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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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91.紅いゴブリン

リンファが折り砕いたシーサーペントの牙は回転しながら地面に落下

およそ生き物の牙とは思えぬような重く密度のある衝突音が地面から響き渡る


あまりの衝撃とあまりの激痛にシーサーペントはもだえ苦しみ、その場をのたうち回る

リンファはその暴れっぷりに巻き込まれないように飛びのき距離をとると、その光景を構えを解かずに見つめた


「あ、あの牙……もう生えないのかな……」

「シーサーペントの回復能力は半端じゃない、多少の長さは変わるかもしれんが再生はするだろうな」


シーサーペントがのたうちながら、リンファとガルドに目をやる

二人も構えをとったままシーサーペントの動きに警戒はするが、特に追撃をするつもりはなかった


そんななにげない二人の姿だったが、今のシーサーペントにはそうは映らない


自分よりはるかに小さな生き物が、こちらの思考を超えた行動を取って攻撃をしてくる

小さすぎてつかみきれぬその表情から見える石ころの様な瞳が4つ、不気味にこちらを眺めてくる

次は何をする?何をされる


怖い、怖い!



シーサーペントは生まれてきて初めて恐怖の絶叫を響かせながら、まさに這うように海中に向けて逃げていく

折れた牙から流れる血がナメクジのように這った跡を描いていた


「よ、よかった……行ってくれた……」

その姿を見ながら、リンファは安堵のため息をつきながら思わず膝を落とす


「まだ年若い個体だったから逆上されたら厄介と思ったが、臆病で助かったな…… あのまま電撃と巨躯で暴れられればもう打つ手がなかった」

リンファと違い膝こそ落とさなかったが、杖をつき肩で息をしながらガルドは呟いた


「魔法と奇天烈な体術……覚えたてでうまくいったおもちゃで遊ぶには少し相手が悪かったな」

「その奇天烈な体術ってのやめてくれないかなぁ、八極剛拳っていうれっきとした武術なんだけど……」

「私の知識にはそんな系統の武術は存在しない、魔法を発現させない格闘術だと? 実に気持ち悪い」

「結局そこに行きつくのか…… 嫌な奴だなぁ」



シーサーペントの背中を視線で追いながら、お互い一切顔を見ることなく言葉を交わす

その表情はどこか口角があがり、共に勝利を讃えあっているようだった



「頼むからこのまま速くここから逃げてくれ……すぐにアグライアさんと子どもを助けに行かないと」

「……貴様と同じ息を吸うのも不愉快だ、ここは私が動向を見るので貴様はどこへなりといくがいい」


その言葉にリンファはピクっと視線を向ける

ガルドは極めて不愉快そうな顔をしたままシーサーペントの背中を眺めたままだった


「言いようはひどいけど、そういってもらえると助かる……」

「疾く失せろ、シーサーペントが逃げ去ったら私は障壁で防護した神の宝を下ろして安全な場所まで連れて行く」

「わかった」




二人が言葉を交わし、リンファが踵を返す

その瞬間、不可解な音が響く



ビシュッという空気を裂くような奇妙な破裂音が数発響く

二人はその音の正体がわからず、思わず辺りを伺う


不可解な音は不可解な光景に変わる

さっきまで必死に海に向けて逃げ去ろうとしていたシーサーペントが突如その首を上げる

首をどころか顔を上げ天を仰いだかと思うと、そのまま崩れ落ち海中に没する


異変に警戒した二人が身構えた瞬間、海中に没したシーサーペントの背中から血の柱がいくつもたちのぼり辺りを血の海に変えた!

