仲間がひつよう
もしかしたらドレインで、悪の魔王をなんとかできるのではないかと考えたことがある。
彼女の力を使えば、魔王に言うことを聞かせることも可能だ。
しかし、魔王のレベル300はこの世界で最も高く、俺やマリアでは到底届かない。
それに、魔王の元へマリアを連れていくなんて危険すぎる。
かと言って、俺1人でなんとかなるものだろうか。
魔王との戦いは長期戦になることは確実であり、回復役や魔術による先頭サポートがないと勝ち目はないだろう。
パーティメンバーを増やそう。
「仲間を増やしたいのですか?わたしがもっと勇者様のお力になれる位強い力があれば…」
「いや、マリアは十分役に立ってくれている!(俺を癒しまくってくれてる!精神的に!)」
「それなら…彼なんてどうですか?」
「ん?あれは…」
立ち寄った村で、怪我をした猫を治療している男がいた。
水色のサラリとした長めの髪は、ぱっと見るだけだとショートヘアの女性に見えた。
目の前の猫を優しげに見つめる瞳はグレーがかっている。
頭の上には、数が見えない。
レベルは意図して隠すことが可能であるとは聞いたことがある。
そういう魔術は、レベル30以上でないと使えなかったような。
マリアがいつの間にか側に寄り、声をかけていた。
「すみません、回復魔法を習得なさっているようにお見受けします。どうか私たちのパーティに加わっていただけませんか?」
「断る。俺は人間を治療しない主義だ…」
そこから、彼が自分の歴史を語り始めた。
「俺は回復術士として、先の戦争で戦士をたくさん回復させた。
戦いが終わった後に負傷した敵兵を回復させていたところ、そいつが味方を攻撃して死なせてしまったんだ。
俺は仲間から責められた…。
人を回復させたのに、…。
だからもう人には関わりたくないんだ。」
そういって目を伏せ、怪我が回復した野良猫の頭を撫でていた。
(そんなつらい過去があったなら、軽くパーティに誘うのは難しそうだな。でも、彼の魔法は強力そうだ。さて、どうやって攻略しよう。…)
などと考えていると、マリアが言った。
「そんなおつらいことがあったのですね。でしたら、友人ということでパーティに加わって見ませんか?」
「…友人?あったばかりなのに、友人になれというのか?」
「いいえ、寂しそうな目をした貴方を放っておけないのです。私も拾われた身ですから分かってしまうのです。1人でいるのは良くありません」
「…俺に友人がいない前提で話をしていないか?」
「そんなやさぐれた目をしていたら友人がいないのなんてすぐにわかります」
「マリアっ、それは言い過ぎではっ」
「くそっ、なんだお前。馬鹿にしてんのか」
「いいえ!私は、ここまで旅をしてきて、野生動物達が魔物に襲われて怪我をしているのをたくさん見てきてました。私にはどうすることもできませんでした。貴方の力があれば、助けられる動物がたくさんいたのに!もし動物がお好きなら、どうかわたしたちと共に動物の怪我を治す旅をしませんか?」
「…よし、わかった。同行してやる。でも、絶対人間を回復させたりはしない。それでいいな?」
「はい!よろしくお願いします!」
ということで、意外にあっさり仲間になった男の名前はアデルという。
村で旅の準備を整えた後、3人で次の目的地、迷いの森へと向かった。
「さすが、迷いの森というだけあって、道が分かりづらいですね、きゃ!」
「マリア!大丈夫か!」
「は、はい、危なかったです、ありがとうございます。」
迷いの森に入ると、人のよく通る道はすぐに途絶え、さらに獣道を行くと、藪だらけの道なき道を行く羽目になった。
この迷いの森の植物にはマリアのレベルが足りないらしく、ドレイんでは切り抜けられそうになかった。俺の戦い用の剣では、藪を切り分けるのが難しかった。頑固なアデルは手伝いもせず、俺とマリアの後ろについてくるだけだった。
薮をかき分けて進むと急に崖になっていたりして、歩みは慎重になった。気づくと隣でマリアが腕を庇っていた。
「マリア、腕をどうしたんだ?」
「あ、ちょっと薮で切ってしまったみたいで…」
「よし、僕の回復術ですぐに」
手のひらをマリアの腕にかざして数秒すると、切り傷が塞がり、元の滑らかな肌に戻った。
「ありがとうございます、勇者様。次は怪我をしないように気をつけますね、勇者様は戦いに備えて体力と精神力は温存してください!」
「何を言っているんだ、マリアの体に傷が残ったらどうするんだ!」
俺とマリアの掛け合いを横目で見ながらアデルが口を挟んだ。
「…俺は治癒してやらないからな。わかってると思うが」
「…わかってるさ。」
アデルの治癒力があれば、マリアの傷なんて一瞬で治せるはずなのに。
それより、怪我をしている女の子の治療をしないなんて男としてどうかしている。
俺レベルの勇者ともなれば、これくらい朝飯前だが、深い傷になると治療はできない。
