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夢三千百夜

作者:塞翁

 こんな夢を見た。

 その時私は、学校でいつも親身にしているTと世間話をしているのだが、何の経過があってか、神様を見たことがあるやいだの、やい嘘だいだの、やいのやいの話し合っていた。それで証拠を見せてみろと私が言ったら、じゃあ見せてやるよとTがかえして、後日その「神」とやらに会いに行くことになった。

 私としては真偽の程はどうでもよく、体よく偽物を掴まされたら、学校で笑い話のタネにしてやる心積もりだったのだが、Tとしてはそれが気に食わなかったのだろう。平気の平左を貫く私とは対照的に、なにがなんでも見せて私に謝らせてやるという心構えがあった。

 当日、神の居る場所へと続いているとかいうバス停でしばらく待っていたら、Tが登山でもするのかという量の荷物を持ってやってきた。どうしたんだそれ、と私が聞くと、Tが神に捧げるお供え物と答えた。そうか、お供え物か、と、私はこんなところから辻褄を合せて嘘を通そうとするTに、ばかばかしさを感じていた。いや、それも通り越して感動してたかもしれない。

 バスに乗って、神の居る場所に着くと、Tと同じ大荷物を持った人達がぞろぞろ並んでいて、私はいよいよ新興宗教独特の狂気じみた怖さと胡散臭さとを禁じ得なかった。これはいざという時は、Tだけでも説得して連れ帰らねばと、軽い警戒心を抱きながら、ハイキングの如き長蛇の列を黙々と歩いていた。

 どれ位経ったろう、行進が止まって、私とTを含めた参拝者達は薄暗い広間に集まっていた。参拝者は一人でいるのもあれば、数人で群れて喋っているのもいる。私はTに話しかけなくていいのかと聞いた。するとTはどうせ意味がなくなるからいいと答えた。何やら意味深な感じがしたが、怪しげな集まりに余り交流がないのは良い事だと、自分に言い聞かせることにした。

 暫らくして、神様が来たと誰かが言った。その途端、固まってた奴も独り身の奴も、そしてTでさえも、一斉に頭を垂れて、平伏した。私も他と合わせて、数瞬遅れて伏せる。伏せながら私は辺りを見回していた。見回してみると、さっきまで暗くて見えなかった場所に、白光が浴びられて露わになっていた。一段ほど上がった舞台の上に、夥しい数の髑髏、髑髏、髑髏。それらが礎となり山となり、一つの玉座を作っている。そしてその上に「神」と呼ばれる者が坐しているばかりだ。ここからでは、神のディティール迄は分からない。それにこれ以上顔を上げられない。

「我が敬虔なる使徒よ」

 神が声を発して、私は再び顔を擦り付けた。皆はアレを神様と呼んでいるが、そんなものではない。私はアレに、神以上の薄気味悪さと恐怖感を拭い切れないまま、背けることによる脱出を試みていた。

「今宵も神の末裔を我に捧げたまえ」

言うなり、参拝者の一人が、大多数が、持ってきた荷物の封を解き、何かを取り出す。

 赤ん坊だ。

 彼らは中から赤ん坊を取り出した。

 そうしてそれを捧げるように、差し出すように、神に向かって掲げた。他の皆も同じようにした。

 Tもリュックサックから赤ん坊を取り出して、へへぇははぁと神に差し出している。心なしか彼の顔が老けて見えた。

その瞬間、赤ん坊を捧げていた参拝者たちに異変が生じた。彼らの顔つきが、みるみるうちに、中年となって、老年となって、往年となって、そして髑髏になっていく。代わって捧げられた赤ん坊たちは、みるみるうちに幼年となって、少年となって、若年となって、そして青年となっていく。

 そればかりではない、赤ん坊だった男の子と女の子から幾つもの光が放たれて、それらが混ざり合う。するとその光が赤ん坊になるのだ。それをまた捧げて、死んで、成長して、生んで、また捧げる。正に地獄絵図だ。

 遠目に見ていた私には、死に狂いながらも神へ我が子を差し出す姿は、天界から下界への階段を作っているかのような、道なき道を、自らの体でもって作っているかのような、何とも言えない気持だった。彼らが死ぬ度に髑髏の山が出来て、玉座が競り上がった

 やがてこの生贄は止まった。同時に神が喜びに震えていた。

「出来た。遂に出来たぞ。之こそがアダムとイヴへと分かたれる前の真の神。我々の償いと試練は今、果たされたのだ。」

 続けて積み上げられた髑髏たちにこう吐き捨てた。

「お前たちはもう用済みだ。『ご苦労様でございまいした』」

神は、新たなる神を迎えると、何処へともなく消えていった。

 世界に闇と静寂が訪れた。



 朝起きた。

朝ごはんは鮭だった。

鮭の骨が歯に刺さったので爪楊枝で取った。

昨日の夢の話でも、Tにしてやるとしよう。


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