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貴方にとって大切な人の中で


 松葉(まつば)は、刀(かたな)を握(にぎ)り、残(のこ)りの怪(かい)に向(む)かっていった。ゼオラが呼(よ)び出(だ)した怪(かい)は容赦(ようしゃ)なく松葉(まつば)と濡烏(ぬれがらす)を襲(おそ)う。

 松葉(まつば)は怪(かい)の攻撃(こうげき)を受(う)けながら濡烏(ぬれがらす)の方(ほう)を向(む)いていた。長引(ながび)く戦(たたか)いの中(なか)で濡烏(ぬれがらす)も疲(つか)れが溜(た)まっているようだった。

「濡烏(ぬれがらす)さん、大丈夫(だいじょうぶ)ですか?!」

「君(きみ)に心配(しんぱい)される程(ほど)柔(やわ)じゃない」

濡烏(ぬれがらす)が立(た)ち上(あ)がった。羽根(はね)は傷(いた)み、服(ふく)は擦(す)り切(き)れている。

「無理(むり)してるじゃないですか、ここは私(わたし)に任(まか)せて休(やす)んでください。」

「つくづく面白(おもしろ)い奴(やつ)だな、お前(まえ)は」

濡烏(ぬれがらす)は立(た)ち上(あ)がり、刀(かたな)を持(も)ち直(なお)した。

「俺(おれ)は鬼(おに)だ。こんな怪(かい)にやられる身(み)じゃない」

濡烏(ぬれがらす)は二対(につい)の翼(つばさ)を広(ひろ)げた。その羽根(はね)は名(な)の通(とお)り濡(ぬ)れたように黒(くろ)く輝(かがや)いている。その翼(つばさ)で濡烏(ぬれがらす)は飛(と)び回(まわ)り、突風(とっぷう)で怪達(かいたち)を吹(ふ)き飛(と)ばした。濡烏(ぬれがらす)の邪気(じゃき)が含(ふく)まれた風(かぜ)を受(う)けた怪(かい)は跡形(あとかた)もなく消滅(しょうめつ)していった。


 そのような中(なか)でゼオラは細(ほそ)い剣(けん)を光(ひか)らせていた。背中(せなか)には継(つ)ぎ接(は)ぎの翼(つばさ)が生(は)えている。

「やれやれ、こんなに早(はや)く怪達(かいたち)が倒(たお)されるなんてね」

ゼオラは更(さら)に怪(かい)を呼(よ)び出(だ)そうとするが、濡烏(ぬれがらす)にそれを阻(はば)まれた。


 ゼオラに倒(たお)された八咫烏達(やたがらすたち)は起(お)き上(あ)がらない。何(なん)らかの術(じゅつ)が掛(か)けられているのだろうか。ゼオラは二人(ふたり)に追(お)い詰(つ)められても冷静(れいせい)を失(うしな)っていない。いや、むしろこの状況(じょうきょう)を楽(たの)しんでいるように見(み)える。

「お前(まえ)も戦(たたか)いを楽(たの)しむような奴(やつ)だったのか?」

「僕(ぼく)はアルフィと違(ちが)ってそんな野蛮(やばん)じゃないはずだけどね」

ゼオラは空(そら)を飛(と)び、剣(けん)で濡烏(ぬれがらす)を刺(さ)しに行(い)ったが、松葉(まつば)にそれを止(と)められた。

「どうしてそこまで妖(あやかし)を憎(にく)んでるんですか?」

「さあ?怪(かい)の本能(ほんのう)だって言(い)っても君(きみ)には分(わ)からないだろうね」

ゼオラは松葉(まつば)を突(つ)き飛(と)ばし地面(じめん)に叩(たた)きつけた。

「残念(ざんねん)だけど僕達(ぼくたち)の楽園(らくえん)に君達(きみたち)は必要(ひつよう)ないんだ。ここで倒(たお)すよ」

ゼオラは急降下(きゅうこうか)し、松葉(まつば)を串刺(くしざ)しにしようとした、その時(とき)だった。濡烏(ぬれがらす)が松葉(まつば)の前(まえ)に現(あらわ)れ、背中(せなか)で庇(かば)った。

「濡烏(ぬれがらす)さん!」

「君(きみ)は弟子(でし)の大切(たいせつ)な子(こ)だからね」

ゼオラの攻撃(こうげき)で濡烏(ぬれがらす)の羽根(はね)は折(お)れ、血(ち)が出(で)ていた。相当(そうとう)無理(むり)して戦(たたか)っていたのだろうか、回復(かいふく)には時間(じかん)が掛(か)かりそうだ。

 松葉(まつば)は濡烏(ぬれがらす)の剣(けん)を抜(ぬ)き、ゼオラに向(む)かった。濡烏(ぬれがらす)が前線(ぜんせん)に戻(もど)るまで、あの怪人(かいじん)を留(とど)めなければならない。松葉(まつば)はそう決心(けっしん)した。



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