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第一話 入れ物

 誰にでもお気に入りの入れ物があるだろう、小物入れだったり大きなトランクだったり、高価なものでなく段ボール製の箱も使い勝手が良かったり長い間使っていれば愛着が出て大切になるものだ。

 哲也にもお気に入りの入れ物がある。何の変哲もない市販されているクッキーの空き缶である。丸い缶には飴玉やチョコなどお菓子を入れている。味気ない病院食と違いお菓子は好きなものを買って自由に食べる事が出来る。病院という閉鎖された空間での楽しみの一つと言ってもいい。

 大事なお菓子を入れている空き缶だ。使っているうちに愛着が出て少し錆が出ても新しくしないでそのまま使う程に気に入っている。いつの間にか中身と同じくらいに大切になっていた。

 では入れ物とは何なのだろう? 大事なものに傷や汚れが付かないようにカバーする。贈呈品の見栄えを良くする。他者に取られないように隠す。色々考えられるが入れ物にしまうという感覚は人間特有のものだろう。

 入れ物が好きな動物も居るがそれは住処として使ったり餌を蓄えるのに使うだけだ。

 例えば猫は箱が好きである。お気に入りの箱を持つ猫もいるだろう、だが人間のように大事にしたりはしない、安心感を得るために箱に入るだけだ。

 大切な物を入れる入れ物、中身はとっくに失ったのに入れ物だけが残る事もある。これはそんな話しだ。



 昼食を終えた哲也がトイレに行こうと廊下を歩いていると後ろからカツンカツンと音が聞こえて振り返る。


「あっ!! 」


 思わず声を出した哲也を30過ぎくらいの中年男がジロリと睨んだ。


「すみません、目にゴミが入ったみたいで…… 」


 目を擦りながら哲也が謝った。

 男は何も言わずに松葉杖を突いて哲也の脇を歩いて行く、右足が不自由らしい、カツンカツンと鳴っていたのは松葉杖の音だ。


「気のせいか…… 」


 小さな声で哲也が呟いた。

 杖を突く男に驚いたのではない、男の右半身に黒い影のような物が纏わり付いて見えたのだ。哲也が気のせいと思うのも仕方がない一瞬の出来事だ。男の睨む顔を見て慌てて誤魔化すように目を擦って謝ったというわけだ。


「哲也さん、薬は飲みましたか? 」


 去って行く男を見ていた哲也に看護師の東條香織とうじょうかおりが声を掛けてきた。

 香織は新しく入ってきた看護師で哲也が入っているA棟の担当医師である池田先生とは遠縁らしく直ぐに親しくなった。


「うん、ビタミン剤なら飲んだよ」

「じゃあオッケー、ちゃんと飲んで体力付けないと警備任せられないからね」


 笑顔でこたえる哲也に香織が冗談っぽく笑って合わせてくれた。

 飲んでいる薬の中にはビタミン剤もあるが本当は心療内科の薬だ。哲也も分かっている。


「明日は水曜だから池田先生のところへ行って下さいね」

「はい、分かってますよ、それと………… 」


 去ろうとする香織を呼び止めた。


「あの松葉杖の人、見掛けない人だね、新しく入ったの? 」


 長い廊下の先、角を曲がる男を指しながら訊いた。


「ああ、加山さんね、加山さんがどうかしたの? 」


 何かトラブルでもあったのかと心配顔で聞き返す香織の前で哲也が慌てて口を開く、


「別に何もないよ、何の病気かなって思って……まともそうだったし…… 」


 加山はがっちりした大柄の男だ。表情も目の輝きも普通の人に見えた。とても病んでいるとは思えなかった。


「加山さんね……何でも化け物に襲われるって言って自分から入院してきたらしいわよ、取り敢えず検査入院にして10日程様子見するらしいわよ」

「自分から入院したんですか? 自分から…… 」

「哲也くん、また変な事考えてるでしょ? 」


 パッと顔を上げた哲也を見て香織は姉が叱るように睨んだ。


「ちっ、違いますよ、別に……化け物の話しは興味あるけど………… 」


 しどろもどろになる哲也の向かいで香織が頬を緩める。


「退屈なのは分かるけど先生たちに迷惑掛けるような事だけはダメですからね」

「退屈なんてとんでもない僕は警備の仕事があるんですからね」


 胸を張る哲也を見て香織が優しく微笑んだ。


「そうだったわね、警備頑張ってくださいね」


 哲也の肩をポンッと叩くと香織は廊下を歩いて行った。


「おっと、トイレトイレ」


 尿意を感じて慌てて小走りになる哲也の口元が愉しげに歪む、


「一日早いけど今日診察して貰おう、ついでに加山さんの事を聞こう」


 哲也は水曜日と金曜日、週に2回経過を見るために池田先生の診察を受けている。

 今日は火曜日だ。診察は明日だが優しい池田先生なら大丈夫だと行く事にした。迷惑を掛けるなと言った香織の言葉などすっかり忘れている。



 トイレを済ませてその足で診察室へと向かう、入り口から顔を覗かせる哲也に気付いて池田先生が声を掛けてきた。


「哲也くん、どうしたんだい? 診察は明日だよ」

「分かってるけど今日じゃダメですか? 」

「明日は都合悪いのかな? 」

「そう言うわけじゃないんですけど…… 」

「診察日が水曜と金曜ってわかっているのなら構わないよ、今日は夕方まで空いているからね」


 にこやかな池田先生を見て哲也がおべっか笑いをしながら診察室へと入っていった。

 いつもの定期診断を終えると哲也が話を切り出す。


「新しく入った加山さんの話しを聞きたくて…… 」

「もう耳に入ったのか? 誰から聞いたんだい? それで今日来たんだね」


 呆れ顔の池田先生を見て哲也が嬉しそうに顔を綻ばす。


「えへへ、警備員ですからね、新しく入った人はチェックしてますよ」

「警備員か……そうだね、化け物に襲われるなんて聞いたら仕方無いか、でもトラブルは御免だよ」


 池田先生は一言忠告してから教えてくれた。

 本来なら話してはいけないのだろうが哲也は特別扱いだ。哲也が関わる事によって状況が良くなった前例が幾つもある。妄想だろうと何だろうと茶化さずに相手の話を真面目に聞く哲也なら大丈夫と判断したのだろう。


 加山亮かやまとおるさんは強迫観念が強く時々パニックになる強迫性障害という事で病状を見るために検査入院してきた人である。登山が趣味というだけあってがっしりした大柄の山男と言った雰囲気の33歳の男性だ。

 診療内科系の病院に入ってくる患者は親族や友人などの勧めで入ってくるのが一般的だが加山さんは自分の意思で診察に訪れた。

 何でも化け物に命を狙われているらしい、警察に守って貰おうとしたが当然の如く断られ診療内科系の病院に行ってみてはどうかと言われて磯山病院を紹介されたのだ。

 普通は心療内科を受けろなどと言われたら落ち込むか怒り出す人が殆どだろうが加山さんは素直に応じた。正に藁にも縋る気持ちだったのだろう。

 磯山病院には休職して入ってきた。化け物の幻覚を見る事以外は何も異常は無く仕事もこなしていたので職場仲間も入院した事については驚いていた程である。



 どんな化け物が命を狙っているのかは勿論だが自身から入院を希望したという加山さんに興味を持った哲也は早速話しを聞きに行った。


「206号室、ここだ」


 加山という名札を確認して個室の開いているドアをノックして中を覗き込む、


「すみません、少しいいですか? 」


 愛想笑いをしながら哲也が訊くとベッドに横になって雑誌を読んでいた加山が上半身を起こす。


「何だあんたか……何か用か? 」

「すみません、僕はここの警備員をしている中田哲也といいます」

「警備員? まぁいいか、それで何の用だ」


 訝しい顔で見つめる加山のベッド脇まで哲也が入っていく、


「加山さんに話しを聞きたくて…… 」


 愛想笑いから一転して哲也が真面目な表情になる。


「さっき見たんです。廊下で会ったときに加山さんの右肩や右足に黒い靄のような物が見えたんです。一瞬だったんで気の所為かもしれないけど……それで驚いて加山さんに睨まれて目にゴミが入ったって言って誤魔化したんです。それで加山さんが化け物に襲われているって話しを聞いて何か力になれればって……一応警備員ですから夜も巡回していますし……それで詳しい話しを聞きたくて来たんです」


 眼光の鋭い加山には嘘は無駄だと哲也は本当の事を話した。それが功を成した様子だ。

 険しい顔を更に顰めて加山が重い口を開いてくれた。


「黒い靄か……本当に見えたんだな? 」

「ハイ、見ました。右側だけに纏わり付いていたように見えました」

「右だけか…………俺が話した化け物の話しをどこかで聞いて調子を合わせているだけじゃないみたいだな、そうだ……右だけだ。今は右だけなんだ」


 加山はベッドの上に座ると哲也を近くにあった椅子に座るように促した。

 これは加山亮さんから聞いた話しだ。



 単独登山が趣味の加山は1年と4ヶ月程前にある山へ行った。まだ残雪が残る春山だ。


「少し寒いな、息が白い」


 昼食に持ってきたインスタントラーメンを作るためにシングルバーナーとコッヘルを使って湯を沸かしながら辺りを見回す。

 シングルバーナーというのはアウトドアで使う小型のコンロの事だ。コッヘルというのはアウトドアで使う鍋の事だ。大小の鍋を重ねてコンパクトに畳む事が出来る。

 春山登山と言うにはまだ早い時期なので他には誰も居ない、平日という事もあってか登っている途中でも出会わなかったので今日は誰も居ないのだろう。


「貸し切りだな」


 一人になるために山に登っているようなところのある加山は満足気に呟いた。

 岩に腰掛けスキットルから直接ブランデーを飲む、


「ふぅ~~、温まる。冬はやっぱこれだな」


 上機嫌で二口三口と酒が進む。

 学生時代は本格的な登山もしていたが仕事の忙しい今は専ら日帰り登山専門である。山の雰囲気を味わう為に登っているようなものだ。2~3日休みがあれば遠出をする事もあるが山で泊まる事は無い、日帰り登山をして麓の宿に泊まってゆっくり休む、リフレッシュして普段の生活に戻っていくのだ。


