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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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29/260

29.母さん

柄を押さえ、そのまま投げ飛ばして刀を破壊する

そう思っていたリンファの視界からリーフが消えて、真下から刃が襲い掛かってくる!

【北天一刀流 逆巻風車】

リーフはその瞬間柄を逆手に持ち替え、後ろに下がりながら右手を上に跳ね上げ切り上げた

リンファは紙一重でその刃を避けるが、リーフは自らの間合いを取り戻す


「リーフ!なんでこの人にこんなことを……何があったかは知らないけどさせるわけにはいかない!」

「君には関係ない、師匠と私の約束なんだ、邪魔をしないでくれリンファ殿」


両者が構えを取り、間合いを測る

刀を持ったリーフにとっては必殺の間合いだが、徒手空拳のリンファにとっては一足踏み込まなければ届かない圧倒的な不利な間合い

一撃が致命傷になりうる相手の斬撃を一歩かいくぐり打撃を加えるのは至難の業で、リンファは攻めあぐねる

そうしている間にも師匠と呼ばれた男の胸から流れる赤い血はとめどなくあふれていく


「早く治療をしなければ死んでしまうぞ!刀を引け!」

「話にならない……君も武人であれば介錯せねばならぬことくらいわかるだろうに」


ジリジリと間合いを詰めるリーフ、リンファは回り込みながら間合いを広げようとする

『この距離だと不利だ……!だったら!』

リンファは一瞬腰を落とすと右足を強く踏みこむ!

【八極剛拳 地烈爆震脚】


「生憎それは読んでいる!」

爆震脚の踏み込みが床を超え大地に響こうとするその瞬間、リーフの斬撃がその地面を切り裂き大地を吹き飛ばす!

【北天一刀流 首刎土竜】


「なっ!?」

踏み込んだはずの大地がえぐり取られバランスを崩すリンファに、斬撃の勢いをそのまま回転で繋いだ二の太刀が襲い掛かる!

リンファは崩れた体勢のまま立ち上がらず、そのまま前方に飛んで斬撃の間合いをつぶす!


「前に詰めるだと!?」

「このおぉ!」

お互いの鼻先が接触しそうなほどの距離、リンファは掌をリーフの胸にあてて零距離からの双掌打を撃ち込もうとするがその手をリーフが柄で真下に叩き落す!

落とした勢いを使ってリンファは頭突きをしようとするがリーフもまた頭突きにて反撃!

恐ろしく鈍い音が響き、お互いの動きを制しながら時間が止まったかのように睨みあう



「それでも殺していい理由なんで絶対にないはずだ……ましてや同じ種族だろうに!」

「違う、私は緑の民ではない」




息を切らせながら慌てて部屋に飛び込んでくるリオ、その状況に理解が追い付かず二人を見つめてしまう

「な、なんで二人が戦ってんの……それに……」

「兄ちゃん、なんで腕に毛がないの……!?」



「私は、ゴブリンだ」

「えっ……!?」


リーフの唐突な言葉に、リンファは一瞬戦いを忘れてしまう

「油断が過ぎるな」

その隙を見逃さず、リーフは腰を引きながらリンファの腹部を横一文字に切り裂く!

「うわぁぁ!」

間一髪身を引くも、その刃は腹筋を深く切り裂く!

