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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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13/413

13.先生の怒り

【八極剛拳 鉄山靠・隕】


先生のわずかな一歩が視覚では認識できないほどの速さで技と変わり、形なき呪殺が消し飛ぶ


先生の動きに起りは見えない、戦いの意志どころか色すら見えない

攻撃の予測が一切できない動きで必殺の一撃を放ってくる

余計な動きを全て削ぎ落した相手を破壊するための挙動


感情などない呪殺という概念がまるでその自分以上の概念めいた化け物に恐怖しているようにみえた





先生はこわばりもせず足を進める

呪殺はその霧のような姿を人型の骸のような姿に変え、手にした巨大な鎌で襲い掛かる

『やれやれ、この世界でも死神は似たような姿をするのだねぇ』

その姿に呆れと退屈すら先生は感じていた


横なぎに切り払う瞬間刃が3枚に分裂し上中下段全てから斬撃が襲い掛かるが

その刃は何も切り捨てることなく、斬撃の進路にいたはずの先生は変わらずそこに立っていた

瞬間、骸が持っていた刃が砕け散り、その刃を目にした骸の頭部もパキンと音を立てて破砕する

「遅いよぉ、それじゃあトンボも取れないねぇ」


頭部がなくなりよろめく呪殺に瞬間打撃音だけが響き、体全てが瓦解

拳、肘、肩の三連打が瞬間移動の様に同じ部位に撃ち込まれたはずなのに衝撃音は1つだけ

その音が響いたときに、先生の体はもう次の動作に移っていた

その場に打ち込みの動きを残したりはしない、瞬く間に他の呪殺の影に飛び掛かっていた


【八極剛拳 箭疾歩・閃】


リンファの魂を刈り取ろう一瞬体を揺らし事を起こそうとした呪殺が爆砕したかと思うと

その影から別の呪殺が気色の悪い唸り声をあげながら頭部が狼、胴体が虎、翼を備えた醜怪なモンスターに姿が変わり襲い掛かってくる!

だが先生はジロリと一瞥すると


「饕餮や窮奇のようだねぇ、人型ではなく化け物に変われば恐れられると思ったのかい?」

と呟きながら箭疾歩の打ち終わりをそのまま肘打ちにつなぎ化け物の鼻ごと顔面をつぶし、足払いにて相手の後ろ脚の関節を破壊

足払いで浮かされた胴体を掌打にて打ち込み吹き飛ばす!


化け物はたまらず翼にて上空に逃げるが先生は既にその上

「遅いよぉ」

流星の様な蹴りにて首をへし折られた化け物は瘴気となり爆散する

先生は蹴り足をそのまま踏み込みの足に変え次の呪殺の破壊に向かう


呪殺が複数に別れ多方から襲い掛かろうともその全てをもろともせずに迎撃

背面を取ろうとする瞬間には逆に背面を取られ撃滅される

リンファの体内にはびこっていたどす黒い瘴気はみるみるその濃さを失っていく


「実体を持たぬ術だろうが化け物だろうが殺意が見える時点で三下だよぉ」

先生は無表情のまま、呪殺という概念を破壊していく!







地上、焼け焦げた森で、ミアズマは混乱の極みにいた

「何故だ!? 呪殺が逆流するなどあり得ん!」


「み、ミアズマ隊長!呪殺を止めることができません!まるで何かが術自体を破壊しているかの……ぐわあああ!」

そう言いながらまた呪殺士の一人が自らの黒い瘴気に飲み込まれ爆発する


これで既に5人、術式を展開している呪殺士の約半数が爆発し絶命していた

「今すぐ解呪しろ!」

「できません!瘴気が暴走してます!」


そういいながらミアズマも自らの瘴気の異変に気付いてしまう

さっきまで術式を中断していたはずなのに、右手の瘴気がリンファとつながっている

断ち切ろうにも瘴気がリンファから立ち込め、逆にミアズマを飲み込んでいるようだった


術式の中断が無理だと判断し、ミアズマは再度呪殺の展開を開始すると、その術式から今まで感じたこともない寒気がミアズマに襲い掛かってくる

「ガ、ガルドぉ!その穢れを殺せ!めった刺しにして息の根を止めろぉ!」

「わ、わかった!騎士団よ!その穢れを串刺しにせよ!」


しかしその命令に対して誰も動かない騎士団

「命令に背くのか!反逆となるぞ!アグライアがどうなってもいいのかぁ!」

「わ、我々にはできません!」

「この愚か者どもめぇ!ならば私自らが殺してくれる!貴様らも覚悟しておけ!」


ガルドがその白金の剣を抜き放つとアグライアに襲い掛かる!

「させる……かぁぁ!」

アグライアはかろうじて自由になった片腕で地面に突き立てた剣を抜き、ガルドの剣を受けとめる!

