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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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90/260

90.本物の技を

「じょ、冗談だろ……あれ……」

「冗談であってほしいが、もう詠唱は終わってる……あれは魔法だ しかも極めて強力な炎の魔法だ」


いくつもの火球を漂わせながら、バチバチと体中の鱗の隙間から発電の光が輝き始める


「た、多重詠唱……!?」

「違うな、あの雷はシーサーペント自身が持つ能力だ、つまりあの雷は魔力で発動はしているが魔法じゃない……アイツはまだ多重で魔法を展開できるほど理解はしていない」



発光するシーサーペントの周りを漂う火球の数が更に増えていき、まるでシーサーペントが燃え盛る巨大な炎の様に見えてくる

「な、なんだあの炎の量……!?」

「溢れんばかりの大量の魔力を始めて覚えた魔法に変換している……! 穢れ、あの炎を抑え込むぞ!」


ガルドが複数の詠唱を展開しはじめる

その間にも次々と火球が生まれ、その熱が離れたリンファの肌に伝わってくるほどになっている


「私があの火勢を弱めるからその間に詠唱を止めろ! あんな量の炎を打ち込まれたら船もあの障壁もただではすまんぞ!」

「わかった……! 水魔法で消すのか?」

「残念ながらあんな無尽蔵な魔力、力押しで抑え込めること人間をやめてはいない……今はな」




「あの体のでかい若造に、魔法の奥深さを叩き込んでくれるわ……行けぇ!」

冷や汗をかきながら口角を上げ、声を上げるガルド

明らかにやせ我慢だったが、それでもガルドは不敵に笑った


「わ、わかった! 行くぞぉ!」

リンファはその言葉に背中を押されるように一気に踏み込む

疑いもせず恐れもせず、ただ守りたいものを守るために前に進むことを選べる異形の穢れ


そんな奴に負けるわけには行かない、臆病風に吹かれるわけには行かない


「貴様を殺すのはこの私なのだからなぁ!」





燃え盛るように輝くシーサーペントがその膨大な火球を開放しようとした刹那、その巨体を囲む様に魔法が展開される

そこから顕現した魔力にリンファは驚きを隠せない


「ほ、炎!? 火球を抑え込むのに炎……!?」

走る足を止めないまま一瞬ガルドに目をやる

ガルドの目に迷いはなく、振り向くリンファに目もくれずただ一心不乱に魔力を展開し続ける


その目にリンファは速度を上げる

「僕は僕のできることをするだけ……だぁ!」



眼下に炎の壁ができたことに驚きはしたものの、シーサーペントはすぐに興味をなくす


なんだ、その程度の炎

この炎の玉を見ろ、お前らよりよっぽどすごい

シーサーペントの心中を慢心と嘲りが混じった感情が支配する


あとはこの覚えたての新たな力でこいつらを皆殺しにして海に帰って食事にしよう

動けなかったのは不愉快だったが、これを覚えられたのは僥倖だ


さぁ、死ね 小さき者ども






「魔法をなめるな! 海獣風情があぁぁ!」




ガルドがその心を読んだかのように怒りに震え絶叫する

その叫びがスイッチになったかのように炎の壁が大きく舞い上がる!



炎の魔法に重ねて風の魔法が重ねられ、巨大な炎の竜巻を生む

その炎を纏った竜巻は瞬く間にシーサーペントとその大量の火球を包み込み炎の膜を作り上げる



シーサーペントは突如としてあらわれた炎の膜に戸惑いながらも、考える事も面倒くさいと火球を一気に解き放とうとする

だがその時異変に気付く


あれだけ作った火球が ない

何度放とうとしてもその魔力は行き場を失い、ただただ辺りが燃え盛り視界をなくすのみ


大量の火球と炎の膜で閉じられたシーサーペントの周囲は急速にその酸素をなくし、炎の維持を不可能にする

熟練の魔導士であればたとえ真空であろうと海中であろうと炎の魔法は展開できる


だが魔法を覚えたてのシーサーペントにそんな匠の魔法を使う事はできず……




「自然元素を操ってこその魔導士! 酸素に頼る様な三流がこのガルドリックに魔法比べで勝てると思うな!!!!」



シーサーペントは思わぬ事態に焦り、その炎の壁を破壊し再度火球を展開しようと試みる

邪魔だといわんばかりに先ほどリンファに食らわせた回転攻撃をもってして炎の膜を切り裂いた


「愚かな……! 所詮は獣よな!」

ガルドは思い通りの行動を取ったシーサーペントの挙動に思わず嘲りの表情を見せる



シーサーペントの一撃は更に自身を驚かせる事態に発展する


切り裂いた瞬間、無酸素状態の周囲に大量の空気が吸い込まれる

そしてそれは切り裂いた炎の残滓に反応し、巨大な火柱が起こりシーサーペントを焼き焦がした!

体中に纏わりつく大量の炎の魔力の残滓がガルドの火の魔法に反応し、更にシーサーペントを燃やし尽くす



突如とした熱さと痛みに恐れ戸惑い身をよじるシーサーペント

そのわずかな間に、シーサーペントの視界の中央に何者かが迫る!



それは水の玉

虚を突かれたシーサーペントの眼前で水球は弾け、水しぶきが舞い散る


ガルドの多重詠唱で作られた水の玉に守られ間合いまで踏み込んだリンファが既に一撃の構えを完了させる!



リンファがその足を大きく振り上げ攻撃に移行

それに反応し、シーサーペントが体を捌き攻撃をかわす!


だが身を大きくひねったシーサーペントの目の前には、未だ攻撃を繰り出さず構えたままのリンファが視界に残っていた

何が起きたのかわからないシーサーペントの眼前で、リンファの魔導発勁が十分に練りこまれる!



「こんな見え見えのフェイントに……!」

シーサーペントはその身を反らしきり、防ぐこともかわすこともできない死に体をリンファに晒す

その隙をリンファは見逃さない!


「引っ掛かるのかぁぁ!!」


まき散らせた水の玉がリンファの撃ち込まんとする蹴り脚に巻き込まれ、まるで水の衣の様に流れを作る

振り抜く回転の動き、それはまるでシーサーペントを一息で飲み込むような巨大な龍の残像!


その一撃を今まさに繰り出そうとするリンファを見ながら、ガルドはため息をつく

「覚えたてのおもちゃで遊ばなければ、貴様の勝ちだったろうにな……」


そう言いながらガルドは更に詠唱を完了

大量の海水が風で巻き上げられ、シーサーペントの体を濡らす

体表の炎がくすぶる代わりに、鱗の隙間で光っていた雷光が海水を伝い大地に霧散する


苦し紛れに打ち込もうとした最後の電撃すら、ガルドにはお見通しだったのだ


初めて覚える感情に身を固めるシーサーペント

今学習したその感情の正体、それは


絶望だった



「その牙!もらったぁぁ!」

【八極剛拳 青龍旋風脚】







海の龍シーサーペントの牙を青龍の牙が一撃のもとに打ち砕いた――――





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