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貴方が祈った願いの先へ


 シリカとペタライトは、ショールとアゲートの戦(たたか)いを見守(みまも)る事(こと)しか出来(でき)なかった。宿屋(やどや)に入(はい)ってからも、ずっとその事(こと)を考(かんが)えていた。

 戦(たたか)いの中(なか)でショールの身体(からだ)は傷(きず)だらけになっていた。エメルダはそれを治療(ちりょう)し、ベッドに寝(ね)かせた。幽体(ゆうたい)の方(ほう)は、その横(よこ)で、うずくまっている。ショールを運(はこ)んでいたアゲートも、力(ちから)を消耗(しょうもう)していた。


 エメルダは、ショールの傷(きず)を消毒(しょうどく)し、包帯(ほうたい)を巻(ま)いた。長(なが)らく現世(げんせ)で人間達(にんげんたち)の医学(いがく)を学(まな)んでいたお陰(かげ)で、医者(いしゃ)としての腕(うで)は上(あ)がっていた。

「ショールさん、もう大丈夫(だいじょうぶ)よ」

「ありがとうございます」

幽体(ゆうたい)のショールは、抜(ぬ)け殻(がら)になった肉体(にくたい)をじっと見(み)つめている。

「肉体(にくたい)には戻(もど)らないの?」

「消耗(しょうもう)が激(はげ)しくて、しばらくは戻(もど)れません」

「そうだからといって、このまま分(わ)かれ続(つづ)けていたら本当(ほんとう)に戻(もど)れなくなるわよ?」

「分(わ)かっています」

人間達(にんげんたち)の医学(いがく)には幽体(ゆうたい)に関(かん)する記述(きじゅつ)は無(な)い。

 それに加(くわ)えて、生物学(せいぶつがく)の主流(しゅりゅう)は、生気論(せいきろん)ではなく、機械論(きかいろん)だ。魂(たましい)を知覚(ちかく)しない人間(にんげん)は、その考(かんが)えを切(き)り離(はな)して研究内容(けんきゅうないよう)を考察(こうさつ)してきた。だが、それでは今(いま)のショールの状況(じょうきょう)は説明(せつめい)できない。


 シリカは、幽体(ゆうたい)になったショールに話掛(はなしか)けた。

「大丈夫(だいじょうぶ)?」

「うん、今(いま)のところはね」

シリカも元気(げんき)を無(な)くしているのか、水晶体(すいしょうたい)の羽根(はね)は畳(たた)まれている。

「ですが、早(はや)い事(こと)回復(かいふく)してもらわないと、また怪(かい)と出(で)くわした時(とき)にどうすればいいか…」

「ペタライトは、戦(たたか)えるの?」 

「自分(じぶん)やシリカさん達(たち)の身(み)を守(まも)る程度(ていど)なら…」

すると、ショールの肉体(にくたい)の横(よこ)にずっと居(い)たエルが、ペタライトの側(そば)に来(き)た。

「お前(まえ)、怪(かい)の前(まえ)に立(た)った時(とき)、震(ふる)えてただろ。そんなんでシリカを守(まも)れるのか?」

ペタライトを睨(にら)みつけるが、それをエメルダが止(と)めた。 

「エル、何(なに)もそこまでペタライトさんを責(せ)めなくてもいいんじゃないかな?戦(たたか)えなくてもペタライトさんには、役目(やくめ)があるんだから」

「ええ、何(なに)も死神(しにがみ)が皆(みな)戦闘(せんとう)が得意(とくい)な訳(わけ)でもないですしね」

水蛇(すいじゃ)が至極(しごく)真(ま)っ当(とう)な意見(いけん)を言(い)う。エルと同(おな)じ蛇(へび)の怪(かい)ではあるが、生(い)きた年数分(ねんすうぶん)、水蛇(すいじゃ)の方(ほう)が精神(せいしん)が成熟(せいじゅく)しているのだろう。

「お前(まえ)、あの荒(あら)くれ者(もの)の白蛇(はくじゃ)の怪(かい)から産(う)まれたとは思(おも)えないな」

「エルさんだって、エメルダさんの髪(かみ)から産(う)まれたとは到底(とうてい)思(おも)えませんよ?」

エルと白蛇(はくじゃ)は人(ひと)の姿(すがた)になって睨(にら)み合(あ)う。人(ひと)の姿(すがた)の身長(しんちょう)は、エルの方(ほう)が高(たか)いが、立(た)ち居振(いふ)る舞(ま)いは水蛇(すいじゃ)の方(ほう)が大人(おとな)に見(み)えた。

「まぁまぁ、今(いま)ここで喧嘩(けんか)をしてもしょうがないわよ。私達(わたしたち)はできる事(こと)をやるしかないのだから」

エメルダが二人(ふたり)の間(あいだ)に割(わ)り込(こ)んで、宥(なだ)めていた。すると水蛇(すいじゃ)は蛇(へび)の姿(すがた)になって、エメルダの肩(かた)に乗(の)った。

「エルさん、今日(きょう)はこのぐらいににしましょう。ショールさんが心配(しんぱい)だからといって、他(ほか)の人(ひと)に当(あ)たるのは良(よ)くないですよ」」

エルも蛇(へび)の姿(すがた)に戻(もど)って、ショールの側(そば)に向(む)かった。水蛇(すいじゃ)の意見(いけん)に対(たい)して、多少(たしょう)の不満(ふまん)はあったが、その通(とお)りだと、エルは思(おも)った。


 それから、夜(よる)になった。皆(みな)はそれぞれのベッドで眠(ねむ)っている。その時(とき)、シリカは夢(ゆめ)を見(み)ていた。両親(りょうしん)がまだ側(そば)に居(い)た頃(ころ)の夢(ゆめ)だ。

 シリカの両親(りょうしん)は、冥界(めいかい)で怪(かい)と戦(たたか)っている。ペタライトも、ショールとアゲートの両親(りょうしん)もそうだ。

 戦(たたか)いを避(さ)けて向(む)かったはずの現世(げんせ)で、怪(かい)との戦(たたか)いに巻(ま)き込(こ)まれてしまった。いつになれば、それは終(お)わるのだろう。シリカは不安(ふあん)の中(なか)で、ペタライトと共(とも)に旅(たび)をしている。

「どうか、早(はや)く戦(たたか)いが終(お)わって、お母(かあ)さんとお父(とう)さんに会(あ)えますように…」

夢(ゆめ)から覚(さ)め、夜中(よなか)に起(お)きたシリカは、窓(まど)の月(つき)を見(み)ながら祈(いの)った。いつか冥界(めいかい)に帰(かえ)って、両親(りょうしん)と平和(へいわ)に暮(く)らせる日(ひ)は、訪(おとず)れるのだろうか。先(さき)の見(み)えない日々(ひび)の中(なか)、シリカはどうにかして自分(じぶん)を保(たも)っていた。


 

 

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