86.厄介な相手
『誰と戦っているのかわからんな……』
アグライアはリンファの援護しながら、そんなことを思った
「ガルド!やめろぉ!」
倒れた盗賊に止めをささんと杖を構えたガルドの手を他の盗賊を相手にしながらリンファが蹴り上げ魔法の軌道を逸らす
反れた爆発魔法が盗賊達のはるか後方の船体に激突し、派手に爆発し木片を散らせた
「なにをするか穢れ! まずは貴様から始末してやろうか!」
「うるさい! 無力化するならともかく命まで奪うな!」
「神敵にかける情けなど持ち合わせぬ……! 刃をむけるならなおのことだろうが」
「神様とか関係ない! 子供の前で血を流すな!」
「関係ないとはなんだ! この神敵がぁ!」
ガルドがリンファに杖を向けるとリンファはたじろぐこともなくガルドに向かって箭疾歩を放つ
杖から迸る爆発魔法がリンファの背後から襲い掛かろうとする盗賊の顔面に直撃するのと、箭疾歩でガルドの背後を斬り捨てようとした盗賊が吹き飛ぶのはほぼ同時だった
「前から思っていたが貴様は感情の起伏による視野の狭窄が著しい 戦闘中にいちいち騒ぐな!」
「お前が言うのかガルド……! 神様の話になるとなんでも噛みつく癖に!」
「なんだと貴様……!」
「だってそうじゃないか!」
二人で散々言い合いながら、目の前の相手とお互いの死角の相手を打ち倒していく
お互い振り返るという事をほぼしないので、盗賊も手を出しあぐねている
アグライアも二人の近くで戦っていたが、正直言って手を出す必要を感じない程の圧倒ぶりだった
そして改めてガルドの戦いぶりを見て、この男に騎士団は似合わない場所だったのだなぁと感じる
『剣技が劣っていたわけでは決してないが、この圧倒的な魔法の技術はすごいな……』
もちろんだからといってガルドのこれまでを同情する心など微塵も浮かんでこないが、ガルドなりに騎士団に居た理由があったのだろうなと考える
「なんだあの化け物共!ウチの兵隊がまるで歯が立たねぇじゃねぇか!」
「お頭!このままじゃみんなやられちまいますよ!」
弓を引きながら泣きごとをいう盗賊を前に、ボスが何かを考えていたかと思うと下卑た笑いを浮かべて口を開く
「おい、あの化け物の牢屋を開けてこい、化け物には化け物をぶつけて共食いさせりゃいいんだ」
「え!? で、でもあいつは手に追えねぇからあのままあそこに閉じ込めて餓死させるって……」
「馬鹿野郎! このままあいつらに全滅させられるよりましだろうが! 早くいけぇ!」
及び腰になる盗賊に怒鳴り散らし行動をうながしたボスは、派手に立ち回る二人を苦々しく睨みつける
「よくも俺の盗賊団をメチャメチャにしてくれたな……必ず殺してやる……!」
二人はそんなボスのつぶやきなど聞こえてはいない様子で、ただ盗賊を打ち倒し続けていた
『悔しいけど、魔導士ってこんなにも強いのか……!?』
リンファは口にこそださないものの、ガルドの強さに舌を巻いていた
以前に相対した時も魔法の威力はすごかったが、至極読みやすいどこか単調な魔法だった
だが今は詠唱中に別の魔法の詠唱を始めて、確認した限りでは3つの属性の違う魔法をほぼ同時に展開する
その魔法も相手の視界や死角を絶妙に狙った回避しにくい魔法を織り交ぜて展開する
出力も意図的に強弱を織り交ぜているようで、対処を怠れば痛い目にあうという攻撃を絶え間なく打ち続けているように感じた
『魔力のコントロールがうまいから攻撃の隙間がすごくわかりづらい……! ただ魔力が高いだけじゃないんだな……』
実際に手を合わせたときも感じてはいたけど、他の人との戦いを見ているとそれを痛感する
しかも騎士団出身だから近接戦闘もこなす、魔導士だからと距離を安易に詰めると……
『杖で相手の剣をへし折ったうえで足払いと風魔法で相手を強引に吹き飛ばした……滅茶苦茶だ……!』
何が起きたかのかわからないといった感じで吹き飛ばされ昏倒する盗賊の顔がとても哀れだ
『あの意味不明の拳技が更に研鑽されている……!?』
ガルドはリンファの動きを視線だけで追いながら何度も舌打ちをしていた
以前に戦ったときもあの見たこともない徒手空拳にしてやられたが、あの時よりもさらに洗練された流れを感じずにはいられない
魔法を使えないという神の理から外れた異形の分際で魔力に直接干渉して威力を発揮するという、これまでこの世界で聞いたこともない武術
それだけでも不愉快だというのに、以前はどこかその技を本人が理解しておらず振り回されているという印象があった
ただ習った技を愚直に実行する、よく言えば素直な戦い方……それがあの異形の穢れの実力だと感じていた
愚直だったが、その爆発力にしてやられたのだと
だからこそ穢れに言い放たれた「魔法が読みやすい」という一言に憤慨し、騎士団に入団した際に騎士たりうるために使わないようにした魔法技術を恥を忍んで再度使うに至ったのだ
あの日牢獄で感じた神の涙を拭うため、国を捨て、剣を捨て、この衣を纏い杖を取ったのだ
この穢れとゴブリンクイーンを滅ぼすために……
だというのに何だあれは!?
