言って北見は家を出た。


「マジで空き家かよ」


 チヨ婆さんの家には売り家と看板が掛かっていた。


「あっ……雨戸が………… 」


 北見が絶句する。雨戸がしっかりと閉まっている。

 では昨日見た明かりは何なのだろう? 明かりどころかガラスの嵌まった窓枠までしっかりと見ているのだ。それが今は分厚い雨戸がしっかりと閉じている。


「不動産会社が管理してるのか」


 再度前に回って看板を確かめた。空き家は親族の手を離れて業者のものになっているらしい、都会とは違って田舎町だ。夜の10時に業者が家の管理にやって来るとは思えない。


「マジで幽霊屋敷かよ」


 肌寒い田舎の朝、北見はブルッと震えた。



 朝の9時を回った頃、多部が車で向かいに来た。後部座席には既に中井が乗っている。


「オッス! 」

「おはよう」


 地元の建築会社に就職した多部と違い東京で不動産関係の仕事に就いている中井はビシッとお洒落に決めていた。


「ヤクザに拉致られたサラリーマンかよ」


 2人のギャップに笑いながら北見が助手席に乗り込んだ。

 多部の車で駄弁りながらドライブして旨い物でも食いに行くというのが今日の予定だ。

 バカ話で盛り上がりあっと言う間に時間が過ぎていく、


「お前らさぁ、空き家の話し覚えてるだろ……多部は一緒に入って怒られたよな」


 地元の定食屋で昼食を食べながら北見が空き家のことを話題に出した。


「忘れるかよ、あの後マジで親に怒られて大変だったからな」


 嫌そうな顔で食い付いてきた多部の隣で中井が声を出して笑い出す。


「あはははっ、お前ら不法侵入で逮捕だって噂流れてたよな」

「何言ってやがる! 1人だけ逃げやがって」

「あははははっ、逃げるが勝ちってな、村上の相手なんて適当でいいんだよ」

「まったくこいつは…… 」


 まだ根に持っているのか怒りながら多部が向き直る。


「それで空き家がどうしたんだ? 」

「それなんだが…… 」


 北見が昨晩の事を話して聞かせた。


「マジか? 」

「またまたぁ~、脅かそうってダメだぜ」


 真剣な表情で聞き返す多部の横で中井が冗談止めろと手を振った。


「嘘じゃない、酔ってもない、マジで見たんだ。ぼうっと蝋燭の火みたいなのが窓に……その窓は今朝見たら雨戸が閉まってた。婆さんは4年前にとっくに死んでる。今は誰も住んでなくて売り家になってた」


 真剣に話す北見の向かいで中井がニヤッと悪い顔で笑った。


「そこまで言うなら確かめに行こうぜ」

「確かめるって? また侵入するのかよ」


 北見が顔を顰める。中井の隣で多部が怒鳴るように口を開く、


「冗談止めろ! ガキと違ってマジで捕まるぞ」

「大丈夫大丈夫、売り家になってるんだろ? なら大丈夫だ」


 任せろと言うように手を振る中井に北見と多部が注目だ。


「家を見学したいって連絡して堂々と中に入って見ればいい、事情があって夜しか見に行けないからどうにかならないかって言えば鍵開けといてくれるだろ、こっちの携帯番号教えて身元ハッキリさせれば利いてくれるよ、業者が来たらきたで一緒に入ればいいだけだ」


 中井の話しに感心した様子で多部が頷いた。


「流石不動産屋に就職しただけあるな」

「それなら捕まる心配無いな、堂々と見て回れるな」


 北見が安心する向かいで中井がドヤ顔だ。


「んじゃ決まりだ。今晩にでも見に行こうぜ」


 こうして幽霊屋敷探検リベンジが決まった。



 昼食後、不動産屋に連絡をする。

 訳あって夜の9時頃にしか時間が取れないのでどうにかならないかと不動産業者に話すと鍵を開けておくので勝手に見てくださいと許可が下りた。25歳、身元もハッキリしているいい大人だ。盗まれるものなどないし長年売れない家が少しでも売れる気配があるならと不動産屋も思ったのだろう。