「そろそろいいな」


 袋から麺を取り出し半分に割るとコッヘルの大きい方の鍋に沸かしていた湯の中へ押し込むように入れた。

 本格的な料理などはしない、インスタント食品やパンやおにぎりで済ます事が多い、荷物を減らす為もあるが山の上で食うと只の塩むすびでも美味しく感じるのだ。それに昨今のインスタント食品はそこらの店より旨いものが多い、無理して山の上まで食材を運んで調理するより時間も手間も節約できる。

 3分程待ってふやけた麺をズズッと啜る。


「旨い!! 」


 思わず声が出る。


 その時、後ろの藪がガサリと鳴った。

 加山は振り返ると藪を凝視する。匂いに釣られて獣がやってくる事もある。この山程度の規模ならツキノワグマがいてもおかしくはない。


 気のせいか……、藪を凝視しながら麺を啜る。


「狸か狐か、お前らの分は無いぞ、もう春だから頑張って餌を探せ」


 藪を見つめながらラーメンを食べ終わる。

 本州の山で怖いのはツキノワグマと猪と猿の集団と野犬くらいだ。何も出てこないところを見ると鳥か小動物だろう。

 昼食を終えると場所を変えて景色を見ながらまたブランデーをちびちびと飲む、


「そろそろ帰るか、今夜は御馳走だ」


 時計を見ると午後1時を少し回っていた。

 登るのに5時間程掛かった山だ。遅くとも午後7時までには麓の宿に帰れる予定だ。

 リュックを背負いゴミなど落としていないか確認すると下山を始める。


「あれ? 」


 上機嫌で下っていた加山が足を止めた。


「おかしいな迷うはず無いんだけどな」


 登った時に見た景色と違っていると感じた。


 素人のハイキング気分の登山と違い日帰り登山と言っても慣れた人ならかなりの山に登る事が出来る。この日、加山が登っている山も素人ならとても日帰りでは往復できないほどの山だ。だが初めて登った山では無い、彼此7回は来ている山である。景色も良いが麓の定宿での食事が楽しみで年に2回は来ているのだ。登山道は2つあるがどちらも慣れたもので迷う事など有り得ない山なのだ。


「少し酔ったか……まぁ迷ったとしても藪漕ぎすれば抜けられる山だからな」


 簡易テントやロープに非常用の糧食など最低限の装備は持ってきている。下山する方角は分かっているので最悪、道無き藪の中を通って降りればいいと加山は簡単に考えた。

 ベテランの加山にとって今いる山などは本格登山のうちには入らない散歩みたいなものなのだ。


「先ずはこの場所の現認だな」


 今いる場所を確認しようとして残雪が残る登山道の端から下ってきた道を見上げる。道の向こうは急斜面だ。加山は用心しながら身を乗り出す。


「なっ!? 」


 何かに足首を掴まれたと思った瞬間、加山は急斜面を転がり落ちた。


「がっ!! 」


 後頭部に衝撃を感じて目の前が暗くなる。


『死んだ。死んだ。これでいれる。ひひひっ、ひひひっ』


 薄れ逝く意識の中、奇妙な笑い声を加山は聞いたような気がした。



 大きな衝撃を感じて加山が目を覚ます。


「がっ!! うぅ………… 」


 木に背中を打ち付けて止まったらしい、


「何が……頭は大丈夫だ」


 後頭部を強く打った気がしたが意識はハッキリしているし痛みも感じないので気のせいだろう、それよりも足が気になった。


「くそっ……足に何か絡まったか? 」


 急斜面の山肌に逆さになるように倒れたまま右足を見た。

 何かに足首を掴まれたのは確かだが信じたくはない、無意識に蔓や草が絡まったのだと思い込んだ。


「 ………… 」


 足首には草一本も付いていない、怪訝に思ったが滑り落ちた際に外れたのだと気にもしないで立ち上がる。


「痛てっ! 痛ててて………… 」


 どうやら右足を捻挫でもしたらしい、加山はリュックを下ろして座り直した。


「ザックの御陰で頭を打たなかったし背中も痛めなかったのは幸いだ」


 靴を脱いで足の状態を確認する。


「骨は折れていないようだ」


 安堵すると滑り落ちてきた崖のような山肌を見上げる。


「んん!? 何だ? 血か? 」


 4メートルほど上、斜面から突き出すように出ている岩にべっとりと血のようなものが付いていた。


「足以外に怪我はしてないよな」


 加山が体を捻るようにして怪我は無いかと確認する。滑り落ちていく時に打ち付けたらしく彼方此方が痛かったが血の出るような怪我は無かった。


「あの血は狸か狐が獲物を捕らえてあの岩で食べたんだな」


 気にした風もなく右足の具合を再度確かめる。


「この足じゃ登るのは無理だな」


 右足を引き摺るようにして少し下ると開けた場所へと出る。

 岩の間に湧き水が小さな流れを作っていた。川どころか沢とも呼べない幅30センチもない水路である。

 過去に大きな流れでもあったのか砂利が2メートル程敷き詰められていて草が殆ど生えていない休むには最適の場所だ。


「ここなら水の心配はないな」


 岩を背にして座り込むとリュックから薬を取り出し靴を脱いで右足に塗る。筋肉痛を和らげる薬だが捻挫にも一応の効果はあるものだ。予備に持ってきていたシャツを包帯代わりに巻いて近くに落ちていた枝を添え木に当てる。


「これでよし、軽い捻挫なら3日もすれば歩けるだろう」


 時計で時間を確認する。午後の3時を少し回っていた。


「ここでビバークだな、宿には7時には戻ると言ってある。直ぐに救助が来るだろう、この山なら明日にでも探してくれるはずだ。今晩どうにか凌げば大丈夫だ」


 急な山道を無理して歩いてこれ以上足を痛めるとダメだと思い野宿に決めた。騒ぎになるのは嫌だが足を痛めて二度と登山が出来なくなるのはもっと御免だ。


「食料は食いつなげれば4日は持つ、水はあるし沢ガニも居るだろうから一週間は大丈夫だ。尤もこんな山なら2日も掛からないだろうけどな」


 楽観的に考えるとリュックの中を確認する。


「向こうの木とこの岩にロープを通して簡易テントを張って後は雨具と保温シートで寒さは防げるな」


 痛む右足を気遣いながらチューブ状の簡易テントを張るとレインコートを着て寝転んだ。

 夜になって寒くなればアルミを蒸着した保温シートがあるので大丈夫だ。


「電話はダメか…… 」


 リュックを枕に寝っ転がってスマホを弄るが圏外表示で繋がらない、舗装された道路など通っていない山なのだから当然である。

 喉に渇きを覚えて水筒の水を飲む、半分程残っていた。

 加山が起き上がる。


「湯を沸かすか」


 テントを張る際に拾った枝を杖にして沢で水を汲んでくる。


「今晩と明日の朝の分、取り敢えず1リットルほどあればいいだろ」


 600ミリ入るコッヘルで2回に分けて沸騰させる。生で飲めない事もないだろうが動物の糞などで汚染されている事も有り得るので煮沸消毒するのだ。

 小さい方のコッヘルに水筒の水を移して空いた水筒に沸かした湯を入れる。真空保温の水筒だ明日の朝まで温かな湯が使えるだろう。


「ブランデーも半分以上残ってるし湯もあるし少々寒くても大丈夫だな」


 テントの横でクッキーを齧りながら小さい方のコッヘルに入れていた水を飲む、時計を見ると4時前だ。

 山の暮れは早い、先ほどまで昼だったのが辺りは薄暗くなっていた。


「ライトの電池は予備もあるが節約だな、本は明日読もう」


 LEDライトを点けるとリュックに放り込んであった文庫本を飲みかけのコッヘルに置いて蓋をするとテントの中に転がり込む、


「ラジオ持ってくりゃよかったな…… 」


 ライトを消すと横になりながらスマホを弄り始める。電波は届かないが電子書籍やゲームなどが入っているので暇潰しにはなる。モバイルバッテリーも用意してあるので12時間以上は持つはずである。

 スマホの明かりがぼうっとテント内を照らす。外は既に闇である。

 1時間程スマホを弄っていたが疲れもあってかうとうととし始めた。


「 ……寝るか」


 スマホを消すと真っ暗闇だ。残雪が残る初春の山である虫の声もしない、明るいときは聞こえなかったが暗くなり耳に意識が集まると傍の沢を流れる水音が聞こえてきた。心地好い音だ。他に聞こえてくるのは風に煽られた藪が時折ザワザワ音を立てるだけだ。