あまりに急激な状況に、二人は目を丸くし身を強張らせる


「な、なんだ! 一体何が……!?」







「みぃーつけたぁ……」





その声はリンファの心臓を冷たく掴んだ

ガルドもその響きに背筋が凍る


今なお噴き上がるシーサーペントの血しぶきが赤い霧を生み、その霧の中央にぼんやりと浮かぶ影が見える


まるで血に染まったかのように深紅の煌びやかなドレスに身を纏い、わずかにかけたおおきなツバの真っ赤な三角帽子

そして2本の人の背丈ほどもある杖がドレスを挟む様に浮かぶ


その杖の中央には滴るように塗れた血の様に赤い石がしつらえられている




「お、お前は……!?」

「久しぶりね、ゴブリンハーフ……」



「その目……見覚えがあるな……」

「その節はどうも、貴方もいてくれてとても嬉しいわ……」





「憎い憎い、憎い憎い心から憎いあなたたちの心臓を一緒に握りつぶせる日が来て、とても嬉しいわ……!」

緑の皮膚に大きく真っ赤なその瞳、二人はその者を覚えている


特にリンファはあの日の言葉を片時も忘れてはいなかった

「憎むべき敵」と、真っ向から向けられた悪意と敵意をリンファが忘れられるはずがなかった



「ピ、ピスティルさん……!」

「名前、憶えていてくれたのね 嬉しいわ……お前にその名を呼ばれると不愉快で身悶えしそうよ」




ピスティルが手を払うとそれに呼応するように魔力が弾け、シーサーペントの血の霧が吹き飛び消え去る

そんなピスティルの周囲を大小さまざまな赤い何かが音もなく漂い浮遊する



クイーン・ロッド ピスティルが二人の前にその豪華で不気味なドレスを翻し立ちはだかった



「誰かと思えばあの日のゴブリン風情か……、またあの時と同じ様に魔法のなんたるかを教えてほしいのか?」

「ふふ…… 欲もあの時はお友達を殺してくれたわね」

「神の世界に住む不浄なる汚物を浄化してやったのだ、感謝するがいい」

「ふふふ……あははははははは!」




その笑い声とともにピスティルの二本の杖が反応し、赤く光る!

それと同時にピスティルの周りを漂う赤い石がまるで生きているかのように弧を描き二人に迫りくる!



「この魔法を見て、それでもあなたは同じことを言えるのかしら!?」


四方から赤い石が迫りくる

やがてその赤い石は炎を纏い、高熱の火球に変容する


「も、燃えた!?」

「なるほど、あの石は魔鉱石か…… 魔鉱石を媒介に魔法を発現させ詠唱の省略と威力の増加を狙うか、所詮は児戯……!」

戸惑うリンファを後目にため息をつきながら詠唱を始めるガルド


「威力と速度があろうがしょせんは単純な術式、進歩がないなゴブリン!」


迫りくる炎にそんな言葉を吐き捨てるガルドの言葉を耳にしながら、リンファはピスティルを見る





ピスティルはその時、不気味に笑っていた





その顔を見てリンファは血相を変えて叫んだ!

「ガルド!よけろー!!」



リンファはそう言いながら迫る火球を螺旋の動きで捌くのではなく必死に回避を試みる

リンファの叫びに反応をしながらも行動を変化させなかったガルドは迫る火球と同じ数の火球を展開し相殺しようとする


その刹那、迫る火球がするどい氷柱に変化しガルドの火球を貫いた!


「なにぃ!?」

驚くガルドに無数の氷柱が突き刺さり、その氷柱が電撃に変わりガルドの全身を蝕み光る!

驚愕と激痛に目を向き絶叫するガルド、さらにその電撃は元の魔鉱石に戻りガルドの身を引き裂きながらピスティルの元に帰還する


間一髪回避したはずのリンファだったが、その火球はガルドに迫ったときと同じ様に瞬間で変容

ただその変化は氷柱ではなく、猛毒の水となりリンファの背中で破裂しその皮膚をむしばみ爛れさせる

「うあああああ!?」


その毒水は熱を持って蒸発し更にリンファの背中を痛々しく焼きながら、その蒸発した気体は赤い石に戻りピスティルに向かって飛んでいく


リンファは激痛と共に、その一撃から信じられない違和感を覚える

これはただの魔法じゃない、感じた覚えのある面影

言葉にしがたい、デジャブにするにはあまりに手ごたえのある既視感

あの夜、何度も何度も立ち向かってきた、涙を流してた


仇討ちを挑んできたゴブリンの面影が脳裏から離れない!





ピスティルは戻ってきた赤い魔鉱石を愛おしそうに撫でると、緑の涙を流す

真っ赤な目を見開き、笑顔をこぼしながら涙を流すその姿はどこか滑稽で、とても不気味に映る




「ぴ、ピスティルさん……それは……その石は……!?」

「ふふふ……ゴブリンハーフでもわかってしまうのかしら……?」


ピスティルは笑う、ただ笑う

命結晶と読んだその石を愛おしそうに抱きしめたまま、ただ張り付いた笑顔を浮かべる


その命結晶がピスティルの抱擁に応えるように濡れたように感じるのはリンファの気のせいだろうか



「この命結晶で、貴方達を殺すわ 絶対に……!

ピスティルの血の涙が命結晶の赤に混ざり、滴り落ちた――――



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