37.ナイフを持つもの、払うもの
リンファ達は焚火に土をかけて火を消すと、藪の中に身を潜めた
真っ暗な闇が落ちる森のざわめきの中に、少しづつ何者かの歩く音が聞こえてくる
「ほ、本当になんか歩いてきてる……なんでわかったんだ緑肌……気持ち悪ッ」
「黙れ、その舌引っこ抜くぞ……!」
「静かに……! なんだろう、ゴブリンと人間なのかな……?」
真っ暗な闇の中、ぼんやりと灯りが動いてくるのができる
人数は4人、人間の男くらいの背丈の者が2名、ゴブリンらしき大きさの背丈の者が2名……
こちらに気づいている様子は特になく、警戒心も持たずゾロゾロと歩いている
目を凝らしてみればゴブリンらしき背丈の者はいかにもゴブリンという定番のボロを来たゴブリンと言った風情だったが
残り2名は肌も見えないほどの全身に鎧をまとっていた
「人間とゴブリンが連れだって歩いている……でもなんか変だな……」
「確かに何か変だな……、あの鎧の方、歩き方が普通過ぎる あの鎧はあんなに軽いのか?」
アグライアが鎧の方の歩き方の違和感に気づく
全身を覆うほどのフルプレートの鎧を着ているにしては疲れている様子も重さを感じている風もない
まるで普通の服を着て歩いているかのような軽やかさで歩いているのだ
歩く音に合わせて響く鎧の音がまるで早送りであるかのようにガシャガシャと響き渡っている
「なんか……人間に見せかけたいって感じがしませんか?」
「う、うむ……しかしあの大きさのゴブリンというのも……」
「リーフがあの大きさだったから、もしかしたらそういうゴブリンなのかもしれませんね」
「なんにせよ接触するのは得策ではないな……おいグリフとやら、何かあったときの為にチェーンは解いてやってるんだから絶対にここを……」
グリフが居たほうに視線を向けると、そこにはグリフが居たと思わしき草が凹んだ形跡のみ
そして目の前の4人に近づくグリフと背格好が全く同じの人影が一人……
というか、グリフ本人だ
グリフがのこのこと何者かわからないゴブリンを連れた集団に近づいて行った
「なっ!?ば、馬鹿なのかアイツ!?」
アグライアの小声の叫びを聞こえないふりをしながら、グリフは自信満々に歩いていく
『あいつら、よっぽどもの知らずなんだな、あんなでかいゴブリンなんかいるわけねぇのにあんな的外れな警戒してさァ』
グリフはゴブリンと鎧の集団を見てピンときた
こいつらはうわさに聞いたゴブリンと戦ってるチームの一人で、ゴブリンを捕獲して拠点に帰ってる途中なのだと
鎧を着ている男が軽やかに歩いているのは当然だ、だって鍛えているんだろうから!
鍛えていればそれくらい軽やかに動ける!知らんけど
『あのアグライアとかいう姉ちゃんはゴブリンだと勘違いして勝手にビビってる……ここで俺が颯爽とこのピンチを回避したらばだよ……』
(お、おまえ!なんて見事な手腕なんだ!私たちにはない妙技!むしろこんな緑肌なんて必要ない!私と一緒に来てくれ!)
(す、すいません角牙様、靴でも何でも磨きますからついて行かせてくださいませ)
(しゃあないなぁしゃあないなぁ、お前らだけじゃ不安だからついていってやらんこともないぞぉ)
『ってなるはず!こいつらを護衛したってことで手柄にもなるはず!この姉ちゃんと団長が知り合いなのは知ってっかんな!』
と、そんなどこまでも自分に都合のいい妄想をしながらノコノコとグリフは歩いていく
「やーやー!こんな夜分にゴブリン駆除ですか!精が出ますね!」
先手必勝と言わんばかりにグリフは両手を広げて声をかける
広げた両手をヒラヒラを動かし自分は丸腰で無害であることをアピール
突然闇夜から現れて両手をブンブンを振り回して奇声を発する男の登場にたじろぐ鎧とゴブリンの集団
「驚かせて申し訳ない!オイラ……私は飛翔島のゴールド冒険者のグリフワームって言います!」
何のためらいもなく身分を偽るグリフ
ギルドのルールで身分の詐称は最悪の場合冒険者資格のはく奪だ
「夜も更けたのでここで野営をしておりましたがそちらがゴブリンの捕獲されている様なのでお声がけいたしました」
矢継ぎ早で言葉を重ねるグリフ
「この先の拠点の方ですかね? よろしければ私もお手伝いいたしましょうか!? なぁにご安心ください、私もゴブリン駆除の任務を受けたものですので!」
嘘も交えてどんどんと問いかける
だが相手は何も返事を返さないどころか、あきらかに敵愾心を向け始めている
よく見るとゴブリンには鎖どころか縄一つ打たれていない
「えーっと、そのゴブリン……拘束具が外れてますよ……? オイラがつけてあげましょう…か?」
ゴブリンが歯をむいて威嚇を始める唸り声をあげる
その唸り声は4人全員から上がっていた
「え、えーっと……オイラのニュアンスわかりづらいですかね? この国の言葉はうまい方だって地元のダチには褒められたんですが……」
ゴブリンの一匹が牙をむき、ゆっくり腰に差していた二刀のナイフを抜き放つ
捕獲されていたと思っていたゴブリンはとても自由に武装までしていたのだ
そして言葉が通じると思っていたはずの鎧の人物がグリフの身の丈ほどもある大斧を振りかぶり襲い掛かってきた!