 怖いと思う人もいるかも知れないが山男の加山は慣れたもので直ぐに寝息を立て始めた。



 どれ程寝ただろうか、カサカサという音で目が覚めた。


 なんだ? 狸か狐でも来たかな


 加山はさして気にもせずに寝返りを打った。

 テントは沢の隣りに張ってある。山では貴重な水源だ。飲み水は勿論、沢ガニや蛙など獲物を捕らえる事の出来る狩り場でもあるので獣が来るのは当り前だ。


 カサカサカサカサ……、音がテントに近付いてくる。


 食い物でも狙ってきたかな? 加山は横になったまま杖代わりに持ってきた棒切れを握り締めた。


 カサカサカサカサ……ギュッギュッギュッギュ…………、草を踏み分ける音から砂利を踏みしめる音に変わった。直ぐ近くに来ている。


 ヤバい、足音からして狸や狐じゃ無い、もっとデカいヤツだ。

 加山はゆっくりと上半身を起こすとリュックのベルトに付けていた笛を口に持っていく、


 ピ~~、ピピ~~~、ピ~~、


 ありったけの息を込めて笛を鳴らす。

 此方の存在を相手に教えるのだ。猪は勿論ツキノワグマにも効果はある。

 しばらく笛を鳴らしていたが襲ってくる様子も無いので止めると耳を澄ます。


「ふぅ……猪か鹿かな」


 一息つくとそっとテントから顔を出す。ライトは点けない、驚いた獣が突っ込んでくるのを防ぐためだ。

 外は真っ暗だ。周りの木々に遮られて月明かりも殆ど届かない、見ると言うより気配を探るようにテントの周りを何度か見たが異常は無かった。


「11時か…… 」


 腕時計で時間を確認するとテントに戻って横になる。

 暫く警戒していたがいつの間にか眠りに落ちていた。


 ギュッギュッギュッギュ……、砂利を踏みしめる音で目を覚ます。


 テントの周りを何者かが回っている気配がする。

 また来たか……、加山が笛を口に当てる。


「 ???? 」


 噛むように笛を咥えて加山が身を強張らせる。


 ギュッギュッギュッギュッ、足音に耳を集中させる。


 四本足の動物の足音とは全く違う、人が歩いているような規則正しいテンポだ。

 クマなら二本足で立つ事は出来るが人のように規則正しく歩く事など出来ない、二本足で歩く芸を仕込まれたクマが傍に居るとは思えない、ではテントを回っているのは何者なのか? 加山の背を冷たい汗が伝っていく。


 ギュッギュッギュッ、足音が止まった。テントの直ぐ前だ。


 カラッ、カララン……、金属を落としたような音がした。


 加山の頭に外の岩の上に置いた飲みかけの水の入ったコッヘルが浮ぶ、金属音を鳴らすものは他には無い、バーナーは獣に悪戯されると困るのでテントの中に入れてある。


『見つけた』


 くぐもった声が聞こえた。

 人がいるのかと加山は一瞬気を緩めたが直ぐに身を強張らせた。仮に人間だったとして真っ暗な闇の中で明かりも点けずに動き回るなんて異常だ。


『見つけた。見つけた』


 またくぐもった声がする。聞き間違いでは無い人の言葉だ。


 見つけた? 何を見つけたんだ? 俺の事か? 自問自答する。異常者がテントの外にいるとしたら……、加山は杖代わりに持ってきた棒切れを握り締めた。捻挫しているとはいえ一人くらいなら倒す自信はあった。


 息を凝らす加山の耳にまた声が聞こえてきた。


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた。見つけた。見つけた。入れ物見つけた』


 くぐもった声が楽しそうに聞こえてくる。

 入れ物? 何の事だ……コッヘルか? コッヘルの事か、考える加山の耳にカチャッと何かを拾ったような音が聞こえた。


『貰った。貰った。入れ物貰った』


 ギュッギュッギュッギュッ……、楽しげな声と共に足音が遠ざかっていった。


「行ってくれたか……何だったんだ」


 安堵する加山は全身冷たい汗で濡れていた。


「寒っ!! 」


 服を脱いで汗を拭くと予備に持ってきていたシャツに着替える。

 山男の加山も流石にこの後は一睡もせずに朝を迎えた。



 うっすらと明るくなった頃合いを見てテントから顔を出す。

 辺りを見回して何も居ないのを確認すると杖を突いてテントから出た。


「やっぱり持っていかれた…… 」


 テントの前の岩を見て呟いた。

 蓋をして置いてあったコッヘルが無くなっていた。蓋代わりの文庫本が岩の下に転がっている。


「入れ物か……お気に入りのコッヘル盗みやがって」


 怖いと言うより腹が立ってきた。


「クマが喋るわけないし、幽霊がカップ盗むなんて聞いた事ないし、絶対人間だ。くそったれが、覚えてろよ」


 文句を言いながら濡れた文庫本を岩の上に広げて乾かす。


「痛てっ、痛てて…… 」


 緊張が解けたせいか捻挫した右足が痛み出した。

 包帯代わりに巻いていたシャツを外して足を見る。


「ヤバいな、これだけ腫れてたら歩くのはダメだな」


 少しでもよくなっていれば自力で下山するつもりだったのだが昨日より悪くなっていた。


「仕方無い、救助を待つか」


 沢の水で足を洗って筋肉痛の薬を塗り直すと包帯代わりにシャツを巻いて添え木を当てる。


「デカい山じゃないから宿のオヤジが通報してくれれば明日か遅くとも明後日には救助が来るだろ、昨日はともかく流石に今日帰らなかったら宿のオヤジも気付くだろうしな」


 定宿は今朝チェックアウトする予定だ。料金を精算していないのである。昨晩はともかく今朝も居ないのが分かれば騒ぎになるはずだ。


「まぁでも一応食い物は節約するか」


 持ってきた非常用の食料を広げる。

 昨日夕食代わりに食べたクッキーの残りに袋麺が2つ、ゼリー状の栄養食が2つに小さな羊羹が4つ、後は飴玉やインスタントコーヒー、粉のスポーツドリンクなどだ。


「4日は持つな、コーヒーでも飲んで寝るか」


 水筒の湯でコーヒーを作って飲むとテントに潜って眠った。

 昨晩は中途半端に起きていたので眠くて仕方がない、それに今夜もあいつが来たらと考えると明るい内に眠って体力を温存した方がいいと考えたのだ。


「ふぁあぁ~~、よく寝た」


 テントの中、目を覚まして伸びをする。

 時計を見ると昼の2時前だ。


「腹減った……ラーメンでも作るか」


 リュックから飯盒を出すと中に入れてあった薬や予備の電池に固形燃料などを取り出す。飯盒で飯を炊くなどすることは無くなったがリュックの中を整理する小物入れ代わりに使っていたのだ。


「コッヘル泥棒め…… 」


 大小2つあるコッヘルの大きい方で湯を沸かしていたのだが小さい方が盗まれたので大きい方を調理用にして飯盒で湯を沸かす事にした。


「まだ水筒には3分の1残ってるし飯盒はデカいから一度沸かせば今日の分はいいな」


 湯を沸かしている間に痛む足を引きずって近くの藪から棒切れを数本拾ってきた。


「今日も来やがったら殴り倒してやる」


 相手が人間なら多少おかしなヤツでも怖くはない、それよりもお気に入りのコッヘルを盗まれた事で怒りで恐怖など無くなっていた。


「飯にするか、荷物になるけどラーメン余分に持ってきてよかったぜ」


 大きい方のコッヘルに袋麺を割って入れると湯を流し込む、普段は3分程待って食べるのだが今日は5分以上待ってふやかして食べた。まともな食事はこれだけだ。夕食はクッキー数枚と飴玉で済ます予定である。それで少しでも腹が膨れるようにインスタントラーメンをふやかして食べたのだ。


 昼食を終えるとテントから少し離れた岩の上に枯れ草や枯れ枝を集めて置いた。固形燃料を使って火を付ければ狼煙になる。救助が来たときの目印にするためだ。


「もう4時半か…… 」


 いつの間にか辺りは薄暗くなっている。痛む足を引き摺りながらの作業は普段の3倍以上時間が掛かった。


「今頃通報して騒ぎになってるかな、今日救助に来なかったとこをみると俺が無賃宿泊でもしたのかと家や会社に連絡行ってるな……だとしたら遭難してるってわかって救助に来るのは明日か明後日か………… 」