 夜の9時半過ぎ、酒を飲んで少し酔っ払った3人が件の空き家の前に立つ、


「マジで空き家だな、垣根とか覚えてるけど前はもっと整理されてたよな」


 中学の頃を思い出したのか懐かしそうな多部の横で中井が顔を顰める。


「庭も草でぼうぼうだぜ、マジで入るのかよ」

「入るぞ、昨日見た明かりが気になるからな」


 怖いとは思うが北見もいい大人だ。本物の幽霊がいるとは思っていない、だが昨晩怪しげな明かりを見たのも確かだ。


「んじゃ行こうぜ」


 建築現場で使う懐中電灯を点けると多部が敷地に入っていく、


「やっぱ雨戸は閉まってるな、昨日は開いてて部屋が光ってるのが見えたんだ」

「案外誰か居たんじゃないの? 」


 緊張した面持ちの北見の脇を通って中井が玄関のドアに手を掛けた。


「開いてるよ、さっさと見学済ませて北見の家で飲み直そうぜ」

「だな、今日は帰らんって言ってるから泊りがけで飲むからな」


 中井が開けた引き戸から多部が玄関へと入っていく、


「お邪魔しまぁ~す」


 間延びした声で言うと多部が靴を脱いだ。


「土足じゃやっぱ不味いよな、スリッパ持ってきたらよかったな」


 中井が愚痴りながら玄関から上がっていく、最後に北見が靴を脱いで上がった。


「誰も入っていないようだな」


 掃除などしていないのか懐中電灯で照らされた廊下にはうっすらと埃が積もっていた。



 1階の台所から見て回る。


「マジで誰も入ってない様子だな」


 食器棚やタンスが残されていて人の暮らしていた形跡はあるが積もった埃から長い間放置されていたのがわかる。

 懐中電灯で自分の足に付いた埃を見て中井が顔を顰める。


「婆さん死んで4年でこれ程埃溜まるんだな」

「いや、死んだのが4年前でその前から入院してたって話しだから5年以上は誰も入ってないんじゃないかな」


 窓を照らしながら北見がこたえた。窓はしっかりと閉まっていて雨戸も閉じてある。


「確かにこの窓が見えてて蝋燭の明かりみたいなのが点いてたんだけどな……見間違いかな、今より酔ってなかったんだけどな」


 不思議そうに首を傾げる北見からは恐怖など無くなっている。悪友2人も一緒だ。少し酔って気が大きくなっていることもある。


「だな、酔ってたんだよ、それで昔を思い出して見間違えたんだろ」


 多部を先頭にリビングを出て行く、


「んじゃ2階へ行くか、また婆さんに追い掛けられたりしてな」

「へへへっ、あれは参ったな、さっさと帰ればよかったのに村上の所為で散々だったな」


 チヨ婆さんに追い掛けられたことを思い出して多部と北見が階段を見上げた。


「おっ、おい…… 」

「光ってる…… 」


 多部と北見が上を向いたまま身を固くした。階段の先にぼうっとオレンジの明かりが見えた。


「どうした? 電気点いてるのか? 」


 中井だけが平然とした顔で首を傾げる。


「不動産屋がいるのかな? 」


 階段を上ろうとする中井を北見が止める。


「止めろ! なんかヤバい、もう帰ろう」

「マジでヤバい、昔も2階の部屋から追い掛けられたんだ」


 真剣な表情で止める2人を見て中井が声を出して笑い出す。


「あははははっ、なにビビってんだよ、不動産屋がいるだけだろ」


 中井が階段を上がっていく、その後ろから北見と多部が恐る恐る続いた。



 階段を上がって右、3つ並んでいる真ん中の部屋から明かりが漏れていた。


「やっぱ誰か居るんじゃん」


 中井が引き戸に手を伸ばす。


「こんばん…… 」


 挨拶しながら開けようとした時、引き戸がすっと開いた。


『売らんぞ! 売らんぞ! この家は儂のだ』


 髪を振り乱した婆さんが叫びながらぬっと顔を出した。


