↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/550

21.星空に響く

勝敗は決した

倒れ伏したステラーハウルのすぐそばに下段突きの構えで立つリンファがいる

その拳の先には、無防備な森の王の頭部


ステラーハウルが如何に強大な力を残していようと、リンファの一撃が速く直撃するだろう

そしてその命は絶たれるだろう

だが、リンファはその構えのまま動かない

息も整い、血も止まっている

足は強く踏ん張り、魔導発勁の準備もできている



だがリンファはその眼前のステラーハウルを、どうしても打ち込めずにいた


「見事でした、拳を振り下ろしなさい」

「……」

負傷で動けないその身で視線だけを向け、優しい表情で声をかけるステラーハウル

その視線を見ながら、唇をかみしめてワナワナと震えるリンファ


勝者と敗者が逆転したかのような二人がみつめあう



「私の無理な願いを叶えてくれてありがとう、そして誇りに思ってほしい緑の戦士よ」

「その拳で貫くことが、貴方の誇りであり私の誇りなのです」


我が子を諭すように優しく声をかけ、自らの止めをさすことを促す

だがリンファはそれでも拳を打ち抜くこともその言葉に応える事もできずにいた



「ためらう事はありません、私はこれであの子に胸を張って会いに行ける」

「貴方が最後に牙を突き立てた相手は、立派な戦士だったと報告ができます」


ステラーハウルはその時を待つかのように瞳を閉じる

交わされていた視線が途切れた瞬間、リンファの拳が動く



ぽかっ



そんな音が聞こえるくらいの柔らかく頼りない拳がステラーハウルの頬に届く

威力も何もない、触る程度の柔らかい拳

「……私を愚弄するのですか? 勝者がかける哀れみほど残酷なものはないというのに」



リンファはその拳を何度も何度も力なく振り下ろすと、重い口を開いた

「……んじゃうじゃないか」

「……なんです?」

「貴方まで死んじゃったら、お子さんがもう一度死んじゃうじゃないか!」


威力のない拳が何度も何度もステラーハウルの頬に降り注ぐ

痛みも重みもない、ただ涙の雨の混じる拳が降り注ぐ


「僕にはできない……! それをするのが決着だってわかってても、僕にはできない!」

「なんと情けない……!戦士には、勝者には決着をつける責任があるのですよ!」



「あなたが死んだら、だれがあなたのお子さんを思い出してあげるんだよ!」

「お母さんと過ごした、お母さんしか知らないその子の顔はあなたにしか思い返してあげられないんだよ!?」

「覚えてる人まで死んじゃったら、本当に死んじゃうじゃないかぁ……!」


泣きじゃくりながら駄々をこねるように力なく拳を振るリンファの顔を見て、ステラーハウルはもう一度瞳を閉じる

瞼に浮かぶのは我が子の顔、我が子の鳴き声、我が子の尻尾、我が子の笑い顔……

かわいい我が子、少しだけ甘えんぼで、凛々しく優しい坊や……



思い出してしまったが最後、瞼から涙が洪水の様にあふれる

森の王として、戦士として、母としての自分は必死に抑え込み戦いに臨んだというのに

思い出が洪水になって、戦士の自分も王の自分も押し流していく



赤い相貌から溢れる宝石のような涙がリンファの涙と混じる

リンファも泣く、ステラーハウルも泣く


「あの子はね……銀の毛に少しだけ茶色い毛並みが混じっていたの……」

「それが雪原から見えるわずかな大地の様に見えてね……すごくかわいかったの……」

「狩りがまだうまくなくてね、目の前でウサギに逃げられて悔しそうに鳴いていたわ……」

「雷のなる日はね、怖くなさそうな顔をするんだけど、尻尾をお腹に隠してね、私の前足の間に隠れてきたの……」

「少しずつ凛々しい顔をする様になってきて、いずれこの子が私を退けて森の王になってくれると疑ってなかった……」

「森の王になった坊やの横顔を、年老いた私は誇らしく眺めながら天に昇るんだと……思っていた……!」



母狼の咆哮が悲しく空に響く

凍てつき白んでいた森がその咆哮に導かれるように天に上り、消えていく

その隙間から柔らかな陽光が差し、お互いの涙を輝かせた



リンファは泣き続けた

自らの母のことを思い出そうと必死になった

けれどその記憶はあまりに少なく頼りなく、わずかにかすめるその後ろ姿があまりにもぼやけていて……

それでも自分がこの世からいなくなってしまったら自分と過ごした母が本当に死んでしまうと思って、必死に生きてきた