「うわあああああなんでぇぇぇ」
「危ない!」
大斧がグリフ振り下ろされるの瞬間、リンファ割って入りその斧の柄を跳び蹴りにて軌道を逸らす
大斧は勢いそのままグリフの頬を掠め、大地に深く突き刺さった
その土煙と勢いと自分の頬から流れる血を確認しグリフは腰を抜かす
「はわ、はわわ……」
「さ、下がって!グリフさんここから離れてください!」
リンファが声をかけるもグリフは放心してそこから立ち上がれそうにない
そんなグリフのことなどお構いなしにゴブリンと鎧が襲い掛かってくる!
真正面から突っ込んでくる鎧と、その頭上から飛び掛かってくるナイフ持ちのゴブリン!
「セイクリッドチェーン!」
身構えるリンファを読んでいたかのように呼吸を合わせアグライアが魔法の鎖で鎧の足を絡めバランスを崩す
それを見越してリンファがその鎧の頭を踏み台にしてナイフ持ちを迎撃!
「ありがとう!アグライアさん」
【八極剛拳 夜鷹穿弓腿】
飛び掛かろうとするゴブリンの肩口にリンファの鋭い跳び蹴りが炸裂し吹き飛ばす
わずかに魔力の共振が巻き起こり、ゴブリンの肩口が裂けて緑の血が噴き出す
リンファは更に落下の勢いで鎧の肩甲骨当たりに踵落としを炸裂させた!
その威力にたまらずふらつく鎧の兜が外れ、地面に落ちる
そこには緑の皮膚と鋭い赤い目をしたゴブリンの姿が露になった
「アグライアさん!」
「やはりゴブリンだったのか!? とんでもない大きさだな……!」
ゴブリンは小柄だから非力だと思われてるが、人間が使う剣や斧を人間と同じように軽々と振り回す
そんなゴブリンが人間と同じ大きさだという事は……
鎧ゴブリンが怒りにまかせて振り回す拳をリンファはおちついて両の手で捌いた……つもりだったがその想像以上の速さと重さにバランスを崩し軽く吹き飛ばされてしまう
「な、なんて腕力だ……!」
たたらを踏みながら構えなおすリンファに大斧を握り直し鎧ゴブリンが突っ込んでくる!
横なぎの斬撃がリンファを襲うが、リンファは落ち着いて前に踏み込み握り手を押さえ頭突きを相手の鼻っ面に叩き込む
激痛で鼻を押さえるゴブリン、その隙をついて双掌打で胸を突き吹き飛ばす!
勢いよく吹き飛びそうになる鎧ゴブリンの手を引いて安全に引き倒すリンファ
ゴブリンはその手に勢いを削がれ、その場をグルっと回るように倒れ伏した
「な、なんで殺さねぇんだよ……あの緑肌……」
グリフはなにをしているのか理解できなかった
さっきから目の前の二人は優勢に戦闘を進めているのにゴブリンに止めを刺そうとしない
現にさっき倒したはずのナイフを持ったゴブリンが意識を取り戻して立ち上がろうとしている
「な、なんだ……? 止め刺すのが怖い甘ちゃん共なのか……?」
震える手で辺りを探ると、さっきのゴブリンが落としたナイフが一本が手に当たる
「お、オイラは違うぞ……!しゅ、出世するためならなんでもできる、なんでもできる!」
落ちたナイフを手がしびれるほど強く握りこむと鼻息荒く立ち上がる!
「ゴブリンの一匹や二匹、殺せなくて冒険者として成り上がれねぇんだぁ!」
そういうと脚をもつれさせながらグリフは立ち上がろうとするゴブリンにナイフを振りかぶった!
「しねぇぇええ!」
突然の強襲に逃げることもかわすこともできず、ゴブリンはその両手でわが身をかばうが、グリフはお構いなしにナイフを振り下ろす!
今まさに突き刺さろうとするナイフを持つ手を強い衝撃がおそい吹き飛ばす!
身を強張らせ目をつむったままのゴブリン、あっけにとられるグリフ、明後日の方向に吹き飛んでいくナイフ
「殺しちゃダメだ!」
そしてそこにはナイフを持つ手に衝撃を与えた拳の主、リンファが飛び込んできていた―――
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