表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/264

73.たとえ勝てずとも

そのゴブリンは泣いていた

リンファがそれにきづいたのはあと数センチで拳を顔面に叩き込む寸前だった

ゴブリンは泣きながらリンファに襲いかかってきたのだ



拠点の出発から数時間もした頃、野営の準備をした二人に数匹のゴブリンの影が映る

奴等は思えば最初から変だった

不意打ちをするでもなく、ただ二人の前に立ち尽くしていた


「でかい・・・! こいつら確か・・・」

「あの時の、大きいゴブリンさんたち!?」



二人はそのゴブリンたちに見覚えがあった

鎧こそ来ていないが、ゴブリンとは思えないその人間よりも大きいであろうその巨体

その傍らに二刀のナイフを携えたゴブリン・・・


要塞を目指していることに遭遇した、あのゴブリンたちが目の前に突如現れたのだ



アグライアは咄嗟に武器を手に取り、リンファは構えを作る

しかしそれでもなお奴らは武器を持つこともなく、唸ることもない


闇夜に灯した焚火の音だけがパチパチと響き、頼りないその火に亡霊のように照らされ立ち尽くすゴブリン

光と影のコントラストの差が、より不気味さを際立たせる


襲ってきた者が構えず、襲われたものが構えない

おかしな時間がしばらく過ぎた頃、ゴブリンが虚ろな表情でリンファに向かって口を開いた


それは人間には只の呻くような鳴き声にしか聞こえないその声

アグライアが怪訝そうな顔をする横でリンファは少しだけ表情を曇らせ、ゆっくりと頷いた



そしてその頷きのあと一瞬目を見開いたかと思うと、ゴブリン全員が雄たけびを上げる!


「な、なんだ!?」

「アグライアさん、来ます!」


4匹のゴブリンが憎しみを露にして襲い掛かってくる

そしてその最中、ゴブリンの涙にリンファが気づくことになった



「な、泣いてる・・・」

「なんなんだコイツら、あの時にくらべてあまりに手ごたえがない・・・」


ゴブリンは肩で息をしながら、苦しそうに脇腹を抑えながら、それでも涙を流して懸命に攻撃を加えてくる

最初こそ何か企みがあるのではないかと慎重になっていた二人だったが、本当に余力がない事を悟り攻撃の手を緩める



「オ・・・マエ・・・」

不意にゴブリンの口から理解できる言葉が飛び出し、アグライアはたじろぐ

「あの大きい奴と同じで人間の言葉をしゃべれるのか・・・」


だがその言葉はたどたどしく、難しい言葉は喋れない

それでもゴブリンは涙を浮かべ憎しみの瞳を崩さずしゃべり続けた



「オマエ・・・ニクイ・・・トランク様・・・コロシタ・・・!」



ゴブリンは震える指を必死に動かし、リンファに向ける

リンファはその指を払う事もなく、敢えて差され続けた


「・・・君たちは、棲家に帰らずに僕たちを探し続けたのかい?」

「ソウ・・・ダ・・・!」

その言葉と同時にまるでまだるっこしいといわんばかりに喋っていたゴブリンが鳴き叫び、周りのゴブリンも呼応する



「な、なんだ!? 急に叫び始めたぞ!」

「(お前に染みついた臭いで確証した、お前が俺たちのトランク様を殺したんだ!)だそうです・・・」


リンファは眉一つ動かさずその言葉を訳す

アグライアはそんなリンファに顔を向け、驚きの表情を見せる

「リンファ!お前ゴブリンの言葉がわかるのか?」

「つい最近、わかるようになりました・・・」


少しだけバツの悪そうな顔を見せるリンファ

ゴブリンはそんな二人に構わず話し続ける


(俺たちはもうお終いだ、体がもう持たない)

(お前に勝てないだろうことは理解している、だが戦わないわけには行かない)



ゴブリンは語る、今この瞬間にアグライアかリンファの攻撃が飛んできて絶命してもおかしくない状況にも関わらず

そしてリンファはその言葉を聞いた、身じろぎもせず聞いた

聞く責任があると感じたからだ


(拳を握れ、殺してやる)

その言葉に構えを作るリンファ


「アグライアさん、少し下がっててください、僕がやります」

「しかし! ・・・わかった、だが何かあれば私は躊躇なく加勢するぞ」

「大丈夫です」





「不意打ちをしてくれてもよかったのに・・・」

(お前に染みついた臭いに呆然としてしまった、だからと言って背中を向けて逃げるわけにはいかない)


ゴブリンたちが間合いを詰める、リンファは目線を走らせるだけでその身は動かない



「シネ・・・! ゴブリンハァーフ!」


ゴブリン4匹が全員で連携をとり、再び襲い掛かってくる!