内臓の損傷は免れたものの、緑色の血が噴き出し地面に滴っていった



「リンファさん!?」

「リ、リオか!?こっち来ちゃダメだ! そこに倒れている人がいる!誰か呼んできてくれ!」

「ほ、骨皮親父のことか……!」


リオは混乱しながらも必死に辺り見回すと、土煙の中真っ赤な床に倒れている人を見つける

けれど、その人物を見てさらにリオは混乱を深める


「だ、誰だよコイツ……こんなやつ見たことねぇよ……誰なんだよ!?」



自らの赤い血に倒れ伏している師匠の体からジジ……ジジジ……と何かがショートする様な音が響き

体全体に覆われていた魔法の膜の様なものが形を維持できず崩壊していく


緑の皮膚は極わずかに赤みがかった灰白色、白に近い銀色で腰まであった髪は真っ黒の短髪に変わり

老人だったその姿は青年程度の年恰好の男に変わっていく


そして緑の民の象徴である毛皮の様な腕の毛は、一本も残らず消え去っていった


「わかんねぇ……二人とも違うの?俺たちの仲間じゃなかったの?」

リオは目の前の現実に理解が及ばず頭を抱えて座り込んでしまう




「くっ……!」

零れ落ちる血を止めようと必死に上着をきつく腹に巻くが、その血は流れ続ける

「ゴブリン……、リーフが……?」



リーフは刀を地面に刺し止め、自らの左手の傷を回復魔法でふさぎながら答える

「そうだ……私はリーフ=オルネスト ゴブリンクイーンの配下の一人、クイーン・ソードだ」


リンファの流れる血を見つめた後、ゆっくりを視線を向ける

「そしてゴブリンハーフになり損ねた不肖の兄だ、リンファ=オルネスト……弟よ」


そう言いながら塞ぎきれていない傷口をそっとリンファに向ける

零れ落ちる緑色の血が、リンファの緑色の血に混じっていく


「そ、そんな……!?君が兄さん……ゴブリンクイーンの仲間……!?」

あっけにとられるリンファに、リーフは回復魔法を叩き込む

「あああああああ!!!!!」

魔法の煙が大量にたちのぼり、リンファが激痛に悶え暴れる

「あぁ、本当に君は魔法が使えず。魔法に弱いのだな。 哀れにも思うが、うらやましくもある」


リーフは悶えるリンファをさしおき、師匠の方へ足を進める

「私もそうなりたかった、仲間の為、そして今も苦しむ母の為にゴブリンハーフであったならどれだけよかったか……」

「ま、まて!お母さんが……なんて……」


床に倒れこみ肩で息をするリンファを見下ろしながら言う

「俺たちの母さんは、今も苦しんでいるよ だから俺は戦っている」

そういうとリーフは背中を向ける、青いバンダナを翻しながら―――



リーフは再び師匠の前に立った

師匠は顔を上げることももはや叶わぬほどだったが、その影を見てニヤッと微笑む


「お待たせしました……クラタ師匠」

「その名で呼ぶなよ……名前なんてもう捨てたって……言ったじゃねぇか」


ゆっくりと刀を上段に構えるリーフ

「貴方が捨てても、私は決して忘れません わずか2年でしたが、大事な師匠の名前です」

「そうか……好きに……しやがれ……」




上段に構えられた漆黒の刀が世界を暗黒に染めるほどの勢いで瘴気を吐いていく

瘴気が地面に溜まり、やがてクラタと呼ばれた男とリーフを包んでいく

その瘴気に身を預け、クラタは呼吸を弱めながらゆっくりと瞳を閉じる


「おさらばです」


その刀を振り下ろさんとする刹那、土煙からリンファが弾丸の様に飛び込んでくる!


【八極剛拳 電光箭疾歩】



だがリーフはいささかも驚きも見せずその刀を返しながらポツリと呟いた

「すまない、それも読んでいた」


漆黒の刀からリーフの両腕にどす黒い血管の様な筋が走り、その刃が闇の光を放ちリンファを肩口から断ち切った……


【北天一刀流化外奥義 冥】


その一撃に確かな手ごたえを感じ、静かに残心を取ろうとするリーフ



だが、リンファの拳は死んでいなかった



次の瞬間、断ち切られたはずの拳が鍔に当たり、その拳が肘打ちへと変わる!

視界も定まらず息も微弱のリンファ、だがそれでも無意識のまま研鑽し続けた八極剛拳の技を叩き込む!


そして肘打ちの踏み込みから大地の魔力がリーフに流れ込み、魔力の共振が全身に襲い掛かった!

瘴気の渦が颶風にあおられるように剥がされる様子に思わず驚嘆するリーフ

「な、なんだこれは!?」


漆黒の刀が魔力の奔流に震えはじめると、無意識のはずのリンファが更に撃ち込みを重ねる

その拳がゆっくりと華開き、震える大地の魔力を漆黒の刃に叩き込む

リンファの体を食いちぎる寸前だった瘴気はその顕現できない魔力の共振に耐え切れず霧散し、そしてその共振はリーフに撃ち込まれた!



【八極剛拳 金剛鉄山靠・暁】



その一撃は漆黒の刃を破壊し、禍々しい剣は幾層にも刃をこぼす無惨な姿となりはてた


「馬鹿な……!私は確かに君を真っ二つにしたんだぞ!?」

意識をなくし膝から崩れ落ちるリンファに叫ぶが、その返事はない

そんな様を、クラタは声にならない声で大笑いをし始める


「は、はは……はははは! 俺の技が!何千年研鑽したかわからない俺の技が今日だけで2回も破られた!こんな愉快な事が……あるのか……!!!」

心底嬉しそうに、血を吐きながら笑う、その目から赤い涙が頬を伝い流れていく


砕けた刃に戸惑うリーフに、口元から血をこぼしながらクラタがゆっくりと話しかける

「も、もういい……行け……もう十分だ、俺はお前のお陰でやっと死ねる、お前は……お前の母ちゃんのところに戻……れ……」

その言葉に申し訳なさそうな表情を見せるリーフ


辺りから人々の喧騒と、走ってくるような物音が徐々に近づいてくる

騒ぎを聞きつけた住人が集まってくる気配が強くなっていく


師匠と刀を見比べ、眉間にしわを寄せ視線を落とすリーフに師匠は優しく口を開く

「そんな顔……するな……行け……!達者でな……」

それは、今生の別れだった


「すいません、師匠……!」

刀を鞘に戻すと、リーフはリンファに背中を向けてゆっくりと歩きだす

リンファは浅い呼吸で地面を掻きむしりながらその足音を聞く


必死に顔を上げた時、その足音は止まる

見下ろす兄、見上げる弟

睨むようにも、泣いているようにも見える弟の顔をじっと見つめる兄は言った


「お前は人として生きるのか」

「私はゴブリンとして……生きる」


その言葉が耳に入ったとき、リンファの意識は失われた

青い布の隙間から見えた、幾重にも刻まれたリーフの首の傷を目に焼き付けながら――


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