 楽観的な性格の加山は熱いコーヒーでクッキーを流し込むとテントに入って寝転んでスマホを弄くり始めた。


「もし今日も来やがったら只じゃおかねぇ」


 枕元には昼間拾った棒切れが3つ置いてある。

 相手が何者かも分からないのに体力に自信のある加山はやる気満々だ。

 時刻は7時を回っていた。外は闇だ。スマホの明かりがぼうっとテント内を照らす。


「腹減ったな」


 リュックのポケットに入れていた飴玉を取り出すと口の中に放り込む、昼間眠ったせいかコッヘル泥棒に対する怒りか少しも眠くならない。

 1時間程が経った。スマホの小さな画面で電子書籍を読んでいると目が疲れたのか瞼が重くなってくる。


「ふぁあぁ~~、寝るか」


 スマホを消すとそのまま眠りについた。


 ギュッギュッギュッギュッ……、ジャリを踏む足音で目を覚ます。


 来やがった……、加山の寝惚けた頭がハッキリしてくる。


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた。見つけた。見つけた。入れ物見つけた』


 くぐもった声で呟きながら何者かがテントの周りを歩き出す。


 何が見つけただ! 横になったまま加山が枕元に置いていた棒切れを握り締めた。


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた。見つけた。見つけた。入れ物見つけた』


 ギュッギュッギュッギュッ、足音がテントの前に来た時、棒切れを握った加山が飛び出した。


「てめぇ!! いい加減にしろ…… 」


 威勢よく怒鳴った言葉が萎んでいく、


「なっ、なん!? ひぃぃ…… 」


 驚いて悲鳴を上げる加山の目の前に毛むくじゃらの化け物がいた。


「ひぅぅ…… 」


 クマかと思ったが違った。

 2メートル30センチ程の大きな猿のように見える。だが猿の顔では無い、人の顔が付いていた。時代劇に出てくる丁髷頭の男の顔が付いていた。


『見つけた。見つけた。人間見つけた』


 大きな毛むくじゃらの身体に不釣り合いな丁髷頭の男がくぐもった声を出した。


『見つけた。見つけた。人間見つけた』


 加山を見つめて化け物がニタリと笑った。入れ物が人間に変わっているのに気付いて加山の全身に恐怖が走る。


 殺される……、落としそうになった棒切れを握り直すと加山は化け物に向かって行く、


「うわあぁあぁ~~ 」


 叫びながら棒切れで殴り掛かった。伊達に一人で登山をしているわけではない、度胸の据わっている加山は反射的に動いていた。


『ゲヒヒヒッ、グヒヒヒッ』


 化け物は猿のように素早く避けると後ろの岩に飛び乗った。


「くそっ! 痛てて…… 」


 捻挫した右足の痛みに加山は棒切れを杖にその場に蹲る。

 もうダメかと思ったが化け物は襲ってこない、


『入れ物……入れ物をくれ、入れ物をくれ』


 岩の上で中腰になった化け物が『くれ』と言うように手を伸ばす。


「いっ、入れ物? こっ、コッヘルの事か? 」

『入れ物、入れ物、入れ物をくれ』


 震える声でこたえる加山の前で化け物が渡せと言うように手を開いたり閉じたりする。


「わっ、わかった……取ってくる」


 待てと言うように両手を突き出して言うと加山はテントに入る。先ほどまでの喧嘩腰などとっくに腰砕けになっていた。


「こっ、これでいいか? 」


 ステンレスで出来た大きい方のコッヘルを化け物がいる岩の下へ置くと直ぐに下がって距離を取る。

 棒切れを握り締めているが化け物を倒す気などとっくに消えている。襲い掛かってきたときの防御用に持っているだけだ。


 岩の上にいる化け物が前屈みになって長い腕を伸ばしてコッヘルを拾う、


『貰った。貰った。入れ物貰った』


 コッヘルを頭の上にかざして嬉しそうに言うと化け物がポンッと岩の上から飛び降りた。


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた。貰った。貰った。入れ物貰った』


 まるで加山など目に入らないかのように嬉しそうに踊り呟きながら化け物が藪の中へと消えていく、


「たっ……助かったぁ………… 」


 一気に力が抜けたのか加山がその場にへたり込んだ。

 闇が加山を包み込む、沢を流れる水の音や風に煽られた草の音が聞こえてきた。


「何なんだアレは…… 」


 登山歴の長い加山が必死に考えるがハッキリと該当するものは何も思い付かない、唯一思い出したのは学生時代に仲間と山小屋で怪談大会のようになったときに誰かが話した山の神様の話やヤマノケと言う妖怪の話しだ。


「山の神様がコッヘルを欲しがるのかよ…… 」


 呟きながら時計を見る。


「2時か……一眠りするか」


 コッヘルを手に満足気に帰って行った化け物を見て今日はもう来ないという確信めいたものはあった。短い時間だが化け物と対峙して精神的に疲れたのか加山はテントに入って泥のように眠った。



 翌朝、昼前に目を覚ますと真っ先に捻挫した右足を確かめる。


「痛てっ、痛ててて……くそっ、昨日より腫れてやがる」


 少しでも腫れが引いていれば山を降りるつもりだった。だが足はパンパンに膨らんで杖無しでは立つ事も出来ないくらいに痛かった。


「くそったれが!! 救助は何をやってんだ! 宿のオヤジは何やってんだよ、通報したんだろうなクソオヤジが!! 」


 空に向かって怒鳴る。定宿の人のよい主人に八つ当たりだ。

 その時、近くの藪がガサリと鳴った。


「ひぅっ!! 」


 息を吸い込むような悲鳴を上げて藪を見つめる。

 小鳥が羽音を立てて飛んでいった。


「何だ鳥か……救助が来なかったら今日も野営だぞ」


 頭に昨晩の化け物が浮んだ。


「またあの化け物が来たら……くそっ、何でこんな事に………… 」


 憔悴して喉の渇きを覚える。

 杖を使って左足だけで跳ねるようにして歩いて沢まで行く、


「水……水だ」


 這うようにしゃがみ込むと手で掬って水を飲む、煮沸消毒などと言っている余裕は消えていた。


「飯にしよう、栄養を付けて怪我の治りを早くしないと…… 」


 杖を使って左足だけで跳ねるようにしてテントに戻るとリュックの中からゼリー状の栄養食と小さい羊羹を1つずつ取り出す。

 水筒に入れていたお湯でコーヒーを作ると朝昼兼用の食事を取る。


「甘くて旨いな、帰ったら焼き肉でも食いに行くかな」


 量は少ないが甘い羊羹とお腹の中で膨れるゼリーで空腹感が薄らいでいった。

 じっと水筒を見つめる。


「入れ物を渡せばいいんだ。そうだ。水筒もあるし飯盒もある。小さいがマグカップもあるぞ、クッキーの箱も入れ物だ。そうだ。そうだ何とかなる。会社も無断欠席してるんだ。いくら何でも俺が行方不明になってる事はわかってるはずだ。今日がダメでも明日には必ず救助が来るはずだ。大丈夫だ。大丈夫だ」