煌びやかな白金の剣がボロボロに刃こぼれした剣を次々と打ち付ける


アグライアの片手は光の壁を維持するために光り続け、ふさがったままだが

それでもアグライアはリンファをかばい必死にガルドに立ちはだかる!


「邪魔するな!その穢れを始末させろアグライアぁ!」

ガムシャラに剣を振るいながら蹴り足や拳を容赦なく身動きの取れないアグライアに浴びせかける


アグライアの美しい金色の髪は泥と血で汚れ、口内は足蹴によりずたずたとなり、美麗な容姿は瞬く間に傷だらけになっていく

腹部を蹴り上げられ、体中に足跡が痛々しくこびりついていった

やがてアグライアの意識は混濁していき、かろうじて持っていた剣もその手から離れ、力なく地面に落ちる

それでもアグライアは光の壁を解除することはなかった


「リンファ……死ぬな……リンファ……」


もはやどこを見ているのかわからない視線で、それでもなおリンファを守り続けた


その状況に業を煮やしたミアズマが怒鳴り散らした

「どけぇガルド!こうなればゾンビを使ってすりつぶしてくれるわ!」


ミアズマはゾンビの使役の為のその一瞬、呪殺の維持に意識を怠った

それが合図となり、呪殺を展開しているミアズマ以外の全ての部下が自らの瘴気に飲まれ、薄汚い火柱と化し爆散した


業火が大きく森をどす黒く照らす状況に身をこわばらせるガルドとミアズマ

その時右手から流れ出る瘴気を通して何かの声が突然ミアズマの脳内に侵入し囁き始めた


『お若いの…命のやりとりの最中に気を散らしてはいかんなぁ』

その声の冷たさに脊髄をわしづかみされたかのように体がこわばる

「ひっ!何者だ!?」

『この子の先生じゃよ、随分と薄汚い手を使ってくれたのう』

「ぐっ!何故……何故解呪できない!術式を強制終了できない!?」

『おいおいお若いの、この呪殺とやらは術式が成立すれば解呪は不可能なんじゃろ? 自分だけ有利というのは話が通らぬよ』

声が心臓をわしづかみにし、ミアズマの右手がどす黒く変色していく



「何なのだ!?これが穢れの本体だとでもいうのか?」

『本体ぃ?お若い方よ、ずいぶんと見識が足らぬのう』

ミアズマの右手が変色に加え膨張し始める

「ひいいい……!」



『ありきたりな言葉でいえば……わしは違う世界の人間だそうだ、聞かされた話なので詳細は知らんがの』



「ち、違う世界……!?」

『神も仏もこの子を守らんが、ワシはこの子を守ると決めたんじゃよ、じゃから……』



「貴様は死ね」


「うわあああああああ!」

変色した右手が瘴気の逆流に一気に体より大きく膨らもうとしたがその瞬間、ミアズマは半狂乱になりながら冥術にて右手を切断した!


つながっていた瘴気が右手ごと爆発したせいか、体中に響いていた凍てつく声がプツンと聞こえなくなる





「ほう、右手を斬り捨てて難を逃れたかぁ それなりに根性はあったねぇ」

気が付けばリンファの体内に立ち込めていた瘴気はすっかり消え去っていた

だがリンファの魂である大木は暗くざわめきすら感じられず、白い霧に当たっていた光も暗くなっていく


「リンファ、聞こえるかいリンファ」

先生は力ない大木にそっと手を添える

「怖かったろう、つらかったろう、このまま自然と目覚めるまでゆっくり休ませてあげたいよぉ」


「でも、立ちなさい 立って拳を握りなさい」

先生の手が震え頬から一筋の涙が流れる



「お前の拳で助けなければいけない人がいるだろう?」







右手を失ったショックで泣き叫ぶミアズマを横目に見ながらガルドが再び剣を構える

「てこずらせおって……こうなれば二人まとめて死ぬがいいわ!」

白金の刃がギラリと火柱の光を反射して真っ白に輝く


アグライアはリンファに覆いかぶさるように倒れ、その視線は虚ろで指一本まともに動かせそうもない

光の壁も、もはや力なく弱く薄れ始めている

それでもまだその光の壁を解除しようとはしなかった


「穢れをかばう裏切り者め……」

白金の刃がゆっくり掲げられ、闇夜に薄汚く輝く


「共に神のもとに行き懺悔せよ!死ねぇぇぇ!」

その剣が一気に振り下ろされる!


だが、剣が振り下ろされた瞬間、重さが消えた

不思議に思いアグライアに視線を移すも血の一滴も噴出していない

すると次の瞬間ガルドの足元に白銀の刃だったものが天より地面に突き刺さった!


「なにぃ!?」



その地面に突き刺さった刃が反射した光が照らす者――

それはアグライアの肩をしっかりと抱きながら拳を突き出すリンファの姿だった―――


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