「あっ……あの……すみません」


 取り繕って謝る中井の直ぐ前で婆さんがくわっと口を開いた。その顔の半分が焼け爛れていた。


「ひぃぃ…… 」


 恐怖に腰が抜けたのか中井がその場に崩れていく、しゃがんだ中井の向こう、顔の半分が赤黒く焼けた婆さんがじろっと北見を睨んだ。


『この家は儂のだ! 誰にも売らん! 』


 半分が焼け爛れ、もう半分は青白い皺だらけの顔だ。その口からヌメヌメと赤い汁を垂らせて怒鳴った。


「ヤバい!! 」


 多部が中井の腕を引っ張る。


「早く逃げるぞ! 」


 北見も手伝って中井を支えるように慌てて階段を下りていく、


『売らんぞ! 売らんぞ! この家は儂のじゃぁ~~、お前らも儂の家を取りに来たのかぁ~~ 』


 2階から怒鳴り声と共に婆さんが追ってくる。


「やべぇ、やべぇ」


 階段を下りて玄関に向かった3人がその場に固まる。


『売らんぞ……この家は儂の家じゃ……誰にも渡さん、儂の……儂の家じゃぁぁ~~ 』


 後ろから追い掛けていたはずの婆さんが玄関に立っていた。


『儂の家じゃ……えっえっえっ、ここは儂の家じゃ、えっえっえっえっ』


 半分焼けた頭に血走った目で髪を振り乱し、口から真っ赤な滑りを滴らせた婆さんが奇妙な声を出してニタリと笑った。


「たっ、助けてくれ…… 」


 情けない声を上げる多部の腕を北見が引っ張る。


「こっちだ」


 北見は台所へと入ると勝手口のドアを開けた。


「靴は? 靴はどうする? 」

「早く逃げるぞ! 」


 靴の心配をする中井の背を押し出して北見も家の外へと出る。


『儂の家を取りに来た奴は許さん! 誰にも渡さん!! 』


 後ろから婆さんの声が追ってくる。北見たちは裸足のまま逃げ出した。



 五軒離れた北見の実家に3人が駆け込む、


「やべぇ、マジだ……マジの幽霊だ」


 真っ青な顔、靴を履かずに汚れた靴下だけの足、3人を見て北見の父が顔を顰める。


「徹也! なにやった? 」

「父さん、実は…… 」


 先程あった出来事を北見が震える声で説明した。


「馬鹿かお前ら!! 」


 北見の父は一喝した後、3人を居間へと連れていく、ソファに3人を座らせると父は待ってろと言って日本酒とコップを持って戻ってきた。

 自分のコップと3人のコップにも酒を注ぐと父が口を開いた。


「婆さんが入院する前に騒ぎがあってな…… 」

「騒ぎ? 」


 聞き返す北見の前で父がグイッと酒をあおった。


「庭で焼身自殺しようとしたんだ。この家は儂のだって凄い剣幕で叫びながらな……余程家に執着があったんだろうな」


 病気になったチヨ婆さんはあの家で死にたいと近所の人に話していた。もちろん北見の両親も聞いていた。それなのに親族は無理矢理入院させて婆さんが死んだ後、あの家はもちろん全ての財産を自分のものにしたのだ。


「焼身自殺……それでどうなったんだ? 」


 顔の半分が焼け爛れていた婆さんを思い出して北見の両隣で多部と中井の顔が引き攣っていく、


「火傷は顔だけで済んだ。暴れる婆さんは病院でも隔離されてそのまま1年半ほど入院して4年前に病院で亡くなったらしい、家に帰りたいっていいながら死んだらしいが葬式も何もかも業者任せで婆さんは灰になっても帰ってくることはなかったよ、従兄弟か何か知らんが酷いもんさ、死んだ婆さんを共同墓地へ入れて少しあった貯金や家を勝手に処分したんだからな」


 北見の父がやるせないというように酒をあおってから続ける。


「でも罰は当たるもんだ。婆さんが死んだ後直ぐだ。勝手に売った親族があの家の庭先で目を見開いて死んだんだ。何でも心臓発作らしい……こんな事はいいたくないが婆さんが連れて行ったんだろうな」