 食事をして少し落ち着いたのか自身に言い聞かせるように言った。



 辺りが暗くなってくる。救助は来なかった。

 添え木を大きくしたりシャツをもう一枚重ねたりしたが捻挫した右足はとても歩ける状態ではなく今晩も野営するしかなかった。


 真っ暗な闇の中、加山の居るテントがぼうっと光を放っている。


「くそっ、何でこんな事に…… 」


 加山がスマホを枕元に転がす。

 気を紛らわそうとスマホで電子書籍を読んだりゲームをするが何も頭に入ってこない。


「入れ物……水筒と飯盒はダメだ。あとはマグカップだな……クッキーや薬の箱でいいなら助かるんだが………… 」


 リュックの横に付けていた小さなマグカップを用意する。そばに中身を抜いたクッキーの箱と筋肉痛の薬の空き箱も用意した。


「これがダメだったら俺はどうなる? 」


 大きな猿のような身体に丁髷頭が付いた化け物がニタリと不気味に笑ったのを思い出す。


「山の神……化け物が………… 」


 警戒していたはずがいつの間にかうつらうつらと船を漕いでいた。


 ギュッギュッギュッギュッ……、ジャリを踏む足音を聞いて加山の目が瞬時に覚める。


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた』


 昨晩のようにテントの周りを回ったりしないで真っ直ぐに来ると入り口の前で止まった。


「なっ、何の用だ! お前何者だ? 山の神様か」


 顔を出さずに加山が訊いた。


『見つけた。見つけた。人間見つけた。見つけた。見つけた。人間見つけた』


 化け物はこたえずに同じ言葉を繰り返すだけだ。


「止めてくれ、助けてくれ」


 余りの不気味さに耐えきれなくなった加山がテントから顔を出す。


「いっ、入れ物をやるから帰ってくれ」


 目の前に居た化け物がニタリと笑った。


『入れ物、入れ物、入れ物をくれ』


 化け物が手を伸ばす。

 加山が震える手でクッキーの箱を化け物の手前に放り投げた。


『入れ物、入れ物…… 』


 化け物がクッキーの箱を握り潰す。


『入れ物をくれ、入れ物をくれ、入れ物をくれんと命を貰うぞ』

「ひぃ~~っ 」


 不気味に笑う化け物を見て加山の口から掠れた悲鳴が上がる。


「わかった。わかった。入れ物だな」


 待てと言うように両手を突き出すと加山は用意していたマグカップを化け物の前に放り投げた。

 化け物がマグカップを拾う、


『入れ物だ。入れ物、入れ物、入れ物見つけた。見つけた。見つけた。入れ物見つけた。貰った。貰った。入れ物貰った』


 化け物がマグカップを嬉しそうに頭の上に翳す。

 そのままくるりと背を向けると藪の中へと入っていく、


『入れ物、入れ物、大事な入れ物、入れ物、入れ物、大事な入れ物』


 楽しげな掠れ声が遠ざかっていく、


「たっ、助かったぁ~~ 」


 加山がテント内でへたり込んだ。

 緊張が抜けてそのまま気絶したように眠りに落ちた。



 遭難して4日目、目を覚ますと日は既に高く昇っていた。


「うぅ……もう11時か」


 目を擦り腕時計を見ると11時を回っていた。


「どうにか助かったが、入れ物か……大事な入れ物って何のことだ? 」


 昨夜、化け物が帰って行くときに言っていた言葉を思い出す。


「どうにかして降りないとな」


 上半身を起こす。


「痛ててて…… 」


 捻挫の具合を調べようとしたのだが見るまでもなかった。上半身を起こすために力を入れただけで激痛が走った。


「ダメだ…… 」


 絶望に顔が蒼白になる。パンパンに腫れ上がった右足は杖を使っても歩くのに難儀するほどだ。山道などとても歩ける状態ではない。


「救助が来なかったら今日もビバークだ」


 腫れ上がった右足に薬を塗ると包帯代わりのシャツを巻いた。

 リュックの中を探って袋麺を取り出すと調理せずにそのまま齧り付く、足の痛みに水を汲みに行くのが面倒なだけではない、余裕がなくなり正常な判断が出来なくなっている。


「どうにかしないと」


 袋麺を貪り食って腹を満たすと少し落ち着いた。


「まだ入れ物はある。飯盒に水筒もある。今日は大丈夫だ」


 荷物を整理していた加山の目に枕元に置いていた棒切れが映る。


「何もしないよりマシだな」


 アーミーナイフを取り出すと棒切れの先を削り始めた。アーミーナイフに付いている小さな刃では堅い木を削って尖らせるだけで小一時間も掛かった。


「もうこんな時間か」


 三本の棒切れを削り終わる頃には辺りは薄暗くなっていた。


「救助は無しか……くそっ」


 半ば諦めたように愚痴ると先を尖らせた棒切れを持ってテントに入る。

 夕食に残りのクッキーの全てと小さな羊羹を1つ食べた。



 辺りが闇に包まれる。

 スマホの明かりがぼうっと照らすテントの中で加山が呟く、


「飯盒や水筒がダメならやるしかない」


 スマホで音楽を聴きながら頭の中で化け物を突き殺すイメージトレーニングを何度も行った。捻挫している足では正直勝てる気はしない、だが何もせずに殺されてたまるかという気持ちもあった。

 2時間程経ってスマホのバッテリーが減ってエコモードに切り替わった。


「モバイルバッテリーを繋ぐか」


 加山がリュックに手を伸ばす。

 ガサリと藪が鳴るのが聞こえた。


「来たか…… 」


 スマホを消して息を潜める。スマホを消したのは明かりでテント内が照らされて自分の位置がわかるのを防ぐためだ。


「大丈夫だ。入れ物はまだある。飯盒とその蓋と水筒もある。大丈夫だ」


 先を尖らせた棒切れを握り締めると暗いテントの中で自身を落ち着けるように何度も呟く、


 ギュッギュッギュッギュッ……、足音が聞こえてきた。


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた。見つけた。見つけた。人間見つけた』


 テントの前で化け物がくぐもった声を出した。


「入れ物はやる。だから助けてくれ」


 加山はテントから顔を出すと飯盒の蓋を化け物の足下へ放り投げた。

 足下に転がる蓋を見て大きな猿のような体に付いた丁髷頭の男の顔がニタリと笑う、


『入れ物だ。入れ物、入れ物、もう一つくれ』


 右手で蓋を掲げながら左手をぬっと伸ばしてきた。


「もっ、もう1つ…… 」


 棒切れを握り締める加山を見て化け物が口を開く、


『入れ物、入れ物、もう一つくれ、入れ物、入れ物、もう一つくれ』


 暗い闇の中、何故か化け物の姿はハッキリ見える。丁髷頭の男のぬめった赤い口に大きな犬歯がギラリと光る。

 抗う気持ちなど一瞬で無くなった。


「わっ、わかった。もう1つやるから助けてくれ」


 加山は後ろに用意していた飯盒から内蓋を取ると化け物の手前に放り投げた。


『入れ物だ。入れ物だ』


 左手で内蓋を拾うと化け物は右手の蓋と同じように掲げてカチカチ打ち鳴らしながら背を向けた。


『入れ物だ。入れ物、入れ物、入れ物見つけた。見つけた。見つけた。入れ物見つけた。貰った。貰った。入れ物貰った』


 化け物が背を向けたまま歩き出す。

 チャンスだ! 加山が先を尖らせた棒切れを握り締めた。


『死ぬぞ』


 痛む右足を堪えて立ち上がった時、背を向けた化け物が呟いた。

 加山はその場にへたり込む、化け物が藪へと入っていった。


『入れ物、入れ物、大事な入れ物、入れ物、入れ物、大事な入れ物』


 楽しげな掠れ声が遠ざかっていく、


「死ぬ……刺そうとしたの分かってたのか」


 憔悴しきった顔をした加山がテントの中へ倒れ込んだ。



 翌日、遭難して5日目だ。

 昼過ぎに起きた加山はテントから出る事なく寝転がったまま救助を待った。

 横になったまま小さな羊羹を口に運ぶ、


「誰でもいい助けてくれ…… 」


 祈るように言うとスキットルのブランデーをあおった。

 空になったスキットルを見つめる。


「これも入れ物だ。飯盒とスキットル、水筒とコップになっている蓋、化け物が2つくれと言ってもあと2日はどうにかなる」


 スキットルを大事そうにリュックのポケットに入れた。

 恐怖を紛らわすために酒を飲んだのだが同時に判断力も失われていく、最後の羊羹に手を付けた。


「喉が渇いた」


 水筒に口を付けるが既に空になっている。酒と甘い羊羹で喉がカラカラだ。


「水……水を………… 」


 飯盒を腰のベルトに引っ掛けると痛む右足を引き摺って這うようにしてテントを出ると沢へと向かう、


「水……旨い、旨い…… 」


 沢に口を付けて獣のように水を飲んだ。

 飯盒に水を汲んで這うようにしてテントに戻る。

 水筒に水を移している間に冷静さを取り戻していく、


「しまった。羊羹を食い過ぎた」


 後の祭りだ。残りの食料はゼリー状の栄養食が1つだけだ。後は飴玉が一握りにインスタントコーヒーが2杯分とスポーツドリンクの粉が1つあるだけだ。


「誰か助けてくれ………… 」


 思いも虚しくその日も救助は来ずに夜になる。

 極度の緊張と恐怖の為に夜中まで起きていたがいつの間にか眠ってしまう、


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた。見つけた。見つけた。人間見つけた』


 くぐもった声にビクッと体を震わせて目を覚ました。


『見つけた。見つけた。入れ物見つけた。見つけた。見つけた。人間見つけた』


 テントの直ぐ前に化け物は来ていた。足音も気付かないほどに眠っていたらしい。


『入れ物だ。入れ物をくれ』


 直ぐ傍で化け物が催促する。

 加山は蓋のない飯盒を手にテントから顔を出す。


「これをやるから助けてくれ」


 飯盒を化け物の足下へ放り投げる。


『入れ物だ。入れ物、入れ物、もう一つくれ』


 右手で飯盒を持つと左手をぬっと伸ばす。

 加山はスキットルを放り投げた。


『入れ物だ。入れ物だ。入れ物、入れ物、入れ物貰った』


 化け物が嬉しそうに飯盒とスキットルを頭の上に掲げてカツカツ打ち鳴らす。


『入れ物だ。入れ物、入れ物、入れ物見つけた。見つけた。見つけた。入れ物見つけた。貰った。貰った。入れ物貰った』


 化け物が背を向ける。


「まっ、待ってくれ、もう入れ物は無い、それで全部だ。もう勘弁してくれ、頼むから助けてくれ」


 加山が震える声で化け物の背に懇願した。

 化け物がくるりと振り返る。


『入れ物くれた。いっぱいくれた。だから助けてやる。だが誰にも話すな、話せば入れ物貰うぞ、大事な入れ物貰うぞ』


 ニタリと笑う化け物に加山が震える声で約束をする。


「わっ、わかった。話さない、誰にも言わない、ここで見た事は何も言わない、だから助けてくれ、約束する。誰にも話さない」


『約束したぞ、破れば貰うぞ、大事な入れ物貰うぞ』


 ニタリと不気味に笑うと化け物が背を向けた。


「わかった約束だ。誰にも言わない、だから助けてくれ、もう来ないでくれ」


 懇願する加山の前で化け物が歩き出す。


『貰った。貰った。入れ物貰った。約束、約束、破れば貰う、一番大事な入れ物貰う』


 掠れた声で歌うように楽しげに言いながら化け物は藪の中へ消えていった。


「たっ、助かった。これで大丈夫だ」


 緊張が解けてテントに戻るとそのまま気絶したように眠った。



「加山さん!! 大丈夫ですか加山さん! 」


 大声と共に身体を揺すられて加山が目を覚ます。


「うわぁあぁぁ~~、助けてくれぇ~~ 」


 ビクッと体を震わせて大声を出す加山を見て男が一瞬驚いてから落ち着かせるように声を掛ける。


「大丈夫です。助けに来ました。安心してください」

「助け……助かったのか? よかったぁ~~ 」


 力が抜けたのか加山が男に寄り掛かる。


「大丈夫ですか加山さん、何処か具合の悪いところはありませんか? 」


 抱きかかえるようにして訊く男に加山が右足を指差す。


「右足を捻挫してそれで動けなくてビバークしてたんです」

「捻挫ですか、他は大丈夫ですか? 」


 心配そうに訊く男に加山が安堵した笑みを向けた。


「はい……他は何もありません」


 化け物の事が頭に浮んだが言っても信じて貰えないだろう、約束の事もある。

 加山は担架に乗せられて山を降りていった。


 これが加山亮さんが話してくれた山で遭った化け物の話しだ。



「山ではどうにか助かったんだ…… 」


 加山は話を終えるとベッド脇のテーブルに置いていた半分程残ったミネラルウォーターをグイッと飲み干した。


「山ではって? まだ続きがあるんですね、化け物に命を狙われてるって言ってましたよね、山で見た化け物が加山さんの命を狙ってるんですよね、もしかして約束を破ったんじゃ…… 」


