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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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413/416

413.害獣屋の怒り

死ぬ瞬間って見えているものの色まで変わるんだな……と、アルテアは叫びながらどこか冷静にその光景を眺めていた

噴き出す緑の血と、自分の叫び声と、ゴブリンハーフの泣き声


緑の血を顔に浴びながら、今から襲い掛かるであろう痛みを覚悟するが……一向に痛みが訪れない


恐る恐る視線を下げるアルテアの目に映ったものは……



「アルテアちゃん、こういう時はまず逃げるもんだよぉ……間に合ってよかったぁ」


アルテアが健在であることに気が抜けたのか、顔中に緑の血を浴びながら締まらない笑顔を向けてる害獣屋

そしてもう用はないと言わんばかりに喉元から脳天に向けて突き刺していたナイフを一気に引き抜き、フロードを蹴り倒した



「が、害獣屋さん……?」


「あぁもうレンズに血が……、ちょっと待ってすぐ拭くから」


害獣屋は血まみれになったレンズを手元で拭きながらフロードの元にツカツカと近づきしゃがみこむ


そして血と涙を垂れ流すフロードの首元にナイフを躊躇なく押し当て……


「しゃべるな、ばかやろう」


そのまま一気に地面までナイフの刃を落とし、フロードの首を切断した

あまりの光景にアルテアはその瞬間顔を伏せ、硬く目を閉じた



「アルテアちゃん! 怪我とかはないよね!?」


害獣屋はその首を蹴り飛ばすと慌ててアルテアの元に駆け寄る

一見すれば血まみれなのは害獣屋の方だったが、そんなものはおかまいなしだ



「あ、えっと……大丈夫……です」


「よかった、ケガとかしてない? あぁくそ、あの化け物の爪の後が……すぐ手当てするからね!」


害獣屋は自分の返り血などものともせず、ただただアルテアの心配とケアを優先する

そんな害獣屋の仕草を茫然とアルテアは見つめていた



「あの……」


「どした? どっか他に痛いところある?」


「いや、そうじゃなくて……その……」



アルテアは首をなくしたフロードの死骸に視線を向け、呟いた


「ご、ゴブリンハーフって友達だったんじゃ……?」


「へ? あぁ……あれは紛い物だからね」


アルテアの視線に気づいた害獣屋だったが、その方向には一瞥もくれずにハッキリといってのける

その迷いすら感じさせない物言いに、アルテアは思わず面喰う




「で、でもあれ……友達と……そっくりなんで……しょ……?」


アルテアの言葉に一瞬体を止めたが、すぐに手当てを再開する害獣屋

そしてアルテアに顔を見せずに言った



「そっくりどころじゃないよ、瓜二つ 同じ顔で並ばれたらきっと見分けなんてつかないよ」


「そ、そんな……!」


「でも、あれは違う」



アルテアの体に付けられた小傷を癒し終わると、害獣屋はスッと立ち上がりアルテアと同じ方向に目をやる

首を断たれたフロードの体はまるで夏場に放置されたバターの様にドロドロに朽ちて溶けていく



「むしろ、同じ顔だからこそ私は怒りを覚えてるし、躊躇もしない」


アルテアは溶けていくフロードに目をやる害獣屋を見た

それは、今までのヘラヘラとした顔でも、淋しそうな顔でもなく……


まっすぐで怒りに燃える瞳を携えた、凛とした顔だった



「誰がこんな真似をしたかなんて知らないけど……私の友達の姿を使ってこんな真似をした奴が……許せない」



その言葉にアルテアは視線を落とし、顔を手で覆った




『この人は、憎む相手を間違えてない……!』


昨日の言葉に間違いなんかなかった

ゴブリンハーフはこの人にとって、本当に大事な友達だったんだ




「だ、大丈夫アルテアちゃん? 怖いもの見せちゃったね……早くお母さんと一緒に避難小屋に行って!」


「が、害獣屋さんも一緒に!」



アルテアは思わず害獣屋の手を掴もうとするが、掴まれそうになる手をひょいッと上げて、ヘラヘラと笑いながら頭を掻く害獣屋


「私はこのまま村の入り口に行ってゴブリンをやっつけてくるよ、っていうか本当はすぐ行くつもりだったんだけどねぇ~、ちょっとやることがあって遅くなっちゃって……」


「や、やること……? ダメだよ! 危ないよ!」


「私も一応下部の更に下部組織だけど……一応神聖騎士団の関係者だからねぇ」




まだ必死に引き留めようとするアルテアの頭を撫でる


「アルテアちゃんたちはちゃんと隠れてるんだよ、この戦いが終わってからの方が大事なんだからね」


「そ、そんな……!」


「危ないことは大人に任せて! 今はちゃんと隠れてね」




まだ引き留めようとするアルテアを優しく諭す害獣屋

だが、状況はそれすらも許さない




一瞬、お互いの顔が見えなくなるほどに世界が闇に包まれた

その暗闇に異変を感じて辺りを見回そうとしたアルテアの視界が、即座に光に包まれた




それは、天雷




天より降り注いだ一本の雷が、村の避難小屋のある辺りを薙ぎ払った

すでに避難小屋に入っていた者や今まさにたどり着こうとしたものがその雷を受けて体中を引き裂かれ……やがて燃えていく





さっきまでの喧騒とは違う悲鳴が響き、多くの者が逃げ惑った



「お、おかあさん……おかあさん!! ユニ!」


一瞬何が起きたのかわからなかったアルテアは、やがて起きたことに気付き家族を呼び、叫んだ

害獣屋もその光景に目を奪われていたが、すぐにアルテアを背中に隠し大振りのナイフを構えた




「アルテアちゃん……気を付けて!」



ズドンと鈍い打突音が響いて、村人が血を吐きながら九の字に体を曲げながら地面に崩れる

燃える避難所の炎を背にしながら、それらは悠然と歩いてきた



その姿に害獣屋は目を見開き、おもわず構えたナイフを落としかける




殺気と同じ顔、友達と瓜二つの緑の顔

その両手には神聖騎士団のグローブが備わり、手の甲の真っ赤な魔鉱石が煌々と輝いていた




近くの村人の死骸を躊躇もなく踏みつけ、蹴り飛ばす

そしてそいつは、転がるその死体の無様な姿を見て




いやらしく、楽しそうに笑っていた




「その顔で……」


害獣屋が震える手でゴーグルを投げ捨て、ナイフを向ける



「その顔で!そんな笑い方を……するなあああああ!!」


楽しそうに笑う友達と同じ顔に向けて、怒りの切っ先を鋭く突きつけた――――――――



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