あの魔力の共振を促し相手の魔力を爆砕させる技……あれの織り交ぜ方はどうだ?
これまでは馬鹿の一つ覚えの様に一撃必殺の妙技程度にしか使ってなかったあの共振を、牽制や虚実に用いて流れを作っている
あの妙技を用いずとも人間相手であれば徒手空拳としてもかなり厄介な技であったが、共振の技がその中に混ぜられている
しかもごく自然に、気が付けば必殺の一撃を技の流れに放り込んでくる
しかもあの穢れは今この段階においても不殺を崩さない
あれだけの実力であれば殺害してしまったほうがよっぽど楽だろうに、難易度の高い不殺を貫く
無力化させたところでしばらくすれば起き上がり戦闘に再び参加する者もいるだろうに、それ諸共に戦い続け、打ち倒していく
あれだけの全身運動をし続けて技が鈍らないのはどういうことだ、どこにそんな体力があるんだ?
あの穢れにできて私にできないなどプライドが許さない!絶対にだ!
ガルドは恨めしそうに目の前の相手を気絶させ止めをさすのを必死に堪える
自分が相手にしたくない要素が全て詰まったような戦いを見せてくるリンファに、ガルドは再び舌打ちをしていた
目の前の相手を無力化させたところでお互いの背中がぶつかり、チラリと相手を見る二人
「おい、穢れ」
「なんですか……?」
「……なんでもない、口を開くな不愉快だ」
「じゃあ口開かなければいいのに…… 一番不愉快なのはそっちなんだから」
相手の顔すら見ないままピキっとお互い怒りを露にする二人
そしてお互い相手の不愉快な雰囲気を感じて更に不機嫌になっていく
『必ず滅ぼしてくれるぞ穢れ……!』
『絶対に決着をつける……ガルド……!』
その不機嫌な空気を隠しているつもりでまた目の前の相手と戦い始める二人
結果としてお互いを助けてはいるのだが、二人は決してそれを認めようとはしないだろう
「仲が悪すぎて息が合うってことがあるんだな……」
戦闘の合間に気絶した盗賊をセイクリッドチェーンで拘束しながらアグライアは呆れたような視線を二人に向けた
そんな時、戦場に巨大な咆哮が響く
その咆哮は石壁を揺らし、そこにいる全員の手を止め身を守らせるほど大きく、凶暴な響きだった
「な、なんだ!?」
「な……!? まさか!?」
リンファとガルドも思わず咆哮が聴こえた向きに視線を向ける
敵を前に目を逸らすなど自殺行為だったが、今そちらに注意を向けない方が危険だと判断せずには居られないくらいその咆哮は驚異的だったのだ
それは皆同じ気持ちだったのか、盗賊達もみな同じ向きに視線を送る
ただ一人、盗賊のボスだけは不遜に二人を睨み笑う
「さぁ……1か月ぶりの食事だぞ、存分に暴れてくれよ蛇野郎……!」
咆哮が幾度と鳴り響き、徐々に不気味な這いずる様な音が聞こえる
巨大な影が、3人の目の前に立ちはだかった――――
「ド……ドラゴン……?」
「こ、こいつは……! なんでこんな奴が陸地に……!?」
リンファ達と盗賊達の目の前に立ちはだかった巨大な影
口元に盗賊の腕を咥えながら血を滴らせた、その化け物……
四肢を持たぬ海の龍、シーサーペントが立ちはだかった!