母を失った子

子を失った母

悲しい存在が共に泣き続けた






ステラーハウルの子は狩りの最中に誤って谷底に落下し、命を落とした

崖から我が子の亡骸を引き揚げた母は泣かなかった、これもまた自然の摂理だと納得しようとした

ただせめて懇ろに弔ってやろうと、我が子が好きだった麦わらの寝床にその身を横たえてやった

好物のウサギを鼻先においてやり、三日三晩その身を毛繕いしてやった



そして4日目の夜、亡骸を大地に帰そうとした母の目の前で我が子は消えた

匂いも腐臭と共に夜の闇に紛れた

あの夜、母は愛しい我が子の亡骸すらも奪われてしまったのだ







「覚悟しろよ、相当に痛むぞ」

口に棒切れを咥えながら眉毛を傾けながら情けなくリンファは頷いた

「重傷の傷口だけ塞いだらすぐ詠唱を止めるから、それまで我慢してくれ……!」


アグライアの掌から癒しの光が放たれ、リンファは声にならない絶叫を上げる

クネクネと体をよじりながら、暴れないように必死に自分の右手を左手で握りこみ我慢

口に咥えた棒切れはあっという間に咬合で変形してしまう


「んーーーー!んーー!!!」

「もうちょっとだ!我慢しろ!さすがに骨まで見えてる傷をそのままにはできないんだよ!」


周りに迷惑をかけないように暴れるリンファを見ながら、ステラーハウルは自らの傷口をなめる

「魔法への耐性が低いとは感じていましたが、まさか回復魔法にも弱いとは……」

「そうなんだ……リンファにとっては回復魔法も拷問みたいなものだからな……!」

できるだけ痛くないように魔法の加減をしてはみるものの、どう唱えても痛いものは痛い



「戦闘中に傷を治療してやることができないから、いつもヒヤヒヤしているよ……塞がった!もういいぞリンファ!」

「いったあああああああああいいいいいいいありがとうございましたああああいたああああああいいいいいいいい」


傷口に土がつかないように立ったまま変な動きをするリンファにみんなが苦笑する

「ふふふ、あんまりうごくと傷口が開くぞ」

「す、すいません……でもいたぁぁいいい」

のたうち回りたい衝動を必死に抑えてじっとするリンファに、そっとステラーハウルが近づき傷口をなめてやる


「貴方との闘いを誇りに思います、リンファ」

「あ、ありがとうございます……僕もですステラさん」

「ステラ……?」

「な、なんかステラさんって呼んでもいいかなって、ダメでしたか……?」


上目づかいで少し困った顔をするリンファにあっけにとられるも、そっとその頬をなめるステラ

「わっ くすぐったいです!」

「素敵な響きですね、ありがとうリンファ……これからはステラと名乗りましょう」


ステラはリンファの拳を眺める

我が子の匂いが残っていたそのグローブは先ほどの戦闘で無惨に破れ、傷だらけになっていた

「そのグローブ……ボロボロになってしまいましたね」

「あ……だ、大丈夫です! 道中修理します」

アグライアからもらった大事なグローブ、ステラにとっては我が子の匂いの残るグローブ

ステラはわが身の毛を口で少しだけむしると、魔法でそれを包む


光る銀毛が優しくリンファの手をグローブごと包むと、そのほつれ傷ついた箇所が美しい銀の毛で繕われる

「わ……すごい……!」

「ほとんど破れてしまっていた掌の部分を私の銀毛で繕っておきました、多少なりとも魔法に抵抗しやすくなると思います」


「ありがとうございます!あっ……」

「どうしました?魔法で繕ったので痛みましたか?」

「ううん、ちょっとくすぐったかったけど気持ちよかったんです」


屈託なく笑うリンファに、ステラもつられて笑った

『ありがとう緑の戦士……いえ、緑の拳士よ』






それから夕刻、二人はステラと狼と別れ飛翔島を目指す

いや、狼たちは夜の闇でも二人が進むことができるよう正しい進路に立ち、優しく咆哮してくれた

縄張りを過ぎるまでその道を示してくれたのだ





そして森を一望できる丘に立ち、ステラは天に強く吠える

木々を揺らすような恐ろしい響きではなく、星空に問いかけるような優しい咆哮


「アグライアさん、あれ!」

「おぉ……森が輝いてるな」

その咆哮が呼んだ冷気が星々の光に輝き、夜の闇を優しく照らす



ステラーハウル

星空に響くその咆哮が、二人の行き先を優しく導いた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。