「まっ、マジかよ…… 」


 多部がコップに注がれた酒をぐいっと一気に飲み干した。


「やべぇ……靴は諦めるか」


 中井は空き家の玄関に置きっ放しにしてきた靴を取りに戻るのを諦めた様子だ。


「チヨ婆さんの幽霊か…… 」


 言葉を失う北見の向かいで父が黙って頷いた。


「それからだ。時々明かりが見えたりするようになったのは……いまじゃ誰も近付かん、お前ら明日の朝一番で神社いって祓ってもらえ」


 空のコップを持って父が立ち上がる。


「本当にお化け屋敷になって不動産屋も売るのを半分諦めてるんじゃないのかな、チヨ婆さんをあの家で安らかに死なせてやれば全て丸く収まったのにな」


 疲れたように言うと父は寝室へと入っていった。


 翌日、北見は3人揃って近くの神社でお祓いをしてもらってから今働いている関西の家へと帰っていった。

 お祓いが利いたのか、家に執着している幽霊なので他には出てこないのか、その後は何事もなく過ごすことができたがこの一件以来、北見は益々怪異に興味を持ち、それが影響したのか精神が少し不安定になり統合失調症と診断されて磯山病院へと検査入院してきたのだ。

 これが北見徹也きたみてつやさんが教えてくれた怖い話しだ。



「窓から見えてた明かりなぁ……あれはチヨ婆さんが焼身自殺しようとした時の燃えた明かりだったんだろうなぁ、今考えたら家の中じゃなくて外で燃えてるのが窓ガラスに反射した時のような淡い光だった。自分の家は燃やせなかったんだろうなぁ、それで外で死のうとしたんだろうなぁ」


 遠い目をして北見が最後に付け足した。


「幽霊屋敷か……初めはどうなるかと思ったけど結構怖かったです。やんちゃ中坊の武勇伝で終ったらどうしようかと思いましたよ」


 一息ついてコーラを飲む哲也の向かいで北見がニヤッと悪い顔で笑った。


「それなんだがな、後で父さんに聞いたんだが中坊の頃に入ってチヨ婆さんに追い掛けられたってヤツ、あの時チヨ婆さんは入院してたらしいんだ。あの頃から入退院を繰り返してたらしくてな……騒ぎを聞いた父さんが菓子折持って謝りに行ったんだ。そしたら誰も居なくてな、隣の人に聞いたら自分が初めて窓にへばり付くチヨ婆さんを見た翌日に体調悪くして入院したらしい」


 コップを持ったまま哲也が動きを止める。


「入院って……それじゃあ中学の時の北見さんを追い掛けた婆さんは………… 」

「生き霊だな、チヨ婆さん入院してる間も家が心配で生き霊を飛ばしてたんだろ、まぁこれは騒ぎになると困るから多部たちは知らないんだけどな」


 そっと置いた哲也のコップに北見がコーラを注いだ。


「生き霊か……それほど家に執着してたってことですね」

「そうだろうなぁ、追い掛けてきた時も俺たちを叱るよりも家のことだけしか言ってなかったからな……あれから4年、まだ幽霊屋敷は売れずに残ってる。チヨ婆さんが守ってるんだ。只でさえ田舎の家は売れなくなってるのにな、幽霊屋敷が売れるわけないよな」