 哲也が訊くと加山が顔を強張らせて頷いた。


「そうだ。続きがあるんだ」


 松葉杖を使って加山が立ち上がる。


「喉が渇いた。何か飲みながら話そう」

「缶コーヒーでも奢りますよ」


 右足の不自由な加山に合わせるように哲也も病室を出て行った。


「あんた警備員って言ってたな、服が違うようだが…… 」


 廊下を歩きながら加山が疑うような眼を向ける。


「ええ……一応警備員って事になってます。夜の巡回とかもしてるんですよ」


 哲也が苦笑いしながらこたえた。

 本物の警備員でない事は哲也自身が一番わかっている。着ている服も磯山病院で一昔前に使われていた入院患者が着る屋外リハビリ用の作業服だ。今の作業服と違って警備員が着ている服に色がそっくりなのでぱっと見なら警備員と見間違える服装だ。

 何処で見つけたのかは記憶に無いが気が付いたら哲也の手元に3着あってそれを着て警備員になったのだ。


「夜の巡回か……俺の部屋も巡回してるのか? 」

「はい、A~E病棟が僕の担当ですからB棟の加山さんの部屋の前も通りますよ、10時過ぎと深夜の3時過ぎの2回回ってますよ」


 にこやかにこたえる哲也に隣を歩く加山がバッと身体ごと振り返る。


「頼む!! 俺の部屋に来たらドアを開けて中を見てくれ、俺が化け物に襲われていないか確かめてくれ」

「化け物って…… 」


 今度は哲也が怪訝な顔で加山を見つめる。


「山で遭った化け物が襲ってくるんだよ、話しをした後は必ず出てくるんだ。入れ物をくれって襲ってくるんだ。誰も信じない、信じて貰おうと思って話をして泊まって貰っても誰も化け物が見えないんだ。俺が苦しそうに一人で呻いているだけだって言うんだ……それで俺自身わからなくなって……病気と思ってここへ来たんだ」

「今でも出てくるんですか? 」


 驚き顔で訊く哲也の肩を加山が左手でガシッと掴んだ。


「先生に話をした夜も出てきたんだ。入れ物をくれって、大事な入れ物をくれって……だから俺の持ってるお気に入りのカップとか一番高そうな切り子ガラスのコップを渡そうとしてもダメだって言うんだ。他に大事な入れ物なんて無いのに…… 」

「じゃあ今晩も出てくるって事か…… 」


 怯えを浮かべた真剣な表情で加山が頷く、


「出てくる……でも誰にも見えないんだ。一緒に泊まって貰っても俺が一人で苦しんでるだけだって……でもあんたなら……哲也さんなら化け物が見えるかも知れない、黒い靄を見たって言う哲也さんなら見えるかも知れない、頼む……正直言って自分でもわからなくなってるんだ。だから見回りに来たときに俺の部屋に入って確かめてくれ」


 必死で頼む加山は哲也が本物の警備員だろうと偽物だろうと構わない様子だ。


「わかりました。今晩回ったときは必ず加山さんの部屋の中を確かめますよ……それでもっと詳しく聞かせて貰えませんか? 化け物の話しを他の人に話したらどうなるんです? 」

「ありがとう、勿論だ。哲也さんには全部話すよ」


 安堵を顔に浮かべた加山と一緒にレクリエーション室へ行く、


「コーヒーでいいですか? 」


 自販機前で哲也が奢ろうとすると加山が慌てて手を伸ばす。


「俺が奢るよ、哲也さんには夜見回って貰うんだからね」


 哲也が買おうとしたコーヒーを買って渡すと自分はコーラを買って近くの長椅子に腰を掛けた。

 隣に哲也が座ると加山が話を始めた。



 山で化け物に遭った話しは1年ほどは誰にもしなかった。

 山での事を訊かれると草に足を取られて滑落して右足を捻挫して5日間ビバークして予備に持っていたインスタント麺2つと羊羹などでどうにか凌いで大変だったと笑い話で済ませていた。

 だが4ヶ月程前に学生時代の友人と飲み会があり、全員が山男という事もあって自然と登山の話になる。その時に酔った勢いもあって加山は化け物の事を話してしまう、話しを聞いて信じる者、信じない者、2つに分かれて大いに盛り上がる。

 友人の一人が『山男たる者、山での怪異の1つや2つは経験して一人前だ』と言うと加山含めてその場の全員が納得して話は終わり、他の話題へと移る。

 飲み会が終わり加山はマンションに帰って良い気分で眠りについた。


『入れ物、入れ物……約束だ』


 夢見心地の加山の耳に声が聞こえたが酔っていたのでそのまま朝まで起きなかった。

 朝起きて化け物との約束を思い出す。


「入れ物か……でも何も起きなかったな、1年も経ってるんだもう時効だろ」


 友人たちに茶化された事もあり加山は勝手に大丈夫だと思い込んだ。

 その後、加山は飲み会がある度に化け物の話をした。女の子たちとの飲み会では大いに盛り上がるので加山は得意になって話すようになっていた。

 そんなある日、加山の夢の中に化け物が出てきた。


『入れ物、入れ物、七個くれた。だから七個は許してやる。次は無いぞ』


 大きな猿のような毛むくじゃらの身体に丁髷頭の人間の顔が付いていた。


『次は無いぞ、一番大事な入れ物貰うぞ』


 赤い口をぬめらせてニタリと笑う化け物を見て加山が飛び起きる。


「うわぁぁ~~ 」


 ベッドの上で上半身を起こした加山が部屋を見回す。


「夢か…… 」


 何も居ないのを確認して安堵した。


「七個……今日の飲み会で化け物の話をしたのが確か7回目だ」


 加山の全身に冷たい汗が流れる。

 化け物に渡した入れ物はコッヘル大小で2つ、マグカップ、飯盒の蓋と内蓋と本体で3つ、スキットル、全部で7つだ。


「化け物め……一番大事な入れ物って何だよ」


 忌々しげに呟いた。

 ここは誰も居ない山の中では無い、あの時と違い捻挫もしていない、大柄で体力に自信のある加山は怖いと思ったが逆にどうにかしてやろうとも考えた。


 化け物の言った『次は無い』という言葉が気に掛かったのかそれから暫くは飲みに行っても化け物の話しはしなかった。だが1ヶ月程して行った飲み会で好みの女にせがまれて酔った勢いで話してしまう。


 その日の夜、化け物が枕元に立った。


『見つけた。見つけた。人間見つけた。入れ物、入れ物、入れ物見つけた。破った。破った。約束破った』


 くぐもった声に加山が目を覚ますと化け物がベッドの横で両手を交互に上げて踊るようにして立っていた。


「ひぅぅ…… 」


 横になったまま息を吸い込むような悲鳴を上げて身を堅くする。

 化け物が踊るような動きを止めて加山をじっと見下ろす。


『約束破った。約束破った。入れ物貰う、一番大事な入れ物貰うぞ』


 大きな猿のような毛むくじゃらに付いている丁髷頭の男がニタリと赤い口内を見せて笑った。


「たっ、助けてくれ、入れ物ならやる。この部屋にある入れ物なら何でも持っていっていい、だから助けてくれ」


 少しでも逃れようとベッドの壁際に身を寄せて加山が言った。

 化け物の笑っていた口が閉じていく、


『もう貰ってある』


 丁髷頭の男の顔が無表情だ。


「なっ、何を貰って…… 」


 加山が化け物の両手を見るが入れ物らしきものは何も持っていない。

 無表情の化け物がまたニヤリと笑う、


『貰った。貰った。入れ物貰った。貰った。貰った。入れ物貰った』


 両手を左右に振りながら踊るようにして化け物が消えていった。


 その日を境に化け物は毎晩現われて『貰った』と嬉しそうに踊っていく、1週間して加山の右足が痺れて動かなくなる。病院へ行くが原因不明と診断された。

 化け物の仕業だと思った加山はその夜も現われた化け物に助けてくれるように頼んだが化け物は嬉しそうに踊るだけで何もこたえてくれない。


 松葉杖無しでは歩けなくなった加山を心配してくれる友人たちに化け物の事を話すが誰も信じてくれない。

 何人も泊まって貰うが加山に見えている化け物は誰にも見えない様子だ。誰も居ない壁際に向かって一人で怯えているだけだと皆口を揃えて言った。

 知人に話し捲って暫く経った。嬉しそうに踊る化け物のセリフが変わった。


『約束破った。約束破った。入れ物貰う、入れ物だ。俺の入れ物だ』

「俺の入れ物って何だよ…… 」


 加山が怯えながら訊いた。


『俺の入れ物、俺の入れ物、新しい入れ物だ』


 楽しげに踊りながら化け物が消えていく、


「痛てっ、痛てて…… 」


 痛みを感じて加山の右手に痺れが走る。

 その日から右手まで思うように動かなくなった。どうにか松葉杖は使う事は出来るが服のボタンを留めたり靴紐を結んだりなど細かな作業は出来ない、仕事に支障が出て休職届を出すしかなかった。