そもそも、俺の治癒術は、自分一人で戦いながら、こまめにかける簡易なものだから回復量は少ない。
パーティ全体に効果がある回復魔法や、回復力の高い高位の術は、専門の回復術師でないと使えないのだ。
アデルが猫の怪我を回復したスピードや、回復担当として兵士を治癒していたという話から察するに、彼はそれらの術が使えそうだとは感じていた。
アデルの態度にぷんすかしながら前方の藪に八つ当たりをしながら前進していく俺たちの後ろで、アデルがこっそりと治癒魔法をマリアと俺にかけているのは気づきもしなかった。
数歩歩くごとに藪での切り傷が微回復する継続魔法だった。
そこから半時ほど進むと、少し開けた斜面に出た。
大した怪我もなく藪を切り抜けられたのには安堵した。
少し休憩しようかと辺りの安全確認をしていると、崖下を覗きこむマリアが声を上げた。
「この下に、怪我をした子供のイノシシが倒れているわ!魔物に襲われた傷もあるみたい。」
「ほんとだ…!でも、ここからあそこまで行くのは難しそうだ。崖をつたって降りないと」
「やっと、俺の出番か」
「おい、アデル、無理するな。危険すぎる」
「やっとその娘が言ってた役目を果たせる時が来たんだ、やってやるさ」
「アデルさんが行くなら私たちも行きます」
「いいって、お二人仲良く、先行ってたらいいさ。俺は治癒が終わったら追いかける」
そう言ってアデルは崖を降り始めた。
崖の脇に降りていけそうな小道を見つけたようだ。
マリアもそれに続く。
マリアが行くなら勇者の俺が行かないわけがないとばかりに続いて歩いた。
今度は、アデル、マリア、俺の順でそろりそろりと細い小道を降りていった。
小道の一番細くなっているところにたどり着いたとき、アデルの足場が急に崩れた。
「うわっ、」
「アデルさん!」
「マリア!!!!」
その時、アデルのすぐ後ろを歩いていたマリアは彼の背中をドンっと押し、アデルは小道の先の広い芝生の上に転がった。
そして代わりにマリアが崖から滑落してしまった。
俺の足場も少し崩れたが、咄嗟に近くの岩場に手を延ばして、滑り落ちることは免れた。
一歩間違えば危なかった。アデルが滑った時のマリア動きは俊敏すぎて、止める暇もなかった。
落ちていくマリアに届かない手を伸ばすことしかできなかった。
マリアの体はちょうど猪の体が倒れているところに滑り落ちた。
マリアの仰向けになった顔には、複数の切り傷が見えた。
「マリアーーー!!!今助ける!大丈夫か!?」
「…っなんで、俺を庇って…っ!」
無我夢中でなんとかマリアがいる場所までたどり着いた。
アデルも芝生からすぐに立ち上がり、別ルートでマリアの元までたどり着いた。
そばによると、マリアの足は骨折してしまっていた。
「今すぐ応急処置をするが、俺の術では痛みを軽減させることしかできない…っくそっ」
「お前…、なんで俺を庇った。」
眉根を寄せてつぶやくアデルに、マリアは痛みをこらえて笑顔でこたえた。
「だって、アデルさんの歩き方危なっかしくて。見てたら落ちそうになったから。
目の前に助けられる人がいたら、自然と体が動いたんだもの」
「…。」
「アデルさん、ほら、イノシシの子供、治癒してあげてください、そのために来たんでしょう」
「…馬鹿かお前」
そう言って、アデルはマリアを治癒し始めた。
「あ、アデルさんっ、私の傷を治したら、そっちの重傷のイノシシを回復できなくなってしまいますよっ。」
「…黙って治療させろ。俺の魔法力はそんなんじゃ底尽きない」
「そうですか…。ありがと…ございま、」
その声を最後に、マリアは痛みのあまり失神してしまった。
◇
マリアが意識を失った後、
アデルが質問した。
「なぁ、マリアとお前とどんな関係?」
「…マリアはパーティメンバーでは無い。事情があって一緒にいるだけで、いずれはどこかで別れる予定だ。」
「あっそ。じゃあその時までよろしくな」
「ん…?」
「俺、マリアの回復役としてパーティに残るわ」
「え?『マリアの』?」
「そ。お前の回復はしないから。」
「(性格悪!)」
マリアが怪我をした後、アデルのテレポート術で迷いの森のその先の村まで飛んだ。
アデルが、骨折を一瞬で治せるほどの回復術師でかつ、行ったことのある場所ならどこでもテレポートできる高位の術まで使えるなんてその時初めて知った。
ていうかそんな技使えるなら切り傷作りながら藪に分け入ってた俺の努力ってなんだったの?
アデル(レベル80)は意識のない彼女を宝物のようにそっと抱き抱え(勇者である俺が運ぶって言ってるのに、抱きながら体力回復術使ってるって言うから)村の宿屋のベッドに下ろした。
そして彼女の手を取りつぶやいた。
「俺が、ずっと君を守るよ。勇者なんていなくても良いくらい、きみの世界を平和にしてあげるね」
そうやってマリアに一日でデレたアデルは、後に悪の魔女に傅く四天王の一人と呼ばれることになる。




