異星からの来訪者
現世でビガラスに魔術を教えられている一八を、昴は水面越しに見つめていた。一八は昴に便りを送らないが、昴には一八の様子が手に取るように分かった。
昴は冥界にある宮殿に籠っていた。各地で戦う死神達を見る為だった。昴は戦況を見ながら何か考えている。その時、水面が盛り上がった。
「ワニ、どうしたんだ?」
「昴様…」
ワニと呼ばれたのは鮫の怪だった。彼は昴に保護されてから、今は宮殿の水槽に居る。
その水槽には既にカブトガニの怪のヨッタとクラゲの怪のゼプトが暮らしていた。ところが、昴がワニを水槽に入れたが為に、ワニは喧嘩に巻き込まれている。
「新入りをあまりいじめないでくれよ?」
昴は水槽に居る二人に声を掛けた。二人は返事をすると人型の姿になって水槽から出る。
「まさかゾフィーが現世に来て、しかも律花達と接触していたとは…。」
昴が水面に手をかざすと、ゾフィーと律花が対面している様子が映った。
「それと、七道篤矢、それから小幡星藍だったっけな。」
「その二人がどうしたのですか?」
「あの二人がこの混乱の中で変な事に巻き込まれてないといいけどな…。」
昴は水面の映像を篤矢と星藍に変えた。二人は変わらない日常を過ごしているように見える。ところが、昴の表情は重かった。
「あの二つの魂が怪になってしまえば手に負えなくなる。そうなる前にどうにかしないとな…。」
昴は水槽から離れていった。
昴の頭の中では、異星から来訪した怪との戦いで一杯だった。更には現世に居る律花達の身も案じていた。自分の事を考える暇がないのは王としての宿命だろうか。昴は一人頭を抱えていた。