「このまま痺れて動けなくなるんじゃ………… 」


 全身痺れてしまうのではと思い詰めた加山は警察に助けを求める。

 化け物の事を全て話すが当然相手にしてもらえない、しつこく食い下がる加山を病気だと思ったらしく心療内科の治療を勧めてきた。

 化け物が自分以外の誰にも見えないという事に加山自身も不安を覚えたのか自ら磯山病院へとやってきたのだ。



 話を終えた加山が左手で握り締めていた缶コーラをプシュッと開けてゴクゴクと喉を鳴らして飲む、


「誰にも見えないんだ……でも哲也さんなら……黒い靄を見たっていう哲也さんなら見れるかも知れない、助けてくれって言ってるんじゃない、化け物が本当にいるのか確かめて欲しいんだ。哲也さんでも見れないなら全部俺の妄想だって……本当に病気だって納得する。だから確かめて欲しいんだ」


 真剣に頼む加山の隣で哲也が少し考えてから口を開いた。


「僕に話したって事は今晩も出てくるって事ですね」

「ああ、間違いなく出てくる。頼む哲也さん」


 青い顔をして見つめる加山に哲也が頷く、


「わかりました。今夜の巡回から部屋に入って加山さんの様子を見る事にしますよ」

「そっ、そうしてくれるか……ありがとう哲也さん」


 手を取って礼を言う加山の不自由な右手に哲也が手を重ねる。


「任せてください、これでも警備員ですからね」

「ありがとう哲也さん」


 何度も礼を言うと加山は松葉杖をついて歩いて行った。


「化け物か……今回は何かヤバそうだな」


 奢って貰った缶コーヒーをじっと見つめて哲也が呟いた。

 正直言って化け物を見るなど御免だが自分から首を突っ込んだ以上断るわけにはいかなかった。



 夜の10時、横になってテレビを見ていた哲也が起き上がる。

 哲也のように病状も軽く暴れたりしない患者は院内ではそれなりに自由に動く事ができる。テレビやスマホなどの持ち込みも自由だ。


「巡回の時間だ。須賀さんはE棟から回るって言ってたな」


 テキパキと上着を着ながら呟いた。

 須賀嶺弥すがれいやは本物の警備員である。4ヶ月前に配属されてきた。24歳の爽やかな青年だ。年齢の近い哲也とは直ぐに親しくなった。勿論哲也の事は知っている。治療の一環だが真面目に警備していると聞いて歓迎している様子だ。


「さて行くか! 」


 懐中電灯を手に哲也が部屋を出て行った。



 A病棟の見回りが終わりB病棟へと入る。

 206号、加山の部屋で立ち止まった。


 化け物か……、ドアの前で中の様子を伺う、


「うっ、うぅうぅ……頭が………… 」


 微かな呻きを聞いて哲也が慌ててドアを開けた。


「加山さん、大丈夫ですか」


 哲也の心配を余所に加山はベッドの上で眠っていた。

 確かに苦しげな呻き声を聞いたはずだと哲也がベッドに近付いていく、


「気のせいか? 」


 じっと様子を伺う哲也がおかしな事に気付く、


「加山さん、加山さん」


 横になっている加山を起こそうと身体を揺すった。

 反応の無い加山の頬に手を当てる。


「冷たい…… 」


 頬に当てた手を口元へ持っていく、


「ヤバい!! 」


 加山の呼吸が止まっていた。先に感じた違和感はこれだ。

 哲也がベッドに備え付けてあるナースコールに手を伸ばす。

 その手が何かに触れた。


『入れ物…… 』


 くぐもった声が直ぐ傍で聞こえた。同時にナースコールに手を掛けた腕がガシッと掴まれる。


「うわぁっ!! 」


 自分の手を掴む毛むくじゃらを見て哲也が悲鳴を上げる。


「おわっ! 何だ哲也さんか…… 」


 ベッドで眠っていた加山が驚き声を出した。


「なっ!! 加山さん? 」


 哲也の手を加山の右手が掴んでいた。


「何で? 」


 驚き顔で部屋を見回す哲也を見て青い顔をした加山が真剣な表情で口を開く、


「化け物を見たんだね」

「いや……その…… 」


 哲也が加山を見つめる。

 確かに呼吸は止まっていた。無呼吸症候群だとしたらあの頬の冷たさは? 死んでいると思って慌ててナースコールを押そうとしたのだ。


「化け物を見たんだね、大きな猿のような毛むくじゃらに丁髷頭の男の顔が付いてただろ? 見たんだろ? 哲也さん」


 加山は恐怖というより期待している顔だ。自分が病気ではないと、化け物は現実だと思いたいのだろう。


「いや……わかりません」

「わからない? じゃあ何で驚いたんだ? 悲鳴を上げたじゃないか、それで俺も起きたんだから」


 首を振る哲也を加山が睨み付ける。


「毛むくじゃらの手に握られたと思ったら加山さんだったから……暗くて見間違えたんだと思う、声も聞こえたような気がしたけどハッキリと覚えてなくて………… 」


 歯切れ悪く話す哲也の腕を掴んでいた右手を加山が離す。


「そうか…… 」

「加山さんは化け物を見たんですか? 今日は必ず現われるんですよね」


 逆に質問する哲也の前で加山が渋い顔をする。


「うん、それが今日は見てない、話をした夜は必ず現われるんだが……今日はまだだ」

「そうですか……加山さんが見てないなら僕が見るわけありませんよ、話しを聞いた後だし暗かったし、加山さんに腕を掴まれて吃驚して見間違えただけですよ」


 哲也が落ち着かせるように言うと加山も頷いた。


「そうだな、俺が見てないのに哲也さんが見るわけないな」

「そうですよ、深夜の3時頃にも見回りますから安心して眠ってください」

「わかった。頼んだよ哲也さん」


 ベッドに横になった加山を見て哲也が部屋を出て行った。


「無呼吸症候群って体温も下がるのかな? 幾ら下がるっていってもあの冷たさは異常だよ、揺すっても起きなかったし…… 」


 考え事をしながら巡回を再開していた哲也が足を止めた。


「右手だった……痺れて殆ど動かないって言ってた右手が掴んでた」


 哲也が自分の腕を見つめる。

 殆ど動かなくなった右足よりはマシだが加山は右腕も痺れていて松葉杖をどうにか使えるくらいにしか動かないはずだ。それが哲也の腕をしっかりと握っていたのだ。何不自由なく普通に動かしていたのを思い出した。


「どういう事だ? 」


 長い廊下を歩きながら哲也が記憶を反芻する。


「僕の悲鳴で起きたって言ってたけど悲鳴を上げたのは腕を掴まれて吃驚したからだ。悲鳴を上げる前に加山さんは起きていたのか? 呼吸が止まっているのを確認してナースコールを押そうとした瞬間に起きて僕の腕を掴んだのか? 僕が目を外したのは一瞬だぞ、それまで呼吸が止まったまま寝てたんだぞ」


 階段の前で足を止める。


「声も確かに聞いた。入れ物って言ってた」


 背筋にゾクッと悪寒を感じて哲也が駆け足で階段を下っていく、その後、手早く巡回を済ませると部屋に戻って仮眠のために横になる。


「化け物か……本当にいたら…… 」


 中々寝付けなかったがいつの間にか寝入っていた。



 午前2時45分、目覚ましのアラームで目を覚ます。


「巡回か……あんな約束しなきゃよかった」


 普段はスッと起きるのだが今夜は憂鬱で体が重い。

 上着を引っ掛けて見回りを始める。A棟を終わってB棟に入った。


「入れ物を欲しがる化け物か…… 」


 重い足取りで階段へと向かうと誰かが降りてきた。


「アレッ? 嶺弥さん? 」


 驚く哲也に須賀嶺弥すがれいやが爽やかに話し掛ける。


「おぅ、哲也くん、今から見回りか? 」

「ハイ、3時の見回りですから……嶺弥さんは何で? 今日はA棟から回ってるんですか? 」


 不思議そうに訊く哲也を見て嶺弥が笑いながら口を開く、


「E棟から回ったよ、長谷さんがお腹痛いから代わりにF棟の方も回るからさ、だから早めにこっちを済ませた」


 本物の警備員である嶺弥は控え室から近いE棟から見回ってA棟で終わって戻るのだ。


「困ったときはお互い様ですもんね」

「うん、こっちは哲也くんも居るから安心だからね」

「任せてください、見回りはマジでやってますからね」


 胸を張る哲也に嶺弥が優しく声を掛ける。


「終わったら控え室においでよ、アイスあげるよ、長谷さんの分見回る代わりに貰ったんだ。長谷さん腹痛で食べれないからさ」


 見回りは勿論、暴れる患者を押さえるのを手伝ったりする哲也は警備員や看護師たちから評判も良い。


「ありがとうございます。寄らせて貰いますよ」


 ペコッと頭を下げる哲也に『じゃあ』というように手を軽く上げると嶺弥は廊下を歩いて行った。

 哲也はそのまま階段を上る。一番上まで上がって各フロアを巡回しながら降りていくのだ。エレベーターは使わない、階段を見回るのも仕事の内だ。


「すっかり忘れてた……嶺弥さんに付いてきて貰えばよかったな」


 206号、加山の部屋の前で立ち止まった。


「うぅうぅ……止めろ……来るな………… 」


 呻き声が聞こえて哲也が慌ててドアを開ける。


「加山さん大丈夫ですか! 」


 ベッドで横になっている加山を見た後で部屋を見回す。


「加山さん、起きてるんでしょ? 」


 確かに苦しげな呻きを聞いたのだ。辺りに何も居ないのを確認してから加山に近付く、


「加山さん? 」


 異変に気付いて哲也が加山の口元に手を当てる。

 息をしていない、呼吸が止まっている。


「加山さん! 加山さん! 」


 体を揺するが何の反応も無い。

 無呼吸症候群だと思った先程と違い今回はしっかりと確認する。呼吸は勿論、脈も無い、心臓が止まっていた。心臓なんて自主的に止める事など出来ない、つまり加山は死んでいると言う事だ。