 自分のコップにもコーラを注ぐと一気に飲んでから北見が続ける。


「朽ちるまでずっといるんだろうかとか考えたらもう一度くらいは見に行ってもいいかなって最近思うんだ」


 懐かしむような哀愁ある目で話す北見の向かいで哲也が心配そうな表情で口を開く、


「止めた方がいいっすよ、次は取り殺されるかも知れないですよ、勝手に家を処分した親戚みたいに…… 」

「でも幽霊はいつまで存在するのかとか気にならないか? 」


 北見の目がキラッと光った。怪異なものを追求したいと目が言っているのは哲也にも直ぐにわかった。


「気になりますよ、永遠にいるのならそこら中幽霊だらけになってても不思議じゃないでしょ? それこそ恨みを持ったまま死んだ人なんて幾らでもいるんだから」

「だよな、今こうして話している自分たちも幽霊かも知れないよ」


 北見が表情を緩め、向かいにいた哲也の顔にも笑みが浮ぶ、


「いや、それは飛躍しすぎっす。お菓子食べてコーラ飲む幽霊なんて聞いたことないですから」

「あははははっ、そうだな……今日は楽しかったよ」


 笑いながら北見がベッドに転がった。夕食までまだ時間があるので一眠りするつもりだろう、哲也は夕方の見回りがある。


「残りの菓子持っていっていいよ、幾らでも貰えるからな」

「ありがとうございます。遠慮なく貰っていきますよ、今日は怖い話しできて楽しかったっす」


 菓子折に入った残りを貰って哲也は笑顔で自分の部屋に戻っていった。



 翌朝、朝食を食べ終わった哲也がまた怖い話でもしようと北見の部屋を訪ねる。


「北見さん……あれ? 」


 開いていたドアから中を覗くが北見の姿が無い、


「216号だよな」


 部屋を間違えたかと確かめる。D棟の216号室、昨日訪れた北見の部屋で間違いない。


「北見さんの名前が…… 」


 哲也がドア横のネームプレートを凝視する。北見の名前が付いていない、昨日は確かに北見徹也きたみてつやと掛かっていた。同じ『てつや』だと親近感を覚えたのだ。見間違いなど絶対にしない。


「北見さんが………… 」


 再度部屋へと入ると着替えも荷物も何もない、初めから誰も居なかったようにがらんとしていた。


「部屋替えでもしたのか? 朝一番で? 」


 空き部屋の真ん中で呆然としている哲也に通りかかった香織が声を掛ける。


「哲也くん何してるの? 何かあった? 」


 首を傾げながら哲也が振り返る。


「いや……香織さん、この部屋って誰が入ってたんです? 北見さんって人が入院してますよね」

「北見? 誰? そんな人いないわよ」


 ドアの傍にいた香織が部屋の中へと入ってきた。


「へっ!? 嘘でしょ? だって北見さん………… 」


 呆気にとられる哲也を香織が神妙な面持ちで覗き込む、


「何言ってんの? 北見さんなんて知らないわよ、この部屋は2週間前から誰も使ってないわよ」

「じゃあ、じゃあ僕が見たのは………… 」


 哲也の顔から血の気が失せていく、


「哲也くん大丈夫? 顔色悪いわよ」

「なっ、何でもありません…… 」


 心配そうな香織を置いて哲也は逃げるように部屋を出て行く、


「ちょっ、哲也くん! 」

「北見さんがいない……どういう事だ? 」


 長い廊下を歩きながら必死で考える。後ろから聞こえてくる香織の声も耳に入らない。


「幽霊……北見さんが幽霊だとしたら……いや、それじゃあ佐藤さんと一緒に居た説明が…………佐藤さんだ。佐藤さんに聞けばいいんだ」


 看護師の佐藤なら北見のことを知っているはずだと思いながら哲也が階段を駆け下りる。普段は出来ることなら近付きたくないのだが真相を確かめるためにも佐藤に訊きに行くつもりだ。

 D棟を出て暫く歩いた哲也の目に看護師の佐藤が見えた。


「へっ!? 北見さん? 」


 大柄な佐藤の後ろに私服姿の北見が居た。

 訳がわからず硬直する哲也に北見が駆け寄ってくる。


「哲也くん世話になったな、今から退院だ」

「退院? 」


 きょとんとした顔で聞き返す哲也の前で北見が笑顔で続ける。


「検査入院だからな、初めから3日だけって決まってたんだ。哲也くんとはもっと話がしたかったんだけどね」


 ようやく事情を理解した哲也が乾いた笑いをあげる。


「あははははっ、入院なんてするもんじゃないですよ」

「そうだね、哲也くんも早く良くなるといいね」


 佐藤に訊いたのだろう哲也が患者だと知っている顔だ。


「ありがとうございます。北見さんお元気で」

「うん、哲也くんの御陰で楽しかったよ、ありがとう」


 磯山病院の大きな門を出て行く北見を哲也は笑顔で見送った。



 くるっと回れ右する哲也の顔から笑顔がすっと消えていく、


「かっ……香織さんに、香織さんに騙されたぁ………… 」


 D棟の2階、格子の入った窓から香織が笑顔で手を振っていた。


 今回の話しは哲也は何も体験していない、全て北見から聞いただけだ。なので本当にあったことなのか知る由もない。

 何より、北見は幽霊だったかも知れないと香織にまんまと担がれたという事実が哲也の頭の中から全てを吹き飛ばした。

 笑顔で手を振る香織を見上げながら幽霊より生きている人間の方が怖いと哲也は改めて思った。


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