2匹の巨大な体格のゴブリンが正面を割るように突進を行い、左右から二刀ナイフのゴブリンが炎の魔法を詠唱しながら飛び掛かる

迷いのないその動きはきっとこのゴブリンたちが必死に覚えてきた常勝の連携だったのだろう

だがその動きは鈍く、脆い




リンファは正面から向かってくる巨躯を双掌打で真っ向から撃ち落とすと左右から迫る炎の弾を小さな螺旋の動きで霧散させる

もはや丸見えになっているがそれでも突進をやめないナイフ持ちの二刀のゴブリンの顔面を片手の掌打で迎撃した



リンファ自身の成長もあっただろうが、この4匹のゴブリンの動きが明らかに弱くなっている

これまでの疲労などもあるのかもしれないが、それ以上の弱体化を感じずにはいられない



「ま、まだやりますか!? 死んじゃいますよ!?」

少しだけ眉をひそめながらリンファが叫ぶ

そんな言葉などお構いなしにその身を震わせながらまだ立ち上がろうとするゴブリンたち


「トランクさんはあなた達が死ぬことを望んではいないでしょう!?」

小さなゴブリンが口に溜まった血をツバと一緒に吐き出し、地面に緑の染みができる

フラフラと定まらぬ視線で落とした斧を拾う巨躯のゴブリン


そしてまた全員が力の入らない歩き方で陣形を作り直す

ついさっき簡単に攻略されてしまった攻撃を再度押し通そうとする



「それはもう効かないんです! お願いだから矛を収めて!」

リンファが懇願するように叫ぶ

だがその願いは叶わず、全員が配置につく



もうゴブリンは何も言わなかった

自分にはこれしかないんだ、この戦い方しか知らないんだ

そう言っているかのような悲壮な目つきだった



だが次の瞬間、巨躯のゴブリンに異変が起きる

虚ろだった瞳が突然見開いたかと思うと、大きく頬を広げ口いっぱいで吐血し倒れこむ



「な!? 大丈夫ですか!?」

「リンファ! 戦闘中だぞ気を抜くなぁ!」

リンファはたまらずその倒れたゴブリンに駆け寄ろうとするが、他の3匹はそんなゴブリンを踏み台にするかのように突進してくる!





リンファは倒れ行くゴブリンを支えるが、そのゴブリンの背中からもう一匹のゴブリンが斧を振りかぶる

左右から氷の矢を放ち、ナイフを逆手に構え突進する2匹のゴブリン

倒れ行くゴブリンはリンファが目の前にいる事を今気づいたかのように、助けに入ってくれたリンファの体を羽交い絞めにした



「リンファ―!」

鈍い衝撃音と氷の砕ける鋭い破裂音が鳴り響く

膝を突き、それでも羽交い絞めにする巨躯の陰になってリンファはどうなっているかわからない






その斧はリンファの肩を切り裂き、氷の矢は体を穴だらけにしている

・・・はずだった

だがリンファはそうはなっていなかった





リンファを切り裂いていたはずの斧は細かく鋭利に、木の葉を砕いたかのように細断されており

氷の矢はその勢いをなくしリンファの足元の地面に突き刺さり砕け散っていた



そしてリンファが支え、リンファを羽交い絞めにされていた巨躯のゴブリン

そのゴブリンは心臓から肩口まで大きな刀傷で引き裂かれ


目から涙と血を流し、静かに絶命していた



「なんでだ・・・!?」

リンファは怒りに震え声を上げる



「なんで殺した! リーフ!!」

「・・・必要だから殺したんだ、君に理解してもらうつもりはない リンファ」




かつてリンファを窮地に追い込んだゴブリン

クィーン・ソードであり、リンファの兄を名乗るゴブリン



リーフ=オルネストがリンファの前に現れた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