「ヤバい! 先生を呼ばないと」


 ナースコールに手を伸ばした時、背後に気配を感じた。


『貰った。貰った。入れ物貰った。貰った。貰った。入れ物貰った』


 くぐもった声が嬉しそうに聞こえる。

 哲也がバッと振り返ると大きな黒い影が両腕を上げて踊っていた。


「うわぁぁ~~ 」


 叫びを上げて仰け反るようにして壁際まで逃げる。

 大きな毛むくじゃらの身体に時代劇に出てくる町人のような丁髷頭の男の顔が付いていた。加山が言っていた通りの化け物だ。

 化け物は哲也を気にした風もなくベッド脇へと近付いていく、


『貰った。貰った。入れ物貰った。貰った。貰った。入れ物貰った』


 嬉しそうなくぐもった声を上げ両腕を交互に突き上げながらじっと加山を見つめる。

 死んでいるはずの加山の目がくわっと開いた。


「うぅぅ……たっ、助けて……体が動かない…………体が…… 」


 金縛りにでも遭っているのか加山は動けない様子だ。


「かっ、加山さん…… 」


 驚く哲也に加山が気付く、


「哲也さん助けてくれ、化け物が……見えるだろ化け物が………… 」

「みっ、見えます。加山さんは病気なんかじゃないです」


 化け物から逃れようと壁にへばり付くようにして哲也がこたえた。


「そうだ。あの化け物が山で……助けてくれ哲也さん」


 助けを求められても化け物の異様な姿に哲也は竦んで動けない。

 ベッドの上でもがく加山を見て化け物がニタリと笑う、


『約束だ。入れ物貰うぞ、一番大事な入れ物貰うぞ』

「やる……入れ物なら何でもやるから助けてくれ」


 必死で助けを求める加山の前で猿のような大きな毛むくじゃらの化け物に付いていた丁髷頭の人間の顔がポロッと落ちた。


『俺の入れ物、俺の入れ物、新しい入れ物だ』


 化け物が頭の付いていた場所、ぽっかりと暗く空いた穴からくぐもった声を出す。


「ひぃぃ…… 」


 短い悲鳴を上げて硬直する加山に頭の無い化け物がぬうっと近付いてくる。


『やっと入れる。新しい入れ物』

「たっ、助けてくれ……哲也さん………… 」


 助けを求める加山の枕が血に染まっていた。

 先程までは血など無かった。哲也が思わず声に出す。


「加山さん、頭が…… 」

「頭? 」


 もがきながら加山が頭に手を伸ばす。その後頭部が割れていた。


「 …………思い出した。俺は頭を打ったんだ。足を取られて滑落して岩に頭をぶつけて……あの岩に付いてた血は俺の血だ。その下の木に引っ掛かって止まったんだ…………手足が痺れて……化け物が………… 」


 加山の後頭部がぱっくりと割れていた。灰白色の脳らしきものが見えている。素人の哲也にも生きていられないと分かるほどの傷である。


「加山さん…… 」

「俺……俺、死んでたみたいだ。あの時もう死んでたんだ」


 哲也を見つめながら虚ろな目で言うと加山はガクッと頭を落とした。


『見つけた。見つけた。人間見つけた。見つけた。見つけた。入れ物見つけた。貰った。貰った。入れ物貰った』


 両手を振って楽しそうに踊っていた化け物がピタッと止まる。


『約束だ。入れ物貰うぞ、一番大事な入れ物貰うぞ』


 丁髷頭が付いていた場所に空いた穴から黒い靄のようなものが出てきて加山の割れた後頭部へと入っていく、


「ひぅぅ…… 」


 余りの出来事に哲也が息を吸い込む恐怖の悲鳴を上げる。

 固まったように動けない哲也の前で黒い靄のようなものが加山の頭にどんどん入っていった。


『俺の入れ物、俺の入れ物、新しい入れ物だ』


 哲也の見つめる前で加山がくぐもった声を出した。

 同時に化け物だったものの抜け殻である毛皮がバサッと床に落ちる。

 床に転がる大きな毛皮と丁髷頭に気を取られていた哲也の耳に声が聞こえる。


『約束、約束、誰にも話すな』


 哲也を見て加山がニタリと笑った。

 禍々しい目をしたそれは加山さんでないのは一目でわかった。

 哲也は分かったと言うようにうんうん頷くだけだ。

 ニヤッと笑いながら加山がベッドに横になる。


「おやすみ、警備員さん」


 加山の声で言う化け物から逃げるように哲也は部屋を出て行った。



 何処をどう歩いたのかは分からない、警備員控え室へと入った哲也を見て嶺弥が怪訝な顔をして声を掛ける。


「何かあったのかい? 」


 A~E棟は嶺弥の担当だ。何かあれば自分の責任になるのだ。


「ばっ、化け物が…… 」


 言いかけて哲也は言葉を飲み込んだ。


「化け物? 何があったんだい」

「B棟の加山さんが……206号室から苦しそうな声が聞こえてきたんです。部屋を見たんですけど別に何も無くて……一応嶺弥さんに伝えとこうと思って」


 顔を顰める嶺弥に歯切れ悪く哲也がこたえた。化け物の事を話しても信じてもらえるわけがない。


「苦しそうな声? 嘘じゃないみたいだな」


 哲也の顔色を見て何か察したのか嶺弥がライトを手に持つ、


「一応確かめに行こう、哲也くんも付いてきてくれ」

「わかりました」


 嶺弥と一緒に加山の部屋に向かった。


「加山さん入りますよ」


 ノックしてからドアを開ける。

 加山は待っていたかのようにベッドの上で上半身を起こしていた。


「やぁ哲也さん、何か用ですか? 警備員さんもご苦労様です」


 加山はちらっと哲也を見ると前にいる嶺弥にお辞儀をした。


「起こしてすみません、哲也くんが呻き声を聞いたって言うので……何かありませんでしたか? 」


 申し訳なさそうに訊く嶺弥に加山がにこやかにこたえる。


「呻き声? 咳が出て寝付きが悪かったから今もトイレに行って起きてたんですよ、それを哲也さんが勘違いしたんだな」


 笑顔の加山を見て哲也がぎこちない笑みを作る。

 哲也の代わりに嶺弥が口を開く、


「そうでしたか、咳が止まらないようでしたら看護師さんに言って薬を貰うといいですよ」

「大丈夫です。トイレのついでにうがいをしたら良くなりましたから」


 二人が話している間、哲也が部屋を見回すが化け物の毛皮も丁髷頭も枕に付いた加山の血も全て跡形も無く消えていた。


「そうですか……お騒がせして本当にすみませんでした」


 ペコッと頭を下げる嶺弥の横で哲也も頭を下げた。


「いえいえ、警備員さんがしっかり見回ってくれるので安心ですよ」

「そう言ってもらえると助かります。ではおやすみなさい」


 始終にこやかな加山に安心したのか嶺弥が哲也の腕を引っ張って部屋を出て行く、


「哲也くんの聞き間違いだな」


 廊下を歩きながら嶺弥が呟くように言った。


「 ……すみません」


 哲也が力無く謝る。本当にあった事なのかわからなくなっていた。


「謝る事はないよ、少しでも異変を感じたら何時でも知らせてくれ、今回は勘違いだが本当に苦しんでたら大事になるからね」

「うん……でも今回はすみませんでした」

「じゃあ、戻ってアイスでも食べようか」


 気落ちしていると思ったのか嶺弥が優しく誘ってくれた。



 翌日、検査入院半ばだというのに加山は退院していった。病状も軽く強制入院ではないので本人が退院すると言えば通ってしまうケースがある。加山さんがそれだ。


 朝食を食べた後、部屋で休んでいた哲也を加山が訪ねてきた。


「哲也さん世話になったね、俺、今日退院するからさ、挨拶しとこうと思ってね」


 どう答えていいのかわからない哲也が取り繕うように返す。


「そうですか……加山さんが元気なら何よりです。退院おめでとうございます」

「ありがとう、哲也さんも元気でね」


 にこやかに笑っていた加山から表情が消える。


『約束だよ、破ると一番大事な入れ物を貰うからね』

「なっ…… 」


 固まったように動かない哲也を見て加山がニタリと笑いながら部屋を出て行った。


「あいつやっぱり…… 」


 化け物と言いかけて止めた。化け物が何処で聞いているかも知れない。

 ベッドに寝転がると考える。


 加山は遭難したときに既に死んでいたのではないだろうか? 足を滑らせ岩に頭を打って死んだのだ。だから寝ているときに呼吸も心臓も止まっていたのだ。

 化け物によって生かされていたのだとしたら? ある種の契約だったとしたら? 約束をする事によって加山の身体を乗っ取ったのだ。初めに遭った時に化け物が言った『入れ物見つけた』とは加山の事ではないだろうか、一番大事な入れ物とは命の入れ物、つまり肉体だ。約束を破った加山は大事な入れ物を取られたのだ。

 そもそも加山が山で足を滑らせたのも何者かに足を掴まれたからだ。山に入ったときから化け物に目を付けられていたのだろう。


 哲也は全てわかったような気がしたが勿論誰にも話すつもりはない、あんな化け物に取り憑かれるのは御免である。

 あの化け物は人間の加山さんとして暮らしていくのだろうか? 少しは怪異に慣れた哲也も流石に今回は参った。


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