奔走!救世主タチ!4日目 その2
まだやっているだろうと思い、田中さんのところへ行く。
彼女は案の定、まだ配っていた。
そんな姿を見て驚いた。既に僕の考えていたことを行動に移していたのだった。通りかかる男性には目もくれず、女性への声掛けを優先している。
「あれ?もう終わったの?」
僕を見つけ、話しかけてきた。
「いえ、ちょっと思いついたことがあったんですが…」
「えっ?何?何?」
興味深そうに耳を傾ける。
「もう、田中さんは実行してらっしゃったので…」
それを聞いた彼女は分かったのだろう。「あ~」という声を上げた。
「もしかして、女性に猛プッシュするって作戦だったりする?」
見抜かれている。一般的な考えなのではないかと思い、提案しようとした自分が恥ずかしく思えた。
そんな僕に経緯を話してくれた。
「いや、これね。黒田さんが教えてくれたの。こうしたらいいって。船ちゃんはやりにくいかなって、話してなかったけど」
黒田さんからの提案だと知り、少しだけ安心した。
さりげなくあだ名で呼ばれる。その呼び方をされるとこそばゆい感じがする。
このあだ名は幼い頃に呼ばれていたもので、今では八重にしか呼ばれていない。というより、止めて欲しいと言ったのだが止めてくれないのだ。
「そうだったんですか。というか、その呼び方、違和感があります…」
それを聞いた彼女は、必要以上に可愛い娘ぶって言う。
「いいじゃ~ん。呼びやすいし。だめ?」
「ダメではないですけど…」
止めてほしい気持ちはあるが半分諦めているため、もうどうでもよくなっている。
「なら、いいね」
「……はい」
話をしながら事務所に帰っていると、彼女が誰かを見つけた。
「あっ、あれは柳田さんだね」
「市の担当者っていう人ですか?」
この前、事務所で見かけた人だ。
「そうだよ」
こちらに気づいた彼は会釈をする。田中さんが自己紹介をする。
「はじめまして。実行委員の田中と」
「船場です」
僕も話の流れで名乗る。
「どうも。私は柳田です…藤花市の都市再生課の視察員としてみなさんの活動を見守りますので、よろしくお願いします…」
あまり友好的な人ではないようだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。今日は視察ですか?」
田中さんは会話を続ける。
「いえ…」
「そうでしたか。お忙しい中、すみませんでした。では、また」
相手の様子から会話を続けたくないオーラを感じ取ったようだ。
「あんまり、人と関わりを持ちたくない人なのかな?」
「そうかもしれませんね」
そんな会話をしながら、事務所の前まで行く。
「報告は私がしておくわ。お疲れ様」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
報告は田中さんに任せて別れた。
帰りに食堂の前を通りかかった。
時刻は夕方。帰宅時間を迎えた学生やサラリーマンが来ており、店内は賑わっている。彼女は忙しそうに、ご飯や味噌汁を装っていた。
話ができそうな雰囲気ではないため、そのまま通り過ぎた。
昼間の彼女の様子が、ずっと引っかかる。なぜ、あんなに思いつめるのかが分からない。
彼女は打ち合わせだけでなく、ビラのデザインも考えてくれた。何度もお店や事務所に来てもらい、ちょっとした味見やアドバイスをしてもらった。何もしていないことはないのだ。
まだ始まったばかりのため、時間を置けば心境に変化が表れるかもしれない。そう言い聞かせて、あえてメールもしなかった。




